律「アウトブレイク!」

4 2月, 2012 (08:48) | けいおん! | By: SS野郎

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 00:02:25.12 ID:60Iu35250

唯「大変だよ、みんな!」

唯「み、澪ちゃん起きて!」ユッサユッサ

澪「うーん、むにゃむにゃ……あれ、もう着いたの?」

唯「澪ちゃん、なんか変なんだよ」

澪「ふぁぁぁ、あれ?ここは?飛行機の中だけど…」

紬「…うーん、まだ東京に着かないのかしら~って、ここは……ファーストクラス?」キョロキョロ

澪(あれ?いつの間にか移動している……照明が抑えられていてちょっと薄暗いけど……)


2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 00:05:51.65 ID:60Iu35250

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

澪(飛行機……空を飛んでいる……窓の外はまだ暗い……

  ロンドンから飛び立ってどのくらい経ったんだろう)

律「Zzz」

梓「スピースピー」

唯「あずにゃん!寝てる場合じゃないよ!早く起きて」

梓「あ、おはようございます、唯先輩……昨日は激しかったですね…ってあれ?」

唯「あずにゃん……」

澪「律、起きろ!」

律「ん?もう着いたの?まだ暗いけど」

紬「なんか変な匂いがするわ」

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 00:10:24.05 ID:60Iu35250

唯「だれもいないんだよ、この機内!私達だけしか……

  それにいつの間にか広くて高そうな場所にいるし」

律「ここはファーストクラスなのか……気持ちいシート…もっと寝てたい」

紬「ねえ!なんか変よ、この飛行機!」

『ピーンポーン 
 
 おやすみのところ失礼します。
 
 当機はロンドン発成田行、現在当機はロシア連邦ウラル山脈上空を平常通り飛行しております

 目的地の天気は晴れ、このまま行きますと8時間後の現地時間午前11時に目的地に到着いたします
 
 目的地到着までのフライトをお楽しみ下さいませ
 
 Ladys and gentlemen…』

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 00:15:18.56 ID:60Iu35250

唯「なんか怖いよ…誰もいないんだよ……私達の他に…」

律「おーい!だれかー!」

澪「ホントだ。誰もいない。」

梓「でもいつの間にエコノミーから移動してきたんでしょうか?疲れてすぐ寝ちゃったので…」

澪「わからない……でも飛行機は飛び続けているようだし、アナウンスも正常だ……」

律「おい!あそこの席に誰かいるぞ!」

紬(何だろう、この胸騒ぎ……夢にしては……夢にしてはおかしい)

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 00:18:30.72 ID:60Iu35250

律「ねえ!そこのあなた……ってぬおー!」

澪「どうした律!」

律「ちょ、ちょっと…冗談だろ?和か…これは……おい…」

澪「い、いやぁぁぁ!!」

唯「の、和ちゃん!!え……なにこれ……」

紬「ちょっと、落ち着きましょう!

  みんな!添乗員さん!ちょっと、来て、なにこれ!し、死んでる……」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 00:22:18.46 ID:60Iu35250

梓(私は死体というものを初めて見た

  桜高校の制服を来た女性は紛れも無く和先輩だった

  力なくシートに座り、トレードマークの赤い縁のメガネをかけている

  なぜここに和先輩が?どうしてCAはやって来ない?何事もないように飛び続ける飛行機

  かなり特徴的な死体だった。手から顔まで…赤黒い湿疹が吹き出している

  律先輩がいくら揺すっても反応しない。ゾンビを嫌でも連想させる

  密室殺人?

  唯先輩が駆け出し、他のエリアへつながる通路のドアをいくら叩いても、それは固く閉じられたまま

  澪先輩が叫び、ムギ先輩が非常ボタンを連打する

  息を殺してみんな待っても、誰もやってこない

  私はそのうちに気を失う……最後に聞いたのは、律先輩の言葉だった)

律「どうするんだ、これ……」

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 00:27:22.47 ID:60Iu35250

梓「……っ、変な夢を……あれ?夢じゃない?」

唯澪律紬「……」

梓(え?こんな先輩方の顔初めて見た……恐怖で歪んでいる)

梓(まだ飛行機の中だ……あれ?和先輩が死んでたんだっけ

  でも、大きな画面に和先輩が映し出されているよ)
  
和『……みんな目を覚ましたようなので、放送を続けさせてもらうわ

  お久しぶりね、桜高等学校元生徒会長の真鍋和です
  
  この放送は録画なので、一方向コミュニケーションになるけど、ごめんなさい
  
  ロンドンは楽しかった?私も行きたかったわ……
  
  でもこうしてあなた達と一緒に桜ヶ丘に帰れて幸せよ』

  
和は白い壁の前でニュースキャスターのように淡々と話す。

そこにある和とは別人のように、顔は精気に満ちている。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 00:30:28.07 ID:60Iu35250

和『もう私は見つけたかしら……A4席に座っているのが私……

  ちょっと毒を打ってね…ああなっちゃったの

  ほら?注射痕が見える?今はまだ大丈夫だけど……

  で、私、あなた達とゲームをしたいの

  舞台は用意されているのよ。

  あなた達はロールプレイングゲームの主人公一行のように選択していけばいいだけ

  安心してちょうだい。生きて日本に帰るのは簡単だから。

  ただそこで8時間何もせずに休んでいるだけでいいの

  でもせっかくのゲームなんだから、楽しむのも悪くないんじゃないかしら』

澪「ゲーム!これがゲーム!!私達を拉致・監禁しておいて!!ふざけるな、和!」

紬「落ち着きましょう、澪ちゃん」

律「……」

ムギは震えながら諌め、律はじっとどこかを見つめる。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 00:35:53.58 ID:60Iu35250

和『何から説明しようかしら……

  ルールからかしら。
  
  ルールは簡単。あまり暴れないことね。
  
  あなた達には幾つか道具が与えられるけど、それを使って
  
  ドアを壊して助けを求める…そんな興ざめな事しないでね。
  
  さあ、何か質問ある?』
  
澪「わ、私達を家にかえせ!」

和『……澪。……何もしなければ日本に帰れるわ。

  さあ、他に質問は?』
 
律「ルールは他に無いのか?」

和『……律。……ルールは簡単。あまり暴れないことね。

  あなた達には幾つか道具が与えられるけど、それを使って

  ドアを壊して助けを求める…そんな興ざめな事しないでね。

  さあ、他に質問は?』

機械的に同じことを繰り返す和。一分の狂いもないのだから、これは本当に録画なのだろう。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 00:41:24.70 ID:60Iu35250

和『……あなた達はゲームの主人公のように、英雄になる事もできるの。

  律。ブルース・ウィリスのようなヒーローに憧れた事はない?

  さあ、あなた達は人類を守るヒーローになるのよ!

