唯「あずにゃんの葬式かあ」
1 01/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 13:56:20.88 ID:iVRCG4MA0
(休みの日)
唯「今日は楽しかったねあずにゃん」
あずにゃん「はい。また誘ってください唯先輩」
唯「もちろん! それじゃ、ばいばーい」 ノシ
あずにゃん「はーい。またー」 ノシ
唯「あずにゃーん」 ノシ
あずにゃん「さよーならー」 ノシ
唯「後ろからトラックがー」
ごこんっ!
ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ!
ヅィーーーーーー!
ぼりんっ!
がちゃぽっ!
4 02/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 13:57:08.96 ID:iVRCG4MA0
何かを引き摺るような音を立ててトラックは急停止した。
トラックを運転していた男は、運転席から見えるその光景を呆然と眺めていた。
目の前のフロントガラスから見えるのは見慣れた穏やかなコンクリート道路。
しかし、視界の脇に映り込んだサイドミラーからは想像も出来ないほどに
赤黒く染まった別世界の映像を男に送り続けていた。・・・つまりは真後ろ。
トラックが通過したほんの数メートルの間に、自分が轢き殺した女の子の
血肉がビッシリと散らばっていた。大型トラックのタイヤに摺り下ろされた
女の子の肉片は、その重みでもはやコンクリートと一体化しているようだった。
男は何故こうなったのかを振り返る。数秒前、髪をツインテールに結った
少し幼げな高校生くらいの女の子が突然歩道から道路に飛び出してきた。
ツインテールの女の子は飛び出してからもトラックの方へは見向きもせず、
トラックの進行と同じ方を向きながら何処かに向かって手を振り続けていた。
そのまま女の子の後頭部と走っていたトラックが激突し、まるで生卵を
叩き割ったかのように女の子の頭が髪の分け目からパックリと裂けていった。
頭の割れた女の子はそのまま前輪の大きなタイヤの下へと吸い込まれていき、
バキボキゴシャグシャと奇っ怪な音を立てながら肉片へと変貌を遂げていった。
即死。散らばった肉片にまだ意識があるのなら、一体何を考えているのだろうか。
痛い? 何故? 苦痛? 何があった? 事故? 激痛? 死亡? 自分? 終わり?
すると男は、真後ろで散らばった肉片を必死に拾い集めている女の子に気付く。
よく見ると、肉片の女の子が生前に手を振っていた相手の女の子のようだった。
彼女はコンクリートに接着した肉片をベリベリと引き剥がし、それでもこびり付いた
肉片を爪でガリガリと掻き出し必死に拾い集めていた。彼女の両手は血塗れだが、
おそらく血肉以外にも自分の指先から出血して赤く染まっているのもあるはずだった。
彼女がそこまでする理由・・・。それは責任か。彼女は自分がツインテールの女の子に
手を振ったことで道路から注意を逸らし、事故に遭ったと考えているのかもしれない。
罪の意識。贖罪。・・・それとも救済か。本当にツインテールの女の子を助けようとして
肉片を拾い集めているのかもしれない。肉片を全て集めることで助けることができる。
分かりきっている事から目を背けた希望。男は彼女が何を考えているのか全く
理解できなかったが、その異常とも思える光景からふと冷静な判断を取り戻す。
そして男は110番通報し、事故現場にパトカーが到着するのを待つことにした。
9 03/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 13:58:18.53 ID:iVRCG4MA0
(次の日 – 梓の葬式会場)
お坊さん「なむあみだ~」
律「うう・・・! なんで死んじまったんだ梓・・・!」
唯「・・・・・・」
秋山澪「唯、気を落とすなよ。唯のせいじゃ無いんだからな」
ムギ「・・・澪ちゃん。あの棺梓ちゃんのにしては小さすぎない?」
秋山澪「ああ。トラックの下にまだ”ほとんど”引っかかってるんだってさ」
秋山澪「特に頭が上手い具合に部品と部品の間に引っかかってて・・・」
唯「っ・・・! うっ・・・」
律「・・・澪! 今はそういう話やめろよ!」
秋山澪「わ、悪い。不謹慎だったな」
ムギ「って事は梓ちゃん、今もトラックの下で一人ぼっちなんだ・・・」
唯「っ・・・! あ、ああああぁぁぁ・・・!」 がくっ
律「ムギもやめろ! お前ら少しは唯の気持ち考えてやれよ!」
唯「私のせいでえぇぇ・・・! 私のせいであずにゃんがあぁぁ・・・!」
ムギ「ご、ごめんね唯ちゃん・・・」
15 04/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 13:59:31.51 ID:iVRCG4MA0
唯「ムギちゃん達は悪くないよぉ・・・! 悪いのは全部私だよぉ・・・!」
律「唯・・・。・・・あ、ご焼香私の番だ。ちょっと行ってくる」
秋山澪「分かった。唯は私達が慰めとくから」
律「頼む。すぐ帰ってくるからな」
律「(くっ・・・! この間まではみんな笑ってたのに・・・!)」
(祭壇前)
律「これが梓との最後の別れか。そこに居るんだな梓・・・」
棺「・・・・・・」
律「(あ。そう言えば私ご焼香のやり方とか分からないぞ・・・)」
律「(前の人のマネしようと思ってたけど、すっかり見忘れてた・・・)」
律「(今は変な事できる雰囲気じゃないのに、どうしよう・・・)」
律「えっと、まずこの抹香を一つまみするんだよな・・・」 もぞっ
律「それでこれを・・・あ、頭に持ってくるんだっけ?」 すっ
お坊さん「(ちらっ・・・)」
律「(うっ・・・!? 今お坊さんがちょっとこっち見た・・・?)」
律「(間違ってたか・・・? いや、でももう戻れないし・・・!)」
16 04/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 13:59:54.13 ID:iVRCG4MA0
律「それでこのつまんだ抹香を火の付いてる方に」 パラパラ・・・
律「(大丈夫、ここまでは間違ってないはず! 自信を持て!)」
律「で、今のをもう一度繰り返す」 もぞっ、パラパラ・・・
律「(次だ。さ、三回くべた方が良いのか・・・?)」
律「(多くても少なくても駄目そうだが・・・。考えてる時間はない!)」
律「・・・まあ三回やっとくか。四回はさすがに多そうだし」 パラパラ・・・
律「よし、最後に棺に向かって拝んで」 ぺこっ
律「(・・・あっ! しまった! ご焼香前に梓の両親に一礼してないぞ!?)」
律「(これはやらなきゃ駄目だった気がする・・・! ど、どうする!?)」
律「くっ・・・! 帰りにやっとけば大丈夫だろ、焦るな自分・・・!」
声『(・・・つっ! ・・・りつっ!)』
律「ん? 後ろから澪の小声が?」 くるっ
秋山澪『(律! 数珠! 忘れてるぞ!)』 じゃらっ
律「(あ、あぁぁぁぁぁッ!?)」
律「(一番肝心な所から間違えてたあぁぁぁッ・・・!)」
17 06/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:00:15.07 ID:iVRCG4MA0
律「くそっ! 一端戻ってご焼香をやり直すか・・・!」 だっ・・・
ガンッ! バタンッ!
律「ああっ!? 香炉が腕にぶつかって床に落ちた!?」
参列者『ざわざわ・・・』
律「わ、わ・・・! 早く拾わないと・・・!」
じゅっ・・・!
律「あっちぃっ!?」 っぽーい
秋山澪「あっ!? 火の付いた香炉が祭壇の中に!?」
・・・ぼぉっ!
ムギ「祭壇に飾られた造花に・・・火が!」
律「あ、あああああ・・・!」
秋山澪「・・・律! 危ないぞ! 下がれ!」 ぐいっ!
律「でも・・・! 火が・・・! 火が・・・!」
ぼおおぉぉぉっ!
ムギ「造花は紙でできてるから、燃え移りが早いわ!」
23 07/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:02:08.66 ID:iVRCG4MA0
お坊さん「なっ!? 何をやっちょるかバチアタリがぁッ!」
梓の母「いやああああぁぁッ! 梓があぁぁ! 梓があぁぁ・・・!」
参列者『全員祭壇から離れろぉ!』 ざわざわ・・・
参列者『誰か水! 水持ってこい!』
律「澪ぉ! 離せぇ! 梓が・・・! 私のせいで梓がぁ・・・!」
秋山澪「行ってどうする! 火はもう燃え広がってるんだぞ!」
律「くっそおおぉぉぉぉぉぉぉッ・・・!」 がくっ
ムギ「葬儀のつもりが、火葬になっちゃったわね・・・」
唯「え? 何が・・・?」
(数十分後)
参列者「火はなんとか消化器で消し止められましたが・・・」
消し炭「・・・・・・」 ぷすぷす・・・
梓の母「あぁっ・・・! どうしてウチの梓ばかりがこんな目にッ・・・!」
律「・・・・・・」
秋山澪「律・・・。その、お前は悪くな―――」
律「くっ・・・!」 たたたっ!
28 ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ 2012/01/15(日) 14:03:35.58 ID:cw8TKSZH0
(休みの日)
唯「今日は楽しかったねあずにゃん」
あずにゃん「はい。また誘ってください唯先輩」
唯「もちろん! それじゃ、ばいばーい」 ノシ
あずにゃん「はーい。またー」 ノシ
唯「あずにゃーん」 ノシ
あずにゃん「さよーならー」 ノシ
唯「後ろからトラックがー」
キキーッ!!
あずにゃん「私は死にません!唯先輩が好きだから!」
30 08/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:03:58.32 ID:iVRCG4MA0
ムギ「りっちゃん!? どこへ行くの!?」
秋山澪「・・・外へ出て行った律を追いかけてくる!」 たたたっ
ムギ「う、うん! こっちは私達に任せて!」
のどか「・・・唯、少しは落ち着いた?」
唯「のどかちゃん。う、うん・・・。さっきよりは・・・」
のどか「明日から学校だけど来られる?」
唯「うん、大丈夫。学校にはちゃんと行くから・・・」
のどか「一応、明日の朝は私唯んちに迎えに行くからね」
唯「ありがと。そうしてもらえるとすごく助かる・・・」
32 09/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:04:30.11 ID:iVRCG4MA0
(次の日の朝 – 唯の家)
のどか「・・・唯ー。起きてるー?」 がちゃっ
唯「あ、のどかちゃん。来てくれたんだ」
のどか「唯。昨日はちゃんと眠れた?」
唯「うん。憂が添い寝してくれたから・・・なんとか」
のどか「そう。学校に行く準備はできてる?」
唯「うん。今は憂を待ってる所」
憂『・・・お姉ちゃーん。私ちょっとやる事があるから先行っててー』
唯「あ、うーん。分かったー」
のどか「それじゃあ私達だけで行きましょうか」
唯「うん。・・・憂ー。じゃあ先行ってるねー」
(登校中)
のどか「今朝は全校集会で梓の話があるけど、大丈夫?」
唯「あ、うん。多分大丈夫・・・だと思う」
のどか「無理しなくていいからね。何かあったらすぐ言うのよ」
唯「うん。ありがとのどかちゃん」
33 10/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:05:12.85 ID:iVRCG4MA0
(体育館 – 臨時の全校集会)
校長『えー命というのは儚い物です。そのため皆さんも大切に―――』
唯「・・・えっ。それで昨日からりっちゃん行方不明なの?」
秋山澪「あれから家にも帰ってないし、今日学校にも来てない・・・」
ムギ「警察に連絡した方がいいんじゃない?」
秋山澪「あんまり騒ぎにはしたくないんだけどな。原因が原因だけに」
唯「りっちゃんもすごく落ち込んでると思う・・・」
秋山澪「正直、昨日は私も律になんて声を掛ければ良いのか分からなかったよ」
秋山澪「今もどうやって律を慰めてやればいいのかも分からないし・・・」
ムギ「昨日の出来事は笑い話じゃ済まされないからね・・・」
秋山澪「実際、律のやったことってほとんど擁護できないんだよな」
唯「過失でもりっぱな放火だからね・・・」
ムギ「でも私達にできる事って、りっちゃんを責めてあげない事だけだよね?」
秋山澪「律もすごい責任を感じてると思う。変な気を起こさないといいんだが・・・」
唯「りっちゃん、今どこに居るんだろう・・・」
39 11/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:07:03.31 ID:iVRCG4MA0
(調理室 – 家庭科の授業)
家庭科教師「えー今日は、鶏モモのから揚げを作りたいと思います」
家庭科教師「それでは皆さん、まずは鶏肉を食べやすいサイズにカットして下さい」
唯「うっ・・・。生、肉・・・」 もちゃ・・・
家庭科教師「平沢さん! ちゃんと左手で鶏肉を押えて切って下さい!」
唯「生肉の感触が・・・き、気持ち悪いから・・・」
家庭科教師「まあ! 気持ち悪くても私達はそれを食べて生きてるんですよ!」
家庭科教師「アナタ今まで出来上がった料理しか見た事なかったんでしょう!」
唯「そうじゃなくて、これ・・・あ、あずにゃんを思い出して・・・」
のどか「・・・唯、私がやるから。変わって」
唯「あ、のどかちゃん・・・。ありがと・・・」 すっ
家庭科教師「・・・平沢さん。減点ですからね」 すたすた
のどか「唯、気にしなくていいから」
唯「うん。ごめんねのどかちゃん・・・」
のどか「気にしなくていいって」 ギコギコ
41 12/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:08:10.98 ID:iVRCG4MA0
秋山澪「・・・部室にある梓の荷物って、これで全部だっけ」
唯「多分そう。ギターとかもあずにゃんのご両親に返さなくちゃね」
ムギ「・・・荷物が多いから家に電話して車を呼んでもらったわ」
秋山澪「助かるよムギ。・・・唯も一緒に行くか?」
唯「うん。みんなに押しつけてばかりじゃ悪いから・・・」
ムギ「もう校門に車が来てるみたいだから、三人で・・・行きましょうか」
(数十分後 – 梓の家)
梓の母「・・・わざわざ梓の荷物をウチまで届けてくれて、みんなありがとうね」
唯「あ、あの・・・」
梓の母「アナタは確か・・・」
唯「ご、ごめんなさい! 私のせいであずにゃ・・・梓ちゃんが・・・!」
梓の母「・・・もしかして、梓の事故現場で一緒に居た事を気にしてるの?」
唯「だって・・・! 私があの時あずにゃんに手を振らなきゃ、きっと・・・!」
梓の母「・・・そんなわけないわ。自分を責めすぎよ唯ちゃん」
梓の母「それに唯ちゃんの事はいつも梓から聞いてたから・・・よく知ってるわ」
唯「あずにゃん・・・から・・・? ずぴっ・・・」
42 13/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:08:50.48 ID:iVRCG4MA0
梓の母「梓はいつも”唯先輩”の話ばかりしててね・・・」
梓の母「きっと梓は、天真爛漫な唯ちゃんの事が大好きだったのよ」
梓の母「だから・・・悲しまないで。きっと天国の梓も元気な唯先輩が見たいはず」
唯「あ、あずにゃんのお母さん・・・! ううぅぅぅ・・・!」
梓の母「私も夫も親族の方々も、唯ちゃんの事なんて一つも悪く思ってないから」
梓の母「むしろ私含めてみんな唯ちゃんの事・・・大好きに決まってるじゃない」
唯「そう、言って欲しかった・・・! ありがとぉあずにゃんのママぁ・・・!」
ムギ「良かったね唯ちゃん。これで少しは楽になった?」
唯「うん・・・! 私、もう落ち込まない・・・! がんばる・・・! ずぴっ・・・!」
秋山澪「あ、あの・・・。梓ちゃんのお母さん・・・」
梓の母「?」
秋山澪「その、律の事なんですが・・・」
梓の母「・・・りつ?」
秋山澪「昨日、梓の祭壇に火を点けてしまった女の子なんですけど・・・」
梓の母「っ・・・! あ、アイツだけは・・・! 絶対に殺すッ!」 ガタッ!
