シンデレラ「私が……王子を倒すッッッ!」
1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 19:49:27.93 ID:FDH9ZeWQ0
ある王国の片隅にある小さな道場──
この道場には、三人の若き女性武術家がいた。
一人は長女。
ボクシングを得意としており、拳による途切れぬラッシュはまさに豪雨。
人々からは“レイニーフィスト”と恐れられている。
もう一人は次女。
空手やテコンドーをマスターしており、特に蹴り技には定評がある。
彼女もまた“キラーフット”の異名を持つ。
そしてもう一人はというと──
4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 19:53:07.70 ID:FDH9ZeWQ0
長女「さぁ、私の顔を殴ってみなさい!」
シンデレラ「うぅっ……」
長女「殴るのよ、シンデレラ!」
シンデレラ「う、うぅっ……!」
長女「さぁ!」
シンデレラ「ダメです……殴れません……!」
5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 19:57:30.94 ID:FDH9ZeWQ0
彼女は長女や次女とは血の繋がりはないが、
師匠である継母によって姉二人と同じように修業を施された。
彼女もまた期待に応えるため、懸命に努力した。
彼女の練習量は姉二人を遥かに上回った。
練習すれば汗をかく。
汗が乾くと、塩となる。
塩には空気中の汚れが付着し、灰色の塩となる。
彼女は全身が灰色の塩まみれになるほどの練習を、毎日のようにこなしていた。
この努力を称えた人々は、彼女を“シンデレラ(灰かぶり)”と呼ぶようになった。
だが、彼女には重大な欠点があった──
6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 19:59:25.07 ID:FDH9ZeWQ0
長女「殴るのよ!」
シンデレラ「で、できません……!」ガクッ
長女(今日もダメみたいね……)
次女「シンデレラ」
シンデレラ「はいっ!」ビクッ
次女「アンタもさ、なにも健康体操のつもりで格闘技やってるワケじゃないっしょ?」
次女「毎日毎日あんなに真っ黒になってさ」
9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:06:23.11 ID:FDH9ZeWQ0
シンデレラ「もちろんです! 強くなるために……」
次女「だったらさ、殴らなきゃ」
次女「今は練習だからいいけど、本当に戦わなきゃいけない時が来たらどうすんの?」
次女「練習で姉様も殴れないのに、その時が来れば戦えるとか思ってんの?」
次女「人間、練習でできないことが突然本番でできるほど、器用にできてないんだよ」
次女「もし戦えなきゃ、アンタ死んじまうかもしれないんだよ?」
シンデレラ「わ、私は──」
10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:10:44.61 ID:FDH9ZeWQ0
道場に、三人の師匠である継母が入ってきた。
継母「シンデレラッッッ!」
シンデレラ「は、はいっ!」ビクッ
継母「キサマ、まだ姉どもを殴れぬのかッッッ!」
シンデレラ「すいません……!」
長女「しょうがないわよ、お母様……。怒らないであげて」
継母「道場では母でなく師匠と呼べといってあるだろうが! たわけがッッッ!」
長女「申し訳ありませんっ! 師匠っ!」
12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:15:23.62 ID:FDH9ZeWQ0
継母「シンデレラよ……」
継母「格闘技とはしょせん他者を制圧するための技術ッッッ!」
継母「つまり、人を殺すために使うのが正しい使用法だということだ!」
継母「徒手とはいえ、本質は剣術や槍術となんら変わらぬッッッ!」
継母「だが、熟練した剣士ならば──」
継母「その剣で人を生かすこともできる!」
継母「なぜか!?」
継母「彼奴らは、正しい使用法を知っているからだッッッ!」
17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:21:20.24 ID:FDH9ZeWQ0
継母「剣は人を殺すモノだと熟知しているからこそ、剣で人を生かせるのだッッッ!」
継母「格闘技も同じこと!」
継母「人を殴ることも知らぬキサマが、どうして格闘技を正しく使える!?」
継母「正しい使用法を知らぬキサマが格闘技を身につけたところで──」
継母「遠からず格闘の魔道に堕ちることは明白!」
継母「そうなれば我が道場の名声も地に堕ちる!」
継母「殴れぬなら──今すぐこの道場から消え失せろッッッ!」
18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:24:28.48 ID:FDH9ZeWQ0
シンデレラ「イヤです! 私は強くなりたいのです!」
継母「ならば殴れッッッ!」
継母「このワシを殴ってみせいッッッ!」
シンデレラ「……できま、せん!」
継母「できぬか!」
継母「ならばこの場で、ワシがキサマを殺してやるわッッッ!」
19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:31:23.89 ID:FDH9ZeWQ0
ドズゥッ!
継母のボディブローが、シンデレラの腹の奥深くへとめり込んだ。
シンデレラ「──げぇぇっ!」ビチャビチャ
長女&次女「!」
継母「どうだ、胃液は苦かろう。ワシが憎かろう」
継母「ならば、打ってこいッッッ! ワシを殺すつもりで来いッッッ!」
シンデレラ「で、できま……せ、ん……」ゲホゲホッ
ドゴォッ!
継母の蹴りが、シンデレラの顔面に叩き込まれた。
20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:34:49.37 ID:FDH9ZeWQ0
継母「シィィィッ!」
ズガァッ!
継母のヒジ打ちが、シンデレラの頭部に突き刺さった。
継母「ぬぅぅぅぅんっ!」
継母がシンデレラを持ち上げ、豪快に床に叩き落とす。
ドゴォンッ!
継母「立ていッッッ! 立って、ワシを殴ってみせいッッッ!」
ドガッ! ドゴッ! ドギャッ!
床に転がるシンデレラを、何度も踏みつける継母。
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:40:20.40 ID:FDH9ZeWQ0
長女「師匠、止めて下さいっ!」ガシッ
次女「死んじゃうってば!」ガシッ
継母「ぬぅ……ッッ!」
継母「ひよっ子どもが、はなさんかァッッッ!」
ブオンッ!