  それとも、史上最悪の殺人者になる?

  南アメリカを侵略したコルテス、ユダヤを殺したヒトラー、

  20世紀最高の独裁者スターリン、そして核を振りかざしたルーズベルト……

  何もしなければ、あなた達は歴史に名を刻みつける……最悪の殺人者として』

みんな絶句する。和は嬉しそうに話し続ける。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 00:43:41.48 ID:60Iu35250

和『……説明が必要なようね。

  ほら。そこにいる私、ひどい事になっているでしょ?毒を打ったのよ。

  天然痘ウイルス。知らなければ説明してあげる。

  知っている?』

梓「な、何の冗談ですかこれ……」

澪「わからない。和!答えろ!何のつもりだ!」

紬「……澪ちゃん。何のつもりかわからないけど、和ちゃんはここにいて、あそこで話しているのは……」

和は画面の中で沈黙している。どうやら私達の答えを待っているようだ。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 00:47:06.96 ID:60Iu35250

唯「わ、わからないよ!和ちゃん!わからないよ!」グズ……グズ……

和『……私達が生まれた時代には地上から絶滅に追い込まれたウイルスよ……

  人間というものは身勝手で……救いのない生き物……自分たちが悪いと思ったものは一方的に排除する……
  
  あぁ。このゲームのコンセプトは、虐殺されたウイルスたちの人類に対する反撃……ということでいいかしら?
  
  プ。冗談よ。私は別にウイルスに操られているわけじゃないわ。
  
  でも、実は、天然痘ウイルスは上野のパンダより大事に守られてきたの。
  
  アメリカのCDCとロシアのVECTORという研究施設で、この反逆の時を待ちながらね。
  
  私はあなた達がのほほんと受験勉強をしている間、CDCからウイルスの変異株を買ったの』

和は静かに語り続ける。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 00:50:16.12 ID:60Iu35250

和『みんな楽しそうに遊んでいた。私も混ぜて。ふふふ

  天然痘の歴史は古いわ。古代エジプトのファラオのミイラから痘瘡の痕跡が見つかったそうよ
  
  日本にも、シルクロード経由で古代オリエント世界からやって来た
  
  仏教と一緒に大陸から持ち込まれたらしいわよ
  
  人類の歴史は天然痘と共にあったの。何千万、何億という人間がこのウイルスで生命を落とした
  
  貴賤を問わず人間を殺し続けるウイルスは、時の権力者をも震え上がらせ、歴史を何度もひっくり返す
  
  スペインの新世界侵略でもインディオ虐殺に使われたわ。菌で汚染されたタオルを部族長に送りつけたり
  
  バイオテロの歴史はみんなが考えているよりも古く、深いのよ』

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 00:52:56.81 ID:60Iu35250

和『しかし、一人の救世主が現れた

  エドワード・ジェンナーよ。彼が編み出した牛痘ワクチンは……人類にとって、聖なる鎧
  
  ワクチンがあの憎きWHOにより全世界で使われるようになって、
  
  ついにウイルスは21世紀を迎える事なく地上から消えた
  
  ジェンナーは真の英雄よ。プロメテウスは人類に火を与えた。その偉業に並ぶ人類に対する貢献
  
  でも、ここで疑問じゃない?
  
  同じくワクチンのある結核や、麻疹、ポリオはあいかわらず地上にはびこっている
  
  そう。天然痘ウイルスは、誰よりも人類と共にあった。
  
  人類の細胞でしか増殖できない彼らは、居場所を奪われ、どこにも逃げられずに滅びた
  
  私の考えじゃ、天然痘ウイルスは、神が遣わせたヒトの最も古い相棒なの。
  
  どこからやって来たのか、どうして彼らがヒトと共に生きようと思ったのか
  
  私には理解出来ないけどね』

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 00:57:35.11 ID:60Iu35250

和『飛沫感染や接触感染によりヒトからヒトへと伝播し、大流行を引き起こす

  40度近い高熱の後、皮膚に豆粒状の丘疹をつくり、
  
  全身に広がった後、化膿し、消化器、呼吸器を犯し重篤な呼吸器不全で死に至る。
  
  死亡率は思いの外低く、10~30%程度。長い歴史の中で、生き残った人類の子孫は免疫を獲得していたから。
  
  生き残った後は、顔に醜い瘢痕を残すため、みんなのような美人の天敵だったのよ。
  
  でも安心して。今回のウイルスは品種改良された強毒株だから。核兵器を作った連中たちの、ほんのお遊び。
  
  まあ、感染者の90%は死ぬでしょうねえ。ふふふ。』
  

おぞましい話を続ける和の話に聞き入り、私たちは、混乱の極みにいた。
言葉を失い、体を微動だにせずに、頭の中はあの透き通った声にこねくり回されていく

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 01:00:23.71 ID:60Iu35250

和『私が自分で打ったのも、その強毒天然痘ウイルス。大体3日でそこにいる私のようになって死ぬわ。

  この強毒株に対するワクチンも一般には開発されていない。
  
  当たり前よ。天然痘自体もうとっくに絶滅した過去の友人なんですから。
  
  それに天然痘のワクチンなんて、今はアメリカがちょろっと備蓄しているくらいでしょう。

  さて、ここで本題。あなた達は、このウイルスに感染します。
  
  この密室に10時間も一緒にいれば……別の実験では95%が感染したわ。
  
  あなた達が、このゲームから降りて、日本に帰れば、パンデミックが起きるでしょうね。
  
  今の時代、あっという間に全世界に広がる。
  
  だから、あなた達は英雄になるために、選択していかなくちゃいけない。
  
  人類を守れるのは、あなた達だけよ。
  
  さあ、何か質問は?』

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 01:03:12.35 ID:60Iu35250

律「目的は?」

澪(りつぅ~助けてくれ!!)

和『……律。……私はただ、あなた達とゲームがしたいだけ。
  
  けいおん部の団結力を持ってすれば、きっと英雄になれるわ!!
  
  必要なのは、人類愛と、自己犠牲の精神よ!それを忘れてはいけないわ……
  
  さあ、何か質問は?』
  
紬「こんな馬鹿げたゲーム、誰が首謀者なの?何が目的なの?何の意味があるの?」ゼエゼエ

和『……ムギ。……世界の人口は増えすぎたと思わない?

