梓「私、結婚しますから」

16 3月, 2012 (14:11) | けいおん! | By: SS野郎

1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:19:10.55 ID:1FD7vy2wo
こんにちわ、平沢唯です

突然ですが、私には好きな人が居ます

私の一つ下で、同じ軽音部に入部してくれた唯一の後輩、一年生の中野梓ちゃん

通称、あずにゃんです

ちっちゃくて、可愛くて、真面目で、ギターが凄く上手いです

そんなあずにゃんに、私は一目惚れしちゃいました

あの瞬間のことは忘れられません

新入部員が来なくて、みんなで悩んでた時

控えめなノックの音が部室に響いて

次の瞬間、あずにゃんがおずおずと入ってきた時のことを

一瞬で心を奪われました

まあ、その気持ちが恋だったと気づくのには、三ヶ月ほどかかりましたけど


2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/02/27(月) 01:20:42.76 ID:1FD7vy2wo
部室

唯「やっほー」

部室のドアを開けると、真っ先に目に飛び込んで来たのは

唯「あ」

ベンチに荷物を置こうと背を向けているあずにゃんでした

梓「あ、唯先輩」

振り向いて、素敵な笑顔を向けてくれます

梓「こんにちわ。今日は早いですね」

もう我慢できません

唯「あーずにゃああんー!」

梓「ちょ、ちょっと唯先輩!」

一直線に向かって行って、ほとんど飛びつく感じで抱きつきます

私のバッグが床に落ちましたが、そんなのは気になりません

今はその小さくて柔らかいあずにゃんの体を堪能する時です

唯「あずにゃん久しぶりー。会いたかったよー」

梓「久しぶりって、今朝も一緒に登校したじゃないですか」

唯「私、三時間あずにゃんに会わないとダメかも」

梓「休日とかは平気じゃないですか。またそんな適当なことを……」

適当というか、嘘じゃないんだけどね。休みの日だってずっとあずにゃんのこと考えてるし

たまに耐えられなくなって、理由を付けてはあずにゃんに会いに行くけど

でも、引かれちゃうよね。女の子同士なのに、そんなことさ

3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/02/27(月) 01:21:24.66 ID:1FD7vy2wo
唯「適当じゃないもーん」

だから、そんな風にかわして

あずにゃんの首筋に顔を寄せます

ああ、もうすっごいいい匂い

梓「ちょ、唯先輩、恥ずかしいんですけど……」

唯「あずにゃん分補給だよ。大丈夫だよ、いい匂いだしー」

梓「きょ、今日体育あったんで、汗臭いんじゃ」

唯「気にならないよー」

ぎゅーっと、痛くない程度に抱きしめます

至福の時間だけれど、そんな時でも私は頭の中で、この時間が終わるまでのカウントダウンを忘れません

3、2、1、っと

唯「ふあぁ、補給完了ー」

ジャスト一分

私はあずにゃんから離れます

梓「もう、いっつもいっつも……。恥ずかしいじゃないですか」

唯「大丈夫だよー。私とあずにゃんの仲じゃん」

梓「学校で、とか……」

唯「学校じゃ無ければいいの?」

梓「そ、そんな問題じゃありません!」

4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:22:33.64 ID:1FD7vy2wo
ぷいっと顔をそむけるあずにゃん

その仕草が可愛らしくてたまらないけれど

学校じゃ無ければいいのかな?

なんて、ちょっと思ったりもします

まあ、そんな問題じゃないのもわかっているけど

あずにゃんは優しいから、私のしたいことをさせてくれてるだけです

決して、誤解しないように。期待しないように

だからこそ、ジャスト一分

唯「みんなはまだ来てないの?」

梓「まだみたいですね。私もさっき来たばかりなので」

唯「そっかー」

落ちた鞄を拾って、ソファーに置かれているあずにゃんの鞄の隣に置きます

同じくギー太も、あずにゃんのむったんの隣に

ささやかな幸せです

梓「みなさんもうすぐ来るでしょうし、先にお茶の準備しときましょうか」

唯「そうだねー。あ、手伝うよ」

梓「お願いします」

唯「今日のむぎちゃんのお菓子、何かなぁ」

梓「なんでしょうねぇ」

5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:23:36.18 ID:1FD7vy2wo
ガチャ

律「おいーっす」

澪「お、二人とも早いな」

りっちゃんと澪ちゃんが来ました

あずにゃんとの二人っきりの時間もおしまいです

それがちょっと惜しかったり

唯「遅いよ二人ともー」

梓「こんにちわ、律先輩、澪先輩」

律「ちょっとなー」

澪「そう言えば、むぎは?まだ来てないのか」

唯「まだ来てないみたいだよ」

梓「もうそろそろじゃないですかね」

その時です

ガチャ

紬「うふふ」

物置部屋の扉が開いて、そこからムギちゃんが現われました

紬「こんにちわー」

梓「ムギ先輩?」

律「なんでそんな所から。……まさか」

6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:24:13.64 ID:1FD7vy2wo
紬「うふふ、良い物見せてもらいましたーお二人さん」

梓「ちょ……」

唯「あはは……」

どうやら見られちゃったみたいです

私があずにゃん分補給するところ

恥ずかしいけど、同じくらいに嬉しいのは何故だろう

澪「相変わらず好きだなぁ、ムギは」

紬「趣味だからね。あ、もちろん澪ちゃん達のも大好きよ?」

澪「ちょ……!」

律「マジで……?」

紬「私に隠し通せると思ってたの?うふふ」

なんだか澪ちゃんとりっちゃんが真っ赤になってます

よくわからないけど、突っ込まない方がいいのかな

梓「もう!来てるなら最初から言ってくれれば、私も唯先輩に抱きつかれなくてすんだんですよ」

紬「あらあら、素直じゃないわねー」

梓「そ、そんなんじゃ!」

7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:24:41.25 ID:1FD7vy2wo
え、あずにゃん、やっぱり私に抱きつかれるの嫌なのかな……

こ、これからどうしようか

抱きつきたいけど、やっぱ一分は長すぎたのかな

三十秒、いや、二十秒くらいにしといた方がいいのかな……

紬「それじゃみんな揃ったし、お茶にしましょうか。今日はショートケーキよ」

ムギちゃんは、顔を真っ赤にしてる三人を横目にお茶の準備を始めました

心なし、どこかお肌がつやつやしているような気がします

澪「い、いつのを見られたんだろう……」

律「いやまぁ、見られたんなら仕方ねーんじゃねーの?」

澪「そ、そんなこと言ったって、もしアレとかアレとか見られたとしたら……」

律「だーから家に帰ってからでいいじゃんって言ったのにー」

澪「だって、あの時は律だって乗り気だったじゃ!」

よくわからない話をしてるけど、澪ちゃんとりっちゃんも抱き合ったりしてたのかな

まあ、幼なじみだし、仲いいもんね

はあ、それにしてもあずにゃんのこと、どうしよう……

梓「唯先輩?どうしたんですか、何か考え事を?」

気づくと、あずにゃんが私の顔を心配そうに見ていました

どんな顔をしていたのか自分ではわかりませんが、

唯「だ、大丈夫だよ!大したことじゃないって!」

あずにゃんに余計な心配をかけるわけにはいきません

決して大したことじゃないわけじゃありませんが、そう言っておきます

唯「ほらほらあずにゃん、お茶始めるよ。席に座って!」

9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/27(月) 01:28:53.99 ID:/1oHF7EOo
っしゃああああああああああきたあああああああああああああ
全力で支援するぞ

10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [>>8 行きます]:2012/02/27(月) 01:30:37.52 ID:1FD7vy2wo
夏休みが終わって、もう十月になろうとしていました

夏服から冬服に衣替えも始まって、もうすぐ文化祭の準備も始まろうとしています

日々を過ごして、時間が進んで行っても

それでもあずにゃんへの気持ちは変わりませんでした

むしろ、どんどん強くなっていくような気さえします

あずにゃんと会える毎日はとても楽しくて、毎日明日が待ち遠しいのですが

そんな気持ちの隙間にふと、この時間の終わりのことも考えるのです

つまり、卒業

まだ私は二年生で、まだまだ一年以上も先の話ですが

それでも、あずにゃんと当たり前のように毎日を過ごせる日々の終わりは、確実に近づいているのです

当たり前と言えば、当たり前の話です

私は二年生で、あずにゃんは一年生

誰にでも高校生活は三年間しかなくて

私はあずにゃんの居ない一年を、すでに過ごしているのです

そんなことが、この日々の終わりが頭を過ぎると

ふと、妹の憂がうらやましくなります

憂は一年生の今、あずにゃんと出会えているし、同じクラス

憂は三年間、あずにゃんと一緒なのです

あずにゃんの居ない一年を、過ごさなくていいのです

……って、そんなことを今更言っても仕方ありませんけど

軽音部のみんなと出会えた一年生のときは、それは、私も楽しくないはずがありませんでしたから

でも、どこかで「ずるいなぁ」という自分勝手な感情も、やっぱりあるわけですけど

13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:31:31.80 ID:1FD7vy2wo
律「そういえば、もうすぐ文化祭だな」

ムギちゃんのお茶を飲んでいる時、りっちゃんがそう呟きました

澪「そういえばそうだな。あと……三週間か」

紬「澪ちゃんのクラスは何をやるの?」

澪「あー、どうだろうな。喫茶店とかじゃないかな」

律「え、澪、メイド服着るの!?」

澪「き、着るわけないだろ!私は、たぶん受付とかになるよ。ライブもあるし……」

律「ちぇー」

紬「ふふ、りっちゃん。メイド服、うちにあるわよ?」

律「え、マジで?ちょっとそれ今度かs」

澪「こ、こら律!――む、むぎのクラスは何をやるんだ?」

紬「それがね、私たちのクラスは部活してる人が多くて。クラスの出し物にまで手が回らないから」

郷土研究になったの、とむぎちゃんは残念そうに言いました

そうです。私たちのクラスは郷土研究

つまり、実質的に出し物はしないのです

去年は焼きそば屋さん楽しかったし、今年も何かやるのかなってちょっと楽しみだったんですけど

それでも、仕方ありません

それに、クラスの出し物が無い分、放課後ティータイムの活動に時間が割ける

つまり、あずにゃんとの時間が確保されたわけです

あ、そういえば

唯「あずにゃん」

梓「はい?」

14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:32:04.20 ID:1FD7vy2wo
可愛らしく両手でマグカップを持ってお茶を飲んでいたあずにゃんが、私に顔を向けます

少し首を傾げるその仕草なんて、私はきっとずっと死ぬまで覚えていることでしょう

唯「あずにゃんのクラスは出し物あるの?」

出し物何をするの、と聞いた方が良かったと思いました

これじゃあ、まるで出し物が無ければいいのにと思っているようじゃないですか

いや、思ってはいますけど、それでも

梓「たぶんやりますよ。みんな乗り気でしたし」

まあ、そうですよね

唯「そ、そっか。ははは……」

当たり前に、ありますよね

梓「あ、でもちゃんとライブのために、裏方に回してもらいますよ。私もライブ楽しみですし」

そう言って微笑むあずにゃん

その微笑みの対象が私であることに、どこかムズムズします

律「そう言えば梓はこのメンバーでライブするの始めてだよな」

梓「はい。というか、ライブをするのも初めてです。バンドに入ったの放課後ティータイムが初めてなので」

紬「そっかー。梓ちゃん、初めてなんだー」

むぎちゃん、なんか言い方エロい

澪「まあ、ライブは二日目だから、梓はクラスの出し物も頑張っていいよ。一年生の出し物は一日目だしな」

が、頑張っちゃダメだよ澪ちゃん。あずにゃんに会えなくなるじゃん

梓「そ、そうですけど、やっぱりライブの練習もしっかりやりたいので……」

その時チラっと、あずにゃんが私を見ました

いや、私がずっと見てたから、たまたま目が合っただけなのかもしれませんけれど

唯「そ、そうだよね!練習もしっかりしなきゃ!」

梓「そうですよ。だからこんな風に、のんびりしてるのも時間が勿体無いです」

15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:32:30.72 ID:1FD7vy2wo
唯「こ、これは大事な時間なんだよ。お茶しながら力を蓄えてるんだよ!」

そういうことにしておきます、と言って、あずにゃんはため息をつきました

でもそれは、なんというか、暖かくて、どこか優しげな種類のため息のような気がしました

律「曲目は何にする?Happy Jackやろうぜ!」

澪「洋楽なんかみんなわからないだろ」

律「そっかなぁ。唯が歌ったら結構可愛いアレンジになると思うんだけど」

澪「――なんで唯?」

律「だって一応ボーカル……ちょっと、澪」

違うって、ちょ、待って澪!

何故か不機嫌になった澪ちゃんをりっちゃんが必死になって言い訳しています

どうしたんだろう

澪「どうせ私が歌っても可愛くありませんよーだ」

律「だからそんなつもりじゃ無かったんだって」

紬「ふふふ」

澪「じゃあ、そろそろ練習するか。曲目はまあ、あとで考えよう」

梓「そうですね」

唯「やろっかー」

みんなが立ち上がって、楽器の方へ向かいます

何気に、あずにゃんとの距離が近くなるから練習するのは結構好きだったりします

お茶してる時は、あずにゃんと私の距離は結構開いてますから

席順、やっぱり失敗だったかな

せめてりっちゃんと私が交代すれば、あずにゃんとの距離も近くなるのに

16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:33:34.80 ID:1FD7vy2wo
唯「ただいまー」

玄関に入ると、エプロン姿の憂が出迎えてくれました

憂「お帰りなさい、お姉ちゃん」

唯「もう外真っ暗だよ」

憂「陽が落ちるの早くなったね」

唯「もうすぐ寒くなるよ。嫌だねー」

靴を脱ぎながら、憂とそんな話をします

憂は私が靴を脱ぎ終わるまで、にこにこしながら待っていてくれました

唯「今日のご飯なーに?」

憂「今日はお肉が安かったから、ハンバーグにしたの。もうすぐ出来るよ」

唯「いつもありがとうね、憂。いいお嫁さんになれるよー」

そんな、とはにかむ憂はとても可愛いです

憂もいつかお嫁さんになっちゃうのでしょうか

まあ憂なら、いい相手が見つかるでしょう

いいお嫁さんになれるでしょう

私は、どうだろう

料理とか家事とか得意じゃないし、まず、女の子が好きな時点で幸せになれるとは思いません

かと言って、あずにゃん以外の人にはこれっぽっちも興味がありませんけれど

憂「先に着替えてきてね、お姉ちゃん。降りてきたら、すぐにご飯食べられるようにしておくから」

唯「はーい」

そんな将来への漠然とした不安にぼうっとしながら、私は階段に向かいます

ちら、っとキッチンの方を見ると、憂が何かを口ずさみながら食器を並べていました

18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:34:13.35 ID:1FD7vy2wo
唯「ねー、ういー」

憂と二人での夕食です

お父さんとお母さんはいつものように旅行で、私たち二人での夕食は慣れています

えっと、今回はどこだっけ。フィンランドだっけ?

憂「どうしたの、お姉ちゃん」

唯「さっき歌ってたの、なんて歌?」

憂「え?」

唯「さっきご飯の準備しながら歌ってたじゃん」

憂「あ!」

き、聞いてたの?と憂が顔を赤らめます

憂「えっとね、あれは『いっしょにたべよう』って曲なの」

唯「いっしょにたべよう?」

うん、と頷いて憂はお茶を飲みます

憂「恋人との夕食のために、頑張ってお料理するって歌。歌ってた人はもう亡くなったんだけど」

とても優しい歌だから好きなの、と憂は言います

その表情がとても優しげで、だからきっと、憂はその歌が大好きなんだと思いました

唯「そっか」

憂「今はお姉ちゃんといっしょにたべよう、だね」

唯「恋人じゃなくてごめんね」

憂「そんなことないよ。お姉ちゃんと一緒にご飯食べるの、好きだよ」

憂と二人で笑います

19 :>>17 文字数で12万くらいだからたぶんここでは収まります :2012/02/27(月) 01:36:01.36 ID:1FD7vy2wo
でも、そっか。恋人かぁ

唯「憂は今、好きな人居るの?」

憂「え!?」

えっと、と憂が視線を落とします

憂「……うん。居ないよ」

唯「そっかー」

まあ、女子高だしね

憂「お姉ちゃんは?」

唯「うぇ、私?」

……あずにゃんが好き、だなんて

さすがに憂にも、言えません

唯「居ないよー。私そういうの、まだわからないもん」

私のこの気持ちは、たぶんずっと、誰にも話さないまま終わります

憂「……そっか」

そう言って、憂は不思議な微笑み方をしました

憂「頑張ってね、お姉ちゃん」

唯「?」

あ、そうだ

唯「憂、その、『いっしょにたべよう』って歌。私、練習して聞かせてあげるよ」

憂「え、ほんと!?」

唯「うん。あとでCD貸してね。あずにゃんに習って、弾けるようになるよ」

憂「ふふ、ありがとう、お姉ちゃん」

唯「あ、あとさ。……週末、あずにゃんをお泊りに誘っていい?」

憂「うちに?いいよ。初めてだよね。梓ちゃんが泊まりにくるの」

『いっしょにたべよう』って歌を憂から聞いたからじゃないけど

それでもやっぱり、そういうのは憧れます

恋人同士じゃなくても、その可能性は無くても

好きな人と夕食を食べるのは、頑張れば出来そうです

憂の許可も貰ったし、あとはあずにゃんを誘うだけです

来てくれるかな、あずにゃん

20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:36:51.94 ID:1FD7vy2wo
梓「今週末、ですか?」

唯「う、うん」

翌日の放課後

練習の合間の、休憩時間

ティーカップを両手で持って、あずにゃんは目をぱちくりしました

唯「予定が無いなら、うちでお泊りとかどうかなって」

梓「別に予定は無いですけど……いきなりどうしたんですか?」

唯「え、えっとね」

よし、あずにゃん予定無いんだ!

唯「ほ、ほら、あずにゃんこないだ、両親がお仕事で家空けちゃうって言ってたじゃん。寂しいかなって思って」

心遣いはありがたいんですけど……、とあずにゃんが私を上目遣いで見つめます

梓「本当にそれだけですか?」

唯「あ、当たり前だよ!他意は無いよ!」

憂のお料理おいしいよー

一人じゃないから寂しくないよー

一緒にお風呂入れるよー

夜遅くまでお話できるよー

梓「い、一緒にお風呂は遠慮しますけど……」

ちぇー

でも、とあずにゃんは言いました

梓「……そうですね。一人じゃちょっと寂しいので。もし迷惑じゃなければ」

22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:37:23.08 ID:1FD7vy2wo
お泊りに行ってもいいですか、と

あずにゃんは言いました

唯「も、もちろんだよ!」

梓「それじゃあ今週の金曜から、ですね。よろしくお願いします」

唯「やったー!」

律「なんだ、梓も外泊するのか」

梓、も?