娘たちの制止を強引に振りほどく継母。
継母「ぬぅぅ……もう立てぬかッッッ!」
シンデレラ「うぅ……」ピクピク
23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:43:50.37 ID:FDH9ZeWQ0
継母「シンデレラよ」
継母「罰として、今日キサマはメシ抜きだ!」
継母「この道場を全て一人で清掃しろ」
継母「──いいなッッッ!」
シンデレラ「は、はい……」
継母「では本日の鍛錬はここまで!」
継母「長女と次女はメシの支度をせいッッッ!」
長女&次女「はいっ!」
24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:50:25.12 ID:FDH9ZeWQ0
道場の食卓──
山盛りの肉と野菜が、みるみるうちに消えていく。
ガツガツ…… ムシャムシャ……
長女「お母様」
継母「なんだ」
長女「今日は少しやりすぎだったのでは……」
継母「ほう……?」
次女「アタシもそう思う」
次女「なにもあそこまで殴る必要はなかったよ」
次女「人を殴れないからって、だれかに迷惑かけるってワケでもないしさ」
継母「…………」ピクピクッ
バンッ!
26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:53:21.08 ID:FDH9ZeWQ0
フワァッ……
継母がテーブルを叩くと、衝撃で卓上の料理が天井近くまで浮き上がった。
長女&次女「…………!」ゾクッ
継母「人をまともに殴れぬ格闘家など、いつ爆発するともしれぬ爆弾のようなもの……」
継母「あの程度の荒療治は当然だッッッ!」
次女「だけどさ、死んじゃったら元も子も……」
継母「死ぬゥ……?」
継母「フハハハハハハハハハハッッッ!」
継母「メシを喰ったら、あとで道場を覗いてみるんだな」
28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:56:32.02 ID:FDH9ZeWQ0
夕食後、長女と次女は道場をそっと覗いた。
すると──
シンデレラ「はぁっ! えいやっ! ──はぁっ!」
ブンッ! ビュッ! バッ!
道場はすでに掃除されており、いつものように鍛錬をこなすシンデレラがいた。
長女(あれだけお母様に殴られて──もうあそこまで回復しているというの!?)
長女(なんという回復力! なんという潜在能力……!)
次女(たしかに……もし人を殴ることを知らないままシンデレラが世に出たら──)
次女(ヤバイことになるかもしれない……)
この時、二人は心を鬼にすることを決意した。
29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 20:59:39.07 ID:FDH9ZeWQ0
翌日──
シンデレラ「おはようございます、お姉様」
長女「…………」
ゴキィッ!
長女のアッパーが、シンデレラの顎を突き上げた。
シンデレラ「が……っ!?」
長女「武術家にとって、不意打ちが卑怯にならないことくらいは承知よね?」
長女の豪雨と称されるラッシュが、シンデレラを襲う。
ドガッ! バキッ! メキッ! ガゴッ! ドゴッ!
長女「さぁ、このまま打たれてると死ぬわよ! 反撃よ!」
長女「反撃するのよ、シンデレラッッッ!」
30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 21:05:23.37 ID:FDH9ZeWQ0
シンデレラ(なんで、いきなり……!)
シンデレラ(でもお姉様の目は本気だ……やらなきゃ、やられる!)
シンデレラが右手を握る──が、打てない。
長女「どうしたの!? 打つのよっ!?」
シンデレラ(う、打てない……!)
ズガッ! ガスッ! ズンッ! ドカッ! バゴッ!
数百の連打を浴びたシンデレラであったが、結局一発も反撃することはできなかった。
シンデレラ「…………」ズルズル…
長女「……失神したみたいね」
ドサッ……
33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 21:10:20.04 ID:1kzmzIbAO
王子はどんな化け物になるのか
34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 21:13:22.20 ID:FDH9ZeWQ0
次女「起きな」
ザバァッ!
失神しているシンデレラに、水が浴びせられた。
シンデレラ「──はっ!」
シンデレラ「えぇと、私は……?」ズキッ
シンデレラ(たしかお姉様の豪雨を浴びて、気絶してしまったのね)
シンデレラ「お、起こしてくれてありがとう……お姉様」ゲホゲホッ
次女「ありがとう? なにいってんだい、アンタ」
次女「次はアタシだよ」
シンデレラ「!」
ゴッ!
次女のヒザ蹴りが、シンデレラの鼻にめり込んだ。
36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 21:19:23.48 ID:FDH9ZeWQ0
プシュウゥゥ……
鼻血をまき散らすシンデレラ。
次女「アタシは姉様とちがって殺す気でやるよ」
次女「なんたって“キラーフット”とか呼ばれてる身だからさ」
次女「アンタも殺す気で来ないと……死んじゃうよっ!」
ドゴォッ!
シンデレラのミゾオチに中段蹴りが炸裂。
シンデレラ「──ごぇぇっ!」ゲボッ
次女「はあっ!」
メキィッ!
シンデレラの頭部にハイキックがクリーンヒット。
シンデレラ「あうぅあ……」ドサッ
次女「気絶したか……」
次女「何度だって繰り返すよ……アンタが殴れるようになるまでな」
37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 21:21:05.25 ID:cQ3iuhS+O
拳法家ゆえの愛か……まさに血涙ものだな
39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 21:23:55.02 ID:FDH9ZeWQ0
この日から、継母と姉二人による執拗な攻撃が始まった。
継母「来いッ! ワシを殺すつもりで来いッッッ!」
ドゴォッ!
長女「さぁ、日頃の練習の成果を今こそ解き放つのよ!」
ベキィッ!
次女「少しは反撃してみたらどうだい!?」
バキィッ!
昼夜を問わず、三人はシンデレラに襲いかかった。
しかし、いくら攻撃を与えても、シンデレラの闘争心に火が灯ることはなかった。
42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 21:28:21.52 ID:FDH9ZeWQ0
長女「シンデレラは……?」
次女「ぐっすり眠ってるよ」
長女「今日もダメだったわね……」
次女「うん……」
長女「ハッキリいってあの子の潜在能力は、私たちの遥か上をゆくわ」
長女「加えてあの練習量……強くないハズがない」
長女「事実、いくら私たちが攻撃しても、数時間も経てば動けるようになっているもの」
次女「うん、恐ろしいまでの才能だよ」
長女「だからこそ──」
長女「今のうちに、殴ることを知っておかないと……とんでもないことになる」
次女「自分の持ってる武器の威力も知らずに、振り回すことになりかねないしな……」
43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 21:30:39.21 ID:FDH9ZeWQ0
シンデレラは気配を殺し、彼女らの会話を聞いていた。
シンデレラ(ごめんなさい、お姉様たち……)
シンデレラ(私にも分かっているの、このままじゃいけないって)
シンデレラ(でも……)
シンデレラ(やっぱりダメなの……!)