  これもきっと、ジェンナーとWHOのせいだわ。
  
  私たちは再び天然痘ウイルスと共に歴史を歩まなくてはいけない
  
  さあ、何か質問は?』

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 01:05:44.23 ID:60Iu35250

澪「私達を助けろ!助けろ!」

唯「和ちゃん!私達友達だよね?助けてくれるよね?いじわるしないで!ねえ、答えてよ!」

梓「このヒトデナシ!ゴキブリ!」

和『質問がないようなので、早速第一のゲームに移ります。

  席の番号はE4。座席の下の金庫の番号は37564。忘れないで。ミ・ナ・ゴ・ロ・シ。
  
  番号を間違えれば、二度と金庫は開きません。
  
  ……私はいつもみんなの隣にいる。その事を忘れないで。』
  

私たちはしばらく固まったまま動けなかった。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 01:09:36.85 ID:60Iu35250

律「なあ……どうする?」

紬「……私達、無事にお家に帰れるのかしら」

澪「……クソックソッタレ……なんで私がこんな目に……」

律「落ち着け、澪。幾つか不可解なことがある。

  目的はわからないが、きっと助かる道は残されている。

  みんなで頑張るんだ。生き残ってまた、一緒に大学でバンドを組もうぜ!

  さ、和の言うことをとりあえず聞いておこうじゃないか。

  生き残るんだ。ウイルスなんかにこのりっちゃん大王は負けねえぜ!」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 01:13:09.38 ID:60Iu35250

梓(空元気……足が震えてますよ、律先輩。それとも武者震い?)
  
唯「ねえ、この金庫……開けたら爆発したりしないよね?」

梓(唯先輩ッ……ここでまた澪先輩を震え上がらせるような事をっ……)

澪「律、開けるのは止めよう」キッパリ

律「……」

紬「多分大丈夫だと思う……」

梓「どうしてですか?」

紬「和ちゃん、なんだか楽しそうに待っている。画面の中で。

  こんな簡単に私達を殺そうと思うなら

  こんな周りくどいことしないでとっとと殺していると……」

ムギは泣き出し、しゃくりあげ、言葉を最後の一滴まで絞るように力を振り絞って話した

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 01:17:01.92 ID:60Iu35250

律「3、7、5、6、4、エンターと。お。開いた……注射器だ……」

和『やっと開いたのね。これで物語は再び進む。

  5本の注射器があるわよね。ABCDEと番号のついたシールを貼ってあるわ。
    
  実はこのうち一本は、今回の天然痘ウイルスのワクチンなの。今打てば助かるわ。
  
  生き残りたい人は打ちなさい。たぶん、あなた達が手に入れられる最後のワクチン。

  でも、残り4本はシアン化カリウムを混ぜている。
  
  マウスを10万匹、ヒトを5000人殺せる量の猛毒よ。
  
  口蹄疫を防ぐ一番有効な手段は殺処分。
  
  4人は死ぬ。実は天然痘、発症前は感染力はほとんど0なの。
  
  だから、今の内に死んじゃえば、英雄になれるわ!
  
  さらにラッキーな1人は生き残れる。
  
  生き残った1人には仕事があるけど……
  
  もし注射が打たれた事を確認したら、30分後に外へ通じるドアが開く。
  
  それから汚染された4人……私を含めて5人をロシアの広大なタイガに捨てなさい。
  
  そのあとで通路のドアが開くから、
  
  その先のシャワーでウイルスを洗い流して服を着替え、何食わぬ顔で元の客席に戻るのよ。』
  

冗談だろ?私は今すぐ和を地獄に突き落としてやりたい。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 01:19:50.15 ID:60Iu35250

律「……どうする?」

紬「いっ……ぐす……いや……いやっ……やだよ、りっちゃん。私達のうち誰かが欠けるのは……」

梓「ムギ先輩に……賛成です……」

澪「で、でも。最後のワクチンって……多分これを逃したら……私たちは……」

唯「澪ちゃん!なら、みんなが一人の為に死んでもいいって言うの!」

澪「ひっ。そんなつもりじゃ……」

梓「……論外です……え、え……でも、死ぬんですか?このままだと私は……」

唯「あずにゃん。泣かないで」

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 01:23:31.04 ID:60Iu35250

律「和!質問だ!最後に言ったよな?”客席”。客席があるって……この飛行機に客が他にいるのか?」

和『……律。……この飛行機はあなた達が乗ったヒューストン発成田行で間違い無いわ。

  あなた達だけ眠らせて、このファーストクラスに案内したけど。』

澪(和。この質問も想定の範囲内ってことか。)

梓「つ、つまり。この飛行機の中には、無実な一般人もたくさん……」

律「たぶん。

  ほとんど私達と同じ、こんな人間にあるまじき行為が行われているなんて知らずに乗った客ばかりだと思う。

  当然、中には協力者がいるんだろうが。パイロット、アテンダントあたりは……」

澪「で、でも。私達がこれを注射しなかったら和はどうするつもりなんだろう?」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 01:24:21.07 ID:60Iu35250

紬「……わからないわ。でも、こんな大掛かりな仕掛けで、これだけってのはあり得ないと思う」

律「ああ。ゲーム、ロールプレイングゲーム、選択。

  これらの言葉を多用していることから、まだ何か用意しているはず。

  少し待てば、きっと別の選択がまた提示されるんだろ。吐き気を催す、下卑た選択を」

唯「ねえ、みんな!他の席の下にもたくさん金庫があるよ。

  たぶん、これらを使ってこれから選択していくんじゃない?」

梓「……間違いありませんね。和のクソッタレ。」ゲシゲシ

澪「じゃあ、このワクチンは保留か」

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 01:27:03.78 ID:60Iu35250

梓「ねえ!澪先輩!さっきから何なんですか!

  ワクチン、ワクチンワクチン、って。4本は毒なんですよ!死ぬんですよ!

  誰かが、死ぬんですよ!」

澪「で、でも。一番初めに注射した人が生きていれば、残りは毒だってわかる……」

梓「それじゃあ、最初の人だけしか助からないじゃないですか!

  私たちは全員で帰るんです!そんなに打ちたきゃ澪先輩だけ打てばいいじゃない!」

紬「まあまあまあまあまあまあまあ」

澪「(7回言ったー!)梓!このやろう!私はそんなつもりは……」

梓「じゃあ、どんなつもり……」バシン

梓「あっ……律先輩……ぶった……」

律「少し黙れ、梓。」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 01:29:22.43 ID:60Iu35250

律「澪も感情的になるな。梓。生き残るためにはいろいろな意見が必要だ

  最後になっても道が見いだせなければ、この注射を打つのは当然選択肢の一つだ。

  ……本当にこの中にワクチンがあるかも疑わしい。なんたって、番号がみなごろしだ。

  しかし、この中に本当に毒が入っているのかも疑わしい。

  だが、今は待つべき時だ。次の和の提案を待とう。」

唯「そうだよ、喧嘩はダメだよふたりとも。今はみんなで力を合わせる時」

梓「……すみませんでした、澪先輩」ドゲザ

澪「私も言い過ぎた。ごめん」

紬(さすがりっちゃん。でも大丈夫かしら。

  さすがに梓ちゃんも神経をすり減らしてイライラしているようね。

  澪ちゃんも、目先の利益ばかり。今もまだ、注射器の方を物欲しそうに見ている。
  
  私は……何が出来るのかしら?)