49 13/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:10:09.26 ID:iVRCG4MA0
秋山澪「!? 梓のお母さん!?」
梓の母「あのクソガキだけは絶対に生きたまま燃やして殺す・・・!」
梓の母「梓と同じ苦しみを味合わせてやる・・・! アイツは今どこッ!?」
秋山澪「あ、あの・・・! 落ち着いてください・・・!」
梓の母「落ち着け? ・・・ふざけないでッ! 早くアイツを見つけてきてよ!」
梓の母「私が梓のかたきを取ってやる・・・! 裁きを・・・! 報いを!」
梓の母「あ、あ・・・! あああああああああああぁぁぁぁぁッ!」
ムギ「・・・澪ちゃん! ここは一端帰ろう!」
秋山澪「違うんです! 律だってすごく悲しんでるです・・・!」
梓の母「はあ!? 私だって悲しいし、悔しいわよッ!」
梓の母「私の梓はアイツに燃やされるほど酷い事をしたの!? ねぇ!?」
秋山澪「だから! 少しは律の気持ちも考えてやってくださいよッ!」
唯「み、澪ちゃんも落ち着いて・・・」
梓の母「何よアンタ! さっきからアイツの肩ばっか持って! ・・・帰って!」
梓の母「アンタの顔も見たくないわ! この家から出てって! 早く!」
56 15/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:11:32.68 ID:iVRCG4MA0
秋山澪「くそっ! そんなのこっちから願い下ですから!」 だっ!
唯「あっ! 待って澪ちゃん!」 たたたっ
ムギ「し、失礼しました! 荷物はこれで全部なので・・・!」 たたたっ
梓の母「あ、あぁぁ・・・! あずさああぁぁ・・・! ううぅぅぅッ・・・!」 がくっ
(数分後)
唯「澪ちゃん! 待って・・・!」 たたっ
秋山澪「くっ・・・! 分かってる! 梓のお母さんの気持ちも分かってるよ!」
秋山澪「でも律の気持ちだって私には分かるから! それが悔しくて・・・!」
ムギ「落ち着いて澪ちゃん・・・。仕方ないわ梓ちゃんのお母さんだって―――」
秋山澪「仕方なくない! くそっ・・・! 律の事も許して欲しかった・・・!」
秋山澪「そうすれば律だって戻って来やすくなってたはずだったのに・・・!」
唯「あ・・・。そ、その・・・。ごめんね・・・。私だけ一人で勝手に許されて・・・」
秋山澪「唯を責めてるわけじゃない。でもあまりにも律が可哀想だからさ・・・」
ムギ「澪ちゃん・・・」
・・・ティロリン♪ ティロリン♪
秋山澪「ずぴっ・・・。・・・メールだ。 ・・・っ!? り、律から!?」 カチャッ
63 16/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:13:08.39 ID:iVRCG4MA0
唯「りっちゃんから!? なんて書いてあるの!?」
秋山澪「『家に戻ってる』・・・。・・・くっ!」 だっ!
唯「澪ちゃん!?」
ムギ「『家に来てほしい』って事よ! 私達も行きましょう!」 たたたっ
唯「あ・・・! う、うん!」 たたたっ
(十数分後 – 律の部屋)
秋山澪「・・・律!」 ガチャッ!
律「っ・・・! あ・・・。や、やあみんな・・・」
唯「りっちゃん・・・。はあ、良かった無事で・・・」
ムギ「りっちゃん、今さっき帰って来た所なの?」
律「ま、まあ。はは・・・」
秋山澪「・・・律!」 ばっ
律「っ・・・!?」 ビクッ!
唯「澪ちゃん!? だ、ダメ―――!」
秋山澪「・・・心配したんだぞ! バカ・・・!」
律「み、澪・・・? 怒って・・・ないのか・・・?」
64 17/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:13:33.16 ID:iVRCG4MA0
秋山澪「怒れるわけないだろ! 少しは人の気持ちも考えろッ!」
唯「澪ちゃん! 怒ってる怒ってる!」
律「梓の事や、学校をサボったりした事、たくさんあるけど・・・」
ムギ「それでも、私達はりっちゃんを責めたりなんてしないよ」
唯「そうだよ! 私達はどんな時でもりっちゃんの味方だから!」
律「お、お前ら・・・! くっ・・・! う、ううぅぅぅ・・・!」 がくっ
律「ずっと・・・怖かった・・・! 澪達にまで怒られたらって思うと・・・!」
律「もしみんなにまで嫌われてたらって思うと・・・! 私、ほんと怖くて・・・!」
秋山澪「バカ・・・! そんな事するはずがないに決まってるだろ・・・!」
律「うん・・・! だから私もみんなを信じて、本当に良かった・・・!」
律「みんなが優しく向かえてくれて、それが本当嬉しかった・・・!」
律「ありがとう・・・! 澪・・・! ムギ・・・! 唯・・・! う、ううぅぅぅ・・・!」
唯「りっちゃん・・・。ぐずっ・・・」
ムギ「私達もりっちゃんに頼ってもらえて嬉しいわ」
律「ほんと迷惑かけてばっかりだよな私って・・・。はは・・・」
68 18/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:15:14.21 ID:iVRCG4MA0
(数十分後 – 律の家の玄関)
秋山澪「それじゃ、私はもう少し律と一緒に居たいから」
ムギ「うん。澪ちゃんにならお願いできるわ」
唯「りっちゃん、また明日学校でね」
律「ああ。明日はちゃんと学校行くからな。唯、ムギ・・・」
唯「うん! じゃあね澪ちゃん、りっちゃん!」 ノシ
秋山澪「また明日な」 ノシ
(数十分後 – 唯の家)
唯「ただいまー」 がちゃっ
憂「おかえりーお姉ちゃん。今日は帰り遅かったね」
唯「うん。あずにゃんとりっちゃんの家に行ってたから・・・」
憂「律先輩見つかったんだ。良かったー」
唯「あと、私もあずにゃんのママから責任を負う必要は無いって言われて・・・」
憂「・・・私も梓ちゃんの事は本当に残念に思ってるけど」
憂「それでお姉ちゃんまで悲しんでたら、私ももっと辛くなるから・・・」
唯「今まで迷惑かけてごめんね憂・・・。私もう落ち込まないから!」
73 19/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:17:03.94 ID:iVRCG4MA0
憂「うん! 私も元気なお姉ちゃんの方が大好きだよ!」
唯「えへへー。・・・あー安心したらお腹空いてきちゃった!」
憂「あはは。もう少しで晩ご飯の用意ができるから、それまで待っててね」
唯「よーし! 晩ご飯ができるまでギー太と遊んでこ~よぉっと!」 たたたっ
(唯の部屋)
唯「ギー太~! ギー太も三日ぶりくらい弾いてなかったなー」
じゃ~ん♪
唯「ああ・・・。やっぱりギター弾いてる時は落ち着くなあ・・・」
じゃかじゃかじゃん・・・
唯「・・・あ、ここはあずにゃんとのセッションの部分だっけ」
唯「そっか、もうあずにゃんと合わせてギター弾けないんだ・・・」
唯「・・・・・・」
唯「・・・っと! 落ち込まない落ち込まない! 笑顔笑顔!」 にかー
唯「よしっ! セッション部も一人で弾けるようにアレンジしよう!」
唯「えーっと、この曲のコード譜は・・・。・・・あったこれだ」 ぺらっ
唯「・・・あれ? このコード譜・・・もうギターのセッション部が全部書き換えてある?」
75 20/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:18:38.92 ID:iVRCG4MA0
唯「えっ・・・? この楽譜も、この楽譜も・・・みんな書き換えてある?」
唯「セッション部が全部一人用に直されてる・・・?」
唯「・・・って、えっ!? あれっ!?」
唯「壁に飾ってあったあずにゃんの写真が・・・一枚も無い!?」
唯「えっ!? あれっ!? アルバムからもあずにゃんの写真が消えてる!?」
唯「あずにゃんの写ってた写真が・・・全部無くなってる!?」
唯「・・・えっ!? えっ!? あずにゃんからもらった物も・・・何処にも無い!?」
唯「あずにゃんのおみやげとかプレゼントとかが全部無くなってる!?」
唯「っ・・・!? よく見るとこれ・・・ギー太の弦も全部張り替えられてる!?」
唯「あずにゃんに張ってもらった弦が全部新しくなってる!?」
唯「まさか・・・この部屋からあずにゃんの”痕跡”が一つも無くなってる!?」
唯「なんで・・・!? どうして・・・!?」
憂「・・・お姉ちゃーん。晩ご飯の用意できたよー」 がちゃっ
唯「憂! 私の部屋にあったあずにゃんの写真とか貰い物とかって・・・知らない!?」
78 21/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:20:21.62 ID:iVRCG4MA0
憂「あっ、それなら私が今朝・・・全部ゴミに出して捨ててきたよ?」
唯「えっ・・・!? な、なんで・・・!?」
憂「え? だってお姉ちゃん、梓ちゃんの事でずっと悲しんでたでしょ?
だからお姉ちゃんがはやく梓ちゃんの事を”忘れられる”ようにって思って」
憂「それならこの部屋から梓ちゃんに関係する物を全部捨てちゃえば、
お姉ちゃんもはやく梓ちゃんを忘れられるかなって思って捨てたんだけど・・・」
唯「そんな・・・!」 がくっ・・・
憂「よ、余計なお世話だったかな・・・?」
唯「じゃあ、このコード譜も憂が・・・?」 ぺら・・・
憂「うん。お姉ちゃん一人じゃ大変だと思って家に帰ってから私が・・・」
唯「憂は・・・憂は・・・、私のために・・・してくれたんだよね・・・?」
憂「うん・・・。・・・もしかして私、何か間違った事しちゃったかな!?」
唯「・・・・・・。・・・い、いやー助かったよー! さすがは憂だね~!」
唯「楽譜もどうしようかなーって思ってたけど、アレンジもバッチリだったよ!」
憂「ほんと!? はあ、良かったー」
唯「ありがとね憂! ・・・あ、ご飯の時間だ! ギー太片付けたらすぐ行くから!」
85 22/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:21:46.21 ID:iVRCG4MA0
憂「うん! 今日はカキフライだから冷めないうちにねー」 がちゃっ
唯「・・・・・・」
唯「・・・さてっと、はやくご飯ご飯ー」 テキパキ
唯「・・・っ! あ、あれ・・・?」 ぽたっ・・・
唯「ち、違う・・・! 憂は私のためを思って・・・!」 ぽたぽたっ
唯「今泣いたら・・・! 憂を責める事になるから・・・! だから・・・!」
唯「泣いちゃ駄目だって・・・! 分かって・・・! る・・・のに・・・!」
唯「なんで・・・!? な、涙が・・・! 止まらない・・・! よぉ・・・!」
唯「う、ううぅぅぅぅ・・・! うあ、ああぁぁぁぁぁっ・・・!」 がくっ・・・
唯「あずにゃぁぁぁん・・・! あずにゃぁぁぁん・・・!」
唯「私・・・! あずにゃんの事・・・! 忘れたく・・・! ない・・・! よぉ・・・!」
唯「うあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ・・・!」
(一階リビング)
声『(あずにゃぁぁぁん・・・! あずにゃぁぁぁん・・・!)』
憂「・・・・・・」
声『(うあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ・・・!)』
88 23/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:23:06.38 ID:iVRCG4MA0
(次の日 – 教室)
のどか「おはよー唯。聞いたわよ、昨日梓のお母さんに励ましてもらったって」
唯「あ、のどかちゃん・・・。うん、おはよー・・・」
のどか「? どうしたの。帰りは元気だったってムギから聞いてたけど・・・」
唯「えっと・・・。・・・あ、朝だからまだちょっと眠くて。あはは・・・」
のどか「安心して眠れたって事ね。それならそれでいいんだけどさ」
のどか「それと・・・今日は律も学校に来てるわね」
唯「あ、そうだ・・・。りっちゃんもう学校に来てるの?」
のどか「今は昨日学校をサボった事でさわ子先生に職員室へ呼び出されてるけど」
唯「さわちゃんもある程度の事情は知ってるから、大丈夫だと思うけど・・・」
のどか「律はこれからよね。正直私もどうなるか分からないし」
唯「(そうだ。今は私よりもりっちゃんの方がうんと辛いんだ・・・)」
唯「(・・・こんな事で挫けてちゃいけない! 私もりっちゃんを応援しないと!)」
ムギ「・・・あ。りっちゃんとさわ子先生が職員室から戻ってきたわ」
さわ子「はーいみんなー。ホームルームを始めるから席についてー」
律「・・・・・・」
89 24/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:23:48.50 ID:iVRCG4MA0
(ホームルーム後)
さわ子「伝達は以上です。じゃあこの集めたファイルを・・・」
さわ子「・・・澪ちゃん、職員室まで運ぶの手伝ってくれるかな?」
秋山澪「えっ。あ、はい」 ガタッ
唯「?」
(職員室)
秋山澪「ファイル、この机の上に置けばいいんですか?」 ドサッ
さわ子「うん。ありがとね澪ちゃん」
秋山澪「・・・さわ子先生、もしかして私に用があるんですか?」
さわ子「あはは、やっぱり分かっちゃうよね」
さわ子「すぐに終わる話だからちょっとだけ時間いいかな?」
秋山澪「律の事、ですよね・・・」
さわ子「うん・・・。さっきはりっちゃんとも話してたんだけど・・・」
さわ子「まあ、昨日学校をサボったのは大目に見る事にしたの」
さわ子「でね。梓ちゃんの葬儀でのことなんだけど、実は・・・」
さわ子「・・・梓ちゃんのお母さん、りっちゃんに民事訴訟を起こそうとしてるの」
94 25/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:25:53.70 ID:iVRCG4MA0
秋山澪「!? 民事訴訟!? ・・・裁判ですか!?」
さわ子「しっ・・・。大きな声で言っちゃダメ・・・」
さわ子「それにまだ裁判があるとは決まったわけじゃないから」
秋山澪「あの、民事訴訟ってどういう・・・?」
さわ子「・・・りっちゃんが梓ちゃんの遺体を燃やしちゃった事は、警察の方も
りっちゃんが未成年って事で刑事責任は問わない事になってたでしょ?」
秋山澪「はい・・・」
さわ子「だから梓ちゃんのお母さんは”民事”でりっちゃんを訴えて
警察の代わりに何かしらの罰則を与えようとしてるらしいの」
秋山澪「梓のお母さんはとにかく律を苦しめたいってわけかよ・・・」
さわ子「イヤな言い方をすればね・・・。でも実際にりっちゃんは訴えられれば
弱い立場に居ると思うし、賠償責任も認められる可能性が高いと思う」
秋山澪「くっ・・・」
さわ子「・・・でね、梓ちゃんのお母さんがそう言った”請求”を詳しく書いた
『訴状』と言うのを弁護士を通じて裁判所に提出することで
それが受理されれば民事訴訟が始まるわけなんだけど・・・」
秋山澪「もう律は梓の遺体を燃やした事にすごい責任を感じてる・・・!