唯「りっちゃんもどこかにお泊りするの?」

律「ああ。澪ん家にな。澪の両親も今週末居ないって言うからさ」

唯「へー」

律「一人じゃ怖いってうるさいからなー。そこで私が仕方なく……」

澪「べ、べつに怖いとか言ってないだろ!」

澪ちゃんが真っ赤になって反論していますが、まあ、一人が怖いのは本当だと思います

それにしても、りっちゃんもお泊りかぁ

……もしかして、

唯「むぎちゃんも、もしかしてどこかお泊りするの?」

それまでニコニコと私たちの会話を聞いていたむぎちゃんは、突然話を振られてびっくりしたのでしょうか、何故かビクっとしました

紬「え?」

唯「あ、みんなお泊りするから、もしかしたらむぎちゃんもかなーって」

紬「う、うん。そうね。さわk、じゃないわ。ホテルに両親と泊まる予定に」

律「……むぎ、ちょっとこっち来て」

その瞬間、りっちゃんと澪ちゃんが立ち上がり、むぎちゃんを引きずって物置に入りました

あまり中の声は聞こえませんが、何かを話しているようです

23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:37:51.25 ID:1FD7vy2wo
「……マジで……さわちゃ……」

「黙っ……なさい……でもバ……と大変な……」

「いや……ないけどさ……実は……」

「そう……私達もちょ……って思っ……」

「ほ、本当!?」

何の話をしてるんだろう

梓「さあ。ちょっと聞こえませんが……」

唯「でも『本当!?』ってのだけは聞こえたね」

梓「そうですね」

んー。まあ、いいや。今はあずにゃんの方が大事だ

唯「へへへ。週末はあずにゃんと一緒だね」

梓「そうですね」

唯「これで寂しくなくなるよ!私が!」

梓「よく言いますよ。言うほど寂しいわけじゃないくせに」

唯「ほ、本当だってー」

梓「はいはい。そういうことにしておきます」

「こ……ゆ……とあず……に……」

「まだ言わ……の」

「……だもんな」

「今が……二人に……期だから……」

「……った」

「あり……」

がちゃ、っと扉が開いて、中から三人が出てきました

24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:38:29.74 ID:1FD7vy2wo
唯「おかえりー」

律「ただいまー」

梓「何の話をしていたんですか?」

澪「ああ、大したことじゃないんだ。気にするな」

唯「えー、なんかずるいー」

紬「ごめんね。でも今は、二人のことだけに集中してほしいのよ、唯ちゃん」

唯「ほえ?」

梓「そ、そういう話だったんですか……」

何故か顔を真っ赤にするあずにゃん

今日は表情がコロコロ変わって、色んなあずにゃんが見られます

唯「そういう話ってどういう話ー?」

梓「私も知りません!」

あずにゃんがプイっと顔を背けます

可愛い

唯「むー。なんか疎外感」

梓「私が居るじゃないですか」

唯「いーもんねー。こうなったら、私はあずにゃんと独立します!」

あずにゃんをぎゅーっと抱きしめます

梓「ちょ、唯先輩!」

唯「これから私達は『ゆいあず』として独立します!」

律「む!HTTから足抜けすると申すか!」

唯「ふふふ。ギターが二人も抜けたら大変じゃないかな?」

律「くっそー。まさか梓までそっち側とはな!」

梓「私の意思じゃありません……」

25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:38:57.89 ID:1FD7vy2wo
唯「ギター二本でどこまでも行くよ私達は……う、嘘だから澪ちゃん。泣かないで……」

澪「う、嘘でも抜けるとか言うなよぉ……」

澪ちゃんが涙目でした

唯「冗談だよぉ。放課後ティータイムは永遠だよー」

律「ごめんごめん。ちょっと乗っかっただけだから。冗談だって」

よしよしとりっちゃんが澪ちゃんの頭を撫でます

こういう時、りっちゃんってすごいなと思います

いつも自然に、澪ちゃんを慰めたりフォローしたり出来るから

梓「むぎ先輩……鼻血出てますよ……」

紬「いいのいいの!私のことは気にせず続けて!」

むぎちゃんは幸せそうです

いつも通りの軽音部の日常です

その時、腕の中であずにゃんが呟きました

梓「永遠、か……」

26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:39:25.72 ID:1FD7vy2wo
金曜日の放課後
唯「まだかなー」

今日はあずにゃんが家にお泊りに来る日

今日という日を心待ちにしてきました

なんだかソワソワしてきます

憂「お姉ちゃん、そんな玄関で待ってなくても……」

苦笑しながら、憂がそう言います

だって部屋の中でじっとしてたら、時間が経つの遅く感じるんだもん

和「本当に嬉しいのね、梓ちゃんが泊まりにくるの」

唯「あ、和ちゃん」

リビングから、和ちゃんがやってきました

和「でもそんなお泊りの日に、本当に私もお邪魔してよかったのかしら」

唯「いいに決まってるよー。大歓迎だよー」

和ちゃんも今日は家にお泊りです

高校に入ってから初めてかな?

以前は結構頻繁にお泊りしに来てくれてたのに

憂「あ、当たり前だよ和ちゃん!私が誘ったんだもん!」

憂がわたわたと手を振って、和ちゃんに言いました

そうです。今日、和ちゃんを呼んだのは他ならぬ憂なのです

27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:39:52.36 ID:1FD7vy2wo
『お姉ちゃん、その、週末に梓ちゃんがお泊りに来る時、和ちゃんも呼んでいいかな……?』

そう言われた時は何も考えずにオッケーしましたが、いきなりどうしたんでしょう、憂は

まあ、最近和ちゃんが家に来なくなったから寂しかったのでしょう

和ちゃんに懐いてるからなー、憂は

っと、そこで、玄関のドアベルが響きました

唯「あずにゃん来た!」

鍵を開けるのすらもどかしく、急いで扉を開けました

開けた扉の先に居たのは、我が麗しの天使、あずにゃん

右手がドアベルを押した形のまま空中で止まっていて、目を丸くしていました

唯「いらっしゃい、あずにゃん!」

梓「こ、こんにちわ、唯先輩。早いですね、出てくるの」

唯「いやー、あずにゃんが来るの待ち遠しくて、玄関で待機してましたから!」

梓「もう、何ですかそれ」

あずにゃんが笑います

あ、信じてないな?

唯「まあいいや。さあさあ、上がって上がって」

梓「はい、お邪魔します」

あずにゃんを招き入れます

28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:40:28.60 ID:1FD7vy2wo
憂「いらっしゃい、梓ちゃん」

和「こんにちわ」

梓「あ、こんにちわです」

あれ?

唯「驚かないんだね、あずにゃん。和ちゃんが居るの知ってた?」

梓「うぇ!?」

びっくりしたように、あずにゃんが変な声を上げました

梓「え、えっとそれはその」

憂「わ、私が伝えてたんだよ。和ちゃんもお泊りするからって。ね、梓ちゃん?」

梓「う、うん!」

ふーん、そっか。まあいいや

唯「あずにゃん、荷物をお持ちします!」

梓「え?で、でも先輩にそんなことをさせるわけには」

唯「いいからいいから」

お泊り道具が詰まっているだろうドラムバッグをあずにゃんから奪い取り、肩に担ぎます

唯「じゃあ、荷物置いてくるから。あずにゃんはリビングでゆっくりしててね!」

梓「は、はい」

急いで玄関からリビングを抜け、階段を駆け上ります

29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:41:04.42 ID:1FD7vy2wo
そうです。目指す場所は私の部屋

こうして私の部屋に荷物を持って行くことで、自然と今夜あずにゃんの寝る場所が決まるのです

あずにゃんは私の部屋で私のベッドで一緒に寝るのです

まあ、一緒に寝るからと言っても、私がしたいようなあれこれは出来ないでしょうけれど

でも、一緒に寝るくらいはいいじゃない。せっかくあずにゃんがお泊りにきてくれたんだもの

部屋の扉を開けて、ドラムバッグをベッドの上に置いて

そして急いでリビングへと戻ります

時間が惜しい!

あずにゃんと過ごす時間が!

唯「た、ただいまー!」

階段を降りてリビングへ出ると、三人はさっそくお茶してました

憂「お姉ちゃん、そんな慌てなくても……」

和「なんだか今日はいつにもまして落ち着き無いわね、唯」

梓「そんなに走ると怪我しますよ、唯先輩」

唯「へへへ、ごめんごめん」

私もソファーに座ります

自然にあずにゃんの隣に座ることも忘れてはいません

30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:41:27.92 ID:1FD7vy2wo
憂「お姉ちゃん、はいお茶」

唯「ありがとー」

さて、と

唯「あずにゃん、今日からゆっくりしていってね」

梓「はい、お世話になります」

憂「和ちゃんも、いっぱいお話しようね!」

和「そういえば最近忙しくて、憂ともあまり話が出来てなかったわね。その分の埋め合わせしましょうか」

憂「うん!」

あずにゃんと憂が顔を見合わせて、微笑みます

やっぱり仲がいいんだなー、二人とも

同じクラスだし

……私も同じ学年で、同じクラスだったら良かったのに

あずにゃんに名前で呼んでもらったりとか、考えただけでドキドキします

まあ、唯先輩って響きも、とてもたまらないのですが

梓「ところで、これから何をしましょうか」

唯「ゴロゴロしようよー」

梓「ダメですよ、だらしのない……」

憂「そうだね。ちょっと時間が中途半端だよね」

31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:42:04.75 ID:1FD7vy2wo
憂がちらっと、時計を見ます

今の時刻は、午後三時半

みんなに用事があるので、今日の部活はお休みにして急いで帰ってきた次第です

憂「そうだ。今のうちに夕飯の買い物行っちゃおうか」

ぽん、と手を打って憂が言いました

憂「四人だから、いつもより多めに作らなきゃね」

和「そうね。そうしましょうか」

あ、だったら

唯「私が行ってくるよ、憂!」

憂「え、いいの?」

唯「うん!私とあずにゃんとで行ってくるよ!」

梓「え、私もですか?」

唯「だ、だめ?」

梓「だ、だめじゃないです。ご一緒します!」

そうです

こんな風に自然な感じで、あずにゃんとプチデートが出来るのです!

和「四人分ともなるとそれなりの量になるだろうから、二人の方がいいわね」

ほら、和ちゃんもフォローしてくれてます

32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:42:37.11 ID:1FD7vy2wo
憂「それじゃ、お願いしていいかな、お姉ちゃん、梓ちゃん?」

唯「もちろんだよ!さあ行こうあずにゃん!」

梓「ちょ、わかりましたからそんなに急かさないで下さい!」

33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:43:04.02 ID:1FD7vy2wo
唯「えっと、それから」

梓「人参と……たまねぎですね」

商店街のスーパー

二人で夕飯のお買い物中です

梓「牛乳っと……あった。こっちでいいんですよね?」

唯「うん。いっつもそれだよー」

梓「うちと一緒ですね」

唯「本当に?えへへ、気が合うねあずにゃん」

梓「選んでるのは私じゃなくてお母さんですよ」

そう言って微笑むあずにゃん

梓「それよりもほら、次は何を買うんですか?」

唯「えーっとね」

憂に書いてもらったお買い物メモに目を向けます

唯「次はお刺身だねー。好きなのでいいってさ」

梓「っていうか、他にも結構量がありますね。食べきれるのかな……」

唯「大丈夫だよ。四人も居るし。それに、憂のご飯は美味しいよー?」

梓「憂、料理上手ですもんね」

34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:43:35.95 ID:1FD7vy2wo
あずにゃんがマグロとカレイのお刺身を手に取ります

梓「どっちがいいですか?」

唯「マグロ」

梓「じゃあマグロで」

あずにゃんがカゴの中にマグロのお刺身を入れました

唯「え、あずにゃんいいの?」

梓「私もマグロの方が好きなので」

そうなんだ。じゃあ、

唯「今度こそ、気が合うね、あずにゃん」

梓「ふふ、そうですね」

そっかー。あずにゃんマグロ好きなんだー

猫っぽいからかな?

梓「さて、あとは……」

唯「アイス!」

梓「もうそんな季節じゃないのに……」

唯「季節なんて関係ないよ!ちゃんと四人分買うから!」

梓「はいはい、わかりました」

唯「あずにゃんは何がいい?」

梓「唯先輩と同じやつでいいですよ」

唯「本当に?おそろい?じゃあねー、おすすめのやつがあってねー」

35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:44:01.35 ID:1FD7vy2wo
唯「あずにゃん、重くない?」

帰り道

二人、両手にビニール袋を持ってゆっくりと歩きます

アイスは氷と一緒に入れているので、しばらくは溶けないでしょう

随分と涼しくなったし

梓「大丈夫です。唯先輩こそ重くないですか?そっちと変えましょうか」

唯「大丈夫だよー。あずにゃんよりも先輩なんだから、重い方は私が持つの!」

梓「じゃあ、ゆっくり帰りましょうか」

二人で並んで、川原の道をゆっくりと歩きます

今が何時頃なのか、時計も携帯も持っていないのでわかりませんが、もう陽が暮れ始めていました

唯「陽が落ちるの、早くなったねえ」

梓「そうですね。もう今年もあと二ヶ月で終わりですよ」

唯「早いねー」

梓「早いですねー」

少し前まで、夏のなごりというか

そういう残り香みたいなものも感じられたのですが、今ではもう、欠片もありません

36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:44:37.41 ID:1FD7vy2wo
唯「ねえ、あずにゃん」

梓「なんですか?」

唯「夏の終わりってさ、なんか寂しいよね」

梓「夏、嫌いなんじゃないんですか?唯先輩。暑いの苦手だから、てっきり」

唯「あー、暑いのは苦手なんだけどね。でも、夏の雰囲気は好きなの」

唯「なんか、にぎやかな感じがするんだよね。お祭りというか、全部が生き生きしてるというか」

梓「それが終わっちゃうのが寂しいんですね」

唯「うん。そうだと思う」

へへ、と笑うと、あずにゃんが微笑んでくれる

唯「だから、夏の終わりになると名残りを探しちゃうの。まだどっかに残ってないかなって」

梓「例えば、どんな名残りですか?」

唯「風の匂いとか、空の青さとか……あと、蝉の鳴き声とか」

梓「蝉ですか?」

唯「うん。蝉の鳴き声って、夏だなーって感じがするじゃん。だから、蝉の鳴き声が聞こえてる間はまだ夏かなって」

梓「なるほど」

唯「変な話しちゃってごめんねー」

37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:45:06.60 ID:1FD7vy2wo
梓「いえ。……他の季節は嫌いなんですか?」

唯「そんなことないよー。春は桜が綺麗だし、秋は美味しいものたくさんあるし。冬は寒いけど、雪とか降るしクリスマスもあるし」

でも、

唯「でもやっぱり、夏はなんか特別なのかな。来るとワクワクするし、終わると寂しいよ。なんでだろうね?」

梓「なんででしょうね。でも、気持ちはわかりますよ」

唯「そっか。ありがとね、あずにゃん」

梓「いえ。……もう蝉は鳴いてないんですか?」

唯「うん。毎年ね、ここらへんで蝉の鳴き声が聞こえなくなるとさ。近所に林があるから、そこまでぶらーっと行ってさ。蝉の鳴き声を探すの」

唯「ここら辺じゃ聞こえなくても、その林だけ、蝉がまだ鳴いてたりするんだけどさ。一週間前くらいかな?もうそこでも鳴き声は無くなっちゃったから」

もう夏は行っちゃったんだよ

そうですか

そのまま、あずにゃんも私も何も言いませんでした

この沈黙がどういう種類の沈黙なのかわかりませんでしたが

居心地の悪い沈黙ではありませんでした

お互いの考えていることがわかるというか

わかるというのは言いすぎでも、検討は付くというか

まあ、私はあずにゃんが大好きで、ただ一緒に歩いているだけで幸せだということもあるのでしょう

梓「また……」

唯「え?」

梓「また来ますよ、夏。来年も」

唯「……うん」

あずにゃんはとても優しいです

38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:45:39.24 ID:1FD7vy2wo
唯「ただいまー」

憂「おかえりー、お姉ちゃん、梓ちゃん」

唯「重かったよー」

梓「お疲れ様です。頑張りましたね、唯先輩」

唯「あずにゃんもねー」

憂「お疲れ様、二人とも。すぐにご飯の準備するからね」

唯「今日のご飯なにー?」

憂「ん?いろいろ。いっぱい作るから、お腹をすかせて待っててね」

憂が張り切っています

やっぱり、和ちゃんとあずにゃんがお泊りにきてくれたのが嬉しいのでしょう

リビングに入り、キッチンへ

買い物袋を置くと、憂がエプロンを付けます

梓「あ、私も手伝うよ。夕飯の支度」

憂「いいよ梓ちゃん。お買い物行ってもらったし、ゆっくりしてて。……お姉ちゃんと」

どこか悪戯っぽく憂が微笑むと、なんだかあずにゃんの顔が赤くなったような気がしました

唯「……あずにゃん、風邪?」

だったら大変です

季節の変わり目。こういう時に体調を崩しやすいのですから

39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:46:08.43 ID:1FD7vy2wo
風邪を引いてあずにゃんが学校を休むということになれば、私はもうどうしたらいいか……

梓「だ、大丈夫ですから!顔覗き込まないでください!」

ぷいっと顔をそむけるあずにゃん

風邪じゃないなら、いいのですが

唯「じゃあ、私と一緒にゆっくりしようよー」

ぎゅっとあずにゃんを抱きしめます

梓「ちょ、唯先輩……!」

唯「いいでしょ?今は学校じゃないし。それに今日は部活無かったから、あずにゃん分補給出来なかったもん」

梓「で、でも憂も和先輩も居るじゃ……」

唯「そういえば和ちゃんはどこに行ったんだろうね」

見当たらないけど

靴はあったから、お出かけではないでしょう

おっと、それどころじゃない

唯「あーずにゃーん……」

あずにゃんの首元に鼻先をうずめます

いい匂いで、あったかくて、肌なんかさらさらで

本当に落ち着きます

41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:46:39.30 ID:1FD7vy2wo
唯「ふあー……」

出来るだけ、このあずにゃんの感触を体で覚えておかないと

許された時間は少ないのですから

三、二、一、と

唯「……はい、終わり!」

梓「え?」

唯「補給終わりー。どうしたの?」

梓「なんかいつもより短か……なんでもないです」

どこか浮かない顔のあずにゃん

どうしたのでしょう

ちゃんと十五秒ルールは守りましたよ?

梓「むー……」

上目遣いで睨まれます

唯「あずにゃん怖い顔しても可愛いよ?」

梓「な、何言ってるんですか!」

ああ、いつものあずにゃんに戻った

42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:47:07.21 ID:1FD7vy2wo
唯「ほらほら、あずにゃん。疲れてるでしょ?一緒に座って、テレビでも見ようよ」

そんなあずにゃんをソファーに誘います

もちろん私の隣に

梓「じゃあ、失礼します」

唯「……あずにゃん、もっと近くにおいでよ」

梓「いや、ソファー大きいんですから、そんなに密着しなくても……」

唯「えー!ダメだよこっちの方がテレビ見やすいから!だからお願いあずにゃん!」

梓「ちょ、だから近いですって!先ほども言いましたけど、憂も和先輩も……」

和「あら、二人ともお帰りなさい」

あずにゃんと必死の攻防をしていると、和ちゃんが戻ってきました

半ズボンに半そでTシャツというラフな格好の和ちゃん

寒くないのでしょうか

唯「ただいまー。和ちゃんどこ行ってたの?」

和「ああ、お風呂を掃除してきたの。憂にばかりやらせても大変だろうから」

梓「……聞きましたか唯先輩。これが年上の女性というものですよ」

唯「耳が痛いよ……」

43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:47:38.37 ID:1FD7vy2wo
和「いいのよ梓ちゃん。唯に手伝わせると、ほら……ね」

梓「ああ……そうですね」

唯「え、なに?なんでそんな目で見るの二人とも」

和「気にしなくていいのよ」

梓「そうです。それが唯先輩の良い所でもあるんですから」

唯「なんかよくわからないけれど、喜んでもいいの?」

梓「はい」

やったー!あずにゃんに褒められた!