シンデレラ(ごめんなさい……!)ダッ
48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 21:38:32.42 ID:FDH9ZeWQ0
そんなある日のこと──
国中に次のようなお触れが出た。
====================================================================
来たれ強き女ども!
一週間後、城にて王子主催による武道会を開催する。
王子は自分の強い種を受け入れるに相応しい、強い女性を探している。
王子に勝利できた女性には、王子と結婚する権利を与える。
====================================================================
49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 21:39:28.62 ID:15z1hou4O
ついに
53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 21:41:28.85 ID:FDH9ZeWQ0
王子は優れた軍人であり、格闘家としても希有な才能の持ち主だと有名である。
外見もハンサムで、女性格闘家たちにとっては憧れの的であった。
むろん、シンデレラの道場でも話題になる。
継母「権力などに興味はないが……」
継母「あの王子を仕留めれば、我が道場の名も上がるッッッ!」
継母「キサマら、王子に勝ってみせいッッッ!」
長女「えぇ、王子と戦える機会なんて一生に一度あるかないか……」
長女「楽しみですわ」
次女「へへっ、腕がなるねぇ」
次女「アタシの蹴りを王子にたっぷりブチ込んでやるよ」
シンデレラ「…………」
54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 21:45:57.42 ID:FDH9ZeWQ0
継母「なんだシンデレラ、その目は」
シンデレラ「あ、あの……私も……」
継母「ならんッッッ!」
継母「道場でワシらを殴れぬキサマが、どうして王子を倒せる!?」
継母「手も足も出さぬまま、王子に殺されるだけだ……!」
継母「どうしても出たいというのなら、ワシらに一撃ずつ浴びせてみせいッッッ!」
長女「そうよ、シンデレラ」
次女「王子の前に、まずアタシらをぶっ飛ばしてみな」
シンデレラ「…………!」
シンデレラ「で、できませんっ……!」
55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 21:50:33.21 ID:FDH9ZeWQ0
シンデレラは走り去ってしまった。
継母「チィ……ッッ!」ギリッ
長女「やっぱり、ダメなようね」
次女「やれやれ、アイツがその気になれば、アタシらにだって勝てるのに……」
次女「あり余る格闘技の才能がありながら、人を殴れない、か」
次女「神様ってのは残酷なことをするもんだよ……」
長女「お母様、シンデレラはやはり武道会には……?」
継母「愚問ッッッ! 人も殴れぬようなヤツを試合に出すワケにはいかんッッッ!」
56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 21:53:21.72 ID:FDH9ZeWQ0
結局、シンデレラは継母たちを殴ることができぬまま、一週間が経った。
継母「今日はいよいよ、城で武道会だ」
継母「長女、次女はワシとともに来い。ワシの前で、みごと王子を倒してみせい」
継母「シンデレラ、キサマは留守番だ。よいな」
継母「なぜ留守番になったか、原因はキサマがイチバンよく分かってるはずだ」
シンデレラ「はい……」
長女「じゃあ、行ってくるわね。シンデレラ……」
次女「まぁ、また王子とやれるチャンスはあるって」
57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 21:56:24.26 ID:FDH9ZeWQ0
シンデレラ「ていっ! えいっ! ──とりゃあっ!」
ビュッ! ビュンッ! ビュバッ!
留守番を兼ねて、道場で鍛錬を行うシンデレラ。しかし、今一つ集中できずにいた。
シンデレラ(なんだろう、このイヤな感じ……)
シンデレラ(やはり王子と戦うチャンスを逃したから……?)
シンデレラ(いいえ、ちがう……)
シンデレラ(これは──)
59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 21:57:52.86 ID:T1zuArsG0
ひとりで留守番で
やっと原作がシンデレラだって思い出した
61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 21:59:21.78 ID:FDH9ZeWQ0
城──
大勢の女性格闘家が、王子に次々と挑んでは倒されていた。
女格闘家A「ギャアアアアッ!」
王子「やれやれ、こんなものかい? ──次っ!」
すでに100人以上が挑戦したが、王子は傷一つ、どころか息切れ一つしていない。
次女「強えぇっ……!」
長女「王子の実力を甘く見ていたかもしれないわね、私たち」
65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 22:06:36.49 ID:FDH9ZeWQ0
王子「この程度でボクの子供を産めると思ってたのかい?」
女格闘家B「ま、参りました……もう勘弁してぇ……」グスッ
王子「ン~、聞こえなかったなァ」
ドゴォッ! ベキベキベキベキ……
ダウンしている相手の腹を踏みつけ、肋骨をへし折る王子。
女格闘家B「ひげぇぇぇっ! ギブアァァァップ!」
王子「そうそう、敗者はそうやって泣き叫ばないとね」ニコッ
王子「さて、次はだれだい?」
長女「私です」
王子「オ~、君はたしか“レイニーフィスト”だったね。なんでも連打が得意だとか」
長女「城にまで名前が知れ渡っているとは、光栄ですわ」
67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 22:10:12.71 ID:FDH9ZeWQ0
シンデレラ(この不安感は──)
シンデレラ(お姉様たちが危ないっ!)
シンデレラ(私は王子を一度だけ遠くから見たことがあるけど)
シンデレラ(優しそうなお顔の中に、凶悪な闘争心を秘めていた……)
シンデレラ(もし、お姉様たちがアレを引き出してしまったら──)
69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 22:15:07.44 ID:FDH9ZeWQ0
シンデレラ(でも、行ってどうするというの!?)