反省だって今でもしきれないほどしてるって言うのに・・・!」
99 26/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:27:07.45 ID:iVRCG4MA0
さわ子「民事訴訟は請求が認められたとしても前科が付くわけじゃないの。
あくまで被告に賠償責任があるかを法的に判断するための物だから」
秋山澪「それでも、これ以上律を追い詰める必要はないですよ・・・!」
さわ子「私もそう思うわ。私も民事訴訟の事は聞き捨てで耳にしただけだから
梓ちゃんのお母さんがどんな請求をしようとしてるのかも知らないし・・・」
さわ子「・・・だから私は、梓ちゃんのお母さんが裁判所に訴状を提出する前に
なんとかしてりっちゃんの事を示談にしてもらえないかって考えてたの」
秋山澪「それしかないですよね・・・。・・・律にもうこの事は伝えたんですか?」
さわ子「いや・・・。りっちゃんはまだ精神的に追い詰められてるでしょ?
だからこう言う話は今聞かせるべきかどうか分からなくて・・・」
秋山澪「まあ、先に私に話してくれた事は正解だったと思います。
今の律にはこの話は重すぎて受け止められなかったと思いますし」
さわ子「そう・・・。私も先に澪ちゃんに相談してみて正解だったわ」
さわ子「・・・民事訴訟の件、りっちゃんにも言うべきかな?」
秋山澪「そうですね・・・。訴状が提出される前になんとかしないといけないんで、
タイミングを見ながら今日中にも伝えた方が良いかもしれませんね・・・」
さわ子「お願いできる?」
秋山澪「・・・はい。とにかく頑張ってみます」
104 27/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:28:52.23 ID:iVRCG4MA0
(数分後 – 教室)
のどか「あ、遅かったわね澪。もうすぐ一時間目が始まるわよ」
秋山澪「悪い悪い。途中でファイルを落としたりして大変だったんだ」
唯「あはは。澪ちゃんらしいやー」
ムギ「・・・・・・」
(放課後 – 下校中)
唯「・・・へー。それで昨日は澪ちゃんりっちゃんちに泊まったんだ」
律「うん。まあ・・・」
唯「・・・・・・」
律「・・・・・・」
秋山澪「(くっ! 結局放課後になっても民事訴訟の事は話せなかった・・・!)」
秋山澪「(律もまだ落ち込んでるだし、言える状態じゃないよな・・・)」
唯「・・・じゃ、じゃありっちゃん! 今日は私の家に泊まってよ!」
律「え?」
唯「ダメ、かな? 私もりっちゃんと一緒に居たいって言うか・・・」
律「まあ、私もまだちょっと一人になるのは怖いから泊まろっかな・・・」
106 28/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:29:56.00 ID:iVRCG4MA0
唯「ほんと!? ・・・澪ちゃんとムギちゃんもどうかな!?」
秋山澪「私はちょっとやる事があるからパス。悪いな」
ムギ「私も今日はちょっと都合が悪いかも」
律「ま、唯んちには憂も居るから大丈夫だろ」
唯「え・・・。あ、あはは・・・。・・・そうだよね! 三人も居れば楽しいよね!」
律「?」
唯「(昨日はあの後、憂は何も無かった顔してたけど・・・)」
唯「(憂にも絶対、二階からの私の泣き声が聞こえてたはずなんだよね・・・)」
唯「(それが気まずいから今日はりっちゃんを家に誘ってみたんだけど・・・)」
唯「・・・よ、よ~し! りっちゃんが泊まりに来る事を憂にメールするか~!」 ピッ
秋山澪「・・・じゃあ私はここで。みんなまた明日な」
唯「あ、ばいばーい澪ちゃん!」
律「・・・じゃあな澪」
ムギ「またね、澪ちゃん」
秋山澪「・・・まだ夕方の四時頃か。よし、私だけでも行くか梓んち…」 たたたっ
107 29/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:31:08.99 ID:iVRCG4MA0
(数十分後 – 梓の家の前)
秋山澪「・・・確か、あの玄関に忌中札が貼ってある家が梓の家だったよな」
ムギ「ええ。おそらく中に梓ちゃんのお母さんも居ると思うわ」
秋山澪「よし、梓のお母さんと話して民事訴訟の件を示談に―――」
秋山澪「・・・ってムギ!? いつの間に!?」
ムギ「澪ちゃん、民事訴訟の件って何?」
秋山澪「はあ・・・。最初から気付いてたんだろムギ・・・」
ムギ「まあ、澪ちゃんあのホームルームの後から様子変だったし・・・」
ムギ「職員室にファイルを持って行った時に何かあったのかなあって」
秋山澪「仕方ないな。ムギになら言ってもいいだろ・・・」
ムギ「・・・それで訴状が提出されるまでに何とかしないといけないってわけね」
秋山澪「昨日も梓のお母さんあの様子だっただろ? おそらく本当の事だと思う」
ムギ「そう言えば昨日の梓ちゃんちでの事、りっちゃんには言ったの?」
秋山澪「言えるわけないだろ・・・。民事訴訟の事も言えなかったんだし」
ムギ「そっか。・・・とにかく、私達だけでも梓ちゃんのお母さんを説得しないとね」
110 30/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:32:10.10 ID:iVRCG4MA0
ピンポーン♪
梓の母「はーい。今行きまーす」 がちゃっ
ムギ「あ・・・。えっと、こんな時間に突然お邪魔してすみません・・・」
梓の母「アナタは・・・。・・・っ!」
秋山澪「あっ。えっと、その・・・」
梓の母「アンタまで一体何の用―――!」
秋山澪「き、昨日はすみませんでした! つい感情的になってしまって!」
秋山澪「梓ちゃんのお母さんの気持ちも考えず・・・。今日はそれを謝りに・・・」
梓の母「・・・ま、まあ、昨日は私もカッとなり過ぎてた節もあったわ・・・」
梓の母「アナタは関係無いのにね・・・。こちらこそごめんなさい」
秋山澪「あ、いえ・・・」
梓の母「私どうも沸点が高くなると周りが見えなくなるみたいで・・・」
梓の母「悪いのは全部、あの田井中律だた一人だけなのにね・・・」
秋山澪「・・・・・・」 ぐっ・・・
ムギ「(澪ちゃん。が、ガマンしてね・・・)」
113 31/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:33:46.24 ID:iVRCG4MA0
(梓の家 – リビング)
梓の母「そう、部活での梓はそんな感じだったの・・・」
ムギ「ほんとしっかり者で、いつも私達が梓ちゃんに引っ張られてて・・・」
秋山澪「・・・・・・」
秋山澪「あ、あの! 梓ちゃんのお母さん!」
梓の母「? どうしたの澪ちゃん? 紅茶のおかわり?」
秋山澪「その、律に民事訴訟を起こすって聞いたんですけど・・・本当ですか?」
ムギ「・・・・・・」
梓の母「・・・本当よ。私は田井中律がやったことを絶対に許さない」
梓の母「だからアイツも梓と同じように・・・生きたまま燃やしてもらうの・・・!」
秋山澪「っ・・・!?」
梓の母「そのためなら裁判を起こしてでも! 絶対にアイツを燃やして殺すッ・・・!」
秋山澪「くっ・・・!」 がたっ・・・
・・・がしっ!
ムギ「(ダメ! 抑えて澪ちゃん!)」
秋山澪「(でも・・・! 律を燃やして殺すとか頭おかしいだろコイツ・・・!)」
121 32/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:35:39.45 ID:iVRCG4MA0
梓の母「もう知り合いの弁護士にだって相談してるわ・・・!」
梓の母「後は訴状を書いて裁判所に提出すれば、アイツを燃やせる・・・!」
ムギ「・・・ですが、そんな無理な請求を裁判所は受理するんでしょうか?」
梓の母「させるわよ・・・! もしダメだったとしても、それなら私が直接・・・!」
秋山澪「っ・・・!? い、いい加減に―――! ・・・うっ!?」 ぎゅっ
秋山澪「(ムギに手の甲を強く押されただけで動けなくなった!?)」
ムギ「・・・それは立派な犯罪ですよ。梓ちゃんのお母さん」
梓の母「分かってる・・・! それでも私が梓の報いをアイツに―――!」
ムギ「・・・それに例え裁判所がりっちゃんを燃やす旨の訴状を受理したとしても、
もし裁判になればそんな無理のある請求は確実に減額されると思いますよ。
仮に梓ちゃんのお母さんが裁判で勝訴された場合だとしても」
梓の母「だから・・・! その場合でも私が直接アイツを燃やして―――!」
ムギ「・・・訴訟や裁判を起こすのは梓ちゃんのお母さんの勝手だと思いますが、
もし私の大切な”親友”を殺害しようという話になるのであれば・・・私も
”琴吹グループ”の力を使って全力で阻止させて頂きますけれども」
梓の母「っ・・・!? 琴吹・・・グループ・・・!?」 がたっ
ムギ「梓ちゃんのお母さんも音楽をなさっていたと思うので、琴吹グループが
どの程度の規模の組織なのかは重々承知のはずですよね?」
128 33/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:37:47.78 ID:iVRCG4MA0
の母「その眉毛・・・! どこかで見覚えがあると思ったら・・・!」
ムギ「もし梓ちゃんのお母さんが最終的にりっちゃんを殺害するために
訴訟を起こそうとしているのであれば、考えを改めて頂きたいのですが」
梓の母「(くっ! これだと訴訟そのものがもみ消される可能性もある・・・!)」
ムギ「・・・そういう事もできますよ」
梓の母「(っ・・・!? 心の中を読まれた!?)」
秋山澪「・・・梓ちゃんのお母さんが梓ちゃんを亡くされた気持ちは
私達にもよく分かります。何故なら梓は私達にとっても、
もちろん律にとっても、大切な後輩だったんですから・・・」
秋山澪「私達四人も、梓が交通事故に遭った哀しみを抱えているんです・・・」
秋山澪「だから・・・! 私達は梓ちゃんのお母さんの”敵”ではないんです!」
秋山澪「お願いします! 律への民事訴訟、取り止めにしてください!」
ムギ「お願いします! 私も梓ちゃんのお母さんと啀み合いたくなんてないです!」
梓の母「くっ・・・!」
梓の母「な、何よ・・・! さっきから”論点”の違う話ばかりして・・・!」
梓の母「・・・そうよ! 元の騒ぎを起こした田井中律本人はどうしたのよ!?」
梓の母「アイツが真っ先に私に謝るべきでしょ!? 未だに謝ってないじゃない!」
133 34/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:39:39.89 ID:iVRCG4MA0
秋山澪「そんなの! 燃やして殺すなんて言ってる人間に会わせられるわけ―――!」
秋山澪「・・・ぐっ!?」 ぎゅっ
秋山澪「(!? 今度は声が出なくなった!?)」
ムギ「・・・では、りっちゃんが梓ちゃんのお母さんに謝りに来れば
民事訴訟の件は示談にしてもらえるのでしょうか?」
梓の母「それは・・・! 会って見ないと分からないわよ・・・」
ムギ「りっちゃんも梓ちゃんの葬儀についてはすごく反省しています。
むしろ反省しすぎて、今にも心が壊れてしまいそうなくらいに・・・」
ムギ「ですから・・・明日にでもりっちゃんと会ってもらえないでしょうか?」
梓の母「・・・・・・」
梓の母「分かったわ。その対応を見て民事訴訟は全て判断するわ」
秋山澪「・・・声が! ほ、本当ですか!?」
梓の母「示談にするとは言ってないから。・・・明日で全てを決めるだけ」
秋山澪「あ、ありがとうございます! 良かった・・・!」
ムギ「では明日この時間に、今度はりっちゃんを連れてお伺いさせて頂きます。
突然お邪魔した上、色々とご迷惑をお掛けして本当にすみませんでした」
梓の母「いえ・・・。こちらこそ今日は二人ともいらしてくれてありがとうね・・・」
141 35/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:41:57.98 ID:iVRCG4MA0
(十数分後 – 帰り道)
ムギ「手応えあり、かな」
秋山澪「ああ。梓のお母さんもかなり折れてくれたみたいだった」
ムギ「こっちもかなり強引だったけどね・・・」
秋山澪「それでも、今日はムギが居てくれてって本当に助かったよ」
秋山澪「私一人じゃあそこまで梓のお母さんを説得できなかっただろうし・・・」
ムギ「ありがと。私もりっちゃんのために必死だったから」
秋山澪「・・・律には明日学校で伝えた方が良いかな?」
ムギ「いや・・・。今から唯ちゃんの家に行ってりっちゃんに伝えましょう」
ムギ「こう言う事は早めに知らせて、気持ちを整える時間を作ってあげないと」
秋山澪「そっか。・・・やっぱりムギは頼りになるな」
ムギ「ううん。私も早くいつものみんなに戻って欲しいから・・・」
ムギ「梓ちゃんを失った哀しみはもう完全には埋まらないかもしれないけど・・・」
ムギ「それでも私は、それで残された四人の関係まで失いたくはないから・・・」
秋山澪「同感だ。私もこんな事で放課後ティータイムを終わりになんてしたくない」
秋山澪「・・・行こう。私達にならこの哀しみは乗り越えられるはず」
146 36/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:43:39.09 ID:iVRCG4MA0
(数十分後 – 唯の家)
唯「・・・あ、来た来た澪ちゃんムギちゃん」 がちゃっ
秋山澪「やあ。一応さっきもメールは送ったけど大丈夫だった?」
憂「私は大丈夫だけど、晩ご飯の追加は今からだと難しいかも・・・」
ムギ「大丈夫~。そう思って私達二人分は持参してきたから~」 がさっ
唯「じゅ、重箱・・・」 ごくり・・・
ムギ「欲しいおかずがあったらみんなで分けよっか」
唯「わ~い! でも憂の手料理も捨てがたいんだよな~」
憂「良かったー。あ、立ち話も悪いんでどうぞ上がってください」
秋山澪「それじゃお言葉に甘えて。・・・お邪魔します」
ムギ「お邪魔しますー」
(リビング)
律「ん。やっぱり澪達も来たのか」
秋山澪「ああ。まあな」
秋山澪「(・・・意外と呑気だな律のやつ。寝転がってテレビ見てるし)」
唯「よーし! じゃあさっそくみんなで晩ご飯にしよう!」
149 37/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:44:38.77 ID:iVRCG4MA0
(数十分後)
唯「・・・ごちそうさまー!」
秋山澪「ムギの重箱、ステーキとか伊勢エビとか入ってて凄かったな・・・」
ムギ「でも分けてもらった憂ちゃんの手料理方が美味しかったわ」
憂「そうですか? あはは、お粗末様です」
律「・・・ずずーっ」 ←お茶飲んでる
秋山澪「(律もだいぶ表情明るくなってきたけど、やっぱりまだ暗いな・・・)」
唯「・・・あ、そうだ。澪ちゃん達も今日私んち泊まっていくの?」
ムギ「えっと・・・」
ムギ「(どうしよう澪ちゃん、そろそろ切り出さないといけないんだけど・・・)」
ムギ「(ほんと、落ち込んでるりっちゃんの前だと言い出しにくくなるね・・・)」
秋山澪「(晩ご飯だけ食べてそのまま帰るわけにはいかないからな・・・)」
唯「?」
秋山澪「えっと・・・。そ、そうだな。とりあえず今日は唯んちに―――」
律「・・・私に何か用があるんだろ。澪」 ことっ
秋山澪「っ・・・!?」
151 38/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:45:55.24 ID:iVRCG4MA0
律「はは。表情に出過ぎなんだよ澪は・・・」
律「言えた義理じゃないけど、澪を見てたらこっちまで心配になってきたよ」
律「多分梓の事・・・だろ?」
秋山澪「り、律・・・! そうなんだ! 実は梓のお母さんが律を訴えようとしてて!」
唯「えっ!? う、訴える!?」
ムギ「そうなの! 訴状はまだ裁判所には提出されてないけれど、このままだと
梓ちゃんのお母さんがりっちゃんに厳しい請求を突きつける事になるわ!」
ムギ「だから私達、さっきまで梓ちゃんちでお母さんを説得してたんだけど、
梓ちゃんのお母さん、りっちゃんが謝りに来るなら考えるって仰って!」
ムギ「こんな話急にされても戸惑うだけかもしれないけど、りっちゃん・・・!」
律「・・・・・・」
律「私も梓のご両親には早く謝らないといけないとは思ってたけど、
まさか・・・知らない間にそんな大事になってたなんてな・・・」
秋山澪「くっ・・・」
律「と言うより、私は澪やムギ達にそんな事までさせてたのか・・・」
ムギ「わ、私は別にりっちゃんのせいで苦になったなんて思ってないよ!」
律「うん。ありがとうなムギ・・・」
157 39/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:48:23.39 ID:iVRCG4MA0
秋山澪「(やっぱり、今の律には荷が重すぎたか・・・?)」
律「・・・・・・」
律「すううううぅぅぅぅぅぅぅ・・・」
唯「?」
律「・・・ふううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
憂「深呼吸?」
律「・・・分かった! 私、梓のお母さんにちゃんと謝るよ!」
秋山澪「り、律! 本当か!?」
律「ああ! もうウジウジしてられねーよ!」
律「これ以上私のせいでみんなに迷惑かけられないし!」
律「・・・うっし! 充電終わり! みんな今まで悪かったな!」
ムギ「りっちゃん・・・!」
律「澪! 私明日学校が終わったら梓んちに行くから!」
秋山澪「ああ。一応そのセッティングで梓のお母さんとは話してあるぞ」
唯「よし! じゃあ明日はみんなであずにゃんちに謝りに行こう!」
166 40/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:51:44.31 ID:iVRCG4MA0
(数十分後 – キッチン)
秋山澪「律のこと、本当に良かったよ」 じゃぶじゃぶ
ムギ「うん。これで”一つ目の関門”は突破できたね」 ふきふき
秋山澪「そっか。まだ肝心な梓のお母さんの許しを得てないんだよな・・・」
ムギ「それでも、今の私達ならどんな困難だって乗り越えられるわ」
秋山澪「ああ。実際、律もまだ少し無理してるって事は私も分かってる」
秋山澪「だから私達も、その律の”努力”が報われるように頑張らないと・・・」
律『うおっー! ・・・ってやっぱ憂つえー!』 YOU LOSE!