憂「あ、和ちゃん」

キッチンからひょっこりと憂が顔を出しました

和「お風呂掃除終わったわ、憂」

憂「ありがとう和ちゃん。ごめんね、お客様なのに……」

和「何言ってんの。幼馴染なんだし、遠慮しないで。夕飯の支度も手伝うわ。エプロンはこれ着ていいのね?」

憂「で、でも和ちゃん、疲れてるんじゃ……」

和「お風呂掃除だけだもの。平気よ」

梓「そうだよー。手伝って貰いなよ和先輩に。四人分だと結構大変でしょ?」

憂「も、もう梓ちゃんったら……」

44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:48:05.95 ID:1FD7vy2wo
憂の顔が心なしか赤くなってます

あずにゃんはニヤニヤしてるし

そんなあずにゃんも可愛い

憂「じゃ、じゃあ、お願いしてもいい?」

和「もちろんよ。えっと……」

そうして和ちゃんと憂が夕飯の支度を始めました

こうやってソファーに座りながら二人が夕飯の支度をするという光景は久しぶりでした

中学までは見慣れていたので、どこか安心するというか、ほっとする光景です

唯「絵になるでしょ。二人がキッチンに立ってると」

同じく私の隣に座って(話かけながらあずにゃんとの距離を少しづつ詰めています)、二人を見ているあずにゃん

梓「そうですね。なんか、和先輩も憂もしっかりしてるタイプだから、お似合いというか」

唯「でしょー?」

梓「……唯先輩も少しは和先輩を見習ったらどうですか。そんなにベタベタしないとか」

唯「えー?」

あずにゃんの肩と私の肩を密着させながら、私はあずにゃんに言いました

唯「でもほら、和ちゃんもけっこうベタベタするよ?」

梓「え?」

45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:48:37.94 ID:1FD7vy2wo
和「相変わらず良いお尻してるじゃない」ナデナデ

憂「あっ!……もー、和ちゃんったら」

和「別にいいじゃない。幼馴染でしょ?」モミモミ

憂「お料理中だから危ないよぉ」

46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:49:25.00 ID:1FD7vy2wo
唯「ね?」

梓「聡明な和先輩のイメージが……」

和ちゃんも久しぶりに憂とお泊り出来て、浮かれているのかもしれませんが

唯「幼馴染だし、あんなもんでしょー」

梓「お尻揉みしだいてましたよ、和先輩……」

唯「憂もスキンシップ大好きだよ?」

梓「憂も嫌がってないところがまた、ね……」

だーかーらー

唯「私達もしよーよー」

梓「だからなんでそうなるんですか」

この流れだったら、あずにゃん、お尻触らせてくれないかなー

唯「だって悔しくない?あっちに負けてるよ!」

梓「こっちはこっちで、マイペースでやるんで心配しないでください」

唯「じゃあマイペースにやろー」ギュー

梓「んむぅ……もう、唯先輩は……」

三、二、一

唯「はい終わり!」

梓「……」

47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:49:52.43 ID:1FD7vy2wo
唯「ふぁー、お腹いっぱいー」

梓「憂、和先輩、ご馳走様でした。美味しかったです」

和「私は手伝ったくらいだから気にしないで、梓ちゃん」

夕ご飯を食べ終わりました

やっぱり、みんなで食べるご飯は美味しいです

両親が仕事だったり旅行だったりでほとんど家に居ないから、いつも憂と二人きりだもんね

憂と一緒なら、寂しくはないんだけれど

梓「ほら、唯先輩。食べてすぐ寝るなんてだらしないですよ」

唯「だってー。お腹いっぱいで動けないよー」

ゴロリと横になります

梓「もう、唯先輩ったら」

ゴロゴロしてたら、視線がスカートで座ってるあずにゃんの足に向きます

……チラっと見えないかな

憂「お粗末様でしたー」

そう言って、憂は食器を片付け始めます

憂「ごめんね、つい張り切って作りすぎちゃった。全部食べてくれてありがとうね」

梓「美味しいから全然大丈夫だったよ。あ、私も手伝うね」

憂「え、大丈夫だよ梓ちゃん。お客様なんだし……」

48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:50:23.89 ID:1FD7vy2wo
梓「料理は全部任せちゃったんだから、これくらいさせてよ」

憂「ゆっくりしてもらうはずだったんだけど……そうだ、お姉ちゃんとお風呂入ってきなよ!」

梓「え!?」

ほっほう……

唯「今すごく魅力的な言葉を聞いたんだけど」

梓「ゆ、唯先輩……」

唯「一緒に入ろっか!あずにゃん!」

梓「お断りします」

唯「なんでさー!」

あずにゃんとお風呂だよ?こんな機会、滅多にないよ?

梓「恥ずかしいじゃないですか……それに、もう子供じゃないんだからお風呂くらい一人で入ってください」

唯「ちぇー」

まあ、嫌がってるなら仕方ないか

無理強いして嫌われるのもいやですし

唯「じゃあ、和ちゃん。久しぶりに一緒に」

梓「誰でもいいんですか?」

唯「一人でお風呂入ってきます」

梓「はい。いってらっしゃい」

あずにゃんの目が怖かったよー

なんで睨むのさー

なんか怒らせるようなことしたかな……

49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:50:50.60 ID:1FD7vy2wo
唯「ふいー。いいお湯だったよー」

お風呂から出ると、憂は洗濯物をたたんでいて、あずにゃんと和ちゃんはテレビを見ながらお茶を飲んでいました

憂「おかえり、お姉ちゃん」

唯「気持ちよかったよー。和ちゃんはお風呂掃除の天才だね!」

和「誰がしても同じだと思うわよ」

そんな謙遜しちゃってー

もう秋も深まって、最近では夜になると肌寒い日が続いてます

そんな時期のお風呂はどうしてこんなに幸せなんでしょうか

梓「はい、唯先輩」

そんなことを考えていると、何やら冷蔵庫の方でごそごそしてたあずにゃんがやってきました

唯「アイスだ!」

梓「唯先輩が買ったんじゃないですか。憂が『お風呂上がったら食べてもいいよ』って言ってましたから、はい」

唯「ありがとー、あずにゃーん」

思わず抱きしめちゃいます

あー、やっぱ大好きだよあずにゃん

梓「……唯先輩あったかい」

唯「あれ、抵抗しないね、あずにゃん?」

梓「抵抗しても抱きつくじゃないですか」

50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:51:24.65 ID:1FD7vy2wo
唯「まあねー」

梓「っていうか唯先輩。髪がちゃんと拭けてませんよ」

唯「え、そう?」

梓「適当にするからですよ。憂、タオルある?」

憂「うん。はい、これ」

洗濯物の中から憂がタオルを出して、あずにゃんに渡します

唯「……おお?」

梓「動いちゃだめですよ」

わしゃわしゃと

あずにゃんが

あのあずにゃんが……!

唯「あずにゃんが私の髪を……!」

梓「動いちゃだめですってば」

優しく私の髪を拭いてくれるあずにゃん

とても気持ちいいです

どこか気恥ずかしいけれど、何故だろう、安心というか、暖かい何かが心の中を満たします

51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:51:50.99 ID:1FD7vy2wo
唯「はわー」

梓「はい、終わりました」

あずにゃんが一歩分、私から離れます

唯「あ、ありがとね、あずにゃん」

梓「いいですよ。それより、髪をちゃんとドライヤーで乾かしてくださいね。風邪引いちゃいますよ」

唯「うん。……あ、アイス」

梓「あ、ちゃんと髪乾かしてからですよ、唯先輩」

んーと

うん

唯「いや、あずにゃんがお風呂から出てからにするよ」

梓「え?でもそんな、先に食べてくれても……」

唯「ううん。いっしょにたべよう」

梓「……はい!じゃあ、急いで入ってきますね」

唯「ゆっくりでいいよー、あずにゃん」

憂「梓ちゃん、はい、新しいタオル」

和「私たちのことは気にしなくていいから、ゆっくり入ってきなさい」

梓「は、はい。じゃあ、お先に失礼しますね」

52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:52:22.92 ID:1FD7vy2wo
そう言ってパタパタと浴室に向かうあずにゃん

そんなあずにゃんの後ろ姿を眺めながら、

唯「ごめんね、お風呂あとになっちゃって」

和「ん?別にいいわよ。最初から、先に入ってもらうつもりだったし」

唯「え?そうなの?」

和「ええ。私、憂と一緒に入るからちょっと長くなるし」

憂「も、もう和ちゃんったら」

憂も顔が真っ赤です

唯「いいなー……」

私もあずにゃんと入りたかったなー

和「明日、誘ってみればいいじゃない。もしかしたら入ってくれるかも」

唯「うん、そうする」

まあ、あずにゃんに髪わしゃわしゃして貰えたから

お風呂は明日のお楽しみということで我慢しましょう

53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:52:59.74 ID:1FD7vy2wo
憂「じゃあ、そろそろ寝ようかー」

みんながお風呂から出たあと人生ゲームをしていたら、もう日付が変わってしまっていました

本当はもうちょっと夜更かしをしていてもいいんだけれど

和「そうね、そうしましょうか」

真面目な和ちゃんはそう言って、片付けを始めました

憂「じゃあ、部屋割りだけど。私とお姉ちゃんの部屋に一人づつでいいかな」

和「いいわよ」

唯「はいはい!私あずにゃんと寝る!」

絶対にあずにゃんと寝る!絶対に!

唯「いいよね、あずにゃん!」

梓「は、はい」

唯「やったー!」

あずにゃんが真っ赤な顔してるけど、もしかしてあずにゃんも嬉しいのかな!?

梓「べ、べつにそういうわけじゃないです!」

ですよねー

和「じゃあ私は憂とね。計画通り」

54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:53:30.86 ID:1FD7vy2wo
唯「え?」

和「なんでもないわ。で、お布団だけど」

憂「あ、お客様用のお布団なら二階の押し入」

和「無いの?なら仕方ないわね。一緒に寝ましょうか」

和ちゃんが絶好調です

唯「お布団無いなら仕方ないね。あずにゃん、一緒のベッドだよ」

梓「な、無いなら仕方ないですよね」

和「そうよ。だから憂、今日は一緒に、ね?」

憂「う、うん。大丈夫だよー」

唯「それじゃあ……」

歯磨きして、部屋に行こう

55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:53:57.62 ID:1FD7vy2wo
私の部屋です

唯「あずにゃんの荷物はあらかじめ私の部屋に運んでおきました!」

梓「知ってますよ。着替えとか歯ブラシとか取りにきたんですから」

そうだったねー。えへへ

唯「あずにゃん、やっと二人っきりになれたね」

梓「ま、またそう訳のわからないことを……」

あれー?結構かっこつけたんだけどなー

あずにゃんって雰囲気を大事にしそうだから、まずは雰囲気からって思って色々考えてたのに

……まあ、どうなろうって期待はしてないけどさ

でも、もしかしたらって小さい希望は持ってたり

あー、でもなー

やっぱり、女の子同士だしね……

梓「唯先輩?」

ふと我に返ると、あずにゃんが私の顔をのぞき込んでいました

梓「どうしたんですか?なんか凄い真面目な顔してましたけど」

唯「……できるだけ長くあずにゃんと一緒に寝るにはどうしたらいいかを考えてたんだよ」

梓「はいはい」

56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:54:31.34 ID:1FD7vy2wo
なんとか誤魔化すことが出来ました

あずにゃんの前では、いつも通りの私でいたいのですが

やっぱり家の中だと、油断しちゃますね

梓「どうします?もう寝ますか?それとも、もうちょっとお話してます?」

唯「間を取って、お布団の中でお話しようよ」

梓「そうですね」

あずにゃんが、憂から受け取った枕を私の枕の隣に置きます

その枕と枕の距離が、心なし近いような気がして嬉しいです

……勘違いでしょうけれど

あずにゃんにしてみれば、きっとそれは先輩と後輩の関係なら、妥当な距離感なのでしょう

そんなことを考えつつ、布団に潜り込みます

梓「じゃあ、電気消しますよー」

唯「はーい」

電気が消えて、部屋の中が真っ暗になりました

ゴソゴソと音がして、ベッドが軋みます

唯「あずにゃん、おいでー」

梓「失礼しますね」

あずにゃんがお布団の中に入ってきました

ゴソゴソと身じろぎした後で、ふぅと息をつくのが聞こえます

57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:55:08.64 ID:1FD7vy2wo
唯「あずにゃん、寒くない?」

梓「大丈夫です。そっち、布団短くないですか?」

唯「大丈夫だよ」

あずにゃんの足が私の足に触れて、ちょっとドキっとします

少しくらいなら、ハメを外してもいいよね?

唯「あーずにゃーん」

出来るだけ優しく抱きしめてみます

一緒に寝てはくれるんだから、今夜はちょっと長めに抱きついても大丈夫だよね

梓「もー、唯先輩は……」

唯「いいじゃん。二人っきりだよ?誰も居ないし」

梓「……まあ、一緒に寝る時点で抱き枕にされるのは覚悟してましたけど」

唯「じゃあいいの?」

梓「……今夜だけですよ」

唯「やった」

あずにゃん公認です!

そうとなれば、今まで短縮していたあずにゃん分補給時間の埋め合わせです

唯「へへー」

58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:55:36.22 ID:1FD7vy2wo
まだ目が暗闇に慣れてなくて、よくわかりませんが

声の方向からして、たぶんあずにゃんはこっちを向いてるよね

なら、首筋に顔を埋めてみます

唯「むふー」

梓「ちょ!……く、くすぐったいですよ」

唯「あずにゃんの匂いがするー」

梓「当たり前じゃないですか」

嗅ぎ慣れてるあずにゃんとあずにゃんの髪の匂い、それに微かなシャンプーの匂い

私と同じシャンプーの匂いがあずにゃんからも漂ってきて、それが凄くドキドキします

唯「私と同じシャンプーの匂いだね」

梓「お泊まりしたんだから当たり前ですよ。そういえば、結構高そうなシャンプーとリンスでしたね。唯先輩の好みですか?」

唯「ううん。憂がね、『女の子なんだから、シャンプーとリンスは良い物を使わないと』って探してきてくれたんだ」

私はそういうの、詳しくないから

梓「そうですか。だから唯先輩も憂も、髪の毛サラサラなんですね」

唯「えへへ。さわってみるー?」

梓「じゃ、じゃあ、少しだけ……」

あずにゃんがすっと手を伸ばす気配がしました

59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:56:03.79 ID:1FD7vy2wo
私の髪に触れた瞬間、ビクッと指先が震えて、その後おずおずと撫でてきます

梓「すご……ふわふわのさらさらです」

唯「へへ、ありがとう」

優しく、まるで猫を撫でるかのようにあずにゃんの手のひらが私の髪を愛でていきます

気持ちいいです。猫になりたい

梓「んぅ……」

私もあずにゃんの髪に触れました

触れた瞬間、あずにゃんが可愛い声で反応します

唯「あずにゃんもサラサラだよ。何これすごい……」

今まで抱きついた拍子に髪に触れたり、意図的にあずにゃんをナデナデしたこともあるのですが

こうやってまともにあずにゃんの髪の感触を楽しむのは初めての経験でした

梓「そ、そうですか?」

唯「うん。なんか本当、お人形さんみたいというか」

梓「髪が黒いし長いから、日本人形みたいとはよく言われます」

唯「色も白いしね……」

梓「ひ、否定してくださいよ……」

唯「可愛いよ、あずにゃんは」

梓「へっ!?」

60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:56:32.34 ID:1FD7vy2wo
ちょ、そんな……。いきなり、言わないでくださいよ

消え入りそうな声でそう、あずにゃんは呟きました

実際、可愛いんだから仕方ありません

本当、可愛いっていうか美人です

私なんかとは全然違いますよ

梓「ま、まあ。ありがとうございます」

唯「お世辞じゃないよー。本当だよ」

梓「唯先輩も、その」

唯「んー?」

あずにゃんの髪を指で手のひらで楽しみながら、続きを促します

梓「唯先輩も、か、可愛いですよ」

あずにゃんの髪を撫でる手が、無意識に止まってしまいました

唯「へ?」

梓「だ、だから!」

ゆ、唯先輩も、可愛いですよ

これも消え入りそうな声で、だけどはっきりと聞こえました

声の小ささは、それほど気にならないくらいに近い私とあずにゃんの距離

そんな、ほとんど密着してるような状況でそんなこと言われると……

61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:57:00.84 ID:1FD7vy2wo
唯「……」

梓「……」

それからお互い、何も言えません

ただ黙って、お互いの髪を撫で続けているだけです

こ、この雰囲気は……

甘酸っぱいような、恥ずかしいような、そんな

今まで経験したことの無い空気です

唯「……」

えっと、どうしよう

何か喋らなきゃ

……でも、あずにゃんって髪さらさらだなー

パジャマなんか二番目のボタンまで外しちゃってて、そこから石鹸のいい匂いとか、いつものあずにゃんの甘い匂いとか……

そんなことを考えていると、

梓「……唯先輩」

唯「ひゃ、ひゃい!?」

なんの前振りもなしに、あずにゃんが私の名前を呼びました

62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:57:27.89 ID:1FD7vy2wo
梓「……なんですか、今の」

暗闇の中で、あずにゃんが吹き出したのがわかります

唯「い、いや、ちょっと考え事してたから……」

いきなり呼ばれるから、ちょっとびっくりしちゃって

うわずった声を上げちゃいました

唯「な、なに?あずにゃん」

梓「えっと。ちょっと、質問があるんですけど」

唯「質問?何でも聞いてよ。何でも答えるよ!」

梓「はい。……その」

そこで、あずにゃんの言葉が止まります

ただ黙って、私の髪を撫でているだけです

その定期的な感触の中で、もっと言えば断続的に続く緩やかな気持ちよさの中で

どうしたんだろう、と思います

何か、悩み事があるのかな?

唯「……あずにゃん、どうし」

あずにゃんが抱きついてきました

私の髪を撫でていた手を、私の背中に回して

私の胸元に、顔を埋めています

63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:57:53.58 ID:1FD7vy2wo
唯「え……え?」

いきなりのことで、上手く言葉が出てきません

あずにゃんの少し熱い、湿った吐息が私のパジャマの布地の隙間を抜けて素肌に感じます

梓「唯先輩、今好きな人とかいますか?」

唯「す、好きな!?」

好きな人って!

今私の胸に顔埋めてる人がそうですって、そんなこと言えるわけないです

唯「い、えっと……」

梓「……いないんですか?」

唯「いる……ような、いないような」

梓「どっちですか。はっきりしてくださいよ」

唯「うぅ、じょ、女子校だし、その」

女子校なのに学校に好きな人が居ますよ私

言えないよあずにゃんにバレたら嫌われちゃうって

どうしようどうしよう

唯「あ、あずにゃんはどうなのさ!好きな人いるの!?」

梓「ちょ、唯先輩に聞いてるんですから、私は関係ないでしょ!?」

唯「いーや、まずは質問する人から先に答えないと!いるの?いないの?」

64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:58:24.07 ID:1FD7vy2wo
追求をかわすための逆質問でしたが

質問しておいてなんですが、答えて欲しくはありませんでした

yesなら確実に私は失恋してしまうし

noでも、結果は同じです

聞きたくないけれど

それでも、一度言ってしまえば後戻りは出来ないのです

唯「あずにゃーん。どうなのー?」

言わないで

誤魔化して

上手く騙されるから、かわされるから

梓「……いますよ」

唯「……っ!そ、そっか」

あずにゃん、好きな人いるんだ……

ズクン、と胸の中で何かが落ちます

抜け落ちたような、何かが刺さったような

そんな音でした

唯「高校は女子校だから、あれかな。中学でいい人が居たのかな」

65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:58:51.70 ID:1FD7vy2wo
男の人、とは言えませんでした

どこかで期待してるのでしょうし、それに

あずにゃんが男の人と、なんて

考えたくも、口にしたくもありませんでした

本当はこんなことだって聞きたくない

私はさっきから、聞きたくないことばかり聞いている

きっとどこかで混乱しているのでしょう

少なくとも、冷静ではありません

梓「……私、今までギターばかりやってて」

唯「うん……」

梓「だから、恥ずかしいですけど、この年になるまで人を好きになったことなかったんですよ」

そんなに恥ずかしいことじゃないよ、あずにゃん

私だって、あずにゃんに出会うまで人を好きになったことなかったし

もっと言えば、私は女の子が好きってこと、あずにゃんに出会うまで知らなかったもの

まあ私は、あずにゃんと違って夢中になれるものもなくて、ただぼうっと生きてきただけだけど

梓「だから、中学では何もありませんでした。高校に入ってからです、その人と出会ったのは」

唯「……どこか、外で?他の学校とか」

66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 01:59:25.16 ID:1FD7vy2wo
近くに共学の学校はありませんけれど

それでも、どこかのお店の店員さんとか

すれ違った人とか

梓「いえ。……同じ、学校に」

唯「え……」

いつの間にか、あずにゃんの顔が見えていました

暗闇に目が慣れてきたんでしょう

窓から入る弱い月明かりが、ベッドのシーツをほのかに青白く輝かせて

あずにゃんは私の胸から、上目遣いで私を見つめていました

それがどういう種類の感情を含んだ視線なのかは、私にはわかりませんでしたが

それでも、あずにゃんは真剣でした

唯「同じ、学校って……」

梓「そういう、ことなんです」

唯「そ、そっか」

あずにゃん、まさか

唯「校長先生が?」

梓「殴りますよ?」

唯「痛い痛い痛い痛い」

67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:00:01.05 ID:1FD7vy2wo
殴られはしませんでしたが、あずにゃんが強く抱きついてきました

とても柔らかくて幸せなんですが、確かにちょっと痛いです

梓「なんで校長先生が出てくるんですか!関係ないじゃないですか!」

唯「だ、だって、うちの学校、男の先生少ないし、その中で可能性が僅かでも高いと言えば」

梓「だからって校長先生はないです!……だから」

だから、と

あずにゃんはちょっとだけ言い淀んで、そして

梓「だから、生徒です。同じ学校の」

そう言いました

あずにゃんがまた、上目遣いで私を見つめています

でも、見つめているというか睨んでいるというか

月明かりの中ではわかりませんが、少しだけ瞳が潤んでいました

唯「……あずにゃん、女の子が好きなの?」

梓「そう、みたいです……」

唯「……」

あ、あずにゃんも

あずにゃんも、女の子が好きなんだ

68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:00:26.36 ID:1FD7vy2wo
ほっとすると同時に、色鮮やかな嬉しさが静かにこみ上げてきました

まるで、見ている世界がカラー写真に変わったようです

私だけじゃなかった!