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 01:33:46.00 ID:60Iu35250

30分後!

和『……結局ワクチンは打たないのね。信じていたわ。あなた達の団結力。

  そりゃ当然よね。1人だけ生き残って4人が死ぬなんて選択……

  並の神経じゃ、元気に日本に帰っても、まともな人生歩めそうもないものね。

  でも、唯か澪は打ちたがってたんじゃない?利己的な性格よね、ふたりとも。

  ……それに澪は怖がり屋。自分が死んでもいいから早く楽になりたい。

  澪の場合は、生き残りたいんじゃなくて、早く死んじゃいたいから注射器を打ちたがったんじゃない?

  どうかしら?合っているかしら?

  よく人は間違えるのよ。死ねば楽になれるって。

  ちょっと苦しいことがあると耐え切れず、その先にある果報を待ち切れない。

  澪。よく考えてみて。あなたが死んで、生き残った人は誰でも心を痛めるわよ。壊れちゃうほどにね。

  ……唯は利己的かつ楽天家。きっと1/5なら自分が死なないって考えたんじゃないかしら?

  さすがにこの状況でそれほど人生を楽観視しているとは、幼なじみとして信じたくないんだけど。

  打たなくて良かったわね。きっとこの場面で死ぬのは唯だったわよ。』

全てを見透かしたように話す和に、私たちはもう操られているのではないだろうか。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 01:37:19.68 ID:60Iu35250

律「案じるな、澪。みんな。ありゃ、録画だ。

  たくさんとって、あらゆるパターンに対応できるようにしているんだろう。」

紬「そうよ。どこかに協力者がいて、私達の会話を聞き、ビデオを流している……」

この時、私の中に恐るべき疑念が湧いたが、私は必死にその悪魔に蓋をした。

今の私に出来ることは信じることだけだ。

和『死の誘惑に30分も耐えたみんなに私からのプレゼント

  席はC4。番号は42731。シ・ニ・ナ・サ・イ
  
  何か質問があれば、受け付けるわよ』

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 01:39:50.76 ID:60Iu35250

唯「和ちゃん。全員が助かる方法ってあるの?

  それに生き残って日本に帰れば警察に訴えるよ。今すぐ止めて。」

和『……唯。

  ……通報しても無駄。

  やってきた警察も感染するわよ?

  それに、誰が信じるの?まあ、気がついた頃には遅いんだけどね。

  誰も止められないわ。それで警察に助けてもらえると思っているの?』

澪(なんて悪趣味な奴だったんだ、和は!画面の中で笑ってやがる。恐怖に震える私達を見て!)

律「悪魔に耳を傾けるな」

梓「……ありました、金庫。開けますか?」

紬「ええ。絶対みんなでまた……」ガチャン

唯「なにこれ……信じられない……」

金庫の中にあったのは爆弾だった。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 01:41:35.88 ID:60Iu35250

Composition 4 ―高性能プラスチック爆弾 取り扱い注意―

律「な、なんだこれ」

和『どう?私からのプレゼント。あ、安心して。

  よっぽどの衝撃を与えない限り、爆発しないから。まあ、人間の力じゃ無理。

  そこに画面が付いているでしょ?全員の掌紋による承認を必要とするの。
  
  つまり、5人全員で爆発させたいと思わない限り爆発しないわ。
  
  え?爆発させたい訳ない?まあ、じっくり意味を考えてちょうだい。
  
  ひょっとしたら、全員一緒に天国にいける可能性が存在するかもしれないから……』
  
澪「し、質問!ば、爆発したら……どうなる?」

和『……澪。

  ……今回用意した爆弾はアメリカ軍を始め、
  
  世界中の軍でスタンダードの高性能プラスチック爆弾通称C-4。
  
  TNT換算で1キロトンだけど、まず死ねるから安心して。
  
  だって、この飛行機は大破しちゃうから。事後処理がテロで扱えるからとっても楽よ。
  
  さあ、何か質問は?』
  
律も沈黙している。間違いない。和はかつての和じゃない。悪の権化だ。

だって、こんなにも弱い私たちにこんな甘い飴を突きつけるなんて

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 01:43:18.28 ID:60Iu35250

唯「どういうつもりなんだろうね、和ちゃん。」

律「……」

梓「……ここまでやって、死ねってことですか。意味がわかりません。」

紬「……次の選択を待てば…ねえ、和ちゃん!質問!次はどれくらい待てばいいの!」

和『……ムギ。

  ……その質問には答えかねるわ』
  
紬(何それ。じゃあ、この爆弾が最後かも知れないって事……それはないと思うけど……

  この禍々しい死神と、いつまで向きあえばいいの?)

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 01:45:53.29 ID:60Iu35250

澪「……和。質問だ。この天然痘ウイルスは、ここ以外どこにもないんだよな。

  もう二度とこんな事やらないんだよな?」

和『……澪。……良い質問ね。

  ……明日、あなた達から見て昨日、

  アメリカとロシアの研究施設は秘密裏に、保持していた天然痘ウイルスを破棄する予定よ。

  他の国・組織の保有天然痘ウイルス株も、私が責任を持って破棄させた。

  私たちは最後の感染者。そして最初の感染者。英雄になるためには最後の感染者になるしかない。

  さあ、頑張って!勇気を!彼女たちにもっと光を!』

澪「おい!もう二度とこんな事はやらないのか、と聞いている!」

和『……澪。

  ……答えはイエス。』

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 01:47:32.11 ID:60Iu35250

  
澪「魂をかけて誓え!そんな紋切り型の答えは求めてないんだ!