シンデレラ(人を殴れない私が、助勢できるわけがない)
シンデレラ(仮にできたとしても、私なんかに助けられてあの二人が喜ぶと思う!?)
シンデレラ(だけど……行かなきゃいけない!)
シンデレラ(そんな気がする!)
すると──
72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 22:21:33.54 ID:FDH9ZeWQ0
魔女「おやおや、お困りのようだねぇ」ザッ
シンデレラ「あなたは……!?」
魔女「私は魔女、なにかお悩みのようだからやって来たのさ」
魔女「私は悩んでる人間を嗅ぎつけるのがウマイんでね、ひっひっひ」
シンデレラ(魔女……!?)
魔女「あんた、城の武道会に行きたいんだろ?」
魔女「かといって、城にいる仲間に正体がバレるわけにもいかない」
魔女「さぁ、困った。どうしよう~ってとこかねぇ?」
シンデレラ「な、なぜそれを……!」
魔女「ひっひっひ、協力してやるよ」
75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 22:26:30.05 ID:FDH9ZeWQ0
武道会では、長女が得意の猛連打で王子を圧倒していた。
ガッ! ドガッ! ガスッ! ベシッ! ドゴッ!
次女「いいぞ、姉様ぁっ!」
長女(イケる! このラッシュから逃れられた対戦相手はいない!)
だが──
王子「ン~……なかなかのラッシュだ。口の中を切ってしまった」ペッ
長女「!?」
長女(あれだけの拳を受けて、ほとんどダメージがない!?)
王子「そろそろ反撃しよっかな」
パシッ!
76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 22:29:28.46 ID:FDH9ZeWQ0
長女(しまった、右手を取られた……!)
ボグッ!
電光石火の脇固めで、長女の右ヒジをへし折る王子。
長女「あぐぅぅぅっ……!」
次女「姉様っ!」
王子「これで君の戦力は激減したね」
王子「君の実力に免じて、ギブアップするチャンスをあげちゃおう」
グシャアッ!
王子「ぶっ……!」
長女はあえて折れた右腕でのパンチを、王子の顔面に叩き込んだ。
長女「腕一本……奪ったくらいで……いい気にならないで下さる?」ハァハァ
王子「いい目だァ……」ニコッ
77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 22:36:22.19 ID:FDH9ZeWQ0
魔女「ほれっ」パァァ…
パサッ
シンデレラ「これは虎の覆面!?」
魔女「ひっひっひ、それを被ればあんたの正体はバレないよ」
魔女「さらに……」パァァ……
シンデレラ「私の服が、キレイなドレスになったわ!」
魔女「あとは、ほれっ」パァァ…
シンデレラ「超強化ガラスで作った靴!?」
魔女「さて、あとは──」
79:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 22:38:14.80 ID:7LtqS9JZ0
タイガーマスクww
80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 22:38:25.09 ID:b2KAE39n0
まさかの覆面
81:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 22:39:18.42 ID:QNphn3v/O
そうか魔女は虎の穴出身か
82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 22:40:21.70 ID:FDH9ZeWQ0
ボワァァァン…
シンデレラ「カボチャの馬車!?」
魔女「ひっひっひ、すごいだろう」
魔女「ただし魔法の効力は、今晩0時までだよ」
シンデレラ「ありがとう……でも、馬車はいらないわ」
魔女「えっ?」
シンデレラ「だって私、走った方が速いものっ!」
ドヒュンッ!
魔女「ワ~オ……クレイジー」
84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 22:44:22.17 ID:FDH9ZeWQ0
城では、長女が逆に王子のラッシュの餌食になっていた。
次女「ね、姉様……ッッ!」
ズギャッ! ベギャッ! ボゴォッ! ズドンッ! グシャァッ!
王子「ハハハハハハハハハハッ!」
王子「どうやら君もボクの種を受け入れるには力不足だったようだね」
長女「が……ふっ……」グラッ
王子「おっと、まだ倒れないでくれよ」ガシッ
王子「力不足だったが──」
王子「ボクにあそこまでパンチを入れたのは君が初めてだ。男女含めてね」
王子「感心すると同時に、ちょっとムカついちゃったから──」
王子「君にはボク自らが引導を渡してあげようっ!」ググッ…
王子がすでに失神している長女の首を、ヘシ折ろうとする。
次女「──ふざけんなぁっ!」バッ
客席から飛び出した次女が、王子の後頭部に蹴りを入れた。
ガゴンッ!
85:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 22:51:33.44 ID:FDH9ZeWQ0
次女「もう勝負はついてるだろうがっ! このクソ王子っ!」
王子「ン~……今のはいい蹴りだったよ。さては君が“キラーフット”か」
次女「そうだよ、選手交代だっ!」
王子「実力は認めるが、神聖な試合に乱入するのは感心しないな」
次女「なにが神聖な試合だっ! この腐れサド野郎がッッッ!」
キャアアアアア…… イヤアアアアア……
王子「おやおや」チラッ
王子「ボクの強さに恐れをなして、他の挑戦者は逃げてしまったようだ」
王子「いいだろう。恥知らずな乱入者である君を処刑し、この武道会はお開きとしよう」
次女「やってみな……!」
86:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 22:54:46.62 ID:FDH9ZeWQ0
馬よりも速く、城めがけて走るシンデレラ。
すると、城から逃げ出してきた大量の女格闘家たちに出くわした。
シンデレラ(城で何かあったのかしら……?)
「冗談じゃないわ」 「強すぎるわよ」 「あの姉妹……今頃殺されてるよね、絶対」
「100人以上は再起不能にされたわ」 「やってられないよ」 「あの王子ヤバすぎ」
シンデレラ(やはり、王子はとんでもない男だったんだわ……)
シンデレラ(急がないと……お姉様たちが殺される……!)
87:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 22:57:35.90 ID:FDH9ZeWQ0
仰向けにダウンする次女。
次女「げほっ、ごほっ……!」
次女(ちくしょう、相手にもならなかった……)
王子「君もいい腕をしていたよ」
王子「しかし、やはりボクを満足させるには至らなかった」
次女「アタシは……アンタより強い女を知ってるよ」
王子「へぇ、そんな人がどこにいるんだい?」
継母(ここだッッッ!)ギロッ
王子(あの客席でボクを睨んでるヤツは……女じゃないよな、どう見ても)
次女「ここにはいないよ……」
王子「フッ、つまらんハッタリはよしたまえ」
ドゴォッ!