私の好きな人が、女の子が好きだって!

梓「ゆ、唯先輩」

唯「ん?」

梓「すみません……引きますよね、こんな」

唯「引くわけないじゃん!!」

梓「ひゃ!」

唯「あ」

つい大声を出してしまいました

だってあずにゃんがそんなこと言うから

唯「ご、ごめんねあずにゃん。びっくりしたね」

梓「い、いえ」

あずにゃんにバレないように息を吐いて、落ち着きます

もしかしたら、私にも

私にも、チャンスがあるかもしれないのです

69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:00:53.56 ID:1FD7vy2wo
唯「えっと。好きな人がいるって言うと。同級生?上級生?」

あずにゃんは一年生だから、下級生ってことはありません

梓「え、そ、それは……」

唯「それは?」

梓「い、言えるわけないじゃないですか!」

唯「えー!?」

ここまで来て!?

梓「第一、私の交友関係とか唯先輩、ほとんど知ってるじゃないですか。バレちゃいますよ、そこまで限定したら」

唯「あ、じゃあ私の知ってる人で、あずにゃんも知ってる人なんだね?」

梓「しまった!」

ばかにゃん可愛いです

そうかー、私の知ってる人かー

唯「……軽音部関係?」

梓「だからもう言いませんってば!」

唯「ちぇー」

そこまで特定出来たら、あと少しなのにな

唯「じゃあさ」

梓「なんですか。絶対に言いませんからね」

唯「どんな人か、教えてくれない?あずにゃんの主観でいいからさ」

梓「……」

70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:01:27.33 ID:1FD7vy2wo
答えてくれるかな

あずにゃんは少し身体を揺らすと、どこか照れたように私の胸におでこを押しつけて、言いました

梓「かっこよくて。真剣な時は真剣で、やる時はやる人で。温かくて、優しくて。目が離せない人です」

唯「……そか」

私、失恋しちゃったっぽいです

どうしよう

どう考えても、私はそんな人間じゃありません

さっきまで舞い上がってたのが馬鹿みたいです

ほらね、人生は甘くないんだよ

上げて落とすんだよ

もし神様が居るとすれば、きっと意地悪なんだと思う

梓「……唯先輩?」

唯「……わかっちゃった、あずにゃん」

梓「え?」

唯「あずにゃんの好きな人」

梓「そ、そうですか……」

71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:01:54.00 ID:1FD7vy2wo
恥ずかしかったのでしょう、あずにゃんはもっと私に身体を押しつけてきます

ああ、柔らかいなぁ

あずにゃんは可愛いから

きっと、その子と抱き合ったりするんだろうな

そう考えると、泣きたくなります

実際、もう涙目です

でも、言っちゃったから

言葉にしちゃったから、続けないと

唯「澪ちゃんでしょ」

梓「唯先輩いい加減にしてください怒りますよ」

唯「なんで!?」

だって、あずにゃんの言った通りの人って、まんま澪ちゃんじゃん!

梓「た、確かに澪先輩はかっこいいですけど!でも、そんな目で見たことないです!」

唯「ち、違うの?」

梓「違います!」

そっか……

じゃあ、あとは一人しか居ないね

72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:02:20.17 ID:1FD7vy2wo
唯「じゃあ、りっちゃんか」

梓「うにゃああああああああああああああ!」

唯「痛い痛い痛い痛い」

二度目の痛い抱きつきです

なんで?違うの?

梓「わざとやってるんですか!?そんなわけないでしょ!?」

唯「だ、だって、りっちゃんって男前だし……」

梓「だからって恋愛感情は持ちません!それに、律先輩は澪先輩と付き合ってるじゃないですか!」

唯「え、本当に!?」

梓「気づいてなかったんですか!?」

りっちゃんと澪ちゃんって、付き合ってるの!?

女の子同士で!?

唯「えっと、仲がいいなーとは思ってたけど。幼なじみだからかなーって」

梓「ただの幼なじみがお互いの内太もも撫で合うわけないじゃないですか」

唯「そんなことしてたの!?」

梓「先輩、部活中どこを見てるんですか?明後日の方向ですか?」

どこ見てるって、あずにゃんしか見てないよ

貴重なあずにゃんとの時間、粗末に出来るわけないもん

73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:02:50.62 ID:1FD7vy2wo
梓「はぁ……」

唯「ご、ごめんね、あずにゃん。私、そういうの疎くて……」

梓「まあ、そういう人ですもんね、唯先輩は」

そこ……き……すけど

独り言のように呟いたあずにゃんの言葉は、最後まで聞こえませんでした

梓「……どうでもいいですけど、和先輩がお尻揉むのはスキンシップで納得して、澪先輩達の内太もも撫で合うのは驚くんですね」

唯「だって内太ももだよ?えっちだよ!」

梓「違いがよくわかりませんが。ま、いいです」

唯「それについて語りたいけど、今度の機会にするよ」

梓「……それで?今度は唯先輩の番ですよ」

唯「え、私?」

梓「好きな人、居るんですか?」

唯「あ……」

えっと

どうしようもありません

あずにゃんは、女の子が好きってカミングアウトしてくれて

りっちゃんと澪ちゃんは、そういうステップを乗り越えて、愛し合ってるのです

私も、ちょっとだけ勇気を出さないと

74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:03:17.87 ID:1FD7vy2wo
唯「……い、居ます。同じ学校に。お、女の子なんだけど」

梓「そ、そうですか」

唯「あ、あずにゃんと一緒だね!私も女の子が好きって、その子と出会って気づいちゃって」

梓「そ、そうですね。一緒ですね!」

へへへ、と笑い合います

そしてあずにゃんがずいっ、と顔を近づけてきて、

梓「それで、相手の女の子のことは追求してもいいですか?」

唯「い、えっと、それは」

梓「私も追求されたんですから、唯先輩にする権利はありますよね?」

唯「い、言わなきゃダメ……?」

さすがに今ここで告白する勇気はありません

とにかく、あずにゃんの好きな人がまだわからないし、私じゃない可能性が高いし

どうすればいいかわからなくて、ただあずにゃんの目を見つめます

梓「……そんな目、しないでくださいよ。いじめてるみたいじゃないですか」

唯「だ、だってー」

梓「聞きませんよ無理に。私の好きな人だって、唯先輩はわからないみたいだし」

唯「う、うん……」

75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:03:46.13 ID:1FD7vy2wo
梓「これだけヒント出したんだから、考えておいてくださいね」

唯「うん。……あ、私もヒント出す?」

梓「え!?いや、えっと。……いいです。先輩が教えてくれるの、待ってますから」

唯「そ、そっか」

梓「はい」

私の好きな人をあずにゃんに教える時

それって、つまり、そういう時です

今まで、あずにゃんに告白するなんて考えてもいなかったけれど

その、形の無かった考えられなかった瞬間が、急に目の前、手の届く場所で色づいてきて

そしてその時、心臓の音が聞こえ始めます

確かに、今まで動いて無いわけではありませんけれど

それでも私はその時、初めて自分の心臓が動き始める瞬間を体験しました

唯「あずにゃん。あずにゃんの好きな女の子って、確かに私が知ってる人なんだよね」

梓「んー……」

何故かあずにゃんがそんな声を出して、私をじっと見つめます

梓「知ってる人ですけど。でも案外、唯先輩は知らないかもしれないですね」

唯「え!?話が違うよあずにゃん!?」

梓「唯先輩が知ってるってことは断言出来ます。ただ、唯先輩は『その人』のことを違う見方で見てるかもってことです」

76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:04:13.17 ID:1FD7vy2wo
唯「難しくてわかんないよぉ、あずにゃん……」

梓「哲学的な話ですよ」

そう言って、あずにゃんはコホンと咳払いします

梓「私は、その、私の好きな人を、先ほど上げたような人だと思ってます。そしてそれは、誰が何と言おうと間違ってません。それだけは自信があります」

かっこよくて。真剣な時は真剣で、やる時はやる人で。温かくて、優しくて。目が離せない人

梓「澪先輩や律先輩じゃありません。もちろん両先輩方もその人のことは知ってます。そして先輩方がそれぞれ私の好きな「その人」に持ってる印象は違うかもしれませんが」

唯「違うけど……?」

梓「さっきの私の持ってる『その人』の印象を律先輩や澪先輩に言えば、すぐにわかると思います」

唯「へぇ……」

あずにゃんの言ったことは、正直上手く理解出来たかどうかわかりません

でも、それでもまっすぐ伝わってきたものはわかりました

それは、私があずにゃんを誰にも負けないくらい大好きだから

だから、わかってしまうことなんですけど

唯「あずにゃん、その人のこと大好きなんだね」

梓「へ!?いや、まあ、その……」

あずにゃんが私の胸におでこをくっつけます

梓「……大好きですよ」

77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:04:47.70 ID:1FD7vy2wo
今夜はあずにゃんが自分から抱きついてくれます

それは今まで無かったことだし、今までよりも確実にあずにゃんとの距離は近いのに

それでも、素直に喜べないのは欲張りだと思います

可能性を感じちゃったから

暗闇の中、小さいけれど蝋燭を見つけてしまったのです

少なくとも、女の子同士だからって理由ではフられない

一番気にしていた、足枷だった重りは無くなった

彼女には

あずにゃんには、好きな人が居るけれど

唯「あずにゃん」

梓「はい?」

小さい声で呼びます

唯「今夜、あずにゃんが寝るまでの間だけでいいから。抱っこしてていい?」

梓「え?」

唯「ちょっと今夜は寒いから。だから、ね?」

梓「……仕方ないですね」

唯「いいの!?」

梓「一緒に寝ようって言われた時に覚悟してたって言ったじゃないですか」

78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:05:12.78 ID:1FD7vy2wo
唯「じゃ、じゃあ……!」

梓「向きは変えさせてもらいますけどね」

そう言ってあずにゃんは、私の胸から顔を離して、反対方向に向きを変えました

唯「えー、なんでそっち向くのさー」

梓「……唯先輩、おっぱい大きいから息しづらいんです」

唯「……大きくなるよあずにゃんも。これからじゃん」

梓「私も最近はちょっと……何でもありません……負けです私の……」

唯「……揉んでみる?私の」

梓「ば、馬鹿なこと言ってないでそろそろ寝ますよ!」

唯「ちぇー」

あずにゃんだったらいいのに

梓「あ、明日の朝は私と憂が朝ご飯作りますから、唯先輩はゆっくり寝てていいですよ」

唯「え、いいの?」

梓「はい。準備出来たら起こしますんで」

唯「うん。……ありがとね」

梓「お泊まりさせて貰ってるんだから、これくらいは。じゃあ先輩、おやすみなさい」

唯「うん」

背中を向けたあずにゃんの身体を、ぎゅっと抱きしめます

79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:05:52.39 ID:1FD7vy2wo
唯「おやすみ、あずにゃん」

おやすみなさい、とあずにゃんが小さく言って

少し身じろぎをして、背中を私の身体にぴったりとくっつけて

それで、あずにゃんは眠るみたいでした

心なし体を丸めて、私にくっつきながら寝息を立てるあずにゃんは猫のようでした

眠り始めるあずにゃんを起こさないようにゆっくりと、あずにゃんを抱きしめなおします

パジャマは新しい物なのでしょうか、どこかよそ行きのような匂いと感触がします

不自然にあずにゃんの身体に合ってないというか、雰囲気と馴染んでないというか

似合ってないというわけではありません

淡い青色はあずにゃんの白い肌に映えるし、少し大きめで、袖の先から覗く小さな指先は、とても可愛いです

でもその時、私はあずにゃんが遠くに行ってしまうような気がしました

あずにゃんには好きな人がいて、それは私じゃなくて

それで、きっと近い将来、あずにゃんはあずにゃんの好きな人とこうやって眠るのでしょう

私の知らない場所で、知らない時間に、知らない表情で、知らない仕草で

その時あずにゃんは、きっとこういう風に背中を向けてなくて

その人の胸の中で眠るんだろうな

そう思った瞬間、目眩がしました

80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:06:44.72 ID:1FD7vy2wo
動悸が激しくなって、吐きそうになります

絶え間ない焦燥感と無力感と身勝手な理不尽

誰でもいいから当たり散らしたい乱暴な気持ち

この感情は初めてでしたが

きっとこれを、嫉妬というのでしょう

私はあずにゃんの好きな人に嫉妬していました

私と違って、あずにゃんを抱きしめても喜んで貰える

私と違って、あずにゃんから求めて貰える

私と違って、一緒にいるだけであずにゃんを幸せに出来る

まるで私が不可能なことを、当たり前のように出来る彼女のことが

私には、漫画の中のヒーローのように思えました

私の方が好きなのに

絶対誰にも、あずにゃんへの気持ちは負けないのに

おかしくないですか?

お互いの気持ちのベクトルがちょっと違うだけで、一番強い気持ちが蔑ろにされるなんて!

梓「んぅ」

あずにゃんが身じろぎして、私は慌てて腕の力を緩めました

81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:07:16.24 ID:1FD7vy2wo
無意識に力を入れすぎていたみたいで

幸い、あずにゃんは気づくことなく眠っているようです

唯「あずにゃん……もう寝た……?」

静かな寝息が聞こえて、ほっと胸をなで下ろします

それから、今度は優しくぎゅっと抱きしめます

あずにゃんが寝るまで、という約束でしたけれど

ロスタイムです。少しだけなら、許して貰えると思います

唯「ふぅ……」

あずにゃんの髪に顔をよせてみます

いつもはツインテールにしている髪は今、縛られることなくシーツに私の肩に流れています

あずにゃんの首すじに、鼻を押しつけました

よそ行きのパジャマの襟元からただようあずにゃんの匂い

パジャマ越しに伝わるあずにゃんの体温

身体の全部で感じるあずにゃんの寝息

ふと、この時間はとても貴重なものなんじゃないかと思いました

私はあずにゃんが好きで、あずにゃんには好きな人がいて

もしその人とあずにゃんが付き合ったなら、きっとこういう風に家にお泊まりには来てくれなくなるでしょう

軽音部の合宿でも、あずにゃんはきっと一緒には寝てくれないでしょうし

そう考えると、もう――

82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:07:41.02 ID:1FD7vy2wo
唯「……ごめんね、あずにゃん」

口の中で呟いて、そして

手探りであずにゃんの胸をパジャマ越しに触りました

起こさないようにそっと、揉んでみます

ブラはしていないのでしょう、予想外に柔らかくボリュームのある膨らみにびっくりします

あずにゃん、そこそこあるじゃん

そんな失礼なことを考えつつ、揉み続けます

こういう行為がどういうことか、わかっているつもりです

でも、今しかチャンスが無いなら

今しか、無いから

私はあずにゃんを、そういう目で見ています

あずにゃんにえっちしたいし、あずにゃんにしてもらいたい

私が毎晩頭の中であずにゃんにどういうことをしているか

あずにゃんが知ったら、きっと嫌われちゃうと思います

でも、好きなんです

大好きなんです、あずにゃんのこと

83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:08:07.80 ID:1FD7vy2wo
嫌われたって気持ち悪がられたって、仕方ないです

あずにゃんの胸に吸い付いて離れない右手をそのままに、再びあずにゃんの首すじに

唇が触れるか触れないかのところまで近づけます

キスしたい

吸い付いて、ずっと消えないくらいに痕を残したい

あずにゃんは私の物だって、刻みつけたい

私は興奮していました

普通じゃありませんでした

胸を揉みながら、首すじに唇を近づけて匂いを堪能して

今あずにゃんが起きたら

きっともうこれからずっと、口を聞いてくれないだろうな

もしかしたら軽音部も辞めて、もう私には姿すら見せてくれないかも

なんだか笑えてきます

わかってます。わかってますよ

胸から、足の方に手を伸ばします

私だって、好きでもない人にこんなことされたくないです

84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:08:36.83 ID:1FD7vy2wo
りっちゃんにも澪ちゃんにもむぎちゃんにも

大好きですけれど、こんなことはされたくありません

太ももを撫でて、お尻に到達します

あずにゃんにしてもらいたいです

あずにゃんにしかしたくないです

あずにゃん以外、考えられなくて

お尻から、再び前に手を

嫌われちゃうと思うけど、それでも私はあずにゃんとしたくて

内太ももに指を這わせて、少しづつ、上に

『ああ、あずにゃんの好きな人だったら、きっとこういう事してもあずにゃんは喜んでくれるんだろうな』

85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:09:24.86 ID:1FD7vy2wo
体を起こします

あずにゃんの身体から喜ばせることの出来ない手をどけて

あずにゃんに布団をかけなおします

酷く惨めな気持ちでした

たぶん、私は今泣いてます

声をあげると、あずにゃんが起きてしまうから

そっとベッドから下りて、部屋を出ます

何か飲もう

飲んで、落ち着こう

私が部屋を出る時

あずにゃんが深いため息をつきました

86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:10:18.25 ID:1FD7vy2wo
私の横で、誰かがゴソゴソしているようでした

ベッドが静かに軋んで、止まります

瞼の裏が明るいし、どこかで雀の鳴き声もするから

きっと朝なんだろうなぁと、寝ぼけた頭で考えます

考えるだけで、起きたくはないのですけれど

あずにゃんもまだ眠ってるよね

ちょっとだけ抱きついちゃおう

そう思って左横を手探りするのですが、どうにもあずにゃんには触れられません

唯「んぅ、あずにゃん……?」

思わず、声に出してしまうと

梓「ひゃい!?」

唯「ふぇ?」

思わず、目を開けて

唯「あずにゃん……?」

あずにゃんが、ベッドの上

寝ている私の右側に正座していました

その片手は何故か、私の胸の数ミリ上で止まっています

87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:10:52.59 ID:1FD7vy2wo
唯「……」

んーと

梓「……」

唯「……さわっていいよー?」

梓「ちっ、違います!誤解しないでください!」

弾かれたようにあずにゃんが立ち上がって、ベッドが揺れます

梓「朝ご飯出来たから、起こしにきただけです!た、たまたま胸の上で手が止まってただけで!」

唯「そっかー」

上手く頭が回らないけれど、どうやらあずにゃんは私を起こしにきてくれたようです

そういえば、朝ご飯はあずにゃんと憂が作ってくれるんだっけー

身体を起こして、伸びをして

唯「おはよー、あずにゃん」

梓「お……おはよう、ございます」

なんか、あずにゃんが見つめてくる

唯「んー?なんか付いてるー?」

梓「い、いえ、すみません」

ぷいっと横を向いてしまうあずにゃん

少し、顔が赤いです

88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:11:18.56 ID:1FD7vy2wo
梓「朝ご飯出来ましたから。早く顔洗って、降りてきてくださいね」

唯「はーい」

あずにゃんは長袖のTシャツにジーンズという格好で、その上からエプロンを着ていました

きっとご飯が出来てからすぐに、呼びにきてくれたんでしょう

そう思ったら、なんか嬉しくて

唯「ありがとね、あずにゃん。エプロン姿も可愛いねー」

梓「なっ!」

今度はわかります

明らかに真っ赤になってます

梓「朝っぱらから恥ずかしいこと言わないでくださいよ、もう!」

唯「えー、本当だよ」

梓「じゃあ私、先に行ってますから!二度寝しちゃダメですからね!?」

そう言って、あずにゃんは行っちゃいました

あずにゃんの背中を見送って

そして、少し安心します

唯「昨日の夜のこと、気づいてないみたいだ」

気づかれてたら、きっと嫌われてる

89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:11:50.14 ID:1FD7vy2wo
少なくとも、今のように起こしに来てくれたり、口を聞いたりしてくれることは無いでしょう

それだけ最低なことを、私はしてしまったのです

でも、最低なことだってわかってるけれど

もし昨日の夜のような状況に置かれたら、私はまたやってしまうでしょう

そして今度は、もしかしたら歯止めがきかないかもしれません

唯「……本当に、好かれる要素がないね。私は」

あずにゃんの好きな人とは正反対です

かっこよくて。真剣な時は真剣で、やる時はやる人で。温かくて、優しくて。目が離せない人

あはは

唯「はぁ……」

ため息をついて、そして

唯「でも、収穫はあった」

あずにゃんは女の子が好き

私にだって、もしかしたら何万分の一の確率でチャンスがあるのかもしれません

頑張れば、あずにゃんにこっちを向いてもらえるかも

私の気持ちのベクトルはあずにゃんに向いてて、あずにゃんの気持ちのベクトルが私じゃないところに向いてても

ちょっとだけなら、あずにゃんの気持ちの向きを変えられるかもしれません

あずにゃんに、私を見て貰えるかもしれません

90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:12:21.67 ID:1FD7vy2wo
自信は正直、無いですけれど

唯「……頑張ろう」

でも、何もしないでいるほど私のあずにゃんへの気持ちは、中途半端ではないです

どうせ、これまであずにゃんにしか興味が無かったのだから

これから先も、あずにゃんにしか興味は持てないのでしょう

フられちゃうことになっても、あずにゃんが他の人に連れて行かれちゃうことになっても

私は私なりに、あずにゃんを振り向かせたい

唯「うん……!」

ベッドから降りて、パジャマを着替えます

ちょっとだけ髪を整えてから

唯「私、頑張るよ。ギー太」

応援しててね

91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:15:28.63 ID:1FD7vy2wo
朝のリビング

いつもの休日よりも少し早い時間のテレビニュースの音声が流れる中で

私たち四人はテーブルについていました

私たちはもう箸を取ってそろそろ食べ始めようという時なのですが

一人だけ、あずにゃんだけは箸を取らず、何故か正座で私の反応を待っていました

唯「じゃあ、いただきまーす」

憂「はーい」

梓「ど、どうぞ」

唯「そ、そんなに見られると食べにくいよぉ」

梓「す、すみません!」

テーブルには、ご飯に卵焼きに厚切りベーコン、サラダにお味噌汁が四人分並んでいました

どれも美味しそうで、朝なのにおかわりしちゃいそうな勢いです

憂「お姉ちゃん、今朝は梓ちゃんがお味噌汁作ってくれたんだよ」

唯「え、そうなの?」

梓「えっと。お料理あまり得意じゃなくて、憂にお味噌汁だけ作り方を教わったというか」

唯「そうなんだ。じゃあ一口目はお味噌汁からだね」

あずにゃんがお料理作ってくれた!