  絶対に、二度とこんな目にあう人間を……」

和『……澪。

  ……答えはイエス。
  
  ……答えはイエス。
  
  ……誓うわ。あなたに…ザザ……
  
  ……答えはイエス。
  
  ……誓う……ザザ…‥
  
  ……答えはイエス。
  
  』
  
澪「なあ。もうやめにしないか?」

唯「それはどういう意味?澪ちゃん。」

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 01:49:45.14 ID:60Iu35250

澪「ハハ。もう疲れた。突然の事で頭がこんがらがって……何が正しいのかもわからなくなって……

  誰を信じていいかも……ここでこの凶悪なウイルスごと葬れるなら、私の命なんて安いもんだろ……
  
  だってさ、これから先、私の人生で、こんな人類の為に役に立つ事なんてないんだ……
  
  普通に結婚して、子供を育てて、毎日家事をして、テレビを見て、
  
  流行りのものにはまって、年をとって、一人ぼっちになって
  
  死んでいく……
  
  そんな人生の最後に比べて、ここで死ねば……たくさんの人を救える
  
  なあ、みんなも子供の頃、ヒーローに憧れたんだろ?私は、今、そんな気分だよ」

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 01:52:25.62 ID:60Iu35250

唯「み、澪ちゃん!待って、早まっちゃ……」

紬「……私も。もう。澪ちゃんの気持ちがわかる。

  きっとここから先、もっと過酷な選択しかないわ。
  
  あの約束が本当かもわからない。
  
  だけれども、今私達にできるのは、ここでウイルスを食い止めることじゃない?」
  
ピ。

ムギが手を置いた。私も、ムギの手の上から、重ね合わせるように画面に手をおき、

ムギが手をゆっくり引くと、画面が音をたてた。

私たちは手を握り合った。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 01:54:50.41 ID:60Iu35250

梓「ちょ、待って下さい!澪先輩。さっきはワクチン打とうとしてたじゃないですか!自分だけ!」

律「……」

梓「それなのに、それなのに、なんて不合理な…」

澪「……梓。きっとさっき和が言っていたとおりだと思う。

  私は早く死んで楽になりたかったんだ。エゴイストだと思う。でも……」
  
梓「なら、この飛行機の他の無実の一般人はどうなるんですか!?

  さっき、律先輩が聞きましたよね。他に客がいると。
  
  こんな爆弾爆発させたら、絶対飛行機ごと落ちますよ。
  
  あの人達は無実だ。何もしていない!私たちは殺人鬼になろうとしているんです!」

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 01:57:52.03 ID:60Iu35250

澪「……ごめん、みんな……でも……」

紬「……ごめんなさい。みなさん。……けど、私達だって、何もしていない。

  何もしていないのに、こんな酷たらしい目に合わされようとしている」

律「……」

唯「ねえ。あずにゃん。あずにゃんも気がついているんでしょ?私たちは決して救われないって。

  私たちは誰も悪くない。悪いのは、和ちゃんと、その裏にいる大人たちだ。
  
  こんな理不尽な目に合わされているけど、一体どうしたら助かるのかもわからないけど、
  
  私達にできること、今出来ることは、逃げているだけかも知れないけど、
  
  ここで感染を食い止めることなんじゃないかな?」
  

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 01:59:34.13 ID:60Iu35250

澪「ゆ、ゆい~」ポロポロ

紬「ゆいちゃん……」ポロポロ
  
唯「ね。何も怖くないよ。此処から先、更に残酷な遊びに付き合わされる方が、絶対に嫌だよ。」

梓「ゆ、ゆ”い”ぜん”ばい”……許して…グズン……

  ゆるじてもらえまずかね……あの人達に……パパとママに……」

唯「うん。あずにゃん。いいこいいこ。

  大丈夫。きっと。大丈夫。私たちは。わかってくれるよ、神様は」

梓「みおぜんばい……ヒッグ、ヒッグ」

澪「あずざ~、不甲斐ない先輩でごめんな」ダキ

ピ。

梓「むぎせんぱい……押しました。これで……」

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 02:01:17.70 ID:60Iu35250

しーん

澪「りつぅ~どうした?」

律「……」

唯「りっちゃん?」

紬「りっちゃんはどう思う?」

梓「律先輩も……早く押して下さい」

律「……押さねーし。」

澪「え?」

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 02:04:17.89 ID:60Iu35250

律「……ふざけるなよ。私達をこんな目にあわせておいて。

  絶対に生きて帰って復讐してやる。数万倍むごたらしい目にあわせてやる。
  
  なあ、みんな。お前たち、ここで連中のおもちゃになって満足してんのか?」
  
紬「なにいってんのりっちゃん。」

律「ちくじょー!!許せねえ!!百万回殺しても足りねぇ。

  唯、澪、ムギにこんな辛い決断させやがって。
  
  可愛い後輩の梓に、こんな苦しい思いをさせやがって!」
  
梓(かわいい……)

律「というわけだ、みんな。

  私は死ぬくらいなら、生きる可能性の僅かにあるさっきの注射を打つよ。」

みな、律の気迫に毒気を抜かれていた。じっと、自分の掌を見つめ、

自分の先ほどまでやろうとしていた行為の意味を考えていた。

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 02:07:00.41 ID:60Iu35250

紬「で、でも……もう…」

律「それにな、ムギ。私たちは肝心なことから目を背けていたよ。

  そこに置いてある和の死体……
  
  本当は生きてるんじゃないか?」
  
澪「……」

和「……(正解)」

前編おわり

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 02:13:58.52 ID:60Iu35250

後編!

唯「……本当?りっちゃん。」

律「わからん。でも試して見る価値はありそうだ。

  和の話は全部覚えているが、一言も、自分が死んだなんていってねー。
  
  この痘瘡はメイクじゃなさそうだが、
  
  そもそも、録画の時点でウイルスを打ったのかも疑わしい
  
  それに和の話を信じる根拠なんて何一つないんだ。
  
  強いていえば、現実にこんな目に合わされるほどの、権力が和か誰かにあるというだけ。
  
  生きてここでにやにや私達の狼狽具合を観察している悪趣味野郎だと和のことを思いたくはないけどな」
  
ムギ「でも、どうやって……」

律「こうやるんだ」ボキ

和(無茶するわね。中指をひしゃげさせるなんて。かなり痛かったわよ)

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 02:17:49.50 ID:60Iu35250

澪「や、やっぱり死んでるよ……どう見ても……」

律「うーん」ごそごそ

澪「なに和の体をまさぐってるんだ、律!」

律「怪しいものは持ってないな。」

紬「……もし和ちゃんが生きていたら……」

梓「調べる価値はありますね。」

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 02:20:40.36 ID:60Iu35250

紬「ちょっとりっちゃん。瞼を開かせてもらえないかしら?」

律「……ああ。」

紬「えい」ピカ

紬「……瞳孔が収縮した……生きてるわ、

  これ、生きてる……信じられない、嘘よ……和ちゃんが……」

梓「……和先輩。もうネタは上がってるんです。寝たふりを止めて起きて下さい」

律「問題がいくつかある。

  その一。和に意識はあるのか?呼吸も浅いし、脈もほとんどない。
  
  そのニ。これは本当に和か?
  