王子が次女の顔面を踏みつける。
88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 22:59:38.82 ID:FDH9ZeWQ0
次女「ア、アイツは……だれより、も才能が、あって……」
次女「どりょ、くしてる……」
次女「アイツの名、は……シ、シン──」ガクッ
王子「ふん、気絶したか。最後までハッタリをかまそうとした精神力はみごとだ」
王子「せめてもの手向けとして、君たち姉妹はボクの手であの世に送ってあげよう」
王子「格闘家にとって、これほど名誉ある死もあるまい!」
「待ちなさいっ!」
王子「ぬっ!?」
92:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 23:08:33.70 ID:FDH9ZeWQ0
?「私が相手よ、王子っ!」
王子(美しいドレスを着て、ガラスの靴を履いて、虎の覆面を被った変態!?)
王子「名乗ってもらおうか、侵入者君」
?「私は……タイガーマスク!」
王子「タイガーマスク……?」
タイガーマスク「王子、勝負よっ!」
王子「ちょうど退屈してたところだ。いいだろう」ニコッ
継母(あれは……何者だ!?)
継母(体格と声と気配はシンデレラそっくりだが──顔がちがう)
継母(シンデレラの顔は虎ではなかったハズッッッ!)
94:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 23:09:32.34 ID:xaaoSWDu0
そこに気が付かないとはやはり鈍感か
96:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 23:12:56.16 ID:FDH9ZeWQ0
タイガーマスクは倒れている長女と次女を、武道場の外に運んだ。
タイガーマスク(こんなになるまで痛めつけて……王子……絶対許さない!)
タイガーマスク(お姉様たち、仇は取るわ)
シンデレラ「私が……王子を倒すッッッ!」
振り返り、王子を睨みつけるタイガーマスク。
王子(ん、今一瞬覆面の下の素顔が見えたかと思ったが……気のせいか)
継母(一瞬虎がシンデレラに見えたが……やはり虎だったッッッ!)
100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 23:14:36.10 ID:FDH9ZeWQ0
タイガーマスク「さぁ、始めましょう」
王子「ふっ……いつでもいいよ。格上は格下に先手を譲るものだ」
バッ!
王子(消えた!?)
ガゴォッ!
タイガーマスクの右ストレートが、王子の顔面を撃ち抜いた。
王子「お、おごぉ……!?」ガクン
継母(長女の連打や次女の足技でもビクともしなかった王子が、膝をついた!)
継母(あの虎人間……何者ッッッ!?)
タイガーマスク「立ちなさい」
タイガーマスク「私、あなたのような外道なら、全力で殴れるッッッ!」
104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 23:21:30.88 ID:FDH9ZeWQ0
王子「最高だよ……君」
王子「今まで出会った中でイチバン最高の女性(メス)だッッッ!」
王子の貫き手が、タイガーマスクの首に突き刺さる。
タイガーマスク「──がっ!」
王子「サイコーだよォォォッッッ!」
ズガァンッ!
王子のアッパーで、タイガーマスクが3メートルは宙に浮いた。
だが、落ちてきたタイガーマスクはカカト落としを王子の脳天に叩きつける。
ドゴォッ!
衝撃で王子の足が床に埋まった。
王子「……いいねぇ~」
106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 23:26:39.01 ID:FDH9ZeWQ0
タイガーマスクと王子が戦いを開始してから、一時間が経過しようとしていた。
戦況は──わずかにタイガーマスクが押していた。
王子(このボクが……負ける……?)
タイガーマスク「絶対に──許さないッッッ!」
ズドドドドドドドドドドドドドッ!
脳天、額、鼻、顎、首、右肩、左肩、右胸、左胸、右脇腹、左脇腹、腹、股間への、
十三連打。
むろん、一撃一撃が必殺の威力である。
タイガーマスク「灰をかぶって会得した絶技“死の十三階段”……これで決着よ」
王子「が……は……っ!」
ドサァッ!
107:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 23:29:21.91 ID:FDH9ZeWQ0
目を覚ました長女と次女も、タイガーマスクの実力に驚嘆する。
長女「すごい……。何者なのかしら、彼女……」
次女「あぁ、アタシらより遥かに強いよ……あの王子を倒しちゃうなんて……」
継母「なにをいっておる」
長女「え?」
継母「王子は……ここから真価を発揮するッッッ!」
次女「で、でもあんなの喰らったらいくら王子でも……──!」
111:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 23:41:25.28 ID:FDH9ZeWQ0
ドクン…… ドクン…… ドクン…… ドクン…… ドクン……
王子(強い……これほどの敵は初めてだ……)
王子(このボクが敗北を意識するなど、生まれて初めてだ……)
王子(君ならば、受け入れられよう)
王子(王子という高貴な地位にあまりにも相応しくない──)
王子(醜悪で、野蛮で、凶暴で、低劣で、苛烈で、邪道で、自由な──)
王子(ボクの本当の力を!)
ガバァッ!
112:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 23:44:40.13 ID:FDH9ZeWQ0
瀕死のはずの王子が起き上がる。
が、すでに先ほどまでの王子ではなかった。
目は充血し、筋肉は程よく隆起し、全身の血管がメロンのように浮き上がっている。
なによりも恐ろしいのは殺意。
毛穴の一つ一つから殺気を発散しているような、禍々しさを放っていた。
長女「なんなのアレ……」
次女「さっきまでとは別人じゃん……」
継母「アレが長年王子という仮面に抑圧されていた闘争本能を──」
継母「全て開放させた王子の真の姿よ……ッッッ!」
だが、タイガーマスクの中のシンデレラは笑っていた。
タイガーマスク(これよ……! 私はこの王子と戦いに来たのよ!)
しかし──
113:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 23:49:21.64 ID:FDH9ZeWQ0
時計の針が、まもなく0時を指そうとしていた。
タイガーマスク(マズイ……)
タイガーマスク(ここで魔法が解けてしまったら、私の正体がバレてしまう!)