私にだけではありませんけれど、贅沢は言ってられません

生まれて初めてのあずにゃんの手料理です

92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:16:24.01 ID:1FD7vy2wo
唯「……じゃあ、いただきます」

梓「はい……」

和「なんでそんな真剣なのよ二人とも……」

憂「ふふ」

わかってないな、和ちゃんは

この瞬間がどれだけ重要なのかを

お味噌汁を手にとって、一口すすります

梓「ど、どうですかね」

唯「いつもの憂のお味噌汁とは違うけど……」

梓「はい……」

唯「……うん。すごい美味しい!」

梓「ほ、本当ですか?」

唯「本当だよ!」

お味噌はいつものと同じですが、どこか憂の作ったものとは違います

お味噌の量だったり溶き方だったり、わかめやお豆腐の切り方の違いでしょうか

憂のお味噌汁も美味しいけれど、あずにゃんの作るお味噌汁もすごく美味しい

なんかこう、憂のものとは違った愛情が伝わってくるというか!

93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:16:45.93 ID:1FD7vy2wo
唯「ありがとねーあずにゃん。私、お味噌汁なんて作れないよ。すごいねー」

梓「い、いえ。ありがとう、ございます……」

あずにゃん照れてるー

和「でも、本当に美味しいわよ梓ちゃん。本当に初めてなの?」

お味噌汁をすすりながら、和ちゃんが言います

梓「はい。憂がお豆腐の切り方から教えてくれて」

憂「だから言ったでしょ、梓ちゃん。すごく美味しいよって」

梓「えへへ……」

唯「ほら、あずにゃんも食べなよ。冷めちゃうよ?」

梓「はい。それじゃあ、いただきます」

憂「どうぞー」

四人で朝ご飯を食べます

普段なら、休みの日は昼近くまで寝ているので朝ご飯と昼ご飯が一緒になることが多いのですが

なんか、こうやって早起きしてご飯を食べるっていうのも悪くない気がします

あずにゃんも居るし、お味噌汁作ってくれるし

朝からラッキーです

94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:17:12.59 ID:1FD7vy2wo
和「そう言えば、憂の手料理食べるのも久しぶりね」

憂「うん。和ちゃん、最近来てくれなかったもん」

和「憂、受験だったし。受験終わってもしばらく新しい生活で忙しかったでしょ?」

憂「それはそうなんだけど……でも、それとこれとは話が別っていうか……」

梓「おお……」

唯「おお……」

あの憂が、いつもニコニコ心の広い憂が、和ちゃんに不満をぶつけてる……

ぶつけると言っても、頬を膨らませる程度だけど、それでも

和「ふふ、ごめんごめん。じゃあ、これからは憂の都合がいい日にはお泊まりしにくるわ。私だって憂の手料理食べたいもの」

憂「え、本当に?」

和「もちろんよ。来年になったら受験勉強もしなきゃならないけど。でも、お泊まりする時間くらいは作るから」

憂「えへへ」

梓「おお……」

唯「おお……」

なんというか

和ちゃんすごい

憂の扱いを心得ているというか

96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:17:39.47 ID:1FD7vy2wo
お姉ちゃんの私よりも、もしかしたら……

梓「和先輩、すごいですね」

唯「うん。やっぱ私たち姉妹と付き合い長いからね」

梓「二人が何をしてもらいたいのか言わなくても理解してる、と」

唯「うん。と言っても、和ちゃんも甘やかしてるってわけじゃないけどね」

お菓子とか食べ過ぎないように言われるし

梓「そうですか。……いいなぁ」

唯「ん?なんか言った?」

梓「何でもないです。おかわりどうですか?」

唯「うん!じゃあ、ご飯とお味噌汁も!」

梓「え、お味噌汁も?」

唯「だってあずにゃんの作ったお味噌汁美味しいんだもん」

梓「えへへ。……でも、無理して食べ過ぎないでくださいね。気持ちだけで嬉しいですから」

唯「無理してないよー」

どこか嬉しそうに、キッチンに向かうあずにゃん

その、揺れるツインテールの背中にみとれながら

なんか、いいなぁこういうのって思います

97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:18:11.97 ID:1FD7vy2wo
もしあずにゃんと結婚とかしたら、こういう光景を毎朝見られるんだろうな

……あずにゃんの好きな人が羨ましいよ

唯「はっ」

ダメだダメだ、また落ち込んじゃってる

頑張るって決めたのに、決めたそばからこれじゃあダメだ

もっと意識して、前向きにならないと

梓「どうぞ、唯先輩」

唯「ありがとー、あずにゃん」

よし、前向きに。気にしてないぞってところを!

唯「いやー、あずにゃん良いお嫁さんになれ、る、よ……」

梓「なんで泣いてるんですか唯先輩」

お嫁さんとか結婚って単語は、どうやら私にはまだキツイみたいです

98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:18:46.42 ID:1FD7vy2wo
唯「私がお皿洗いやります」

そう宣言した瞬間、三人が「何言ってるのこいつ」って顔で私を見ました

朝食を食べ終わってから、少し経って

食後の熱いお茶を飲んでいた時です

和「何言ってるのあんた」

唯「声に出しちゃった!」

梓「そうですよ。どうしていきなりそんな無茶を」

唯「無茶!?」

お皿洗いが私にとって、どれだけ高いハードルだと思われているのでしょうか

唯「だ、だって、和ちゃんはお風呂掃除して、憂やあずにゃんはお料理作ってくれたのに、私だけ何もしてないもん」

和「いつものことでしょう。今更何とも思わないわよ。どれだけ付き合い長いと思ってるの……」

梓「そうですよ。唯先輩はそのままでいいんです。怪我したらどうするんですか」

唯「あずにゃんまで!?」

私、どれだけ信用が無いのでしょう

憂「お姉ちゃん。嬉しいけど、あんまり無理しなくても」

唯「ぶー。ここまで言われたら、尚更後には引けないね!」

99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:19:19.64 ID:1FD7vy2wo
あずにゃんの好きな人の特徴

かっこよくて。真剣な時は真剣で、やる時はやる人で。温かくて、優しくて。目が離せない人

まず私にほど遠い特徴ですが、なんてことはありません

これはつまり、あずにゃんの好きなタイプなのです

だから、私がこのような女の子になればいい

今は全然ほど遠いけれど、少しづつでもいいから、あずにゃんの理想に近づけたら

そしたらあずにゃんも「案外、唯先輩も悪くないんじゃ」って見てくれるかも

まずは、「かっこいい」女の子です

かっこよく家事をこなしてみせます

お料理とか洗濯物とかはまだ無理だけど、お皿洗いくらいなら!

憂「んー。そこまで言うなら、お願いしようかな」

微笑んで、憂は言いました

憂「無理しないで、ゆっくりでいいからね」

唯「うん!任せてよ!」

和「じゃあ、私たちはゆっくりさせて貰うわ」

梓「唯先輩、せめて食器を流しに運ぶくらいは手伝わせてもらいますから」

唯「うん、お願いねー」

あずにゃんと一緒に、使い終わった食器を持っていきます

100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:19:52.76 ID:1FD7vy2wo
唯「じゃあ、頑張るね!」

梓「……やっぱり、私もお手伝いしま」

唯「いいからいいから、私に任せて」

あずにゃんをソファーまで送って、お皿洗い開始です

スポンジに洗剤をつけて、お皿を先に水で軽く洗って……

私だって、もう高校生なんだし

お皿洗いくらいできます

一通り全部スポンジで洗っておいて、それから水洗いして、食器乾燥機に

手順はバッチリです

梓「じー」

唯「大丈夫だよ、あずにゃん。そんなとこで見て無くても大丈夫だって」

梓「お皿割って怪我しちゃうんじゃないかと思うと、気が気じゃ無いんですけど」

唯「割らないよー。慎重にしてるもん」

梓「で、でも……」

和「梓ちゃん、大丈夫よ。こっちに来てお茶飲みましょう」

憂「そうだよ。梓ちゃんもゆっくりしないと」

梓「う、うん……」

101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:20:23.27 ID:1FD7vy2wo
まだ心配なのかなー、あずにゃん

日頃からダラダラしてるから、自業自得だけど

でも、これをバッチリ決めたら、あずにゃんの理想のタイプにまた一歩近づくんだよね

頑張らなきゃ!

あずにゃんがソファーからチラチラとこちらを窺っている気配を感じながら、お皿を割らないように作業を進めます

集中すればそれなりに、慣れて無くても出来るようで

唯「あっと一枚!」

ラスト一枚となったお皿を取ります

こういう時にミスして落としちゃうのが私

慎重に、滑らないように……

ザクッと

お皿を掴んだ瞬間、指に熱い何かが走りました

そしてほとんど同時に、細長い痛みが伝わってきて

唯「痛っ!」

思わず叫んで、お皿を落としてしまいます

陶器の食器は、ステンレスのシンクに落ちて派手な音を立てました

梓「唯先輩!?大丈夫ですか!?」

102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:20:50.23 ID:1FD7vy2wo
唯「あ、あずにゃん」

あずにゃんが血相を変えてキッチンに飛び込んできました

唯「なんか、食器の下の方が欠けてたみたいで……」

梓「け、怪我は無いですか!?」

唯「怪我ってほど大袈裟なものじゃないけど」

ほら、とあずにゃんに右手を開いてみせます

唯「右手の薬指、ちょっと切れちゃったみた……」

あずにゃんが私の腕を掴み、私の切れた指先を口に含みました

唯「ふぇ?」

唇が指先を包み込んで、あずにゃんの舌が傷口を舐めます

予想外の出来事に、何も言えません

ただ、伏せ目がちに私の指を咥えるあずにゃんを見て、「まつ毛長いなぁ」ってぼうっと思います

ちょっと吸われて、ゾクッとなって

憂「お姉ちゃん、大丈……」

和「どうしたの、ゆ……」

憂と和ちゃんも、少し遅れて飛び込んできました

途端、あずにゃんが指を口から離しました

あずにゃんの唾液が糸を引いて、離れた私の右手の薬指を繋ぎます

103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:21:19.26 ID:1FD7vy2wo
梓「あ、いやえっと、その」

顔を真っ赤にして、あずにゃんが言います

梓「これはその、間違えたっていうか!」

憂「梓ちゃん、凄い……」

和「その手があったわね」

梓「ち、違うんです!これ、その火傷した時の対処法でして、咄嗟に焦ったというか、間違えまして!」

わたわたと手を振りながら言い訳するあずにゃん

どんどん声が小さくなって、ついに

梓「すみません……唯先輩……」

謝ってしまいました

唯「い、いや!私もびっくりして何も言えなかったし、その、嬉しかったよ!」

梓「う、嬉しいとか言わないでください……」

ヤバイよ私も動揺してるっていうか、上手いフォローが出来ないよ

憂「それで、お姉ちゃん大丈夫なの?」

唯「ん、うん。食器の下の部分が欠けてたみたいで」

憂がシンクの食器を手に取ります

憂「あ、本当だ。ごめんねお姉ちゃん。私が注意してたらこんなことには……」

104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:21:49.69 ID:1FD7vy2wo
唯「い、いや、大丈夫だから」

むしろ感謝したいくらいです

憂「怪我、大丈夫?」

唯「平気だよ。あずにゃんが、その、……してくれたし」

梓「うぅ……」

憂「あはは。救急箱が棚の上にあるから、梓ちゃんに治療してもらいなよお姉ちゃん」

憂が言った途端、ピクっと反応するあずにゃん

梓「う、うん!わかった!」

憂「ふふ。よろしくね」

和「包丁ってどこかしら」

憂「和ちゃん止めてお願い」

105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:22:17.59 ID:1FD7vy2wo
ソファーに座って、あずにゃんの治療を受けます

私の薬指をティッシュで包みながら真剣な表情で消毒液を垂らすあずにゃん

消毒なら、さっきあずにゃんがやってくれたのに

なんて言うと、たぶん痛くされるから言いません

梓「痛くないですか?」

唯「う、うん。大丈夫だよ」

消毒をした後、軽くティッシュで拭って、絆創膏を貼ってくれます

梓「気をつけてくださいよ。ギタリストにとって指は大事なんですから」

唯「だ、だよね」

梓「まあ、右手の薬指なら別に演奏に支障は……」

何気にこれ、あずにゃんに手を握ってもらってるんだよね

これも初めての経験です

いつもは私から握ってるから、なんというか

昨日からあずにゃんと新しいこといっぱい出来てます

さっきの、指おしゃぶりの時だって

あずにゃんの唇柔らかかったし、口の中温かかったし、舌だって……

梓「唯先輩、聞いてます?」

唯「はい!?」

梓「聞いてなかったんですね……」

106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:22:44.37 ID:1FD7vy2wo
唯「ご、ごめんね、ぼーっとしちゃって」

梓「いえ。まあ、事故ですけれど、これからは気をつけてくださいねって話です。もし深い傷とかになったら大変ですし」

唯「ありがとねー、あずにゃん。飛んできてくれて」

そういえば、誰よりも早く来てくれたよね、あずにゃん

梓「そ、それは!その、唯先輩が怪我するのは予想の範囲内っていうか」

唯「だよねー」

そんなところですよねー

はあ、信用無いのは知ってたけど、ちょっと期待しちゃったんだよね

そんなに甘くはないか

『唯先輩が心配だから、飛んできちゃった』みたいな理由にはならないですよね

唯「あずにゃん、ダメ元で聞くけど、私かっこよかった?」

梓「はい?えっと、まあ。怪我するのは格好悪いというか、可哀想だなって思いますけど」

唯「だよねー、あはは」

かっこいいって難しいです……

梓「っていうか、何でそんなこと聞くんですか?」

唯「……かっこよく、なりたいなって思って」

107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:23:10.36 ID:1FD7vy2wo
へー、とあずにゃん

梓「事情が飲み込めませんが、唯先輩はそのままでもいいと思いますよ」

あずにゃんはそう言ってくれるけれど

ダメなんだよそれじゃあ、あずにゃん

108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:23:39.16 ID:1FD7vy2wo
お昼ご飯を食べ終わり、また食後のお茶をみんなで飲んでいます

お皿洗いで怪我をしてしまった私がお昼ご飯を作らせて貰えるわけもなく

どころか今、お皿洗いすらあずにゃんにやってもらう始末です

まだ、あずにゃんの好みの一番目だと言うのに

かっこいいとか、私には無理なのでしょうか

和「それで、午後はどうする?」

ずずっとお茶をすすりながら和ちゃんが言いました

和「何も予定が無いなら、ちょっと外でブラブラしない?」

憂「外?商店街の方?」

和「ええ。せっかく天気がいいんだもの。デートしましょうよ」

憂「で、デート……!」

あずにゃん可愛いなー

ツインテールが揺れてる。あの揺れ方はきっと、ご機嫌なんだな

和「唯、聞いてるの?」

唯「え?」

和「聞いてないのね」

憂「みんなで、外で遊ぼうかって」

109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:24:06.97 ID:1FD7vy2wo
唯「へー」

和「Wデートって形になるわね」

唯「……ほう」

あずにゃんとデート

たぶん夕飯の買い出しのついでとかそんなレベルだろうけど、それでもデートには違いありません

もしかしてこれは、チャンスなのではないでしょうか

あずにゃんをしっかりリードして、頼れる先輩=かっこいい私です

唯「行く」

和「梓ちゃん、ちょっといい?」

梓「はい?なんですか?」

ひょこっとあずにゃんがキッチンから顔を出しました

和「みんなで買い物ついでに外でブラブラしようって話してたの。梓ちゃんも大丈夫?」

梓「はい。大丈夫ですよ」

唯「へへ、あずにゃんとWデートだね!」

梓「……唯先輩、Wデートの意味わかってます?」

唯「四人でデートすることだよね!」

梓「そうだけど違うというか……まあ正直、期待はしてませんでした」

あれ、なんかあずにゃんがため息ついてる

憂「じゃあ、お皿洗い終わってしばらくしたら行こうか」

和「そうね」

唯「あずにゃーん、やっぱり私も手伝うよー」

梓「ダメです。怪我してるでしょ唯先輩は」

110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:29:49.79 ID:1FD7vy2wo
律「次、どこ行く?」

澪「楽器屋寄っていい?ベースの弦、予備が切れちゃってて」

律「はいよ」

行き先を決めて、澪と歩く

土曜日、商店街

人は当たり前のように多くて、それを理由にして澪と手を繋ぐ

いつもなら、人前で手とか繋げないからな

まったく、澪ったら恥ずかしがり屋さんなんだからー

澪「律?どうした?」

律「いや、別に。――こっち、もっと寄れよ」

澪の手を引いて、肩を密着させる

いっそのこと腕を組んで欲しいけど、さすがに無理だろうな

澪「人が多いな」

律「休日だもんな。ちょっと疲れた?」

澪「いや。……でも、ちょっと人に酔ったみたい」

人見知りが関係あるのかどうかはわからないけど、澪は人混みが苦手だ

まあ、程度の差はあれ人混みが好きな人なんて居ないと思うけれど

111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:30:26.80 ID:1FD7vy2wo
律「じゃあ、楽器屋寄ったら、どこか喫茶店でも行って休もうか」

澪「本当?じゃあさ、ちょっと行ってみたい喫茶店あるんだ」

律「いいよ、そこで。……でもなぁ、ぶっちゃけむぎの紅茶に慣れちゃってるから」

律「どんな紅茶飲んでも、普通って感じなんだよな」

澪「あー、それはあるな。舌が肥えちゃってるっていうか」

律「まあ、休めればいいか」

澪「そうだな。……って、あれ?」

律「どしたー?」

澪「なあ律、あそこに居るのって……」

澪の視線の先を辿ると、そこには

律「あれ、唯と梓じゃん」

小物を扱っている小さな店の前に唯と梓がいた

二人とも、店先に並んでいるカップや食器を眺めている

律「おー、デートか?」

澪「二人きり……じゃないみたいだ。ほら、店の中に和と憂ちゃんがいる」

確かに、店の中の小物を眺める和と憂ちゃんの姿もあった

律「ほほう、Wデートか」

澪「そ、そうなのかな」

112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:30:54.44 ID:1FD7vy2wo
澪がどこか照れたように言う