憂『あはは。また勝っちゃった』
唯『りっちゃんー。早くゲーム替わってよー』
ムギ「・・・うん。その通りだね」
秋山澪「・・・はは。もしかして律のやつ、ムギの持ってきた重箱の
豪華な料理を食べたから元気になったのかな? なんて」
ムギ「あはは。そうね。入ってたお薬が効いてるのもだいぶあるのかも」
秋山澪「ん? お薬・・・?」
173 41/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:53:25.10 ID:iVRCG4MA0
ムギ「うん。重箱は斉藤に頼んで作らせてもらったんだけど、伊達巻きには
甘みのあるデパスやドグマチールを使ってるし、パキシルやデプロメール、
ジェイゾロフトみたいな苦みが少し強いお薬はステーキのソースとか
味の濃い物に混ぜてあったからそんなに分からなかったと思うけど」
秋山澪「は・・・?」
ムギ「他にもサインバルタ、レキソタン、セディール、トレドミンみたいな
安全性の高いお薬が重箱のおかずに色々と混ぜられてたけど、むしろ
これくらいお薬は併用してた方が効果がうんと出やすくなるからね」
秋山澪「何を・・・言ってんだムギ・・・?」
ムギ「あっ。”普段は”こんな事絶対に言わないのに、私ったら・・・。
私にもお薬の効果が出ちゃってるのかな? あはは、まあいっか」
秋山澪「えっ? 普段はって、まさか・・・」
ムギ「ごめん澪ちゃん! 今の会話は二人だけの秘密にしといて!
ほら、こう言う事ってあんまり人に知られるとマズいでしょ?」
秋山澪「あ、ああ・・・。そう・・・だな・・・。分かったよ・・・」
秋山澪「(まあ、どっちにしても今は問題を増やさない方が良いか・・・)」
秋山澪「(私が黙ってれば問題にならないのは事実なんだし・・・)」
秋山澪「(その方が、いいんだよな・・・?)」
秋山澪「(・・・・・・。まあ、いっか・・・)」
183 42/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:56:04.80 ID:iVRCG4MA0
(次の日の朝 – リビング)
秋山澪「んっ。朝か・・・」 むくっ
秋山澪「・・・そうだ、昨日はリビングに布団を敷いて全員ここで寝たんだっけ」
トントントン・・・
秋山澪「? キッチンから音が・・・」
(キッチン)
憂「・・・あ、澪先輩起きたんですか?」
秋山澪「憂は一番に起きて朝ご飯作ってたのか。偉いな」
秋山澪「・・・私も何か手伝う事ある?」
憂「えっと、じゃあテーブル拭くのお願いできます? あとみんなを起こすのも」
秋山澪「了解。布巾はここにあるの使えばいいんだよな」 ひょい
(リビング)
ムギ「・・・あ、澪ちゃん。起きてたんだ・・・」
秋山澪「ん、ムギも起きたのか」
ムギ「うん・・・」
ムギ「・・・・・・。澪ちゃん、ちょっと話・・・いい?」
秋山澪「・・・ああ。分かった」
185 43/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:58:00.74 ID:iVRCG4MA0
(廊下)
ムギ「昨日、私がキッチンで言ってた事だけど・・・」
秋山澪「・・・重箱のおかずに”お薬”を入れてたって話だっけ」
ムギ「っ・・・! ・・・澪ちゃん! 私の顔を殴って!」 がしっ
秋山澪「む、ムギ・・・!?」
ムギ「私・・・! 昨日はお薬が効いてて全然正しい判断ができなくて・・・!」
ムギ「・・・違う! それ以前に私、みんなに隠して重箱にお薬を・・・!」
ムギ「・・・違う! その前から私・・・! ずっと・・・! みんなに隠して・・・!」
ムギ「あれだけみんなの為とか言いながら・・・! 本当は自分だけの為に・・・!」
秋山澪「ま、待っててムギ! ムギが何を言ってるのか全然分からないぞ!?」
ムギ「澪ちゃん・・・! 私・・・! 今までずっと・・・!」
ムギ「私が部室に持ってきてたお菓子や紅茶の中に・・・!」
秋山澪「っ・・・!」
ムギ「”気持ちが安らぐお薬”を・・・! 黙って混ぜてたの・・・!」 がくっ
ムギ「ごめんなさい・・・! ごめんなさい・・・! ごめん、なさい・・・!」
秋山澪「やっぱり、昨日の”普段は”ってそう言う・・・」
188 44/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:58:55.60 ID:iVRCG4MA0
ムギ「私・・・! もうみんなの友達で居られない・・・! ううぅぅぅ・・・!」
秋山澪「む、ムギ・・・。とにかく一旦落ち着いて・・・」
ムギ「じゃあ澪ちゃん・・・! 私がした事、怒って・・・ない!?」
秋山澪「っ・・・! そ、それは・・・」
ムギ「正直に全部言うね・・・。私、澪ちゃん達と友達になりたくて必死で・・・」
ムギ「それで部室にお菓子や紅茶を持って来たらみんなとすごく仲良くなれて・・・」
ムギ「・・・でも! そんな物で釣るような関係、長く続かない事は分かってて・・・!」
秋山澪「ち、違う・・・。私達の関係はそんなんじゃ―――」
ムギ「だから・・・! やっちゃダメって事は分かってたけど・・・!」
ムギ「お菓子や紅茶に”気持ちが安らぐお薬”を入れてみんなに服用させれば・・・!」
ムギ「無意識の内にみんながそのお薬入りのお菓子や紅茶に”依存”するから・・・!」
秋山澪「っ・・・!?」
ムギ「それでみんなとの関係が・・・! 切れなくなるって思って・・・!」
ムギ「私・・・! 一年の頃からずっと・・・! 黙ってお菓子や紅茶にお薬を・・・!」
ムギ「う、ううぅぅぅ・・・! ごめんなさい・・・! ごめんなさい・・・!」
190 45/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 14:59:37.75 ID:iVRCG4MA0
秋山澪「もしかして、私達が部室でお茶するのをやめられない理由も・・・」
ムギ「間違いなく・・・! みんなが知らない内にお薬に依存してたから・・・!」
秋山澪「っ・・・!」
ムギ「・・・それに! 唯ちゃんやりっちゃんが”必要以上に”落ち込んでたのも・・・!」
ムギ「おそらくお薬で・・・辛い事や悲しい事への”耐性”が無くなってたから・・・!」
秋山澪「っ・・・!? ま、まさか・・・!?」
ムギ「だから・・・! 唯ちゃんがずっと悲しんでたのも・・・!」
ムギ「りっちゃんがずっと苦しんでたのも・・・! 全部・・・!」
ムギ「全て・・・! 私に・・・! 原因が・・・! あるの・・・!」
秋山澪「っ・・・! くっ・・・!」
秋山澪「くっそおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・!」 がくっ
ムギ「ごめんなさい・・・! ごめんなさい・・・! ごめんなさい・・・!」
秋山澪「(くそっ! チクショウ! 違う!)」
秋山澪「(私もムギを責めたくない! 分かってる・・・!)」
秋山澪「(でも・・・! 怒りのやり場が・・・! 何処にもなくて・・・!)」
200 46/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:01:35.00 ID:iVRCG4MA0
かちゃっ・・・
秋山澪「(っ・・・!? 向こうのドアから誰かが!?)」
憂「・・・ムギ先輩。それ、本当の話ですか?」 きぃ・・・
ムギ「う、憂ちゃん・・・。・・・っ!?」
秋山澪「憂!? なんで右手に”包丁”を持ったまま!?」
ムギ「・・・・・・。うん・・・。全部本当の事、だよ・・・」
秋山澪「ムギ!?」
憂「そっか・・・。・・・梓ちゃんが死んで、お姉ちゃんが必要以上に悲しんでた事も、」
憂「それでお姉ちゃんが悲しまないように、私が梓ちゃんの物全部捨てた事も、」
憂「そのせいで私とお姉ちゃんの関係が壊れちゃった事も、全部・・・」
憂「ムギ先輩が、原因だったんですね・・・」
秋山澪「っ・・・!? 唯のやつ、そんな事になってたのか!?」
ムギ「・・・うん。ごめんね、憂ちゃん・・・」
秋山澪「ムギ!? 今の憂は何をするか分からな―――!」
憂「・・・!」 だっ!
207 47/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:03:18.09 ID:iVRCG4MA0
秋山澪「憂が包丁を構えて走ってきた!? ・・・避けろムギ! 刺されるぞ!」
ムギ「・・・・・・」
秋山澪「(なっ!? ムギのやつ、避けないつもりか・・・!?)」
秋山澪「くそっ・・・! どうする!?」
秋山澪「(・・・違う! 避けろとかどうするとか言ってる場合じゃない!)」
秋山澪「(私が憂を止めないと・・・! そうしないとムギが・・・!)」
秋山澪「(ムギが・・・! ・・・っ!? あれ・・・!?)」
秋山澪「(なんで私の体・・・動かないんだ!?)」
秋山澪「(くっ・・・! 私も憂に刺される事を怖がってるのか!?)」
秋山澪「(それでも早くしないとムギが・・・! ムギが憂に刺されて・・・!)」
秋山澪「(死―――。っ・・・!? ま、まさか・・・! 私・・・!)」
秋山澪「(そんなわけない! “そんなこと”! 思うわけがない・・・!)」
秋山澪「(だから・・・! 動けよ・・・! そうじゃないと本当に私・・・!)」
秋山澪「や・・・、やめ―――!」
グサッ・・・
211 48/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:04:02.53 ID:iVRCG4MA0
ムギ「かっ・・・はっ・・・」 ごぽっ
秋山澪「あ・・・! ああぁぁぁ・・・!」
秋山澪「ムギいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃッ!?」
憂「・・・・・・」 ずぽっ・・・
ムギ「くっ・・・」 どさっ・・・
秋山澪「ムギ! ・・・腹部からの出血が止まらない!?」 どくどく・・・
秋山澪「(くそっ・・・! なんで! 私・・・!)」
ムギ「あ、はは・・・。私、少し期待・・・しちゃっ、た・・・」
秋山澪「っ・・・!?」
ムギ「もしかしたら・・・澪ちゃん、が・・・私を、助けてくれる・・・かも、って・・・」
秋山澪「っ・・・! ち、違う・・・。違う・・・!」
ムギ「でも、やっぱり怒って・・・るよね・・・。私を、恨んで・・・る、よね・・・」
秋山澪「違うッ! 違うんだムギ・・・!」
ムギ「ごめん、ね・・・澪、ちゃ・・・。こ・・・な事、で、許・・・ない、思・・・ど・・・」
ムギ「・・・た、し・・・。みん、と、居・・・れて・・・、楽・・・。・・・・・・」
213 49/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:04:40.26 ID:iVRCG4MA0
秋山澪「ムギ・・・? おい。嘘、だろ・・・?」 ゆさゆさ
ムギ「・・・・・・」
秋山澪「くっ・・・」
秋山澪「そおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!」
がちゃっ!