タイガーマスク(お姉様二人に、私に助けられたという恥辱を味わわせてしまう!)
王子「さぁ、続きを始めよう。君から来るかい? それともボクから行こうか……?」
タイガーマスク「…………」
タイガーマスク「残念だけど、時間よ」
タイガーマスク「勝負はお預けにさせてもらうわ」
王子「なにっ!?」
タイガーマスクは王子に背を向けると、一目散に駆け出した。
115:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 23:52:07.51 ID:FDH9ZeWQ0
王子「ここまでボクをワクワクさせておきながら、逃げる……?」ビキビキッ
王子「君ほどの遊び相手……みすみす逃がすかよッッッ!」ダッ
タイガーマスクは履いていた靴を、高速で王子に投げつけた。
ガゴッ!
王子「うがっ!」
その隙に、タイガーマスクは城からの脱出に成功した。
王子「…………」
王子「……ふっ」
王子「フハハハハハハハハハハッ!」
116:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 23:54:32.65 ID:FDH9ZeWQ0
王子「ハハハハハハハハハハッ!」
王子「ハーッハッハッハッハッハッハッハッ!」
ハーッハッハッハッハッハ……
次女「狂ったように笑ってるよ、あの王子……」
長女「今のうちに私たちも逃げましょう」
次女「そうだね!」
継母(それにしても、あの虎人間……何者だったのだ!?)
118:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 23:56:13.57 ID:8tGd1N/e0
笑うなw
119:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/29(日) 23:59:33.02 ID:FDH9ZeWQ0
それから──
先に道場に戻っていたシンデレラは、後から戻って来た長女と次女の手当てをした。
長女「当分私たちは稽古は無理ね……全治二週間ってとこかしら」
次女「いてて……」
シンデレラ「大丈夫?」
長女「ありがとう、シンデレラ。これくらいどうってことないわ」
長女「でも、あの虎覆面の女性が来なければ、殺されていたかもしれないわね」
次女「ああ、アイツには感謝しないとね」
次女「でも、いったい誰だったんだろう……アレ」
シンデレラ「…………」
122:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 00:05:42.67 ID:FDH9ZeWQ0
シンデレラ(王子との戦いはキツかった……)
シンデレラ(でも、不謹慎ながら楽しさも感じていた……)
シンデレラ(お姉様たちのためにも、決着をつけたかったけれど……)
シンデレラ(あの限られた時間で、しかも乱入した身で、それは贅沢というものよね)
シンデレラ(さて、明日からはいつも通りの生活に戻らなくっちゃね)
123:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 00:08:58.43 ID:FDH9ZeWQ0
翌日──
王子が兵士を率いて、町にやって来た。
王子「これからこの町にいる全ての女に、このガラスの靴を履いてもらう!」
王子「もしこの靴にピッタリの足の女がいたら──」
王子「ボクと戦ってもらうッッッ!」
王子「もし隠し立てなどしたら、その家は全て焼き払うッッッ!」
町の女性はみんな恐る恐るガラスの靴を履いた。
万が一にも自分の足がピッタリであったら、王子と戦うはめになるからだ。
125:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 00:13:10.81 ID:FDH9ZeWQ0
しかし、ガラスの靴と合致する足の持ち主は、いつまでたっても現れなかった。
王子(この町の女性ではないのか……?)
王子(くそう、早く見つけ出して戦いたい……!)
兵士「王子、残るはあの道場だけです!」
王子(あそこの女二人とはすでに戦っている……)
王子(“レイニーフィスト”と“キラーフット”が虎覆面ではないことは確実)
王子(無駄足だと思うが、一応行ってみるか)
王子「よし、向かうぞ」
兵士「はっ!」
126:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 00:14:59.74 ID:FDH9ZeWQ0
王子「たのもうっ!」
継母「王子か……何用だ?」
王子「今ボクらは、このガラスの靴がピッタリ合う足を持つ女性を探している」
王子「君たちはちがうと思うが、念のためテストさせてもらおう」
継母「ふん、よかろう」
継母「長女ッッッ! 次女ッッッ! シンデレラッッッ!」
継母「来いッッッ!」
王子(シンデレラ……? 知らない名前だな)
127:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 00:19:00.20 ID:Ej+i6iUS0
原作と同じ流れなのに
130:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 00:20:15.25 ID:ZDOxpzt50
なんつー流れだwwww
131:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 00:23:56.20 ID:FDH9ZeWQ0
長女「はい、お母様」
次女「なにさ」
シンデレラ「!」
シンデレラ(どうして王子がここに……!?)
兵士「今からお前たちにはこの靴を履いてもらう」
兵士「もしサイズがピッタリ合ったなら、王子と戦ってもらう」
長女(アレは昨日の虎覆面の靴ね……。なるほど、彼女を探しているのね)
次女(アタシらが虎覆面じゃないってのは分かり切ってるのに、めんどくさいなぁ)
シンデレラ(どうしよう……正体がバレちゃう……!)
133:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 00:27:20.92 ID:FDH9ZeWQ0
長女が履く。
長女「私には少し小さいようですわ」ギュッ
次女が履く。
次女「アタシにも合わないね」ギュッ
継母が履こうとする。
兵士「いや、あなたは履かなくても分か──」
ドゴォッ!
兵士「ごぶっ!」
継母が履く。
継母「たわけが、小さすぎるわッッッ!」ギュウウ…
王子「さて残りは君だけか」
シンデレラ(うぅっ……!)
138:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 00:34:17.91 ID:FDH9ZeWQ0
シンデレラ(どうしよう……これを履けば、私がタイガーマスクだとバレてしまう!)
シンデレラ(そうなったらお姉様たちに、恥をかかせてしまう!)