なんでお前が照れるんだよ

律「せっかく会ったんだ。話していこうぜ。おーい、ゆ」

澪「ば、馬鹿!律ちょっと待て!」

ぐいっ、と腕を引き寄せられる

弾みで澪は私と腕を組む形になったし、澪の大きいおっぱいの感触も楽しめた

わざとやってるんだとしたら、最高だ、乗ってやる。今すぐ帰ろう

でも意識してない行動だってのも当然気づいてる

律「なんだよー、みおー」

澪「私達が一緒に現れたら、デートしてるのバレるだろ!」

律「……ああ、そっか」

澪「お前はもう……」

そういやそうだったな。バレちゃいけないんだった。特に唯と梓には

律「むぎに言っちゃったから、ちょっと油断してたっぽい。あはは」

澪「まったく……」

そう言って、澪はまた唯と梓の方に向き直る

二人は何がおかしいのかクスクス笑いながら食器を見ていた

115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:31:39.44 ID:1FD7vy2wo
澪「なんか、いい感じだな」

律「そうだなー。ほら、見ろよ唯のやつ」

唯が背後から梓の肩を抱こうとして、何度も手を伸ばしては引っ込めてる

つーかそんなことするような雰囲気なのかよ

もっと夜景が綺麗なところとかさ。間違っても商店街じゃないよ

澪「あー、結局諦めたな、唯」

律「あんな肩落とさなくても……」

梓に顔をのぞき込まれて、慌てて手を振って笑う唯

なんつーか

律「面白いな、これ」

澪「なんか覗き見してるみたいで悪いよ、律。早く行った方が良くないか?」

私の腕を引いて、澪はそう言うけれど

律「ちょっとだけ見てようぜ!」

澪「な、本気か!?」

律「大丈夫だって。あいつらお互いに夢中で私達なんて気づいてねーし。それに、澪だって気になるだろ?」

澪「気にならないって言うなら、嘘になるけど……」

澪は心配してたもんな、唯のこと

まあそれは、私もムギも、同じことだけど

116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:32:22.91 ID:1FD7vy2wo
律「じゃあ決まりだ。大丈夫、ちょっとだけだって」

そうして、私達は手近な看板の陰に隠れる

一応、バレないように工夫はしておかないとな

律「さーて、ホシに動きはあるか?」

澪「ホシって……あ、梓が何かいいの見つけたっぽいぞ」

見ると、梓が何かカップを持ってて、そこに唯が話しかけている

唯が大袈裟に両手を上に上げて、梓が慌てた様子で手を振ってて

律「私が買ってあげるよー、かな」

澪「そうみたいだな」

プレゼント作戦か

またベタというか……

澪「なんか今日、積極的じゃないか?唯のやつ」

律「だな」

いつもはこんな風じゃなく、チャンスがあればちょっとアプローチするくらいなのに

律「梓、昨日から唯ん家泊まってるんだろ?なんか進展があったんじゃないか」

澪「へー、唯も頑張ったんだな」

頑張ったのが唯とは限らないけどなー

117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:32:59.05 ID:1FD7vy2wo
澪「お?今度は唯のカップを選ぶらしいぞ」

梓の選んだカップを唯が受け取ると、何やら話をして、それからまた梓がカップを選び始めた

澪「……あずにゃん、私のカップ選んでくれる?」

律「だろうな。唯のやつ、結構やるな」

並んだカップの前で、梓が悩んでいる

そんな真剣になるようなことなんだろうか。まあ、あいつらにしかわからない何かがあるんだろうけど

しばらくして梓が一つのカップを取り上げた

両手で持って上から下から横から眺めて、そして隣の唯に見せる

律「おーおー、唯、嬉しそうだなおい」

澪「見てるこっちが照れてくるな。梓のと色違いっぽい?」

律「本当だ。なんだよ、仲良いなあいつら」

笑顔で梓からカップを受け取る唯

そのまま、梓と二人で店の中に入ろうとする

会計のためだろうが、唯、はしゃいでんなー

つーか、

律「たぶん、こけるな」

澪「はしゃいでるしなー。おそらく」

案の定、カップを二つ持ってはしゃいでた唯は何かに足を引っかけた

そのまま、こけてカップがしゃーんでお店に弁償……

118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:33:49.28 ID:1FD7vy2wo
律「お?」

澪「おお……」

そうはならなかった

咄嗟に梓が唯の前に回って、唯を抱き止めた

まるで唯がこけるのを予想していたかのように、その動作はスムーズだった

まあ、私達も予想出来たことだから、梓も難なく予想はついたんだろうけど

身長差があるから、梓は文字通り体全体で唯を支えていた

両手を唯の腰に回して、体を密着させて

律「……なんか長いな、おい」

澪「人前で抱き合うなんて……」

澪が顔を真っ赤にしながらも二人を凝視している

澪って恥ずかしがってやってくれないけど、それでも憧れてる節はあるよね

まあ、今度やってやろう

唯と梓はしばらく抱き合ってて、突然ぱっと離れたかと思うと、お互い顔を真っ赤にして笑っていた

初々しいったらないね

まあ、唯は気づいてないし、梓も確証は持てていないみたいだけど

119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:34:48.71 ID:1FD7vy2wo
端からみれば一目瞭然だけど、当事者としちゃ、わかりづらいのかもしれない

私と澪も、あんな感じで周囲をやきもきさせていたのかもな

言わなくちゃわからないよ、お互いのことなんて

律「帰るか、澪」

二人が揃って店内に消えたのを確認して、私は言った

澪「そうだな。喫茶店はまたみんなで行こうか」

見せつけられちゃって、ちょっと私も澪といちゃいちゃしたくなった

たぶん澪も同じだろう

なんかそわそわしてるし

澪「なあ、律」

商店街を出ようと澪の手を握ったところで、澪が言う

あ、この声のトーンは何かをお願いする時のだ

律「なんだ?なんか欲しいの?」

私達もカップ買うのかな

あいつらまだ店内残ってるけど

澪「い、いや、違う!そうじゃなくて」

なんかモジモジしてる澪が可愛い

澪「律、その……今日も、泊まってくよね?」

120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:36:06.44 ID:1FD7vy2wo
律「ん?ああ」

なんだ、そんなことか

律「当たり前だろ。土日は澪と一緒にいるって言ったじゃん」

澪「そ、そっか。へへ」

可愛いなちくしょう

律「寂しがり屋の澪さんをひとりぼっちには出来ませんよねー」

澪「あ、ありがとな。……あ、でも結局、日曜の夜は一人で寝るのか」

律「日曜の夜も泊まるよ。朝、澪ん家から登校すりゃいいし」

そうなると思って、制服も教科書も持ってきてるしな

律「それに、せっかく二人きりなんだ。もったいないだろ?」

澪「そ、そうだよな!」

嬉しそうに微笑む澪

なんだよ、そんなこと心配してたのか

ったく、私が澪を一人にするわけないだろ

澪「なあ、帰りにスーパー寄ってかない?夕飯の材料買わないと」

律「寄ってくか。今夜は何にする?」

澪「どうしようかな。何か食べたいものある?」

121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:36:33.46 ID:1FD7vy2wo
律「魚や野菜って気分じゃないな。肉」

澪「わかった。じゃあ、スーパーで見てから決めるか」

りょーかい

そう言って、二人で歩き出す

スーパーに寄って、夕飯を二人で作って、お風呂入って

明日も休みだ。夜更かし出来る

さらに親は居ないし、二人きり

そう考えると、なんか身体がウズウズしてくる

たぶん澪もそうだ。握る手にちょっと力が入ってる

そんなことを考えつつ、歩いていたら

律澪「あ」

二人揃って気づく

楽器屋行くの忘れてた

122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:39:40.43 ID:1FD7vy2wo
和「ごちそうさまでした」

唯「ごちそうさまでした……」

夕飯を食べ終わりました

私と和ちゃん、揃って手を合わせます

憂「お粗末様でしたー。どうだった?」

和「美味しかったわよ。そう言えば、憂の作る煮物食べたの初めてかも」

憂「えへへ。初めて挑戦してみたんだ。お口に合って良かったよ」

梓「先輩、卵焼きどうでした……?ちょっと甘すぎですかね」

唯「とんでもないよ。美味しかったよあずにゃん。お料理上手だね……」

梓「泣くほどですか」

今日の朝から始めた「あずにゃんの理想の女の子になろう」作戦

まずは初期段階の「かっこいい唯先輩」を達成しようと色々努力したのですが

朝はお皿洗いレベルで指を切ってあずにゃんに手当てしてもらって

昼にプレゼント作戦を決行するも、お店の前で転びそうになってあずにゃんに支えてもらって

スーパーでは汚名返上しようと買い物袋に色々詰めてたら卵割っちゃって

せめて夕ご飯のお手伝いをしようとしたら、もちろん「怪我するから」とあずにゃんに止められて

唯「かっこいいって難しい……」

123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:40:08.92 ID:1FD7vy2wo
私ってこんなにダメなんだ……

なんかやること全部裏目に出てる感じ

その点、あずにゃんは違います

今日ずっと私のフォローしてくれたし、お料理だって今朝憂に習っただけでここまで美味しく仕上げています

ギターも私と違って上手いし、真面目だし、可愛いし

そんな私があずにゃんに何をしたか

何もしてないし、むしろ昨日の夜なんか寝てるあずにゃんに痴漢紛いなことしてるし

かっこいいどころかこれ、最低なんじゃ……

梓「唯先輩、流しにお皿持って行くの手伝ってもらっていいですか?」

唯「任せてあずにゃん!」

梓「そんな意気込まなくても……慌てなくていいですよ」

とりあえず、これで失点分の僅かな穴埋めにはなると信じたいです

先は遠いけれど、何もしないわけにもいきませんから

124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:40:38.25 ID:1FD7vy2wo
和「ねえ、先にお風呂入ってもいいかしら」

憂とあずにゃんがお皿洗いを終えてしばらくたって

和ちゃんがそう言いました

唯「いいよー。昨日は先にお風呂入らせてもらったし」

梓「はい、お先にどうぞ」

和「ごめんね、二人とも。じゃあ憂、行きましょうか」

憂「うん」

至極当然のように、憂と一緒にバスルームに向かおうとする和ちゃん

唯「……」

梓「そ、そんな目で見てもダメですよ!」

ですよねー

あずにゃんはダメですよねー

唯「いいなー、憂、和ちゃんと入れて」

梓「なっ……!?」

唯「そう言えば私、和ちゃんとしばらくお風呂入ってないよー」

和「そういえばそうね。唯も来る?」

憂「の、和ちゃんとお姉ちゃんと三人で……!」

125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:41:06.68 ID:1FD7vy2wo
梓「だ、だめですそ」

唯「あー、いいよ。家のお風呂、三人じゃちょっと狭いしね」

憂も、久しぶりに和ちゃんが泊まっているんだから、お話したいこともあるでしょうし

でもやっぱり、羨ましいなー

私もあずにゃんと入りたいけれど

唯「まー、仕方ないよねー」

梓「……」

126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:41:35.46 ID:1FD7vy2wo
唯「あずにゃん、二人がお風呂入ってる間、なにしよっか」

二人っきりです

面白いテレビはやってないし、ご飯も食べた

唯「いちゃいちゃ……する……?」

梓「お断りします」

唯「ですよね……」

わかってたのに……

わかっていたのに、何で私は敢えて傷つくような発言をするんでしょう……

梓「ギターの練習しましょうか、唯先輩」

唯「ギター?あずにゃん、ギター持ってきてるの?」

梓「いえ、私は持ってきてません。だから、唯先輩の練習をお手伝いしようかなって」

唯「あー、なるほどね」

そう言えば昨日はギー太に少ししか触ってないや

唯「じゃあちょっと持ってくるよ。あ」

そう言えば、

唯「あずにゃん、実は弾きたい曲があるんだよ」

梓「弾きたい曲?」

127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:42:01.73 ID:1FD7vy2wo
唯「うん。自分なりに耳コピしてみたんだけど。ちょっとCDも持ってくるから、聞き比べしてもらえないかな」

梓「はい。いいですよ」

唯「ありがとね。じゃあ、持ってくるね!」

128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:42:33.98 ID:1FD7vy2wo
唯「シェアーしよー、with loveー」

じゃーじゃーじゃかじゃかじゃん、じゃん、じゃーん

梓「わー」

あずにゃんが拍手してくれます

何だか恥ずかしいような嬉しいような、そんな気持ちです

唯「えへへ、どうかな」

梓「ちゃんと音が出てない箇所があったり、ストロークの細かいミスというか、やり方の不備はありましたけど」

あずにゃんが微笑みます

梓「そんな感じでいいと思いますよ。歌い辛かったら、ちょっと音程を調整すればいいと思いますし」

唯「本当?ありがとうー」

あずにゃんのお墨付きがあれば大丈夫でしょう

へへ、結構練習したからねー

梓「それにしても」

あずにゃんがCDケースを手に取り、眺めながら言いました

梓「唯先輩知ってたんですね、この人。結構マイナーなアルバムだと思うんですけど」

唯「ううん。こないだ知ったんだ。憂の好きな曲なんだって」

梓「あー、憂の」

なんだか憂らしいですね、とあずにゃんが微笑みます

129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:43:22.51 ID:1FD7vy2wo
唯「練習して、弾いてあげるって約束したんだー。あずにゃんはこの人知ってるの?」

梓「知ってますよ。とても優しいギターを弾く人です。まあ、私が知った時には、既に亡くなってましたけどね」

唯「そっか」

あずにゃんも好きなんだー

梓「ギターはそんな感じでいいと思いますよ」

唯「そう?」

試しに軽く弾いてみます

優しく、だけどポップな感じで音が流れるようなイメージを意識してっと

梓「……」

弾いていると、何やら視線を感じます

唯「……あずにゃん?」

梓「は、はい!?」

何故かあずにゃんがそんな声をあげます

顔も心なし赤いし

唯「どっか変だったかな?」

梓「い、いや、全然!……そのままで、良いと思います」

唯「へへ、そっか」

変なあずにゃんー

130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:44:15.21 ID:1FD7vy2wo
唯「ふいー、このくらいにしよっかー」

梓「もう、まだちょっとしか練習してないのに」

唯「あずにゃんとの貴重な時間だからねー、練習ばっかりしてちゃ勿体ないよー」

梓「またそうやって……」

唯「アイス食べたいー」

梓「ダメです。お風呂あがってからです」

唯「ちぇー」

ギー太を立てかけて、私はソファーにダイブします

目の前には、ソファーに座ってるあずにゃんの太ももが

言い忘れてましたが、今のあずにゃんの格好は半ズボンに長袖のしましまのTシャツです

可愛い

梓「寝転がると眠たくなりますよ。……お風呂、まだなんですから」

唯「眠らないよー。時間がもったいないしー」

そんなことを言った後で、ふと思いつきました

唯「あずにゃん、膝枕して?」

梓「……いいですよ」

131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:44:55.87 ID:1FD7vy2wo
唯「ですよねーって、え!?」

梓「どうぞ、唯先輩」

そう言って、あずにゃんは自分の太ももを軽く叩きました

唯「……本当に?」

梓「こんなことで嘘ついてどうするんですか」

唯「……本当に?殴ったりしない?」

梓「私がそんなことをするとでも思ってるんですか……?」

唯「だって昨日の夜は強く」

梓「わーわー!ど、どうするんですか!別に膝枕しなくてもいいんですよ恥ずかしいし!」

唯「お願いします」

あずにゃんの気が変わらないうちに、あずにゃんの太ももに滑り込みます

あずにゃんの太ももは白くて温かくて柔らかいです

昨日の夜は勝手に触っちゃったけど、今は違います

あずにゃん公認です

梓「髪、撫でてもいいですか?」

唯「え?うん、もちろん」

ふわっとあずにゃんの手が私の頭に乗ります

132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:45:36.09 ID:1FD7vy2wo
そのまま、猫を撫でるかのように

昨日の夜のように撫でてくれます

その太ももの感触と撫でられる気持ち良さで、油断するとすぐに眠ってしまいそうです

もったいないから、意地でも起きてますけど

唯「あずにゃん、何か今日は優しいね。膝枕してくれるし」

今日『も』、ですよねとあずにゃんは呆れます

梓「いえ、まあ。二人きりですし、お願いされましたから」

唯「ありがとね。これからは二人きりの時にだけお願いしようかな。わがまま聞いてくれそうだし」

梓「内容にもよりますけどね」

そんなことを言っていても、あずにゃんは優しく髪を撫で続けてくれます

その気持ちがとても嬉しくて、なんだかニヤけちゃいます

梓「そう言えば、今日はどうしたんですか?」

唯「んー?何が?」

梓「今日の唯先輩、なんか必死というか、何かに頑張ってた気がしたんですが」

唯「……」

さすがあずにゃん

133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:46:17.53 ID:1FD7vy2wo
私のことをよく見てくれている気がします

まあ、気がするだけで、実際はいつもと違う私に違和感があったんでしょうけれど

唯「朝も言ったけど、かっこよくなりたいなー、なんて思っちゃって」

梓「なんですかそれ」

あ、あずにゃん笑ったな

唯「酷いよー。まあ、確かに似合わないと思うけどさ」

梓「なんでまたそんなこと思ったんですか」

それは、言えないよね

まだ

唯「なんとなくだよ」

あずにゃんの視線から逃れるように、あずにゃんの反対方向に顔を向けます

梓「もう……」

あずにゃんはため息をついて、そして

梓「そのままでいいですよ、唯先輩は」

優しく髪を撫でてくれます

唯「そういうわけにもいかないんだよ……」

梓「もしかしたら、唯先輩はすでにかっこいいのかも知れないですよ?」

134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:47:21.01 ID:1FD7vy2wo
唯「え?」

一瞬喜んでしまいましたが

唯「……いやぁ、それは無いね」

そうですか、とあずにゃんが言います

梓「まあ、自分のことなんて意外とわからないものですよね」

唯「少なくとも、自分がかっこいいかどうかくらいはわかるもん」

梓「拗ねないでくださいよ」

拗ねてないもん

唯「じゃあさ」

顔をあずにゃんの方に向けます

唯「あずにゃんは、私のことかっこいいって思ってる?」

梓「練習を真面目にしてくれればね」

唯「ほらー、やっぱりそうじゃん!」

梓「違いますよ。これは捉え方の違いだと思います」

唯「あずにゃんが難しいこと言う……」

梓「まあ、そう難しく考えずに」

唯「でも……」

135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:47:55.42 ID:1FD7vy2wo
梓「ゆっくりでいいですから、無茶しないで。怪我でもされたら困ります」

そう言って微笑むあずにゃん

優しくて、思わず甘えちゃいそうになるけど

でも、私がのんびりしてたらあずにゃんは他の誰かさんに取られちゃう

この温かい膝枕も笑顔も、全部その人のものになっちゃう

焦らなきゃ、いけないと思うんですけれど

唯「……難しいところだねぇ」

梓「なっ!唯先輩、そんなところに顔突っ込まないでください!」

136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:48:52.71 ID:1FD7vy2wo
和「お風呂空いたわよ」

唯「あ、和ちゃん」

和ちゃんと憂が出てきました

和ちゃんは気持ちよさそうに、憂は何故か落ち込んでるように見えます

和「気持ちよかったわね、憂。お話もいっぱい出来たし」

憂「う、うん。そうだね、和ちゃん……」

梓「憂……次があるよ……」

憂「うん……」

何やらあずにゃんと憂がこそこそ喋っています

むぅー、なんか悔しいような……

でも憂、どうしたのかな

唯「ねえ、和ちゃん」

私は牛乳を一気飲みする和ちゃんに耳打ちします

和「ん?どうしたの?」

唯「憂と何かあったの?なんだか落ち込んでるような気がするんだけど」

和「そう?いつも通り可愛いじゃない。湯上がりの憂って色っぽいわよね」

137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:49:36.05 ID:1FD7vy2wo
唯「んー、お姉ちゃんだからわからないや」

和「お風呂の中でも楽しくお喋りしてたし、手も出さなかったわよ。ちょっとのぼせたのかしら」

唯「あー、そっか」

のぼせたのか。それじゃあ、

唯「憂-、アイスあるよー。のぼせたんなら、食べないと!」

憂「え?あ、うん!ありがとうお姉ちゃん」

のぼせるくらいお風呂に入ってたら、アイスもきっと美味しいよね

元気も出るだろうし

唯「じゃあ、私達も入ろっか。あずにゃん」

梓「お先にどうぞ」

流れでおっけーしてくれるかと思いましたが、甘かったようです

唯「入ってきますね……一人で……」

和「そんな落ち込まなくても……私がもう一回入りましょうか?」

憂「ダメ」

梓「ダメです」

138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:50:12.37 ID:1FD7vy2wo
唯「ふぃー」