  そっくりさんを置いて、本人はどこかでここの様子を見ているんじゃないか?」
  
梓「私達を惑わそうと?この悪魔め!」ドシュ

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 02:23:22.24 ID:60Iu35250

律「ま、待て梓。殺しちゃまずい。これが本当に和だったら、いろいろ聞くべき事がある」

唯「ね、和ちゃん。起きてよ。みんな。これは和ちゃんだよ。

  顔は腫れ上がってひどい事になってるけど、私にはわかる。
  
  これは和ちゃんだ。
  
  本当の事を話してよ。私達、友達でしょ。」
  
律「……起きる気配がないな。起きなきゃ指を全部折る。それから目を刳り抜く。どうだ?起きろ」

和(そんな脅しで起きる訳ないじゃない。つまらないわよ。)

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 02:24:48.31 ID:60Iu35250

律「……」ボキ

和「……」

律「痛いだろ?」ボキ ボキ ……

梓「先輩。私にもやらせて下さい」ボキ ボキ

梓「こいつ、人間じゃないです!私達を、こんな目にあわせて……」ボキ

梓「はあ、はあ。」

和(……人間よ、私も。でも、今までのやり取りで分かった。本当に恐るべきは……)

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 02:28:05.34 ID:60Iu35250

律「ちっ。じゃあ、目を刳り抜く。最後の忠告だ。起きろ、和」

和(両目くらいあげるわ。私だって、覚悟を決めてるのよ)

律「梓、やるか?」

梓「え……何もそこまで……」

紬(りっちゃん……)

私は、和の眼窩に指を差し込み、目玉を片方ちぎりだした律に、恐怖した。
律は正しい。それはわかる。この状況で、なんら間違えた事はしていない。
ただ、寒気が私の背筋を襲った。
和の残った目を刳り抜いているとき、和がかすかに口から声を漏らした。和の体は震えていた。
律はそれに気がついているのだろうか?私達4人はその光景を呆然と見つめていた。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 02:31:23.01 ID:60Iu35250

律「おい。やっぱりこいつ、意識がある。

  視神経をちぎった時、声を漏らしたぜ。それに今、息遣いが荒くなってきているな。」

唯「……りっちゃん、もう止めて……和ちゃんが……かわいそう……」

律「唯。ずれたこと言うな。生き残るためだ。目がなくても、尋問できる。

  でも、これで起きないなら、ちょっと方法を変える必要もあるな」

和(さすがに痛いわね。……信じられない。目をつぶされるのがこんなに痛くて、不安になるなんて
 
  でも私の勝ちよ。……ここまでは。ちょっとは面白くなってきたわ。)
  
和『……結局爆弾は起爆させなかったのね。うれしいわ。これでもっとゲームを楽しめる。』

澪(このタイミングで放送か……)

律「保身のためか、和。これで尋問は中断だ。ちくしょう。」

紬(本当に保身のためなら、きっと目を潰される直前で放送を流していたでしょうね……

  和ちゃんがコントロールしていないのか、それとも目を失ってもいいと思っていたから?

  後者なら……)

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 02:37:44.01 ID:60Iu35250

和『でもなんであなた達、爆弾を爆発させなかったの?

  そう。きっと気がついたのね。この飛行機には、一般の人も乗っているって。
  
  何一つ悪いことをしたことのない人間はいないと思うけど
  
  法律を遵守し、真面目に生きている会社員、まだ2児の子を育てる母親、純真無垢な幼児……
  
  この飛行機にはそんな無実な人間がたくさん乗っている。
  
  その人達の事を考えて、自爆しなかったの?
  
  ……誰がその事に気がついたのかしら?
  
  他人の事を一番思いやるムギかしら。
  
  そんなムギに、秀才のどかの、哲学教室~』
  
梓「ふざけてるです……」

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 02:40:03.73 ID:60Iu35250

和『ムギ。あなたは列車の運転手。

  今日もおひさまぽかぽか暖かい日。でも、大変な事が起きるの……
  
  ムギの運転する列車が、制御不能に陥ったの。ブレーキは効かない。
  
  列車は猛スピードで、踏切へと向かう。
  
  そこは、通学する子どもや、通勤中のサラリーマンでごった返している。
  
  どうしようもない状態に、ムギは目をつむる。でも、ムギは気がついた。
  
  目の前の分岐を切り替えれば、列車は脱線するけれども、子供たちは救える。
  
  たくさんの人達を救える。なぜか、乗客は今日に限って4人しかいない。
  
  さあ、どうする?
  
  分岐を切り替えれば自分と乗客4人は確実に死ぬだろうが、たくさんの命を救える。
  
  分岐を切り替えなければ、自分も車にぶつかって死ぬ可能性がある、そして多数の人間の死は確実である。
  
  そしてムギは選んだの。多数の人間の死を……
  
  ムギ。あなたは正しいわ。……功利主義者の私から見てもね。』
  
紬「……なにこれ……」

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 02:41:34.40 ID:60Iu35250

和『さて。ここで次のゲームよ。ちょっと画面が変わるわ。』

和『見える?ここはあなた達が先ほどまでいたエコノミークラス。

  乗客の皆さんは、すやすや休んでいるわね。羨ましいでしょ。さて、ここでアナウンス』
  
『ピンポーン

  おやすみのところ大変失礼いたします。機長です。
  
  ただいま、当機は機体トラブルのため、緊急事態に陥りました。
  
  酸素マスクを下ろしましたので、早急にご利用下さいませ。
  
  なお、使用方法のわからない方は、お近くのアテンダントまで……』
  
律「……和……おまえ……本当に人間じゃねえ」

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 02:44:19.61 ID:60Iu35250

紬(……今度は何を……さっき爆発させておけばよかったと思えるような、残酷な選択を私達に迫るの?)

和『みんなは安心して。このファーストクラスは安心・安全。

  だって、何のトラブルも発生していないんですもの。

  ほら、機内は大パニック。でも、何もないというわけじゃないのよ。
  
  これからエコノミークラスの空気を抜くの』
  
唯「和ちゃん!!もう止めて!許して!私が何でもするから!」

和『……次の金庫はB2。番号は11074。ヒ・ト・デ・ナ・シ。と覚えてちょうだい。

  さあ、5分後には空気を抜くわよ。急いで!金庫を開けたら次の選択』
  
律「急げ!」

唯「1、1、0、7、4。開いた!え?なにこれ。工具箱……ペンチに、ノミ、キリにトンカチ……」

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 02:48:29.37 ID:60Iu35250

和『……空気を抜き始める前に説明するわ。

  今、この飛行機は、高度1万メートルを飛んでいる。高度1万メートルの気圧は100mmHgほど。
  
  エベレストの山頂より1000mも高いといえば、その凄さがわかるかしら?
  