シンデレラ「私、履きたくありません!」
王子「ほう、なぜだい?」
シンデレラ「そ、それは……」
次女「王子さん、コイツはあの覆面じゃないよ」
次女「だって……コイツは人を殴れないんだからさ」
次女「見逃してやってよ」
141:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 00:38:25.49 ID:FDH9ZeWQ0
王子「ダメだ」
次女「!」
王子「ボクが履けといったら、黙って履けばいいんだ」
王子「それとも、また昨日の続きをするかい?」
次女「上等だよ……! このクソ腐れサド外道王子が……!」
長女「私も戦うわ、次女」
次女「姉様!」
長女「嫌がっている妹に靴を履かせようとする不埒な輩……戦うしかないでしょう」
王子「二対一でもかまわないよ、ボクは」
王子「この道場を君たち姉妹の墓場にしてあげるよ!」
142:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 00:42:44.27 ID:FDH9ZeWQ0
シンデレラ「待って下さいっ!」
長女&次女「!」
シンデレラ「私……履きます」
王子「ふふふ、それでいいんだ」
シンデレラ(ごめんなさい、お姉様……)スッ
ガラスの靴は、シンデレラの足にぴったり合った。
長女「!」
次女「!」
継母「!」
王子「これは……」
145:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 00:46:02.95 ID:FDH9ZeWQ0
長女「待って下さい、これはなにかのまちがいです!」
次女「シンデレラ、逃げな! 王子はアタシらでなんとかする!」
王子「どきたまえ」
バキッ! ドガッ!
長女「ぐぁっ!」
次女「うわぁっ!」
王子「シンデレラとやら。戦わないのなら、君のお姉さんたちが死ぬことに──」
ボゴォッ!
王子「ごあっ!」ドサッ
シンデレラの右ストレートが炸裂した。
シンデレラ「やりましょうか、王子様」ニッコリ
146:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 00:47:50.46 ID:ZDOxpzt50
今のがゴングだ…!
149:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 00:50:46.64 ID:FDH9ZeWQ0
今の一撃で、長女たちは全てを悟った。
長女(すごいパンチだわ……なるほど、昨日の虎覆面は──)
次女(そうだったのか、昨日はアイツは──)
継母(ようやく分かったッッッ! 昨日の虎は──)
長女(シンデレラだったのね……)
次女(シンデレラだったんだな)
継母(シンデレラの双子の姉か妹だったということかッッッ!)
継母以外の二人は真実にたどり着いた。
150:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 00:52:14.77 ID:PLGSxnyW0
継母鈍感すぎないか
152:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 00:52:36.07 ID:tT+USt3dO
やばいよもや継母に萌えるとは…………
153:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 00:54:22.78 ID:iXH48d9b0
継母可愛い
154:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 00:55:47.44 ID:JXQ/jCAr0
おい継母ww不覚にも萌えたじゃねーかww
156:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 00:56:25.28 ID:FDH9ZeWQ0
次女(ふん、アタシらに遠慮してて、名乗れなかったんだな……ったく)
次女「シンデレラ、思いきりやっちまいな! クソ王子をぶっ飛ばせ!」
長女「えぇ、全力で叩きのめすのよ!」
継母「命令だ……葬れッッッ! 王子を地獄に叩き落とすのだッッッ!」
シンデレラ(みんな……応援、ありがとう!)
シンデレラ「早く立って下さい。みっともないですよ、王子」
王子「いい一撃だったァ~~~~~」ガバッ
王子「昨夜の興奮がよみがえってきたよ」
157:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 00:58:50.14 ID:FDH9ZeWQ0
王子「いきなり出させてもらうよっ! ボクの本気(しょうたい)をッッッ!」
王子が昨夜見せた異形に変貌する。
王子「こうなったからには……もう誰もボクを止められないッッッ!」
王子がダッシュから、噴火のようなアッパーを放つ。
バゴォォッ!
シンデレラの体が10メートルは宙に浮いた。
さらに王子は飛び上がると、宙に浮いたシンデレラを捕え──
落下の勢いを利用して、シンデレラの頭部を地面に突き刺した。
ズガァンッ!
160:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 01:05:21.43 ID:FDH9ZeWQ0
次女「シンデレラッ!」
シンデレラは平然と起き上がった。
シンデレラ「私の番ですね」
昨夜王子を瀕死に追い込んだ、十三連打“死の十三階段”を炸裂させる。
ズガガガガガガガガガガガガガッ!
王子もビクともしない。
王子「フハハハハハハハハッ!」
シンデレラ「うふふっ……」
両者、笑っていた。
162:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 01:08:58.12 ID:FDH9ZeWQ0
ズガッ! ドガガッ! バギャッ! ベキィッ! ズドンッ!
凄まじい打撃戦。
一流の武術家といえる長女や次女でも、もはや目で追えないレベルだった。
長女(全て分かったわ……シンデレラが人を殴れなかったワケが)
長女(シンデレラは本能的に分かっていたのね……)
長女(私たち姉妹を殴れば、殺してしまうかもしれないと……)
長女(お母様と戦えば、道場を壊してしまう事態になりかねないと……)
長女(だからずっと、王子のような気兼ねなく戦える猛者をずっと待っていたんだわ……)
165:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 01:13:30.15 ID:FDH9ZeWQ0
変貌した王子の実力は凄まじく、シンデレラは押されていた。
王子のラリアットが、シンデレラの首を直撃する。
ゴキャッ!
シンデレラ「ぐあぁっ!」
王子「ふふふ、これほど楽しめたのは生まれて初めてだよ」
王子「かつて敵国の部隊を一人で滅ぼした時にも、これほどは苦戦しなかった」
王子「そんな君に敬意を表し、ボクの最高の技で君を葬り去ってあげようッッッ!」
168:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 01:21:18.19 ID:FDH9ZeWQ0
王子「古来より、王子のキスには美女を蘇らせる力があるという言い伝えがある」
王子「──が、ボクは逆ッッッ!」
王子「ボクのキッスはどんな美女をも絶命に追い込むッッッ!」
王子は唇を突き出すと、そのまま超高速でシンデレラの顔面に唇をぶつけた。
グシャアッ!
シンデレラ「がっ……!」
王子「もう一発!」
グシャアッ!
シンデレラ「うぅ……っ」ガクッ
次女(ありゃあキスなんて甘いもんじゃない……唇による打撃だ!)
169:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 01:22:27.86 ID:Dc3zRtz70
唇による打撃wwwwwwww
完全にバキのノリwwwwwwwww
170:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 01:27:32.81 ID:FDH9ZeWQ0
膝から崩れ落ちるシンデレラ。
王子「どうやらボクの勝ちのよう──……え!?」
シンデレラの体が異常に発汗していた。
汗は急速に乾き──空気中の汚れと混ざって黒い塩となった。
王子「What!?」
シンデレラ「十数年、格闘技だけに生きてきた私に──」
シンデレラ「王子とのファーストキスは刺激が強すぎましたわ」
シンデレラ「おかげで、いっぱい汗をかいてしまいました」
シンデレラは自分の体にくっついた灰色の塩を王子に投げつけた。
バサァッ……
王子「ぐわぁっ! 目がっ、目がぁ~っ!」
継母「シンデレラの日頃からの猛特訓が、土壇場でヤツを救いおったかッッッ!」
171:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 01:29:12.84 ID:Q10N4KYYO
飛び道具www
172:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 01:29:36.07 ID:FDH9ZeWQ0
シンデレラ「はあああああっ!」
ズドドドドドドドドドドッ!
長女のような、拳による猛ラッシュ。
シンデレラ「でやあっ!」
ベキィッ!
次女のような、強烈な回し蹴り。
王子「バ、バカな、ボクのキスを喰らってこれほど動けるのか……ッッ!」
長女(シンデレラったら、私たちの分まで戦ってくれているのね)
次女(ありがとな、シンデレラ……)
174:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 01:35:27.95 ID:FDH9ZeWQ0
シンデレラ「トドメよッッッ!」
シンデレラは飛び上がり、王子の顔面に猛烈な蹴りを浴びせた。
ドガッシャァァァンッ!
王子「べぶぁっ……!」
衝撃で靴は砕け散り、王子の顔面にガラスの破片が突き刺さった。
王子「ビュ、ビューティフォー……」
王子は一瞬ニヤリと笑うと、背中から勢いよくダウンした。
──ドザァッ!
継母「一本ッッッ!」
継母「勝者、シンデレラッッッッッ!!!」
175:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 01:36:58.62 ID:TJsj5F5EO
なんちゅう戦いだ
176:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 01:38:04.90 ID:xm/Sl1gw0
これがシンデレラの闘い…!
178:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 01:40:34.69 ID:FDH9ZeWQ0
しばらくして、王子が目を覚ました。
王子「ボクの負けだよ……シンデレラ」
王子「ボクと結婚してくれるね?」
シンデレラ「いいえ」
王子「えっ?」
シンデレラ「お姉様たちを始め、大勢の女性を傷つけたあなたとなんか……」
シンデレラ「私、結婚したくありません」
シンデレラ「私はこの道場に残り、もっと技を磨きますわ」
王子「そ、そんな……じゃあボクはどうすれば……」
181:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 01:44:12.04 ID:FDH9ZeWQ0
継母「案ずるなッッッ!」
継母「キサマとはワシが結婚してやろうッッッ!」ガシッ
王子「えっ」
継母「さぁ、さっそく挙式だッッッ!」グイッ
王子「えっ、ちょっ、待っ──」
継母「そして挙式のあとは、即契りを行うッッッ!」
王子(だ、だれか助けて……)
188:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 01:50:23.02 ID:FDH9ZeWQ0
シンデレラ「待って下さい、お母様」
継母「ぬぅっ!?」
シンデレラ「王子、あなたには少し精神の修練が必要なようです」
シンデレラ「このまま王子として結婚させたら、また何をしでかすか分からないわ」
王子「あ、ありがとうございますぅ!」
王子「ボクが傷つけた女性たちには最高の名医を送って、責任を持って完治させますっ!」
シンデレラ「いい心がけだわ。でも、ちゃんと一人一人に謝罪もするのよ」
王子「もちろんですっ!」
シンデレラ「どうでしょう、お母様? 王子を私たちの道場に入門させては──」
継母「なるほど、それも一興よ」
継母「ただし王子よ、ワシの期待に反したら……即ワシと結婚だッッッ!」
継母「よいなッッッ!」
王子「は、はい……っ!」
191:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 01:56:28.33 ID:FDH9ZeWQ0
こうして王子は、道場の門下生──というかパシリになった。
長女「王子、紅茶を入れてちょうだい」
王子「はいっ!」
次女「王子、メロンパン買ってきて」
王子「はいっ!」
継母「王子! 肩を揉めッッッ! もし気持ちよくなければ、結婚してもらうッッッ!」
王子「は、は……はいっ!」ビクッ
シンデレラ「王子、組み手に付き合って」
王子「はいっ! 喜んでっ!」
魔女「ひっひっひ、森で薬草を取ってきておくれ」
王子「(誰コイツ!?)はいっ!」
193:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 01:57:08.65 ID:tttFcazp0
おいこら魔女てめー何やってんだよ
196:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 02:00:30.61 ID:FDH9ZeWQ0
数年後、王子はその強さと地位に相応しい高潔な精神を手に入れていた。
そして──
カラァァン…… コロォォン……
教会に大勢の人が集まっていた。
長女「おめでとう! キレイよ、シンデレラ……!」
次女「王子もずいぶんかっこよくなったよね。お似合いだよ」
継母「くぅぅ……ッッ! 未熟者どもが……ッッッ!」グスッ
長女&次女(泣いてるところ、初めて見た……!)
198:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 02:01:59.42 ID:FDH9ZeWQ0
王子「みんな、ボクらのために集まってくれてありがとう!」
王子「シンデレラ、今日の君はなんだか女神のようだ」
シンデレラ「ありがとう、王子」
シンデレラ「お姉様、お母様、みんな、ありがとう! 私、これからも頑張ります!」
国中がシンデレラと王子の結婚を祝福した。
その後、この二人が幸せに暮らしたことはいうまでもない。
<おわり>
199:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/04/30(月) 02:02:21.36 ID:FDH9ZeWQ0
シンデレラを戦わせてみたかったのです
ありがとうございました
No related posts.
最近のコメント