律「な、なんだ今の声!? ・・・うっ!?」
唯「えっ!? なんで澪ちゃん達、血塗れで・・・?」
憂「・・・あ、お姉ちゃん。もうすぐで朝ご飯の用意ができるから待っててね」 にこっ
律「いや、憂・・・。その血の付いた包丁は、まさか・・・」
がちゃっ
のどか「唯ー。今日は澪達と一緒に泊まったって聞いたけど―――えっ!?」
のどか「な、何やってんのよアンタ達!?」
唯「私達にも何がなんだか・・・」
秋山澪「私が・・・! ムギに”死ね”って・・・! 思ったせいで・・・!」
のどか「とにかく救急車を呼ばないと・・・!」 ピッ
217 50/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:05:29.76 ID:iVRCG4MA0
(午後2時頃 – 病院の外)
唯「うん、うん、分かった・・・」 ピッ
唯「・・・さわちゃんが今こっちに向かってるって、のどかちゃんから」
律「そっか。・・・憂の事は何か言ってたか?」
唯「警察署には私のお父さんとお母さんが行ってるらしいけど・・・」
唯「詳しい連絡はまだ何も入ってきてない・・・」
律「くっ・・・! 澪も病室で眠ったままだし、何がどうなってんだ・・・!」
唯「・・・やっぱり憂の言った事、本当の話なのかな・・・?」
律「ムギがずっと、私達の食べてたお菓子に”お薬”を混ぜてたって話か?」
唯「うん。しかもそのせいで私達が必要以上に落ち込んでたって言うのも・・・」
律「だとしたら私・・・ムギのことは絶対に許せないかもしれない」
唯「で、でも・・・」
律「・・・だってありえないだろ!? 例え本当に安全なお薬だったとしてもさ!」
律「ムギは今までずっと私達のことを信用してなかったって事だぞ!?」
律「私達はずっとムギの事を信用して持ってきたお菓子を食べてたのに・・・!」
律「何も知らないで私達・・・! バカみたいじゃねえか・・・!」
220 51/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:07:17.39 ID:iVRCG4MA0
唯「そ、それはそうだけど・・・」
律「分かってる・・・! 私もできれば本当は親友のムギを責めたくはない・・・!」
律「でも親友だからってなんでもかんでも許せるわけじゃない・・・!」
律「ムギのやった事は・・・”一線”を越えてるんだよ・・・! 」
律「もう私、ムギの事を考えるだけで吐き気しかしない・・・!」
律「くそっ! 悔しい・・・! 澪もこんな気持ちだったのかな・・・!」
唯「りっちゃん・・・」
ガーッ
看護師「・・・あ、こちらに居られましたか」
律「ぐずっ・・・。・・・はい、何かようですか?」
看護師「琴吹紬さんの手術が、さきほど終了しました」
唯「ほ、本当ですか!? ・・・ムギちゃんは!?」
看護師「刺された場所は運良く内臓等の器官をくぐり抜けていたため、
致命傷は免れました。無事成功です。今はまだ麻酔で眠っていますが」
唯「よ、良かった・・・。はあ・・・」
律「そう、ですか・・・」
229 52/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:09:34.49 ID:iVRCG4MA0
(数分後 – ムギの病室)
ムギ「・・・・・・」 すぅ、すぅ・・・
唯「ムギちゃん・・・。私も色々と言いたいことがあるけれど、
それでも私はムギちゃんが助かって本当に良かったと思うよ・・・」
ガラッ・・・
律「・・・唯。澪が起きた」
唯「ほんと? じゃあ私も澪ちゃんの病室に・・・」 すっ
(澪の病室)
律「・・・澪。唯が来たぞ」
秋山澪「悪いな唯。私がムギの病室に行けばいいんだけど・・・」
秋山澪「その、ムギの顔を見るのが怖いって言うか・・・」
唯「それはあの時言ってた事の・・・?」
秋山澪「・・・ああ。私がムギに”死ね”って思ってたって事・・・」
秋山澪「それでムギが憂に刺されたわけだから・・・」
律「・・・澪がムギに対してそこまで思う気持ちも分かるけどさ」
律「それでムギが刺された事に澪が責任を感じる必要は―――」
秋山澪「・・・でも! あの時私はムギを助けようとしなかったんだ・・・!」
233 53/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:10:53.02 ID:iVRCG4MA0
秋山澪「憂を止める事も、ムギを引っ張ってやる事も出来たはずなのに・・・!」
秋山澪「それなのに私は・・・! ムギが刺されるのをただ見てるだけで・・・!」
秋山澪「もう私がムギを刺したのと同じ事だろ・・・! くっ・・・!」
唯「(同じだ・・・。あの時の私と・・・)」
唯「(あずにゃんが事故に遭ったのは自分のせいだと思ってた時の私と・・・)」
律「・・・確か、その直前に澪はムギから”お薬”の話を聞かされてたんだよな」
律「だったら澪も少しはムギに対して”負の感情”を抱いてたかもしれない」
律「・・・でもさ、それって偶然だったんじゃねーのか?」
秋山澪「偶然・・・?」
律「普通に考えて、刃物を持った人が突然こっちに向かって来てるって状況で、」
律「それで咄嗟に機転の利いた行動が出来る人って・・・本当に居るのか?」
唯「あっ。そっか・・・」
律「そりゃあ居るかも知れないけどさ、動けない人の方が私は普通だと思う」
律「それがたまたま澪がムギに対して”負の感情”を抱いてた時だったから、」
律「そう思い込んだと勘違いしてた・・・って私は思うんだけど」
235 54/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:12:23.34 ID:iVRCG4MA0
秋山澪「それは・・・! ・・・あるかもしれないけど」
唯「澪ちゃんは何も悪い事してないんだよ!」
律「そうそう。悪いのはどう考えたってムギの方だし」
唯「えっと・・・」
律「・・・もしかして澪、ムギを責めたくないから自分を責めてるんじゃないのか?」
秋山澪「っ・・・」
律「ムギは親友だから、できれば許してやりたいと思ってるけど」
律「でもどうしてもムギを許してやれないからそれで自分に当たってる・・・とか」
秋山澪「そ、それは・・・!」
律「ムギの顔を見るのが怖いってのも、”申し訳ない”からじゃなくて、」
律「澪が抑えてるムギへの”憤り”が湧くかもしれないから・・・怖いんじゃないのか」
唯「り、りっちゃん・・・」
秋山澪「・・・・・・。よく、分からない・・・」
秋山澪「・・・いや、本当は私も分かってるのかもしれない」
秋山澪「そう・・・。多分、律の言う通りなんだと思う・・・」
238 55/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:13:45.88 ID:iVRCG4MA0
唯「でもそれって・・・」
秋山澪「ああ・・・。私もムギが許せないんだと思う」
秋山澪「だからそんな自分が嫌で、全部自分の責任にしようとしてた・・・」
律「でもさ、それだと澪自身に”原因”が無いんだから
いつまで経っても澪は落ち込んでなきゃいけなくなるだろ」
律「それこそ・・・ムギが死ぬまで落ち込むしかないんだからさ」
秋山澪「自分のせいにする事で、結局全部ムギに押しつけてたんだな・・・私」
唯「じゃあ、ムギちゃんはどうするの・・・?」
律「言っただろ。私は当分ムギを許さないって」
秋山澪「私もムギのために・・・ムギのやった事は許さない事にするよ」
唯「つまり二人とも、ムギちゃんと距離を置くって事・・・?」
律「そうなるな・・・。残念だけど」
唯「で、でも私はムギちゃんを・・・!」
秋山澪「・・・分かってる。唯にまで私達の考えを押しつけようとは思ってない」
秋山澪「唯は唯自身が正しいと思った判断をすれば良いから」
唯「・・・・・・。うん・・・。ずぴっ・・・」
245 56/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:16:01.06 ID:iVRCG4MA0
(午後4時頃 – さわ子の車の中)
さわ子「・・・そう。唯ちゃんちではそんな感じだったのね」
唯「さわちゃん、憂については何か聞いてる?」
さわ子「憂ちゃんね。少しは聞いてるけど・・・」
唯「憂、やっぱり鑑別所とか少年院とかに行くの・・・?」
さわ子「・・・というか、事件そのものが無かった事になるかも」
律「? どういう事ださわちゃん?」
さわ子「普通はね、憂ちゃんみたいな未成年だとまず警察や検察に送致されて
家庭裁判所に行くの。初犯で軽犯罪ならそこで許して貰えたりする事も
あるんだけど、再犯を繰り返してたり、そこそこ重い罪を犯してたりすると
裁判所から”観護措置”を言い渡されてさらに”鑑別所”って所に送られるの」
さわ子「鑑別所では1ヶ月ほど”鑑別”されて、それを踏まえて裁判所の審判で
保護観察処分にするか少年院に入院するかが決められるんだけど・・・」
さわ子「・・・それ以前に、警察や検察がこれ以上事件の処理が出来ないように
上の方で何処かから”強い圧力”が掛けられてるって話らしいの・・・」
唯「誰かが憂の事件を無かった事にしようとしてるって事?」
秋山澪「そんな事ができる人物・・・いや、”組織”って言ったら、まさか・・・」
さわ子「そう・・・。おそらく圧力を掛けているのは”琴吹グループ”でしょうね」
251 57/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:18:02.07 ID:iVRCG4MA0
律「琴吹グループって、ムギの・・・?」
唯「なんで琴吹グループがこの事件を無かった事にしようと?」
さわ子「憂ちゃんがムギちゃんを刺した理由・・・。それはムギちゃんが
唯ちゃん達に勝手に”お薬”を服用させてたからだったわよね」
さわ子「この時点で、ムギちゃん自身も何らかの処罰が科せられる可能性が高い」
さわ子「そもそもお薬の流通ルートから考えても、琴吹側の人間が何人かは
関わってないとそんな大量のお薬なんて集められるわけは無いわよね」
秋山澪「つまり、憂の事件は琴吹側への被害にも繋がる可能性が高いってわけか・・・」
さわ子「琴吹グループって、日本に幾つもの大企業を抱える超規模組織でしょ?」
さわ子「それくらいになると国との関わりも強くなるから、こう言った不祥事が
起こるとそれこそ日本経済全体のバランスにも支障を来しかねないの」
唯「だからその不祥事がバレないよう、圧力を掛けて事件をもみ消そうと・・・?」
律「・・・ほんとかよその話。さわちゃんのデタラメじゃねーのか?」
さわ子「確かに人伝の情報だけど、かなり有力な情報だと言って良いと思う」
秋山澪「まあ憂については今はまだ何とも言いようが無いな・・・」
唯「そうだね・・・。今はあずにゃんちに謝りに行く事をまず優先にしないと」
さわ子「・・・そろそろ梓ちゃんの家に着くわよ」
258 58/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:20:45.63 ID:iVRCG4MA0
(午後4時半頃 – 梓の家のリビング)
さわ子「・・・連日の訪問にご迷惑をお掛けしますことをまずお詫び申し上げます。
本日はりっちゃんも交えて梓ちゃんのお母さんとお話をしたいのですが」
梓の母「・・・・・・」
唯「(りっちゃん! ファイト!)」
律「あの・・・! 謝りに来るのが遅れてしまって、本当にすみませんでした!」
律「それと、梓の葬儀での事・・・! 私・・・! 本当にバカな事を・・・!」
ガタッ ←床に座り込む
律「本当に、本当に・・・! すみませんでした・・・! ごめんなさい・・・!」
秋山澪「私からもお願いします! 律を許してやってください・・・!」
唯「お願いします! 梓ちゃんのお母さん!」
さわ子「お願いします・・・!」
梓の母「・・・・・・」
梓の母「一人・・・足りないわね。あの琴吹グループの子・・・」
秋山澪「えっと・・・ムギはちょっと事情があって今日は―――」
梓の母「・・・知ってるわよ。今朝方刺されて病院送りになったんでしょ?」
264 59/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:22:38.18 ID:iVRCG4MA0
秋山澪「っ・・・!? どうしてそれを・・・!?」
梓の母「人伝でね。琴吹グループもその事件で相当動いてるそうね」
唯「さわちゃんと同じ事を・・・。って事はやっぱり・・・」
梓の母「つまり、今あなた達は琴吹グループの影響力を受けることができない」
さわ子「っ・・・! ま、まさか・・・!?」
梓の母「昨日は琴吹グループの名前に気圧されて諦めかけてたけど・・・」
梓の母「・・・訴状の方、ついさっき弁護士に頼んで裁判所に提出させてきたわ」
律「なっ・・・!?」 がたっ
梓の母「・・・・・・。く・・・か・・・ひゃっ・・・」
唯「!?」
梓の母「ふっ・・・! 笑うの堪えてたけど・・・! もう無理・・・!」
梓の母「今の田井中律の・・・! 驚いた姿を見たら・・・! ・・・ひっ」
梓の母「・・・ふひゃひゃぐひゃふへえへへあははあはァッ!」 どたんっ!
梓の母「ほひゃぎゃひゃぐはぶはふははぶひゃきゅはあははははーッ!」
梓の母「あっはァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
279 60/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:24:42.54 ID:iVRCG4MA0
さわ子「あ、あの・・・。落ち着いてください梓ちゃんのお母さ―――」
梓の母「触んじゃねえ!」 バチッ
さわ子「痛っ・・・!?」
梓の母「殺すころす頃すコロスこるこころころこるここすころここォ!」
梓の母「ぶっ殺してやるからなァ田井中律うううううううぅぅぅぅッ!」
梓の母「あああああああああああああああああああああああああああッ!」
秋山澪「くそっ・・・! なんで、こんな事に・・・!」 がくっ
律「・・・・・・」
唯「(っ・・・! りっちゃんの目が、また昨日のに戻ってる・・・!?)」
さわ子「とりあえずみんな、一旦家から出ましょう!」
唯「う、うん・・・! 澪ちゃん、りっちゃん! 立てる!?」
秋山澪「あ、ああ・・・! ・・・行くぞ律!」 ぐいっ
律「・・・・・・」 たたたっ・・・
梓の母「帰れええええええええええええええ!」
梓の母「二度と来るんじゃねえぞおおおおおあああああああッッ!」バタンッ!