  突然、人間が、そこに放り込まれたら……
  
  生身なら、まず酸素が薄すぎて気絶するわね。それから高山病と同じ症状で死ぬ。
  
  でも大丈夫。酸素マスクからは、新鮮な濃い酸素が送られる。
  
  でも、もっと恐ろしいのは、その気温よ。
  
  大体-50度の空気に、晒され続けるの……何の防寒装備もなしに……
  
  耐えきれるかしら?Tシャツと毛布だけで……』
  
唯「やめて!和ちゃん!これ以上罪を重ねないで!私は、今、本気で和ちゃんの事を心配している

  これ以上踏み込んだら……私はもうあなたの事を友達と思えないし、あなたは……」
  
律「唯。言っても無駄だ。和は、私達の想像を遥かに超えた悪だ。」

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 02:50:36.70 ID:60Iu35250

和『……あなた達は、何もせずに、

  ここの画面から、彼らの悲鳴と、ゆっくり凍り付いていく様子を見ればいい。

  傍観者ほど楽なものはないと言われているけど、楽なことほど辛いのよ……
  
  でも、暖かい場所にいて、苦しむ人々を見るのは幸せと感じる人間は、この世にみちみちている。
  
  ねえ、唯。あなた、暖かいコタツに入りながら、私と一緒にアラブの戦争のニュースを見た事があるわよね?
  
  中学生くらいの時かしら……
  
  あなたは現実感も湧かずに泣き叫ぶ子供たちを見つめて、真剣な顔をしていたけど……
  
  どうして本当に悲しいのなら、その時家を飛び出して、世界を変えようとしなかったのかしら?
  
  その答えをじっくり考えながら、八寒地獄を見つめなさい。
  
  仏教も、キリスト教も、地獄の一番底は、世界のどこよりも冷たい世界と考えられているのは、興味深いわ……』

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 02:52:44.89 ID:60Iu35250

律「和。この工具は何をするため?」

和『……真実へ一歩踏み出したみんなに私からのプレゼント。

  実は、その工具箱の底に、小さなリモコンがあるでしょ?それに正しい5桁の番号を入力できたら……
  
  あなた達の勇気に免じて、客を救うわ。空調を元に戻してあげる。
  
  そして、その番号を知っているのは私だけ。
  
  さあ、賢いみんなは何をするべきかわかったわよね?』

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 02:57:20.61 ID:60Iu35250

梓「じょ、冗談ですよね……」

和『さあ、空気を抜き始めるわよ。

  時間は遅いようで早い。
  
  ちなみに日常的な服装で-50度の世界に放り込まれたら……
  
  人は大体2時間で死ぬと言われているわ』
  
  
いったい和はどんな気持ちで、声をはずませながらこの録音をしたのだろうか?

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 02:59:46.03 ID:60Iu35250

律「おい!のどか!起きろ!この畜生!」

和「……」

紬「嘘でしょ……何よ、なんなのよ……何が目的なのよ……」

和『‥…ムギ。

  ……私はただ、あなた達とゲームがしたいだけ。
  
  けいおん部の団結力を持ってすれば、きっと英雄になれるわ!!
  
  必要なのは、人類愛と、自己犠牲の精神よ!それを忘れてはいけないわ……
  
  さあ、何か質問は?』

澪「私にはできない。見えない、聞こえない」

紬(澪ちゃんは、本気で怖がると、床に丸まって腕で全身を包み込むようにしながら、泣きじゃくるのね。
  
  でも……私に出来ることって……本当に何も無いわ。何も考えつかないわ)

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 03:02:01.76 ID:60Iu35250

梓「……律先輩。あなたは……」

律「ちょっと不気味だ。なぜ、和は自ら進んで、苦痛を受け入れるのか?わからない。
  
  でも、用意された以上、やるしかないと私は思う。」
  
唯「な、何を……」

律「そのための工具だ。なあ、誰かやりたい奴はいるか?」

梓(……そんなの律先輩以外にいないじゃないですか。)

紬(りっちゃんも苦しんでいる。彼女は進んで、自分で一番つらい選択を選ぶ。

  さっきのにしてもそう。やり過ぎかも知れないけれども、
  
  状況を打破するために、和ちゃんの意識があるかどうかの確認は必須だった。
  
  誰もやりたがらない、でも必要な行為……
  
  それは、いわゆる悪だとか、賎しいだとか言われているものだけど
  
  りっちゃんは、みんなのためを考えて、きっと、それに染まってゆく。
  
  私は……そんなりっちゃんを救いたい)
  

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 03:04:40.51 ID:60Iu35250

唯(みんな苦しんでいる。りっちゃんがきっと、一番この中で喘いでいる。

  りっちゃんがいなければ、私達の心は、爆弾で折れていた。
  
  いや、きっと注射で折れていた。
  
  いや、私たちは集まることもなかったかもしれない。
  
  だから、私も、りっちゃんのために……)
  
紬・唯「「私がやる……あっ」」

律「唯……ムギ……」

唯「ちょっと、ムギちゃん。私が……」

紬「いいえ、唯ちゃん、わたしが……」

梓(……ああ、そうか。この先輩たちは……私はなんて恥ずべき人間なんだ!

  律先輩こそ、真の人間!二人はいち早く、それに気がついたんだろう。
  
  私は、律先輩を怖がって……)

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 03:07:00.04 ID:60Iu35250

律「ありがとう。でも、私がやるよ。もう手は汚れているし」

梓「あ、あの。律先輩、ほんとうにすみませんでした」

唯「あずにゃん……」

律「梓。気にするな」

違和感の正体……その一つがわかった……律と和は同質なのだ。

自分が傷つくこと、汚れることを一切恐れない

躊躇していないのだ。痛がり屋の自分とは比べ物にならないほどに、二人は……

でも私にはわからない。なぜ律は問うたのだ?

『誰かやりたい奴はいないか』、と。同類を私たちの中に求めたのか?

この時、私は幼い頃から一緒にいた律が人間の顔を持った化物に見えてきた

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 03:10:51.26 ID:60Iu35250

和(律は澪に助けを求めた。澪はそれを無視している。

  きっと今は震えてるんでしょう。でも、このゲームの勝者は……
  
  律はきっと生き残る。最後にワクチンを手にするのは律。
  
  律には魅力がある。他の人は、律の為にもはや死を選ぶのも厭わないでしょう。
  
  ただし、一番恐るべきは律ではなく……一番人間的な人間なのだと思うわ……
  
  まあ、ただでワクチンを打たせるほど、焼きは回ってないわよ。
  
  私が死ぬまでたっぷり楽しみましょう、私の最大の敵)
  
律「和。最後に尋ねさせてくれ。これから私はお前の体を壊す。

  私の気が済むまで壊す。
  
  さあ、番号を教えろ」
  
和「……」

律「もう私には救えない」

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 03:12:47.13 ID:60Iu35250

和『さあ、空気を抜き始めて20分。

  室温は-30度。風がないから、そこまで深刻じゃないけどね。
  
  でも、酸素マスクを外したら、薄い空気で一気に死ぬわね。
  
  叫び声も聞こえなくなってきた頃かしら。
  
  みんな震えていると思うわ。その光景が目に浮かぶ。みんなはそれを見れて、ちょっと羨ましいわ。
  
  ……』
  
紬「りっちゃん……りっちゃん……もう……あなたまで……」

律「痛いだろ?さっきからうめき声を漏らしているぜ、和。

  尿まで漏らして、どうしてここまでするんだ?