シャワーで軽く体を洗って、湯船につかります

結構熱めだけど、それがまた気持ちいい

最近は夜は冷えだして、そんな時のお風呂は気持ちいいです

唯「あー、あずにゃん……」

結局あずにゃんと入れなかったなー、お風呂

明日のお昼にはもう帰っちゃうみたいだし

どうせなら月曜日の朝、ここから学校に行けばいいのに

それならあともう一回、一緒にお風呂に入るチャンスもあるし

唯「でもまあ、それでもダメか……」

あずにゃん、頑なに拒否の姿勢を貫いてたし

もしかしたら警戒されてるのかもね

昨日の夜、私が「女の子が好き」ってこと告白しちゃったし

あずにゃんの身持ちが堅いのかもしれません

好きな人としかお風呂に入らない、とか

それはそれでショックです

139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:51:04.45 ID:1FD7vy2wo
あずにゃんと一緒にお風呂に入れるその人が羨ましい

きっとあずにゃんも喜んで入るでしょう

もしかしたら、洗いっことかするかもしれません

唯「ふぅ……」

そのことを考えるのは止めよう。お腹の下らへんが痛くなる

それに、あずにゃんも昨日の夜は抱きついてくれたり、髪を撫でてくれたり

さっきだって髪撫でてくれながら膝枕してくれたりしたじゃん

自分が「女の子が好き」ってこと、カミングアウトしてくれたし

信用されてるよ、きっと

良いことだけを考えよう

唯「……先は長いんだしね」

今日のでわかりました

あずにゃんの理想の女の子になるのは難しい

これから気を抜かずに毎日努力したところで、きっと間に合わない

間違いなく、私は他の人と幸せそうに笑うあずにゃんを見ることになる

私の想いは無駄になる

それでも

140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 02:51:33.47 ID:1FD7vy2wo
唯「それでも、頑張るって決めたんだ」

私はあずにゃんが好きで、その気持ちは世界で一番価値がある

何もせずにただぼうっと見ているだけでは、この気持ちがもったいない

せめて、ロックンロールしよう

決まっている結末に銃口を向けて引き金を引いてやる

当たらなくてもいい。流れ弾がカスるだけでも、ヒビくらいは入れてやる

変わったなぁ、私と自分で思いました

こないだまで、ただこの気持ちを隠すために必死だったのに

今では伝えたくてたまらない

唯「欲張りになっただけかも」

少し笑います

さて、と

唯「あずにゃんをその気に出来るように、綺麗にしとかなくちゃね。髪も身体も」

ザバっと私が湯船から立ち上がろうとするのと

唯「え」

ドアが開いて、全裸のあずにゃんが入ってくるのはほぼ同時でした

141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [十分ほど休憩させてください]:2012/02/27(月) 02:52:47.66 ID:1FD7vy2wo
B・メイ「彼女は天才だ。だけど、君は天才じゃないよ。ただ上手なだけだ。ギターを弾くのがね」

ロックンロールが文化として栄える場所、イギリス・ロンドン

キース「大事なのはロックンロールなんだよ。ロックじゃない。『ろっくんろぉる』だ。わかるか?」

霧深い街で、一人の小さなギタリストは現実を知ることになる

ピート「君は大きすぎるから僕の趣味じゃない。だから言わせてもらうけど、君は彼女の隣に立っていいような人間なのかな」

小さなギタリストは、「天才」と称される一人のギタリストへの本当の気持ちに気づく

唯「うわー。バッキンガム宮殿の屋上でギター弾けるってすごい経験だよねー」

幾多の困難が降りかかり、彼女を邪魔し、心を壊していく

梓「私は、本当に唯先輩の隣には……」

律「くっそ、エンジンがかからないっ!!」

澪「おいおい、また派手にやらかしてくれるじゃないか……」

紬「ここまで追ってくるなんて大したものね、純ちゃん」

物語は加速し、そして静寂の向こう、新しい世界へ――

フランシス「大丈夫だ、アズサ。君はもう知ってるんだろう?彼女の隣でギターを鳴らす、本当の理由に」

梓「唯先輩」

唯「ん?どうしたのー、あずにゃん」

梓「私……私、唯先輩のこと!」

映画「けいおん!」

澪「……何してるんですか」

ジョン「ん?ああ、僕は今、駅で売店を開いてるのさ」

142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/02/27(月) 02:56:22.74 ID:cls21YI5o
一旦お疲れ
快適に読めてめっちゃありがたい、続きも頑張れ

144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/02/27(月) 02:58:45.56 ID:1Z4L59GAo
取り敢えず乙
この微妙な距離感がもどかしい

148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:06:12.42 ID:1FD7vy2wo
唯「あ、あずにゃん!?」

急いで湯船に戻ります

み、見られた?見られたよね

あずにゃんがドア開けるタイミングとほぼ同時だったもん!

いや、そりゃ裸を見られたのが初めてってわけじゃないけどさ!

で、でもだっていきなり過ぎて

唯「ど、どうしたのあずにゃん……」

あずにゃんは嘆息してから、

梓「……唯先輩が一緒にお風呂ってしつこいから、来てあげました」

嫌ですか、と言われて全力で首を横に振ります

唯「ぜ、是非一緒に!」

梓「なんですかそれ」

笑って、そしてシャワーで体を軽く流して、あずにゃんが湯船に入ってきます

梓「すみません、もうちょっとそっち寄ってもらえます?」

唯「う、うん」

一人が足を伸ばせるくらいには大きい浴槽ですが、さすがに二人で並んで足を伸ばせる幅は無くて

唯「あ、あずにゃん、こう座る?私の、足の間に」

ちょっと足を開いてみます

149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:07:02.30 ID:1FD7vy2wo
いや、ちゃんと隠しはしますけど

あずにゃんは大して抵抗することも無く、私の足の間に座ってくれました

自然と、あずにゃんが私の胸に背中を預けてくれて、私は軽く抱きしめる形になります

なんだろう、もの凄く嬉しい

梓「ふぃー」

唯「ふふ、あずにゃん私と同じこと言ってる」

梓「お風呂入ったら、みんな言うと思いますよ」

しばらく、沈黙して

唯「あずにゃん、なんで一緒に入ってくれる気になったの?」

聞いてみます

何気に手の置き所が無くて、あずにゃんのお腹の上らへんを行ったり来たりしてます

会話でもしてないと、ちょっと所在ない

梓「まあ、何度もお願いされましたし。それに、明日のお昼には帰っちゃいますから」

あずにゃんが私の両手を掴んで、お腹の上に置きました

そのまま、握ってくれます

梓「だから、今夜くらいはいいかなって。二人っきりでお風呂入るのは初めてですし」

唯「夏の合宿の時は一緒にお風呂入ったけど、みんなと一緒だったからね」

150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:07:50.14 ID:1FD7vy2wo
あの時は本当に、女の子で良かったって思ったっけ

警戒されることもなく一緒にお風呂入れて、あずにゃんの裸見られるんだから

もちろんあの白くて細い、彫刻のような身体は網膜に焼き付けてます

ちなみにこの瞬間も、絶対に忘れないように保存中

唯「あの時はあまりお話出来なかったね。……あずにゃんが澪ちゃんばっかりに話しかけてるから」

梓「そ、それは唯先輩だって同じじゃないですか!律先輩とばかり遊んでて」

あずにゃんがぐいーっと背中で押してきます

唯「そんなに遊んでたっけ?」

梓「遊んでましたよ。それに予想ですけど、たぶんその時澪先輩は律先輩とお話したかったと思いますよ」

私と話してる最中も頻繁に律先輩の方見てたし、とあずにゃんは言います

唯「あー、それは悪いことしちゃったね。もしかしてその時にはもう付き合ってたのかな?」

梓「それはわかりませんけど。……そう言えば、夕方スーパーで買い物してましたね」

唯「してたねー。なんかずっとイチャイチャしてて、声かけられなかったよ」

梓「あんな場面で声かけるのを、野暮って言うんでしょうね」

151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:08:21.37 ID:1FD7vy2wo
言われるまではわからなかったけど、今日改めて二人を観察してみると確かに、二人は愛し合っていました

雰囲気というか何というか

通じ合う何かが、二人の間には存在しました

羨ましい、と思います。私があずにゃんとなりたい関係の完成形でした

唯「羨ましいな」

無意識に声に出してしまいました。やっちゃった、と思いましたが、

梓「そうですね」

あずにゃんが呟くように言いました

唯「……あずにゃんも、やっぱああいう風になりたい?その、好きな人と」

梓「当たり前じゃないですか。好きなんですから」

少し笑いながら、あずにゃんが言います

梓「唯先輩だってああいう風になりたいんじゃないですか?」

唯「うん。もちろん」

私はあずにゃんとそういう風になりたいんだけどね

あずにゃんには好きな人が居るけど

梓「……お話もいいですけど、先に髪とか体とか洗っちゃいましょうか」

唯「うん。あずにゃん、お先どうぞ」

152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:08:56.32 ID:1FD7vy2wo
じゃあお先に失礼しますね、と言ってあずにゃんが立ち上がりました

あずにゃんの可愛いお尻も、その表面に流れる水滴の一つ一つも間近で確認できます

唯「色、白いね」

梓「新陳代謝が良いみたいですから。でも、すぐに日焼けしちゃうんですよね」

唯「可愛いよ。日焼けしても」

梓「またそんなことを平気な顔で……」

照れたようにそっぽを向いて、あずにゃんはシャワーを浴び始めました

髪を纏め上げていたタオルを外すと、ふわっと長くて黒い髪があずにゃんの白い背中に広がります

その髪にもう一度触れたくて

唯「私、洗ってあげようか?」

梓「え?」

あずにゃんが振り向きます

唯「一緒に入ってるんだし、洗いっこしようよ。夏の合宿の時は出来なかったし」

埋め合わせだよ埋め合わせ、とあずにゃんに必死で言ってみます

梓「じゃ、じゃあお願いしてもいいですか?」

何やらもじもじしていたあずにゃんですが、やがて小さく呟くように言いました

唯「へへ、もちろんだよ」

153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:09:25.92 ID:1FD7vy2wo
私もさっそく、湯船から立ち上がります

胸とか下とか隠そうと腕が動きましたが、少し考えてやめました

別にあずにゃんになら見られてもいいし、むしろ見て欲しい

唯「じゃあまず、髪濡らすね」

シャワーの温度が熱すぎないか確認して、髪を濡らしていきます

唯「熱くない?あずにゃん」

梓「はい。丁度いいです」

地肌から髪の先まで丹念に濡らして、それからシャンプーです

毛先までちゃんと手を入れて、泡立てます

唯「痛くない?」

梓「いえ……気持ち、いいですよぉ……」

甘えるような声音でそう言われて、心臓が高鳴ります

どうやら気持ちよく出来ているようです

なんだか嬉しくて、尚更丁寧にやってしまいます

唯「お客様、かゆいところはございませんかー?」

梓「無いですよぉ……」

冗談もスルーされてしまいました

154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:10:20.87 ID:1FD7vy2wo
……思えば髪を洗わせてくれるのって結構親しい間柄でしか出来ないよね

そういう点では、あずにゃんは私に少しは心を許してくれてるのかな

唯「流すよー。目に入らないようにしてね」

シャワーで泡を洗い流して、次はトリートメント

髪が長いから、やりがいがあります

唯「あずにゃん、髪長くて大変じゃない?お手入れとかさ」

梓「そうですねー」

気持ちよさそうに目を閉じながら、あずにゃんが言います

梓「結構昔から伸ばしてはいるんですけど、確かに大変ですね。切っちゃおうかなって思って」

唯「絶対だめ」

梓「え?」

唯「もったいないよこんなに綺麗なのに。絶対だめだからね、切っちゃ」

梓「そんな真剣な顔で言われても」

困った風に笑うあずにゃん

でもどこか嬉しそうなのは気のせいでしょうか

155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:10:54.33 ID:1FD7vy2wo
梓「……唯先輩、髪の長い子の方が好みなんですか?」

唯「うん」

だってあずにゃん、髪長いもん

まあ、あずにゃんがショートにしても惚れ直す自信はありますけどね

でもやっぱ、あずにゃんの長い髪が好きです

梓「そうですか」

だったら、とあずにゃんが言います

梓「だったら、髪はこのままでいいです」

唯「へへ。……あずにゃんの好きな人も、長い髪が好きな人なの?」

梓「好きって言ってくれましたよ」

唯「そっか。……良かったね」

毛先まで丁寧にトリートメントして、手櫛ですいて、トリートメントを残さないように時間をかけて洗い流します

唯「はい、終わり!」

梓「ふぁ……ありがとうございます、唯先輩。……気持ちよかったです」

唯「えへへ。人の髪を洗ったのなんて、憂が小学生くらいの時以来だからね。上手くできたようで良かったよ」

さて、と

156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:11:24.43 ID:1FD7vy2wo
唯「じゃあ次は体を洗おうか!」

梓「か、体はまだダメです!自分で洗えますから!」

唯「ちぇー、あずにゃんのいけずー」

予想してましたけどね

髪まで洗わせてくれて、まさか体まで洗わせろなんて贅沢が過ぎるというものです

……ん?今『まだ』って言った?

湯船に戻って、あずにゃんが身体を洗うのを観察します

へー、あずにゃんは最初に左腕から洗うんだ

それから右腕、お腹、お股、右太もも……

梓「ゆ、唯先輩。そんなまじまじと見ないでもらえます?」

唯「え?あ、ごめんごめん、ついね」

梓「結構恥ずかしいんですからね、こんなとこ見られるの……」

まああれだけ凝視してればバレるよね

いそいそと身体を洗い終わったあずにゃんは、シャワーを浴びて泡を洗い流します

なんていうかやっぱ、あずにゃんっておっぱい大きくなってるよね

昨日揉んだ時もそう思ったけどさ

157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:11:52.90 ID:1FD7vy2wo
梓「お待たせしました。次どうぞ」

唯「うん、交代ね。あずにゃんも入りなよ、湯船……に?」

あずにゃんと変わろうと私が湯船を出ましたが、あずにゃんは湯船に入る様子はなく、ただ私を待っています

唯「どうしたの?」

梓「え?私も唯先輩の髪洗おうかなって」

至極当然のように言いました

唯「え。……いいの?」

梓「洗いっこって言ったの唯先輩じゃないですか。ダメですか?」

唯「いえ、お願いします」

なんということでしょう。あずにゃんが私の髪も洗ってくれるって!

正直、あずにゃんの髪を洗いたい一心だったので自分の髪まで洗ってくれるなんて忘れてました

昨日から、夢のような出来事が続いていて少し怖いくらいです

落として上げるなんてことはないよね?

大丈夫だよね?

私を座らせると、あずにゃんはシャワーで私の髪を濡らし始めました

梓「熱くないですか?」

唯「大丈夫だよー」

158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:12:28.51 ID:1FD7vy2wo
小さな手が私の髪を撫でて、それからシャンプーでわしゃわしゃされました

地肌が優しくこすられて、新感覚の気持ち良さです

梓「これくらいの強さでいいですか?」

唯「うん……上手だねー、あずにゃん」

梓「そうですか?初めてなので、唯先輩の見よう見まねですけどね」

照れくさそうに言って、丁寧に洗ってくれます

そっか、初めてなんだ

意図せず、あずにゃんの初めてを貰っちゃいました

なんか嬉しいです

あずにゃんの好きな人の先を取ることに成功しましたよ

梓「流しますよー」

唯「うん」

次はトリートメントで、あずにゃんはゆっくり丁寧に髪の一束一束まで洗ってくれます

唯「……髪を洗ってもらうって気持ちいいね、あずにゃん」

梓「そうですね。唯先輩がしてくれたのも気持ち良かったですし」

唯「……あずにゃんに髪を洗って貰えるの、これが最初で最後かも知れないね」

梓「え?なんでですか?」

159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:13:19.93 ID:1FD7vy2wo
唯「あずにゃんが好きな子と付き合ったら、もう家にはお泊まりに来てくれないでしょ?」

髪をトリートメントする手が止まりました

そして、後ろからため息をつくのが聞こえて

梓「本当に唯先輩はしょうがないですよね」

唯「あずにゃん痛い!髪が!キューティクルが!」

乱暴にわしゃわしゃされました

唯「乙女の髪なんだから、もうちょっと優しくしてくれても……」

梓「唯先輩が変なこと言うからでしょ」

再び、丁寧に髪をトリートメントしてくれるあずにゃん

梓「第一、まだ私が『その人』と付き合えるかどうかは決まってないじゃないですか」

唯「その点は大丈夫だよ。あずにゃん可愛いもん」

梓「それ、わかってて言ってるんですか?」

唯「何が?」

梓「わかってないですよねー」

知ってましたけど、とため息をつくあずにゃん

唯「ねー、何がわかってないの?」

梓「もういいですよ。それより、髪流しますよ」

161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:13:49.64 ID:1FD7vy2wo
シャワーをかけられました

私がやった時のように丁寧に、髪のヌルヌルを落としてくれます

梓「はい、じゃあ体は自分で洗ってくださいね」

唯「えー?洗ってよー」

梓「は、恥ずかしいじゃないですか!いいからさっさと洗っちゃってください!」

そう言って湯船に戻っていくあずにゃん

まあ仕方ないかー

体を洗っていると、湯船の中からあずにゃんがチラチラ見てきます

唯「あずにゃん、どったの?」

梓「い、いえ、別に!」

まあ見ちゃうよねー。私も見てたし

唯「好きなだけ見なよー」

梓「そ、そんなんじゃないですってば!」

あずにゃんにちら見されながら体を洗い終えて、湯船に戻ります

唯「あずにゃん、ちょっと寄ってくれる?」

梓「あ、はい」

162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:15:05.67 ID:1FD7vy2wo
湯船に浸かって、最初のような姿勢を取ります

唯「いいよ、あずにゃん。おいでー」

梓「は、はい」

おずおずと、あずにゃんが私の足の間に座ります

梓「よく考えると、この姿勢って結構恥ずかしいですよね……」

唯「んー?でもこれしか無いよ、二人が足伸ばせる姿勢って」

あずにゃんとも密着出来るしね

唯「あずにゃん、もっと寄りかかっていいよ?」

梓「え?あ、じゃあ、お言葉に甘えて」

あずにゃんが背中を預けてくれて、私は改めて両手をあずにゃんのお腹に回します

へへ、おっぱいがあずにゃんの背中に当たってる

私の両手を、あずにゃんが握ってお腹の上に置きます

唯「あずにゃんのお腹柔らかいねー」

梓「ゆ、唯先輩は胸が大きくなりましたよね」

唯「そっかな?」

梓「背中に、その……当たってるんですけど」

163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:15:34.04 ID:1FD7vy2wo
唯「いいよー別に。うりうり」

梓「ちょ!押しつけないでください!……い、嫌みですか」

唯「違うよ。あずにゃんも大きくなってるじゃん」

梓「え?まあ、最近少し。……よくわかりましたね?」

唯「……いや、私見ただけで女の子の胸のサイズわかるから」

梓「本当ですか……?」

唯「本当だよ。現にほら、当たってたじゃん」

危なかった

揉んで確かめたとかバレたら嫌われちゃいます

何とか誤魔化せたようで良かった

ふーん、とあずにゃんが意味ありげな瞳で私を見ます

梓「ま、いいですけど」

そのまま、二人で何を話すでもなくお湯に浸かっていました

ただ、私の胸に押しつけられるあずにゃんの背中と、時折あずにゃんが開いたり閉じたりして遊んでる私の両手と

なんだか色んなところであずにゃんと距離が近いってことがわかって安らぎます

この瞬間だけは、あずにゃんはどこにも行かないし

私だけの側に居てくれますから

164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:16:21.01 ID:1FD7vy2wo
唯「あずにゃん、ちょっと気になってることがあってさ」

安らぐけれど、それに甘えてるばかりにもいかなくて

こんな雰囲気だからこそ、あずにゃんが近くに感じる時だからこそ

聞かなくちゃいけないことだってあるわけで

梓「なんですかー?」

どこか間延びした、リラックスしてるあずにゃんの声

普段のあずにゃんからはちょっと想像出来なくて、可愛いです

唯「あずにゃんの好きな人のことで、聞きたいんだけど」

梓「もう……ヒントはあれ以上出しませんよ?」

唯「特定しようとしてるんじゃないよ」

梓「いいですよ」

なんですかー、とあずにゃんが静かに寄りかかります

そんなあずにゃんをもっと深く抱きしめて、うなじに顔を寄せて

唯「好きな人とさ、その……どこまで進んでるのかなって思って」

梓「どこまで、ですか」

考え込む仕草のあずにゃん

お腹に回した私の手を弄びながら、口を開きます

165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:17:11.55 ID:1FD7vy2wo
梓「膝枕とか、したことあります」

唯「……」

梓「一緒に寝たこともありますよ」

唯「ちょ、それってまさか!?」

梓「や、そういう意味じゃなくて!」

ガバッとあずにゃんが振り返って、私を見ます

梓「その……そういうことはしてなくて、ただ一緒のお布団でってことです」

唯「あ、ああ。そっか」

良かった

いや良くないか。少なくとも、お泊まりまでするくらいには二人の仲は進展しちゃってるんだから

唯「それは……お泊まりしたってことだよね」

梓「そうですね」

唯「い、一緒にお泊まりってことは、その……『そういうこと』はまだ欠片も無いんだよね?」

梓「そこまで聞きますか……」

唯「こ、今後の参考というか、なんというかね?」

梓「……まあ、そういう雰囲気になったことはありますね」

唯「……」

166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:18:01.14 ID:1FD7vy2wo
聞くんじゃなかった

いや、現実から目をそらしても仕方ないんですが

現状の確認というか

私とあずにゃんの好きな人とでは、どれだけアドバンテージを取られているのか

それを確認しないことには、何も出来ないじゃないですか

唯「た、例えば?」

そうですね、とあずにゃんは少し考えて、

梓「一緒に寝た時、抱き合って髪を撫で合ったり」

唯「はい」

梓「私から抱きついちゃったり」

唯「はい」

梓「私が寝たと思ったのか、身体を色々触られましたね。胸とか」

唯「はい」

梓「まあその……肝心な所でその人が止めちゃったんで、結局私も寝たフリをしたままだったんですけどね」

唯「はい」

梓「……唯先輩、ちゃんと聞いてました?」

聞いてるよ、もう!