289 61/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:26:15.95 ID:iVRCG4MA0
(数分後 – さわ子の車の中)
さわ子「はあ、はあ・・・。みんな居る・・・?」
唯「うん・・・。はあ、はあ・・・」
さわ子「まさかムギちゃんが刺された事がこっちにまで影響するなんて・・・」
唯「りっちゃんはもう、訴えられちゃったの・・・?」
さわ子「そういう事になるわね・・・。実際の訴訟行為はりっちゃんは未成年だから
ご両親らが法定代理人として行う事になるのだろうけれど・・・」
律「お父さんやお母さんに・・・なんて説明したらいいんだろう・・・」
秋山澪「だ、大丈夫だ律! 私も一緒に説明してやるから・・・!」
さわ子「私も出来る限り、りっちゃんに協力したいと思うわ」
唯「私も! 何もできないだろうけど・・・それでもりっちゃんを応援したい!」
律「ははっ。ムギとは距離を置くって言った瞬間・・・これかよ」
律「私、自分が知らないだけでずっとムギに頼ってたんだな・・・」
律「私・・・ほんとバカだ・・・! バチが当たったんだ・・・!」
秋山澪「律・・・」
律「もうどうすりゃあいいんだよ・・・! くそっ・・・! うううぅぅ・・・!」
292 62/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:27:34.75 ID:iVRCG4MA0
唯「りっちゃん・・・。大丈夫だよ・・・。きっとなんとかなるから・・・」
さわ子「とりあえず、今日は一旦みんな家に帰りましょう・・・」
秋山澪「私はまだ律の傍に―――」
さわ子「・・・ダメよ。澪ちゃんもついさっきまで過労で寝込んでたんでしょ」
秋山澪「うっ・・・」
さわ子「昨日今日とでみんな疲れてるだろうし、休んだ方がいいわ」
秋山澪「民事訴訟の件は・・・?」
さわ子「私からりっちゃんのご両親に上手く説明するわ」
秋山澪「そう、ですか・・・」
唯「さわちゃん、私まだ家に帰れないんだけど・・・。現場検証とかしてて」
さわ子「じゃあ唯ちゃんは今日からしばらく私の家に泊まりなさい」
唯「あ、うん。分かった・・・」
さわ子「とりあえず唯ちゃんと澪ちゃんを家に送ってから、私も同伴で
りっちゃんのご両親に詳しい事情を説明するけど・・・それで大丈夫?」
律「・・・・・・。はい・・・」
さわ子「それじゃあ、そういう事で・・・」 ぶーん・・・
306 63/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:29:40.13 ID:iVRCG4MA0
(次の日の朝 – 教室)
のどか「・・・唯。昨日はさわ子先生の家に泊まったんだって?」
唯「のどかちゃん。うん、しばらく家に帰れそうにないから・・・」
のどか「そう。・・・ちゃんと休めた?」
唯「うん。でも私なんかよりもりっちゃんや澪ちゃん達の方が疲れてるだろうし・・・」
のどか「それでも、唯も疲れてるに決まってるんだから無理しちゃダメよ」
唯「うん。ありがとのどかちゃん」
秋山澪「・・・おはよう。唯、のどか」
唯「おはよう澪ちゃん。りっちゃんは一緒じゃないんだ?」
秋山澪「ああ。一応メール送ったら学校には行くって返信きたけど」
のどか「・・・あ、律も来たわよ」
律「・・・・・・」
唯「りっちゃん・・・。具合悪そうだけど、大丈夫・・・?」
律「・・・優れないけど、でも学校に行った方が楽って言うか・・・」
秋山澪「・・・?」
律「昨日唯達が帰ってからも私、色々あって・・・」
310 64/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:30:37.30 ID:iVRCG4MA0
律「さわちゃんがお父さんとお母さんに私が訴えられる事を話したんだけど・・・」
律「二人とも、頭抱えてて・・・」
律「それでお父さんに『なんでこんな大事なことを今まで黙ってたんだ』って
怒鳴られて・・・。それでお母さんも泣き始めて・・・」
のどか「う、うわっ・・・」
律「お父さんも突然こんな話されて気持ちの整理ができてなかった事は
分かってたんだけど・・・できれば私のこと、慰めて欲しかったって言うか・・・」
律「私が一番辛いことを理解して、怒って欲しくなかったって言うか・・・」
秋山澪「くっ・・・! やっぱり昨日は私も一緒に居ればよかった・・・!」
唯「わ、私達はりっちゃんを絶対に責めたりしないよ!」
秋山澪「そうだ・・・! 律が一番辛いって事くらい、私達は分かってるから・・・!」
のどか「体調が優れないのなら保健室で休んだ方がいいわよ」
律「うん・・・。ありがとな唯、澪、のどか・・・。みんなと一緒に居ると
救われるって言うか・・・だいぶ気持ちが楽になる気がする・・・」
唯「とりあえず、今は保健室で休んだ方がいいよりっちゃん・・・」
律「・・・うん。ほんと今は甘えることしかできない自分が嫌だ・・・」
秋山澪「律・・・」
313 65/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:33:26.02 ID:iVRCG4MA0
(二時限目の休み時間 – 保健室)
唯「りっちゃん、具合はどう―――」 ガラッ
さわ子「・・・あ、唯ちゃんに澪ちゃん・・・」
律「・・・・・・」
秋山澪「(なんだ? 律の奴、さらに落ち込んでるような・・・)」
さわ子「ついさっきね、訴状が家に届いたってご両親から連絡があって」
さわ子「請求内容は、慰謝料として300万円を支払うって内容らしくて・・・」
秋山澪「っ・・・。請求内容が変わった・・・?」
さわ子「現実的な請求にする事で、梓ちゃんのお母さんも本気で
りっちゃんから勝訴を取ろうとしているのでしょうね」
唯「300万・・・。それでも大金である事には間違いないよ・・・」
さわ子「訴訟行為はお互いに弁護士を通して進められると思うけど・・・」
秋山澪「くそっ・・・! 私達はもう何も出来ないのかよ・・・!」
律「300万・・・。どうしよう・・・」
唯「だ、大丈夫だよりっちゃん。実際にお金を払うのは
きっとりっちゃんのお父さんやお母さんだから―――」
律「・・・だから辛いんだろッ! くそっ・・・!」
318 66/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:35:00.87 ID:iVRCG4MA0
唯「あっ。ご、ごめんねりっちゃん・・・」
律「・・・いや、こっちこそ悪い。唯に当たってもしょうがないのに・・・」
秋山澪「律・・・。自分を責めすぎるなよ・・・」
さわ子「そうよ。りっちゃんだってわざと梓ちゃんを燃やしたんじゃないんだし」
律「それでも・・・! 心の中が整理できなくて・・・! 落ち着かなくて・・・!」
律「嫌な気持ちがずっと離れなくて・・・!残ったまま忘れられなくて・・・!」
唯「(りっちゃん・・・。もう擦り切れそう・・・)」
さわ子「・・・とにかく、今は眠れなくてもベッドで横になった方がいいわ。
昨日の夜もほとんど眠れなかったって言ってたでしょ」
さわ子「今りっちゃんがやるべき事は、不安な気持ちを昇華する事だけよ」
律「・・・・・・。ああ、分かったよさわちゃん・・・」
秋山澪「自分を責めたって何も変わらないからな・・・。律も含めて、
今の状況は私達じゃ手に負えないことが多すぎる・・・」
さわ子「それじゃ。お昼にまた来るから」
さわ子「(・・・澪ちゃん、唯ちゃん。ちょっと・・・)」
唯「?」
321 67/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:36:26.02 ID:iVRCG4MA0
(数分後 – 職員室)
秋山澪「・・・心的外傷?」
さわ子「簡単に言えば”トラウマ”ね。りっちゃんは梓ちゃんを燃やした事や
梓ちゃんのお母さんに訴えられた事で、心に深い傷を負ってしまってる」
さわ子「それが原因でりっちゃんは今・・・軽い”ストレス障害”を引き起こしてる」
唯「ストレス障害?」
さわ子「夜眠れなくなったり、不安や恐怖を抑えられなくなったり、
急に怒ってしまったり・・・そう言った”心の疾患”を引き起こす症状よ」
さわ子「ASDやPTSDなんて言われる事もあるけど、私は医者じゃないから
詳しい事は分からないし、ハッキリとした事も言えないけれど・・・」
秋山澪「まあ、律がストレスを抱えてることは見て分かりますよね・・・」
唯「じゃあ、そのりっちゃんのストレスを無くすにはどうすれば良いの?」
さわ子「それこそ、”気持ちが安らぐお薬”を使うとかしないといけないと思う・・・」
秋山澪「っ・・・」
さわ子「早めに病院で診断してもらった方が良いと思うけど・・・とにかく今は
少しでもりっちゃんのストレスが和らぐようにしてあげないと」
さわ子「例えばみんなが一緒に居て、会話するだけでも効果はあると思うから・・・」
秋山澪「そうですね・・・。分かりました・・・」
325 68/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:39:00.09 ID:iVRCG4MA0
(昼休み – 教室)
のどか「・・・あ、保健室から澪達が帰って来たわよ」
秋山澪「やあ、おまたせ」
唯「りっちゃん、お昼一緒に食べようと思うんだけど・・・お弁当持ってきてる?」
律「・・・・・・」
唯「りっちゃん?」
秋山澪「・・・そ、そうだ! 私購買でパンか何か買ってくるよ!」 たたたっ
律「・・・・・・」
唯「(りっちゃん、更に具合が悪くなってる・・・)」
のどか「(みたいね・・・。今朝はまだ少し口数があったのに・・・)」
唯「・・・そ、そうだ! りっちゃん昨日のお笑い番組見たー?」
律「どうでもいい・・・」
唯「あう・・・」
律「今は他のこと考えてる余裕ないから・・・」
のどか「でも律、落ち込んでたって仕方がないわよ」
律「・・・・・・」
330 69/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:40:31.48 ID:iVRCG4MA0
律「それは分かってるけど、どうしようもないんだよ・・・」
律「落ち着こうにも体は震えるし、胸の中はざわざわするし、目眩はするし・・・」
律「こう見えて私だって頑張ってるんだよ・・・。分かってくれよ・・・」
唯「わ、私は分かるよりっちゃんの気持ち・・・」
律「分かるわけ無いだろ唯に私の気持ちなんて・・・」
唯「えっと・・・」
律「結局誰も私の立場に居ないんだから、みんな無関係なわけだし・・・」
律「ただただ優しくしたいだけなら、放って置かれた方がまだマシなんだよ・・・」
唯「りっちゃん・・・」
のどか「・・・・・・」
のどか「・・・律さ、さっきから妙に唯にだけキツくない?」
唯「の、のどかちゃん・・・?」
のどか「少なくとも私にはそう見えるけど、何か唯に対して思う事でもあるの?」
律「・・・・・・」
律「・・・・・・。・・・・・・。唯の・・・せいだろ・・・」
334 70/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:42:11.56 ID:iVRCG4MA0
唯「えっ・・・?」
律「そう・・・だ・・・! 唯が全ての原因だ・・・!」
律「言ってただろ・・・! 唯が手を振ったせいで梓が死んだって・・・!」
唯「っ・・・!」
律「そうだ・・・! 唯が梓を”殺した”んだ・・・!」
律「唯が梓を殺さなければ、私は訴えられなかったんだ!」
律「そうだ! 悪いのは私じゃない! 全部唯が悪いんだッ!」
律「唯が梓を殺さなかったら、私が葬儀の時に梓を燃やさずに済んだんだッ!」
・・・がしっ!
唯「ひっ・・・!?」
律「おいどうしてくれるんだよ唯ッ!」 がくがく!
律「お前のせいで全部狂っちゃったんだよ! なあッ!」
律「お前さえ居なければ・・・! お前が・・・! お前がもう死―――ッ!」
・・・パシンッ!
のどか「・・・少し落ち着きなさいよ律」
343 71/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:43:18.99 ID:iVRCG4MA0
律「っ・・・。・・・あ・・・あ・・・」 ヒリヒリ・・・
のどか「何を言い出すのかと思ったら・・・アンタ最低ね」
のどか「律の事は可哀想だと思ってたけど、さすがに今のは失望したわ」
唯「う・・・。うわああぁぁぁぁぁぁぁん・・・!」 がくっ
のどか「大丈夫よ唯。唯は何も悪くないから」
唯「ごめんねええぇぇ・・・! 私のせいでえぇぇぇ・・・! うあああぁぁぁ・・・!」
秋山澪「・・・悪い悪い。急いでパン買ってきたけど遅れちゃって―――えっ!?」
秋山澪「な、何があったんだ!?」
のどか「律がね、唯が梓に手を振ったのが原因で訴えられたとか言いだして・・・」
律「・・・・・・」
秋山澪「っ・・・!? 律の頬が赤い!? ・・・ぶったのか!?」
のどか「だってそうでもしないと、律がずっと唯を責めてたから」
秋山澪「っ・・・! だからって何もぶつことはないだろッ!?」 がしっ!
のどか「だから、澪は見てなかったから分からないかもしれないけど―――」
・・・パァンッ!
349 72/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:44:28.93 ID:iVRCG4MA0
秋山澪「・・・分かってないのはのどかの方だッ! 今の律はデリケートなんだよッ!」
のどか「いっつ・・・。・・・・・・。・・・何すんのよ!」 パァンッ!
秋山澪「くっ・・・!? ・・・・・・。・・・この野郎オオォォォッ!」 ばっ!
・・・バンッ! ガタンッ!
クラスメイト『な、なになに!? 澪とのどかがケンカ!?』 ざわざわ!
クラスメイト『誰か・・・! 先生呼んできて先生!』
唯「うわああぁぁぁぁぁん・・・! やめてよのどかちゃん・・・! 澪ちゃん・・・!」
クラスメイト「・・・やめなさい澪!」 ぐいっ!
クラスメイト「のどかも離れて・・・!」 ぐいっ!
のどか「はあ、はあ・・・。少しは話を聞きなさいよみ―――」 くいっ・・・
秋山澪「・・・なんで」
秋山澪「なんで誰も律の味方してやらねえんだよおおおおおおおおッ・・・!」
秋山澪「律が可哀想だろッ! いつになったら律は笑えるようになるんだよ!」
秋山澪「くっそおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・!」 がくっ
律「・・・・・・」
359 73/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:46:17.47 ID:iVRCG4MA0
(数十分後 – 職員室)
さわ子「・・・落ち着いた? 唯ちゃん」
唯「ぐずっ・・・。はい・・・」
さわ子「昼休みでの事は教室に居た子から大体話は聞いてるけど・・・」
さわ子「その・・・、とにかく唯ちゃんは本当に何も悪く無いからね?」
唯「でも・・・! りっちゃんはずっと私の事を恨んでて・・・!」
唯「私のせいで・・・! 私があずにゃんを・・・こ、ころ―――! ・・・むぐっ」 ぐっ
さわ子「・・・ストップ。落ち着いて唯ちゃん」 ぱっ
唯「・・・ぷはっ。さわちゃん・・・?」
さわ子「・・・あの時のりっちゃんは、精神状態がすごく不安定だったでしょ?」
さわ子「だから本当はりっちゃんだって、唯ちゃんを責めたくは無かったはず」
さわ子「おそらく今保健室で澪ちゃんと一緒に居るりっちゃんも
少しは落ち着いて、自分の言った事にすごく後悔してると思う・・・」
さわ子「だから・・・。唯ちゃんが昼休みでの事で落ち込んじゃうと、
りっちゃんまで自分を許せなくなっちゃうと思うわ」
さわ子「変な言い方だと思うけど、りっちゃんのためにも自分を責めないで・・・」
唯「・・・・・・。うん・・・。ずぴっ・・・」
364 74/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:48:08.49 ID:iVRCG4MA0
(同時刻 – 保健室)
律「・・・良いのか澪。午後の授業始まってるけど・・・」
秋山澪「いや、教室にはのどかが居るから・・・」
律「・・・・・・。私のせいでみんなバラバラになってってるな・・・。はは・・・」
律「唯にも酷い事言っちゃったし、何も悪く無い事は分かってたのに・・・」
秋山澪「律・・・」
律「なんか・・・、もう疲れたちゃったな私・・・」
秋山澪「っ・・・!? ・・・・・・」
秋山澪「・・・ま、まあ律が疲れてるのは当り前―――」
律「・・・考えて見ると、私が居なくなれば全部解決する事なんだよな・・・」
秋山澪「な、何言ってんだ律!? そんなわけ無いに決まってるだろ!」
律「私・・・もう死にたい・・・! いつまで苦しんで生きてればいいんだよ・・・!」
秋山澪「くっ・・・! ・・・・・・。っ・・・!」
秋山澪「ふ・・・あ、あは、はははははは・・・。・・・はははははは!」
律「・・・? 澪・・・?」
秋山澪「(そっか、簡単なことだったんだ・・・。全てを終わらせる方法なんて・・・)」
374 75/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:50:10.95 ID:iVRCG4MA0
(放課後 – 保健室)
さわ子「・・・あれ? 澪ちゃんは?」
律「なんか5時間目くらいに帰っちゃったけど・・・」
さわ子「無断早退ね・・・。・・・・・・」
律「・・・・・・。さわちゃん、その・・・唯は・・・?」
さわ子「りっちゃんが言った事は本心じゃないとは伝えてあるけれど・・・」
律「やっぱり、落ち込んでるのか・・・。そりゃそうだろな・・・」
律「なんで私、唯にあんな酷い事言っちゃったんだろ・・・」
律「はは・・・。もう唯に合わせる顔は無いな・・・」
さわ子「りっちゃん・・・。くっ・・・」
(放課後 – 下校中)
のどか「そう・・・。律はストレスを溜め込んでパニックになってたのね・・・」
唯「ちゃんと私がのどかちゃんに伝えていれば、こんな事にはならかったのに・・・」
のどか「・・・唯はもう、律に言われた事は気にしてないの?」
唯「気にしないように努力はしてる・・・。まだ少しツライけど・・・」
唯「それでも、今一番ツライのはやっぱりりっちゃんだから・・・」
377 76/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:51:32.87 ID:iVRCG4MA0
のどか「そうね・・・。今考えると、澪が私に怒った理由も分かる気がするし」
唯「だから、のどかちゃんも澪ちゃんと仲直りしてね? ・・・絶対だよ?」
のどか「うん・・・。澪が許してくれるかは分からないけれど」
のどか「私の方からは・・・ちゃんと澪と律に謝ろうと思う」
唯「良かった・・・。私、そっちの方が気がかりだったから・・・」
のどか「心配かけてごめんね。・・・じゃ、私こっちだから」
唯「うん。・・・またね、のどかちゃん」
(数分後)
のどか「(律や澪の事も心配だけど、やっぱり一番心配なのは唯の方なのよね・・・)」
のどか「(唯は他人の悩みを自分も抱えようとするから・・・。
それですぐに自分で自分を追い詰めちゃうし・・・)」
のどか「ま、私も人の事は言えないけど―――えっ?」 ピタッ
秋山澪「っ・・・!?」 ピタッ
のどか「(曲がり角から澪が・・・? って言うか、なんでこんな山の方に・・・?)」
秋山澪「くっ・・・!」 だっ・・・
のどか「あっ。・・・ちょ、ちょっと待って澪!」 ガシッ!