  なぜ起きない?なぜだ……何が望みだ。ほら、答えろ!
  
  今度はキリで背中中に穴を開けるぞ!痛いだろ、私だって……」
  
和「……っ……あ……ひっ」

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 03:16:03.88 ID:60Iu35250

唯「りっちゃん……もうこいつは何があっても起きないよ……

  前歯をペンチで抜かれても、許し一つ乞わないなんて……

  人間じゃない、こいつは……だから、もう……」
  
梓「律先輩ごめんなさい律先輩ごめんなさい」

律「ちくしょう、早く答えろ、時間がないんだ、

  今度は釘を、抜けた前歯の痕に打ち込むぞ」

澪「な、なあ。律。もうやめてくれ。

  もう十分だ、もう十分やっただろ。誰も責めないぞ、律、お前はほんとうに…

  さあ、この爆弾を使おう。もう乗客も助からない。苦しそうじゃないか、お客さんたちも。
  
  寒さに震えて、マスクを離せば死ぬ、
  
  だからそれに必死にしがみついて、切れると分っている糸に、みんなで必死にしがみついて
  
  もう楽になろうよ、爆弾を……」

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 03:17:30.54 ID:60Iu35250

紬「澪ちゃん!……あなたって人は……

  りっちゃんがどれだけの覚悟で……こんな事をやっているかわかってるの!?」

澪「りつぅ……もう見てられないよ……」

和『そろそろ、寒さに耐えられない子供が全滅した頃かしら?
  
  日常からの突然の転落……
  
  あなた達と同乗したばっかりに……なんて不幸なの!なんて運がないの!
  
  飛行機に一切のトラブルはない。
  
  それなのに、なんでこんな寒い中、指先がすり切れるほどの寒さに暴露されなくちゃいけないの!
  
  悲しすぎるわ、人生。さ、よく画面を見て。あそこは極寒の地。
  
  シベリアよりも寒い、高度1万メートルの世界。』

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 03:19:38.99 ID:60Iu35250

ノドカは人間の形をかろうじて留めているだけとなった。

律「もう……やりつくした。ごめん、みんな。和。お前も……もう……」

和「……っ……はぁ……さ…す……が…っ……ね……」

唯「和ちゃん!どうしてこんな事!」

和「………ワ…クチ…っ……ン……は……ビィ……」

紬「え?」

和「……ビィ…よ……いま……まで……あり……が…」

律「和は死んだ」

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 03:22:06.09 ID:60Iu35250

エピローグ!

和『……二時間!残念。あなた達は、乗客を救えなかった。』

和が死んだ後、私たちは力なく座り、画面から目を背けていた。誰も言葉をかけるものもいない。

和『……これであと4時間後に、成田につく。ねえ、みんな、まだ遊びたいかしら?』

和の問いかけに誰も応じない。和はもう死んだ。

工具を使って壊された和の骸は、静かに席に置かれ、それに触れるものもいない。

和『……どうやら、私は死んだようね。

  でも、あなた達は生きている。』
  
和『……ウイルスに侵された体で、日本の地を踏む?

  天然痘のパンデミック、あなた達は英雄になれないのよ?

  まだ遊びたいなら、返事をして』
  
律が、一番疲れているように思われた。虚ろな目をして、和の骸を律だけが見つめている。

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 03:24:13.93 ID:60Iu35250

ワクチンの番号はB。それだけが私の頭の中にこびりついたままだった。

『当機はただ今、日本の上空を飛行しております。

 これより高度を落としますのでシートベルトのご着用をお願いいたします』

無気力な機長のアナウンスが響く。

唯「ねえ。りっちゃん。ワクチンを打って。

  りっちゃんは、生きるのにふさわしいよ……今まで本当にありがとう。」

紬「私からもお願い。りっちゃん、ワクチンを打って。

  私たちの分も、これから生きて。幸せに……生きて……」

梓「……律先輩、ありがとう。本当に、ありがとうございました。

  私は、きっとあなたに出会えたから、救われたんです……」

澪「……律。私からも…みんな。私は、もうここで死ぬ。

  本当にありがとう。天国で待ってるよ……この体、生き残ってもみんなに迷惑をかけるだけだ」
  
唯「澪ちゃん……」

113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 03:25:59.32 ID:60Iu35250

私は、Aのシールが貼ってある注射器を取り、自分に打つ。シアン化カリウム。

唯も、ムギも梓も、B以外の注射器を取り、自分に打つ。意識を失うようにして倒れていく。

律はそれを見届け、静かに立ち上がり、Bの注射器を取り出す。

それを自分に打つ。そうだ、全てはそれでいいんだ。

律「……楽しかったよ、ありがとう」

彼女は最後にそうつぶやいた。

115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 03:27:21.60 ID:60Iu35250

和『……おかえりなさい。日本に到着、おめでとう。

  あなたは英雄よ。シャワーを浴びたら、服を着替え、ドアを出て、エントランスへ向かうのよ。
  
  協力機関の方が迎えに来ているから。あなた達のことは丁重に扱うよう、指示してあるから安心して。
  
  まず家族に会いたいだろうけど、しばらくはホテルで暮らしてもらうわ。
  
  機内は十分に殺菌しておくから、ウイルスが広がる事はない。
  
  私は、自分の名誉と魂にかけて誓うわ。あなたに自由と、身分を保証する。
  
  本当におめでとう。あなたは無事、英雄となったのよ。人類を救ったのよ!』

116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 03:32:30.70 ID:60Iu35250

私は静かに立ち上がり、全てが行われたファーストクラスを後にする。

横たわる5つの友の死体を踏み越えた。

虐殺が行われたエコノミークラスは見たくもなかったが、

シャワーを浴びて空港へとつながる通路へいくには、そこを通らなければならない。

全ての客は死んでいた。凍りついていた。
  
私はよろめきながら、飛行機を後にし、地上へ降りる。

明るいエントランス・ホール。私は生きている。
  
秋山澪は英雄なのか?シールを貼り替え、ワクチンを手に入れた。

それ以外、私は何もしていない。何かしたのは、他のみんなだ。

―いや、あなたは爆弾の承認をしたのよ、澪―

119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/03(金) 03:43:32.33 ID:60Iu35250

耳をつんざく爆音。私は振り返る。

誰だ?和か?和のいう、協力者?

いいや、まだプラスチック爆弾の承認をしていなかったのは……

律か?律は怪物だ。律は全て読んでいた。でも……まあ、いいか。

この世にワクチンを打った人間は私一人。

終劇

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