387 77/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:53:30.48 ID:iVRCG4MA0
秋山澪「くっ!? は、放せ・・・!」
のどか「は、話だけでも聞いて・・・! 私、澪に謝りたくて・・・!」
のどか「私あの時は律がそこまで追い詰められてるって事、知らなくて・・・!」
のどか「だから今は私、律をぶった事についてはすごく反省してるし、
澪が怒った気持ちも理解できてるから・・・! だから・・・ごめん!」
秋山澪「っ・・・! 今さら・・・!」
のどか「分かってる! 私もこの事に気付いたのは少し遅かったと思う!
それでも、澪がまだ許してくれなくても、私は謝りたいと思ったから・・・!」
秋山澪「そうじゃない! くそっ・・・! もう遅いんだよ・・・!」
のどか「み、澪・・・?」 ぱっ・・・
秋山澪「とにかく、今私はやる事があるから・・・!」 だっ・・・!
のどか「っ・・・! ちょっと澪! 少しは話くらい聞きなさいよ!」 ガシッ!
秋山澪「!? ば、バカ・・・! 私のカバンに触るな―――ッ!」
ぽたっ・・・
秋山澪「!!」
のどか「え・・・? 澪のカバンの角から赤い液体が・・・? ・・・血?」
399 78/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:55:11.66 ID:iVRCG4MA0
のどか「(ナプキンでもカバンの中に入れて―――)」
秋山澪「くっ・・・!」 ぎりっ・・・
のどか「(!? な、何この澪の表情・・・?
まるでとんでもない秘密がバレたように焦って・・・)」
のどか「(血・・・。山の方で・・・。やる事・・・。澪・・・。律・・・。・・・・・・)」
のどか「っ・・・!? まさか澪・・・。アンタそのカバンの中に!?」
秋山澪「・・・・・・。はは・・・。レジ袋はちゃんと縛ってたのにな・・・」
秋山澪「密閉性に欠けるか・・・。でも手段を選んでる余裕は無かったし・・・」
のどか「そのカバンの中に”入ってる人”は・・・!?」
秋山澪「のどかももう分かってるんだろ。・・・”梓のお母さん”だよ」
のどか「っ・・・!」
じーっ がさがさ・・・
秋山澪「ああ。やっぱり袋が横になってる。直さないと・・・」 ぐちゃっ・・・
のどか「っ・・・! うっ・・・!?」
秋山澪「・・・山にはもう穴を掘ってあって、後は埋めるだけだったのに・・・」
秋山澪「こんな所でのどかに出会すなんてな・・・。運悪いな私・・・」
412 79/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:57:05.68 ID:iVRCG4MA0
のどか「・・・・・・。梓のお母さんが行方不明になれば警察が捜索するだろうし、
それにこんな近くの山に捨てたって・・・すぐに見つかるに決まってるわ」
秋山澪「・・・・・・。律が・・・」
秋山澪「律が”死にたい”って言ったんだ・・・」
のどか「っ・・・」
秋山澪「それでもし本当に律が自殺して、その原因を作った
梓のお母さんだけがのうのうと生きてたらって思うと・・・!」
秋山澪「私・・・! 居ても立っても居られなくなって・・・! 怖くなって・・・!
もう・・・梓のお母さんを殺すしかないとしか思えなくなって・・・!」
秋山澪「間違ってるとは思うけど・・・! もうこれ意外に方法は無くて・・・!」
秋山澪「急いで梓の家に行って・・・! 叫ばれないようにロープで首を縛って・・・!
包丁で死体をバラバラにして・・・! 流せるだけトイレに流して・・・!
流しきれなかった残りはこうして山に捨てようと思ってたのに・・・!」
秋山澪「もう少し・・・! だったのに・・・! う、ううぅぅ・・・!」 がくっ
のどか「それでも・・・人を殺して許される理由は何処にも無いわよ」
のどか「・・・とにかく警察に連絡しないと」 ぱかっ
秋山澪「っ・・・!? ま、待ってくれのどか!」 がしっ・・・!
秋山澪「頼む・・・! 見逃してくれ・・・! お願いだから・・・!」 ぐっ・・・
419 80/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 15:58:53.56 ID:iVRCG4MA0
のどか「・・・友人として見逃したい気持ちも山々だけど、それでも
そんな事をすれば私も幇助で捕まるかもしれないし、残念だけど
この事を知ってしまった私には通報する義務があるから・・・」
秋山澪「バレなきゃ大丈夫だから・・・! 頼むのどか・・・!」
のどか「・・・澪、自分が見えてなさすぎ。それにさっきも言ったけれど
こんな方法じゃ絶対にすぐバレる。それくらいなら、澪が自分から
警察に自首すれば幾分かは刑が軽くなるかもしれないわ」
のどか「それなら私も澪に協力するから、だから―――」
秋山澪「・・・やっぱり、のどかはまだ私がぶった事を恨んでるんだろ!?」
秋山澪「そうだ! そうに違いない! 内心ほんとは私の犯罪を見つけて
喜んでるんだ! そうじゃなきゃ普通は見逃してくれるだろ!」
秋山澪「そうだ・・・! のどかも律が死ねばいいと思ってるん―――ッ!」
・・・パァン!
のどか「・・・・・・。これ以上幻滅させないで、澪」
秋山澪「う・・・あ・・・」 ヒリヒリ・・・
秋山澪「あ・・・ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」 ぐいっ!
のどか「っ・・・!? 腕が引っ張ぱられ・・・!」 ぐらっ・・・
どっ・・・!(のどかがカバンを挟んで澪と激突する)
429 81/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 16:00:12.24 ID:iVRCG4MA0
のどか「いっつ・・・。・・・いい加減にしなさいよ澪―――」 ばっ・・・
のどか「・・・? ぶつかった澪のカバンから何かが飛び出してる・・・?」 キラッ・・・
秋山澪「・・・・・・。梓のお母さんを解体した時に使った
包丁やロープも・・・山に埋める事にしたんだ・・・」
のどか「っ・・・!? ま、まさか・・・!?」 さす・・・
じわっ・・・
のどか「!? ひ、左胸から血が・・・!? ・・・ごほっ・・・! かはっ・・・!」 ぴちゃ・・・
秋山澪「口から血を吐いたという事は、肺に穴が空いたんだろうな・・・」
のどか「か、ひゅー・・・。み・・・お・・・」 ばたっ・・・
秋山澪「だとすれば、肺に血が溜まって呼吸がしづらくなってるはず・・・」
のどか「ア・・・ンタ・・・。かひゅー・・・。ふざ・・・けんじゃ・・・、な・・・」
秋山澪「ごめんのどか・・・。でも私が梓のお母さんを殺した事がバレて
警察に捕まっちゃうと、それを知った律が悲しむだろうから・・・」
のどか「言っ・・・てる事・・・が・・・、めちゃ・・・くちゃ・・・!」
秋山澪「・・・中途半端に刺しちゃったせいで、苦しいだけになってるな・・・。
ほんとごめん・・・。・・・人が居ない間にはやく山に運ばないと」 ぐっ・・・
のどか「っ・・・!? は・・・、なし・・・て・・・!」
442 82/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 16:02:31.99 ID:iVRCG4MA0
(数十分後 – 山奥)
のどか「ぐっ・・・!?」 どさっ・・・
秋山澪「はあ・・・はあ・・・。おぶって来たけど・・・大変だったな・・・」
のどか「出・・・して・・・!」 もぞっ・・・
秋山澪「念のため人が入るくらいの穴は掘って置いて正解だったな・・・。
野犬が穴を掘り返すってよく言うから、深くも掘ってあるし・・・」
どさっ・・・(カバンを投げ入れる)
秋山澪「・・・・・・。よし、スコップで埋めるか・・・」 ざくっ・・・
のどか「や・・・め・・・! まだ・・・! 生きて・・・! ぐっ・・・!」 ばさっ・・・
秋山澪「んしょっ・・・」 ざくっ・・・ ばさっ・・・ ざくっ・・・ ばさっ・・・
のどか「死ぶっ・・・! ほん・・・と、に・・・! やめ―――」 ばさっ・・・
のどか「・・・・・・」
ざくっ・・・ ばさっ・・・ ざくっ・・・ ばさっ・・・
・・・ぱんぱんぱん!
秋山澪「・・・よし、後は枯れ葉で掘り返した跡を隠して・・・」 がさがさ・・・
秋山澪「・・・・・・。終わった・・・。これで、全部・・・」
448 83/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 16:03:48.19 ID:iVRCG4MA0
(次の日 – 教室)
唯「あ、おはよう澪ちゃん・・・」
秋山澪「唯。・・・おはよう」
唯「あのね澪ちゃん、昨日の事なんだけど・・・」
秋山澪「っ・・・」
唯「まだのどかちゃん学校に来てないけど、もしのどかちゃんが
澪ちゃんに昨日の事を謝ったら、許してあげてほしいんだけど・・・」
秋山澪「・・・・・・」
唯「澪ちゃん・・・? やっぱり昨日の事、まだ怒ってる・・・?」
秋山澪「・・・いや、もう怒ってないよ。・・・分かった。昨日は私も
冷静な判断が出来てなかったからすごく反省してるし」
秋山澪「のどかとは・・・私からもちゃんと謝って仲直りするよ」
唯「ほんと!? よ、良かった・・・」
秋山澪「・・・ところで律がこの時間になってもまだ教室に居ないみたいだけど、
今日は朝から保健室に行ってるのか?」
唯「ううん。職員室でさわちゃんと何か話してるみたいだけど。
やっぱり民事訴訟の事についてかな?」
秋山澪「(それもあるだろうけど、もしかして・・・)」
458 84/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 16:05:10.03 ID:iVRCG4MA0
(十数分後)
さわ子「・・・それでは、今日のホームルームを始めます」
唯「・・・あれ? のどかちゃん今日はお休み?」
さわ子「っ・・・。いえ、学校には何も連絡は入ってません・・・」
クラスメイト『のどかが無断欠席・・・?』 ざわざわ・・・
クラスメイト『やっぱり昨日の事じゃない・・・?』
律「・・・・・・」 じーっ・・・
秋山澪「(ん? 律・・・?)」 ちらっ・・・
律「っ・・・!」さっ!
秋山澪「?」
さわ子「はい静かにー。それじゃあ昨日渡したプリントを―――」
(数分後)
さわ子「・・・伝達は以上です。じゃあこの集めたプリントを・・・唯ちゃん、
職員室まで運ぶの手伝ってくれるかな?」
唯「? それくらいならさわちゃん一人で運べる―――」
さわ子「・・・・・・」
唯「えっと・・・。わ、分かりました。・・・?」 がたっ
464 85/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 16:07:39.07 ID:iVRCG4MA0
(休み時間 – 教室)
秋山澪「授業、全然頭に入らなかったな・・・。・・・ん?」
唯「・・・かな・・・」
律「・・・だったら・・・」
秋山澪「(唯と律が普通に喋ってる? 昨日はあんな事があったのに・・・)」
秋山澪「・・・唯、律。もう仲直りしてたのか?」
唯「えっ・・・? ・・・あ、うん! そ、そうなんだ!」
秋山澪「?」
律「・・・・・・」
律「なあ澪。知ってたか? のどか、昨日から家に帰ってねーんだってさ」
秋山澪「えっ・・・。そうなのか?」
唯「あと、あずにゃんのお母さんも昨日から行方が分からなくなってるとか・・・」
秋山澪「梓のお母さんも? どうしたんだろうな二人とも・・・」
律「・・・・・・」
唯「・・・・・・」
秋山澪「(・・・そっか。もう疑われてるんだ私・・・)」
471 86/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 16:09:46.41 ID:iVRCG4MA0
(昼休み – 屋上)
秋山澪「・・・高いな、さすがに」 ひゅぅー・・・
秋山澪「でもこの高さがあれば確実に―――」
律「・・・澪」 ざっ
秋山澪「えっ・・・? り、律・・・? なんで・・・?」
律「探したんだよ。昼休みなのに何処にも澪の姿が見当たらなかったし」
秋山澪「・・・・・・。私が今からしようとしてる事と、
私がそれをする理由くらい・・・もう分かってるんだろ? 律」
律「・・・・・・」
律「澪が梓のお母さんとのどかを・・・・・・殺したからか?」
秋山澪「・・・・・・。はは・・・。正解・・・」
律「そっか・・・。まあそんな所だろうとは思ってたけど・・・」
秋山澪「だから・・・私は法律で捌かれるよりも、この命を差し出す事で
のどか達に弁償する事にするよ。・・・まあ、一つ足りないんだけど」
律「はは、澪らしいミスだな・・・」
律「・・・澪。ちょっとそっちに行ってもいいか?」 ざっ・・・
秋山澪「律・・・?」
474 87/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 16:10:49.91 ID:iVRCG4MA0
律「・・・差し出す命が一つ足りないのなら、私も一緒に飛んでやる」 すっ・・・
秋山澪「っ・・・!? ば、バカ! 律が死ぬ理由は無いだろ!?」
律「・・・元はと言えば、私が澪にそこまでさせたんだ。
私が澪にそこまでさせて、私が澪に死ぬしかないと思わせる所まで追い詰めた。
・・・澪の方こそ、本当は死ぬ理由なんて一つも無いんだよ」
秋山澪「なんで・・・! 私はもう律に”死にたい”って思わせないためにずっと
頑張ってたんだぞ・・・! それじゃあ全部・・・台無しになるだろッ・・・!」
律「それでも私は、澪に死んで欲しくないから・・・」
秋山澪「私だって、律に死んで欲しくなんかない・・・!」
律「それに澪が死んだ後に、私だけ生きてるのも嫌だし・・・」
秋山澪「私だって律が死んだ後に、一人で生きてるのは嫌だ・・・!」
律「・・・・・・。はは。なんだよ澪・・・。ただのオウム返しじゃねえか・・・。ぐずっ・・・」
秋山澪「だって・・・! 私は本当に律には生きて欲しいから・・・!」
律「・・・・・・。・・・なあ澪。今まで生きてきて楽しかったか?」
秋山澪「・・・?」
律「高校入って、軽音部を作って、ムギと唯に出会って、みんなでお茶して、
たまに練習とかして、梓って後輩ができて、色んな行事に参加して、
ほんと今まで色々な事があったけれど・・・澪はそれらが楽しかったか?」
479 88/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 16:11:53.08 ID:iVRCG4MA0
秋山澪「・・・・・・。もちろん、楽しかったよ。みんなと過ごした時間が。
何かを達成するまで続けた努力が。それこそ、無駄な時間の方が
私達には多かったかもしれないけれど。・・・それでも、私にとっては
楽しい時間だったし、どれも大切な思い出として心の中に残ってる」
律「そっか・・・。・・・私もみんなと過ごした時間はすごく楽しい時間だった」
律「だから何となく分かるんだ。あの時間こそが、これから生きていく
私の人生の中でも最も楽しかった時間なんだって・・・」
秋山澪「律・・・。・・・・・・。そっ、か・・・」
律「だから私は、ここで死んだって何も無かった人生じゃない。
後悔もない、心残りもない、充実した、満足のいく人生だったって
死んでからも・・・胸を張って言えるんだ」
律「だから―――」
秋山澪「・・・もういいよ律。大体分かったから。律が言いたいこと・・・」
律「っ・・・! う、ううぅっ・・・! ・・・ごめんな澪! 私・・・! 弱い人間で・・・!」
秋山澪「律。・・・一緒にこの屋上から飛び降りよう」
秋山澪「律の言う通り、私だって何も無い人生じゃなかった。
それは見栄でもないし、ウソを付いてるわけでもない。・・・満足してる。
ここで私は死んだって、誰かを責めたり恨んだりは絶対にしない」
秋山澪「それはもちろん・・・律にだってそうだ」
483 89/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 16:13:55.00 ID:iVRCG4MA0
律「澪っ・・・!」 ぎゅっ・・・
秋山澪「・・・はは。律の手、あったかいな・・・」
律「ぐずっ・・・。澪の手が冷たすぎるんだよ・・・」
ひゅぅー・・・
律「・・・・・・。高いな・・・。やっぱり・・・」
秋山澪「・・・飛ぶ時は頭から落ちるようにしないとな」
秋山澪「下はコンクリだから、失敗だけは嫌だし」
律「痛い・・・かな・・・?」
秋山澪「すごく痛いだろうな・・・」
律「・・・・・・」
秋山澪「・・・・・・」
律「・・・・・・。澪・・・」
秋山澪「・・・なんだ?」
律「・・・呼んでみたかっただけ」
秋山澪「・・・そっか」
487 90/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 16:14:48.03 ID:iVRCG4MA0
(数秒後 – 校舎内)
(鈍い音)
489 91/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 16:15:14.52 ID:iVRCG4MA0
(その夜 – 警察署)
さわ子「・・・はい、分かりました・・・」 ピッ
さわ子「・・・澪ちゃんとりっちゃん、息を引き取ったって病院から・・・」
唯「・・・・・・」
さわ子「・・・それとさっき警察の人から報告があって、澪ちゃんが残した
遺書に書かれていた場所から、のどかちゃんの遺体と、梓ちゃんの
お母さんの遺体と見られる一部が入ったカバンが見つかったって・・・」
唯「・・・・・・」
さわ子「それと・・・」
さわ子「病院で入院してたムギちゃんも、容態が急変して亡くなったって・・・」
唯「・・・・・・」
さわ子「憂ちゃんがムギちゃんを刺した包丁に、生肉を切ったりした時に移った
菌が付いてたらしくて、それが原因でムギちゃんの刺された場所から
内臓に菌が移って感染症を起こしたとかでそのまま為す術無く・・・」
さわ子「だからこれで、憂ちゃんも傷害罪から殺人罪に格上げになった・・・」
唯「・・・・・・」
さわ子「憂ちゃんが少年院に入院する事はほぼ確定的だと思う・・・」
唯「・・・・・・」
496 92/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 16:16:16.73 ID:iVRCG4MA0
(次の日 – 澪と律とムギの合同葬式会場)
お坊さん「なむあみだ~」
クラスメイトA『・・・この後のどかの式場にも行かないとね』
クラスメイトB『そう言えば、なんでのどかは別の式場で葬儀を挙げてるの?』
クラスメイトA『そりゃあのどかは澪に殺されたわけだし、のどかのご両親だって
娘を殺した張本人とは一緒に葬儀なんてしたくはないでしょ・・・』
クラスメイトC『しかものどかは土の中に埋められてたから遺体の状態が凄く悪くて、
土の中の水分とか吸って真っ白に膨張してるらしいんだってさ・・・』
クラスメイトB『うわあ・・・そうなんだ・・・。・・・祭壇に置かれた澪達が入った棺も
ムギだけしか顔は見られないようになってるし、きっと澪と律も
飛び降り自殺が原因で遺体の状態が凄く悪いんでしょうね・・・』
クラスメイトA『澪と律が飛び降り自殺した現場を見たって子が言ってたんだけど、
二人とも割れた頭の中からピンク色の脳みそが流れ出てて、その子も
その周りに居た他の子も何人もその場で吐いたりしてたんだって・・・』
クラスメイトC『あと、澪と律は飛び降りてからもずっと手を繋いだままだったから
そのまま死後硬直が始まって、手と手が離れなくなってたんだって。
で仕方がないから検察の人が二人の指を鋸で切って離したとか・・・』
クラスメイトD『・・・ちょっとアンタ達、声が大きいわよ。・・・ほら』
唯「・・・・・・」
クラスメイトA『あっ・・・。・・・・・・。・・・ごほんっ』
506 93/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 16:17:56.16 ID:iVRCG4MA0
(ある日の昼休み – 音楽室)
唯「・・・バンド演奏?」
律『ああ! 梓のお母さんの前で私達の演奏を披露するんだ!』
律『・・・私も梓のお母さんに許してもらえる方法を色々と考えてみたんだけどさ・・・』
律『ほら、私達みたいな子供に出来る事と言ったらたかが知れてるだろ?』
ムギ『逆に言えば、私達に出来る最大限の事をすればいい・・・ってこと?』
秋山澪『でもそんな単純な方法でほんとに上手く行くのか?』
唯「・・・どう思う? あずにゃん?」
あずにゃん『そうですね・・・。私のお母さんも音楽をやってましたし、
とりあえず誠意みたいな物は伝わるんじゃないですか?』
律『だろだろ!? ・・・って言うかもう私達にできる事と言ったらそれしかないし!』
唯「・・・うん! やろ! 私もあずにゃんのお母さんの前で一生懸命歌うよ!」
ムギ『みんなが力を合わせて頑張れば、必ず思いは届くわ!』
秋山澪『そうだな・・・うん。私達らしいし、私達にしかできない謝り方だと思う』
唯「でも・・・どうやってあずにゃんのお母さんの前で演奏を披露するの?」
のどか『・・・体育館に梓のお母さんを呼ぶってのはどう?』
512 94/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 16:19:09.78 ID:iVRCG4MA0
(放課後 – 体育館)
梓の母『・・・なんなのよ梓。急に学校なんかに呼び出したりして』
あずにゃん『いいから。お母さんはちょっとそこのパイプイスに座って待ってて』
(たたたっ・・・)
梓の母『・・・? 梓が壇上の舞台幕をくぐって中に?』
(がやがや・・・)
梓の母『壇上には梓以外にも何人か居るみたいだけど・・・』
・・・じゃかじゃかじゃん♪
梓の母『えっ? 壇上からギターの音が・・・?』
声「・・・のどかちゃん! 舞台幕を開けて!」
(うぃーん・・・)
梓の母『これは一体・・・?』
唯「梓ちゃんのお母さん! 今日は私達のライブに来てくれて
本当にありがとうございます! 放課後ティータイムです!」
梓の母『いや、ムリヤリ梓に呼び出されただけだけど・・・』
唯「今から私達一生懸命演奏して歌いますので。よかったら聴いてください!
・・・ふわふわタイム!」 ♪~
518 95/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 16:20:29.81 ID:iVRCG4MA0
(演奏後)
唯「(・・・よし。一つもミス無く演奏できた・・・。はあはあ・・・)」
梓の母『・・・・・・』
唯「・・・聴いてくれてありがとうございます。あずにゃんのお母さん」
唯「これが今の私達にできる、私達五人にしかできない・・・最大限の演奏です」
唯「私は・・・この放課後ティータイムのみんなと演奏するのが本当に大好きです」
唯「ギターのあずにゃん、ベースの澪ちゃん、キーボードのムギちゃん、
ドラムのりっちゃん、そしてもう一人ギターの私・・・」
唯「こうしてみんな揃って演奏する時間こそが、私の最高に幸せな時間なんです」
唯「だから―――」
(パチパチパチパチ・・・)
秋山澪『拍手・・・?』
梓の母『・・・うん、伝わった。唯ちゃん達が楽しそうに演奏してる気持ちが。
唯ちゃん達が幸せに感じてた時間は、私にとっても幸せな時間になってた』
ムギ『それって・・・』
梓の母『私達五人にしかできない演奏・・・か』
梓の母『私はずっと、それをバラバラにしようとしてたのね・・・』
524 96/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 16:21:51.74 ID:iVRCG4MA0
律『っ・・・! あ、梓のお母さん・・・! 本当にすみませんでした・・・!
私、ほんと取り返しの付かないことをやっちゃって・・・!』
あずにゃん『律先輩・・・』
梓の母『もういいわ・・・。ほんとは私も最初から梓が気にしてないって事は
薄々分かってたし、多分・・・私もこうしたきっかけが欲しかっただけ
なのかもしれない。ほら、大人って面倒な生き方しかできないから・・・』
梓の母『・・・だよね? 梓』
あずにゃん『まあ・・・律先輩が何かやらかすなんてしょっちゅうの事ですし、
今さら気にしてもしょうがないです。実際気にもしてないです』
律『は、はは・・・。・・・でも私が梓のお母さんに迷惑をかけちゃったことは事実だし、
とにかく謝らないといけないはその通りなんで・・・本当にすみませんでした』
梓の母『いえ、こちらこそ今までみんなに辛い思いをさせてごめんなさい・・・』
梓の母『みんな梓のこと・・・これからもよろしくお願いね』
唯「あはは、でも私達の方があずにゃんにお願いする事って多いですよ~!」
律『・・・おい唯! 空気読めよそこは!』
ムギ『あはは。でも私達らしくていいんじゃない?』
秋山澪『私達っていうか、空気が読めてないのは唯だけだろ・・・』
あずにゃん『はい! これからも私が先輩達を引っ張って行きますよ!』
527 97/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 16:23:21.78 ID:iVRCG4MA0
(数分後 – 体育館)
生徒A「・・・あ。あの三年の先輩また一人でステージで演奏してる・・・」
生徒B「ほんとだ。・・・でもアレ、ほんとは一人じゃないんだよね」
唯『・・・も~澪ちゃんのいけずー! ぶー!』
唯『あ! のどかちゃん! 手伝ってくれてありがとね!』
生徒A「うん。ほんとに誰かと一緒に喋ってるみたい・・・」
生徒B「同じ軽音部の人がみんな死んじゃってからああなったんだっけ。
確かに可哀想だけど・・・あのままだと私達もここで部活できないのよね」
生徒A「今週、あの先輩のご両親が学校に退学届けを出したらしいから
明日辺りには居なくなるって話らしいし、それまでの辛抱だよ」
生徒B「あの先輩には近づくなって先生達にも言われてるしね・・・。あーあ、
今日も部活は廊下で筋トレかー。大会近いのに何やってんだろ私達」
生徒A「・・・ねえ、私達であの先輩を体育館から追い出さない?」
生徒B「えっ? あの先輩には近づいちゃダメって言われてるのに・・・?」
生徒A「大丈夫だって。それにウチら運動部でそこそこ鍛えてるし、
何かあってもあのヒョロそうな先輩くらい追い出す事はできるっしょ」
生徒B「そう、かな・・・。・・・まあでもこっちは2対1だしなんとか―――」
憂「・・・お姉ちゃんの邪魔をするな」 スパッ…
535 98/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 16:24:37.82 ID:iVRCG4MA0
生徒B「えっ・・・? う、憂・・・? 私の首から・・・何か出てる・・・?」 ピュー
生徒B「あれ・・・? 意識・・・が・・・」 どちゃっ・・・
生徒A「はっ・・・!? えっ・・・!? なんで憂がここに・・・!? ナイフ・・・!?」
憂「ん? あはは。少年院なら脱走してきたけど?」
ぐいっ・・・
生徒A「ちょ、ちょっと・・・!? Bを体育館そばのトイレまで引き摺って何を―――」
生徒A「・・・えっ!? トイレの中に・・・”死体の山”が!?」
憂「17人・・・」
生徒A「!?」
憂「今まで17人がお姉ちゃんの邪魔をしようとした」
憂「・・・あ、これで19人か」
生徒A「あ・・・アンタ達姉妹はそろって頭オカシイんじゃないのッ!?」
憂「お姉ちゃんの悪口を言うな」 スパッ・・・
生徒A「!? あ・・・ウソ・・・。や・・・だ・・・」 どちゃっ・・・
憂「(お姉ちゃん・・・。私、もうお姉ちゃんとは一緒に居られないけど、
それでも私は、お姉ちゃんのことずっと陰で支えてるからね・・・)」
547 99/99 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 16:25:52.70 ID:iVRCG4MA0
それから、私達の全国ツアーが始まった。
最初は県内の病院からスタートし、ライブをしながら
転々と色んな病院を回って私達のバンド演奏を披露した。
次第に会場は県外へと出て行き、
たまに会場に入れなかったりもしたけれど、ライブでは
私達の最大限の演奏を披露してお年寄り達を元気にした。
そう言えば最近、町でよく憂の写真を目にする事がある。
気のせいかも知れないけれど、憂はいつも私達のそばに
居るんじゃないかって思う時があるんだよね。
ツアーはもうすぐで二年になるけれど、
学校には行かなくても大丈夫なのかな?
でも私は、放課後ティータイムのみんなといつも
一緒に居るから心配なんて無いかな。
私はこの五人で一緒に居る時間が本当に幸せだから。
辛いことや悲しいこともたくさんあったけれど、
それを乗り越えたからこそ今の私達があるのだから。
・・・あれ? お父さん、お母さん、今日はどこに行くの?
終わり? あ、そっか。ツアーはもうお終いか。
ううん、謝らなくていいよ。私も凄く楽しかったから。
だから―――。
548 ◆11111111RI 2012/01/15(日) 16:26:14.92 ID:iVRCG4MA0
おしまい
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