何なんだよこれ!私がやったこと全部先にやられてるじゃん!

167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:19:10.28 ID:1FD7vy2wo
っていうか何?今の様子だと、あずにゃんの好きな人もあずにゃんのこと好きなんじゃないの!?

唯「……寝込みを襲うなんて最低だよね、人として」

両想いなのに、それを引き裂こうとする私は格好悪いです

しかも、私もあずにゃんの寝込みを襲ってますしね

梓「んー……確かにびっくりはしましたけど」

唯「けど?」

梓「正直、あまり嫌な気持ちはしませんでしたね。むしろ嬉しかったというか」

もうダメだ私立ち直れない

うっわ、聞かなきゃよかった

頭がクラクラしてくる

鼻の奥がつーんとする

私が入る隙間なんて無かったんだよ

唯「あずにゃん、良いこと教えてあげる。たぶんね、あずにゃんは両想いだよ」

梓「……そうでしょうね」

168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:20:22.25 ID:1FD7vy2wo
唯「え」

気づいてるんだ、あずにゃん

梓「本人から直接聞いたわけじゃないので、確信は持てませんが」

あんなことするんだからたぶん好かれてはいると思います、と

あずにゃんは言いました

唯「……告白しないの?あずにゃんから」

梓「それをしちゃったらダメなんですよ」

本当は気持ちを伝えたくてたまらないんですけど、とあずにゃんは笑います

梓「待たないといけないんです。その人から告白してくれるの」

唯「……どうして?告白したら、その人と付き合えるんだよ?」

今まで以上に抱き合ったり一緒に寝たり、その先だって出来るのに

梓「んー。なんて言えばいいですかね……単純に、私のわがままなんですよ」

あずにゃんがぎゅっと私の手を握ります

梓「私は今まで誰とも付き合ったことなくて。それなのに、こんなこと言うなんて可笑しいって笑われるかもしれないんですけど」

梓「その人とずっと一緒に居たいんです。卒業しても、大学行っても、社会に出ても、お婆さんになっても」

梓「その人と一緒に笑いたいし、喧嘩したいし、色々な感情を共有していたい。同じ景色をみたい」

梓「ずっと一緒に居たいから。だから、必要なものがあるんです」

169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:21:12.93 ID:1FD7vy2wo
唯「必要なもの?」

梓「……私と、その人は。そう遠くない未来に離ればなれになちゃいます」

唯「え!?な、なんで……」

梓「仕方の無いことなんですけどね」

あずにゃんが笑います

梓「もちろん、私も追いかけます。でも、ほら。私がそばに居ない間に、その人が心変わりしちゃったりしたら」

唯「……」

梓「信じてないわけじゃないんですけどね。でも、環境が変われば。新しい交友関係が出来れば、その中に可愛い人も居るでしょうし」

梓「それは私の知らない生活で、環境で。その中で絶対に想いが変わらないって保証は無いと思うんです」

どうしたって時間は流れちゃうし、考え方だって変わっちゃいますから

だから

梓「だから、必要なんです。その人から言って貰える『愛してる』って言葉が」

梓「その言葉は私の中で変わったりしません。私はその言葉だけを信じて、その人の居ない時間を耐えて、追いかけます」

梓「追いかけたその先が、その人と他の人が幸せそうに笑ってる光景でもいいんです。その時は、まあたぶん泣いちゃいますけど」

それでも、私の気持ちは貫けますから

そう言葉を結ぶと、照れたようにあずにゃんは顔を洗いました

梓「すいません、なんか変なこと言っちゃって」

170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:22:28.98 ID:1FD7vy2wo
唯「ううん。……変じゃないよ」

私にしちゃいなよ、と言いそうになりました

そんな風に待ってないで、私にしちゃえば

私なら、ずっと一緒に居てあげるのに

私なら、絶対にこの想いは変わらない自信があるのに

ああ、なんだか頭がクラクラする……

唯「辛くない?そんなに待っててさ」

梓「……正直、辛いですよ。その人、私が好きだってことに気づいてないみたいで。何度も私から告白しそうになりましたし」

唯「鈍感な人なんだ」

梓「ええ。……鈍感で、そのくせスキンシップは頻繁にしてきますし。だから」

171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:23:05.96 ID:1FD7vy2wo
瞬間、ザバっとあずにゃんが立ち上がり、私に覆い被さりました

浴槽のへり、私の頭の左右に両手を立てて

私の目の前に、あずにゃんの可愛い胸が赤裸々に晒されます

梓「だからもう、本当。どうにかなっちゃいそうなんですよ」

唯「あ、あずにゃん……?」

あずにゃんが私の首すじに顔を寄せて、唇を押しつけます

梓「私の気も知らずに抱きついて、身体まさぐって……お風呂に一緒に入って欲しいとか、誘ってますよね?」

唯「く、唇押しつけたまま喋らないで……」

吐息が首すじを撫でて、ゾクッと背筋が震えます

梓「唯先輩だって私にしたんですから……私がしたって、いいですよね」

それは質問なのか確認なのかわかりませんでした

どちらでも無いのでしょう

あずにゃんが私の唇に、あずにゃんのそれを近づけます

ただ唇は触れることなく、数ミリ上で止められて

私の足の間に、あずにゃんは身体を押し込んできます

足を閉じることも出来ず、ただ乱暴に胸を揉まれて

梓「嫌なら抵抗していいんですよ?逃がしませんけど」

172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:23:47.85 ID:1FD7vy2wo
唯「あ、あずにゃん……なんで……」

何が起きているかわかりませんでした

ただ、あずにゃんの吐息が熱くて、手つきも乱暴で

私が昨日の夜にした行為と、あずにゃんが先ほど言っていた「そういう雰囲気」の中でされたこと

それがぴったりと重なって、どういうことかもわかって

そこまでわかれば、あずにゃんの好きな人も予想がついて

でも、それは。この展開は

あまりにも、私に都合が良過ぎじゃないかな

173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:24:19.38 ID:1FD7vy2wo
梓「唯先輩、大丈夫ですか!?」

和「だめね。完璧にのぼせてる。一応リビングには運んだけど」

憂「二階の部屋まで運んであげるのは無理だね、さすがに」

和「今夜はここで寝かせましょうか。憂、私、布団運んでくるわね」

憂「うん、ありがとう」

梓「ごめんね、憂。唯先輩がこんなになるまで……」

憂「ううん。お姉ちゃんも梓ちゃんとお話したくて長風呂しちゃったんだよ」

梓「でも……半分以上私が話してたし……」

憂「ところで梓ちゃん。……のぼせるくらいお風呂入ってたってことは、もしかして!」

梓「……」

憂「あ、梓ちゃんも……」

梓「結構……いい雰囲気だったんだけどね……」

憂「次があるよ……気長に行こう?」

梓「そうだよね……ありがと、憂」

和「持ってきたわよ。梓ちゃんも唯と寝るのよね」

梓「え?あ、はい。そうさせて貰えるなら」

和「お布団一式に、枕二つね。今敷くから、唯を運んで貰える?」

梓「はい。……唯先輩、お布団のところ行きましょうね。よっ、と」

梓「……はいはい。私も一緒ですよー」

174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:28:04.69 ID:1FD7vy2wo
月曜日の放課後、部室

律「唯」

唯「ふぇ!?な、なに?」

律「い、いや。なんかさっきからソワソワしてるなって。どうした?」

唯「べ、別に何ともないよ。あはは」

澪「そういや遅いな、梓」

唯「そ!そうだね。遅いな、あずにゃん!」

澪(梓か)

律(梓絡みか)

紬(やっぱり週末に何かあったのかしら)

あずにゃんとのお泊まり会を終えて、月曜日です

あずにゃんとお風呂に入った私は、あろうことかのぼせてお風呂の中で倒れてしまったようです

あずにゃんと和ちゃんが支えてくれながらリビングまで運んでくれたらしくて

結局私が起きたのは、日曜日のお昼過ぎ

あずにゃんと和ちゃんはとっくに帰ってしまってました

その夜はあずにゃんもリビングの同じ布団で寝てくれたらしいのですが、全く覚えてません

勿体ない、とどれだけ後悔したか

っていうか、それよりも

175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:28:54.59 ID:1FD7vy2wo
唯「……」

私が見た夢が問題です

お風呂場で、あずにゃんに、その……されるとか

鼻血とか出さないように普段通りを心がけてあずにゃんとお風呂に入っていたのですが、相当無理をしてたようです

いやまあ、実際無理だよね。好きな人が裸になってて、エロい気持ちにならないとか

でもまさか、あんな夢を見るまでとは思ってませんでした

いつも妄想してるのは、私があずにゃんにしてる感じなのに

今回の夢は、私があずにゃんにされてました

そういうのも、ちょっといいかなって思ったりして

なんというか、その

あずにゃんに会うの恥ずかしい

絶対に顔真っ赤になるって!

律(うお、顔真っ赤になってるぞ唯)

澪(や、やっぱ進展があったんじゃないか?律!)

紬(待って澪ちゃん。焦っちゃダメよ。見守らないと)

澪(あ、ああ。そうだな。ここは慎重に見守らないとな!)

その時です

梓「お疲れ様ですー」

176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:30:05.70 ID:1FD7vy2wo
唯「!」

扉が開いて、あずにゃんが顔を出しました

澪「お、梓来たか」

律「遅れるなんて珍しいじゃん。ほら、早く来いよ」

梓「は、はい」

トコトコと駆け寄ってくるあずにゃん

ギターと鞄をベンチに置いて、席に付きます

梓「すみません、ちょっと友達とお喋りしてまして」

律「いいって別に。どうせ今日も練習なんか少ししか」

澪「律?」

律「ごめんなさい」

紬「今お茶入れるわね、梓ちゃん。ミルクティーでいい?」

梓「はい、お願いします」

あずにゃんは今日も可愛い

本当に、見とれるくらいです

あの髪に触れて、あの太股で膝枕してもらって

それで、あの小さな手で髪を洗ってもらって、夢の中とは言え胸まで……

177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:31:12.77 ID:1FD7vy2wo
律「で、だ」

澪「うん。えっと……」

梓「……」

紬「あの……」

律「ゆ、唯?」

唯「ひゃい!?」

我に返ります

び、びっくりした……

律「だ、大好きなあずにゃんが来たぞ?」

唯「え?あ、こんにちわあずにゃん!遅かったね!」

梓「へ?……あ、すみません。憂と少し話をしていたので」

唯「そ、そっか!えへへ!」

律「……」

澪「……」

梓「……」

紬「……」

え、何この沈黙

178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:31:59.76 ID:1FD7vy2wo
わ、私どこか変だった?

平静を装えてたよね?

律「あ、あのさ、唯。その……」

澪「きょ、今日は梓に抱きつかないんだなー」

唯「へ?……あ」

そ、そうだった!

今日一回もあずにゃんに抱きついてないよ!

唯「そ、そうだったね!忘れてたよ!」

紬(忘れてた!?)

立ち上がり、あずにゃんの席まで回り込みます

唯「あ、あずにゃん分補給の時間だよー」

冗談めかして、勢いとノリで抱きつきにいこうとします

しかし

梓「……はい。どうぞ」

あずにゃんが両腕を広げて、迎えてくれました

今まではこんなことしてくれなかったのに

両腕を広げて私を待つあずにゃんの上目遣いが、そりゃもう可愛くて

……鼻血が出そうで

179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:33:54.09 ID:1FD7vy2wo
唯「きょ、今日はお休み!休肝日!」

梓「へ?」

律「なんだと……?」

あずにゃんから顔をそらして、とりあえず言い訳してみます

唯「あ、あずにゃん分は中毒性高いからね!たまには摂取しない日も作らないと!」

澪「へ、へえー」

紬(い、一体何が起きたというの……)

ダメだ、鼻血出そう

唯「わ、私ちょっとおトイレ行ってくるね!みんなはお茶してて!」

少し落ち着かないと

私は逃げるように、急いで部室を出ました

180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:35:40.22 ID:1FD7vy2wo
律「……一体どうしたというんだ」

唯が。あの唯が

梓大好きなあの唯が、梓に抱きつかないだなんて

今まで無かったし、考えられない

やっぱりこの週末、何かあったんじゃ

梓「す、すみません」

突然、梓が席を立った

澪「どうした?梓」

梓「教室に忘れ物しちゃったみたいで。取りに行ってきますね」

律「あ、ああ」

梓「急いで戻りますから」

そう言って梓も小走りで部室を出て行く

な、何なんだよ、一体……

さわ子「こんにちわー、みんな練習してるー?」

程なくして、さわちゃんが入ってきた

練習してるー、とか聞いておきながら、目線はテーブルの上のお菓子とお茶だ

181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:37:15.69 ID:1FD7vy2wo
さわ子「むぎちゃん、私もお茶ちょうだい」

紬「はい」

律「さわちゃん、さっき梓に会った?」

椅子に腰を下ろすさわちゃんに聞いてみる

さわ子「ん?うん。階段の踊り場ですれ違ったわよ。なんだか顔真っ赤にしてたけど」

澪「顔が真っ赤に?」

梓が顔を真っ赤にしてた?

なんだか本当、意味がわからない

さわ子「一体どうしたの?そう言えば唯ちゃんも居ないみたいだけど」

ギターと鞄はあるみたいね、とさわちゃんは言う

律「いや、実はさ」

私は先ほどの出来事をさわちゃんに話す

唯の様子がおかしかったこと

唯が梓に抱きつかなかったこと

唯が逃げて、梓も逃げちゃったこと

さわ子「あらー。そういうことね」

182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:37:49.82 ID:1FD7vy2wo
笑って、お茶を飲むさわちゃん

澪「先生、何が起きたのかわかるんですか?」

さわ子「だいたいね。……あ、ほら、むぎちゃんも座りなさいよ」

紬「あ、はい。ありがとうございます」

むぎを自分の隣に座らせて、改めて私と澪に向き直る

さわ子「週末、お泊まりしたんでしょ?あの二人。たぶんね、唯ちゃんは意識し過ぎちゃってるのよ」

澪「意識?」

さわ子「そうそう。どうせ寝食を共にしてみて、梓ちゃんの新たな一面とか見ちゃったんじゃない?それか、何かイベントが発生したとか」

律「イベント?」

さわ子「十八禁的なね」

またまたー、と笑う私と澪

……まだ、だよね?

澪「そうですか。……じゃあ、心配はいらなそうですね」

さわ子「梓ちゃんの方も、なんだか普通じゃないみたいだしね。ま、暖かく見守って上げればいいんじゃない?」

澪「はい。そうします」

律「っていうかさわちゃん知ってたんだ、唯が梓を好きなの」

さわ子「当然よ。見てればわかるわ。……りっちゃんと澪ちゃんの関係も気づいてるわよ?」

183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:38:21.60 ID:1FD7vy2wo
澪「え!?」

ちょ、マジで?

律「む、むぎ?」

紬「いや、私が言う前から気づいてたわよ、先生」

そ、そっか

あれー、結構気をつけてたのにな

さわ子「まあ別に何も言わないわよ。この学校、昔からレズ多かったしね」

伝統みたいなものよ、とさわちゃんは笑う

むぅ……

律「伝統かー。だからさわちゃんも女の子好きなんだね。むぎ可愛いもんなー」

さわ子「え……?」

さわちゃんがむぎを見る

むぎが困った風に笑ってる

澪「いや、その……私達が気づいちゃって」

さわ子「……マジ?」

頷く私と澪

途端、ガシっとさわちゃんが私の肩を掴んだ

184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:39:10.27 ID:1FD7vy2wo
さわ子「お願いだから言わないで!生徒に手を出したとかヤバイと思うから!」

律「言わないって!応援してんだからさ」

どんだけ焦ってるんださわちゃん

澪も慌ててフォローする

澪「そ、そうですよ。別にからかおうとかそんなんじゃありません」

さわ子「ほ、本当……?」

再び頷く私と澪

こんなこと、誰彼かまわず言えるもんか

律「もっと私達を信用しろよー、さわちゃん。むぎは信じてくれたのにー」

澪「そうブーブー言うなよ律。確かにさわ子先生の言う通り、バレたらヤバイんだから」

そりゃそうだけどさー

さわ子「だって仕方ないじゃない。どこで誰を好きになるかなんて自分で決められるわけないでしょ」

律「まあ、そうだな」

さわ子「それに本気で好きになっちゃったんだもの。絶対に離したくないから、みんなには黙ってたのよ」

紬「さ、さわちゃん……そんなに私のこと……」

さわ子「私は本気よ、むぎちゃん」

185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:39:59.40 ID:1FD7vy2wo
紬「私も、私も大好きです!」

律「あれ、どこから惚気を聞かされる展開になった?」

澪「さわちゃんって呼んでるんだ、むぎ」

まあ、お互いに交際が発覚したことだし

……えっと、何の話だったか

律「って、そうじゃなかった!私達じゃなくて、唯と梓のことだ!」

さわ子「だからほっとけばいいってー。なるようにはなるんだし」

律「でも……」

さわ子「いいのよ。私達が何をしたところで、結局は唯ちゃんと梓ちゃんの問題なんだし。私達に出来ることがあるとすれば」

澪「……あるとすれば?」

さわ子「この後の展開よね」

紬「この後?」

さわ子「そう。見守るとか、相談に乗ってあげるとか。もし二人が付き合えたら応援してあげて、ダメだったらフォローするとか」

それくらいよ、とさわちゃんは言った

186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:40:37.50 ID:1FD7vy2wo
一定のラインを引くような大人の意見だけど

……でもまあ実際、その通りではあるんだけどな

当事者間の問題だってのはわかってる

でも心配なんだよ畜生

さわ子「ところで、あなたたち付き合ってるのよね」

律「え?うん」

澪「つ、付き合ってます」

いきなりどうしたんだろ、さわちゃん

さわちゃんはニヤニヤしながら身を乗り出して、囁くように言う

さわ子「あなたたち知ってる?桜高祭の結婚式」

澪「け、結婚式?」

やっぱり知らないんだ、とさわちゃんは笑う

さわ子「あのね、さっきも言ったけど、女の子同士の恋愛ってこの学校じゃ珍しくないの。女子校だし、伝統的な雰囲気でもあるんだけど」

さわ子「そんな女の子同士のカップルだけど、日本じゃ結婚出来ないじゃない?入籍は出来るけど式は挙げられないし」

律「まあ……」

澪「ですね……」

ったく、お互いわかってて触れないようにしてたのに……

187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:41:23.03 ID:1FD7vy2wo
さわ子「でね、結婚は出来ないけど、やっぱり好きな人と結婚式は挙げたいじゃない。それで、いつからか出来たのが桜高祭限定の結婚式よ」

紬「私は知ってるわ。結構有名よね、その世界では。都市伝説扱いだけど」

どの世界の話なんだ……

さわ子「桜高祭期間中、毎年絶対に『結婚式』がクラスの出し物として出てくるのよ。クラスはバラバラだし誰も意識的に開催してないんだけど、何故かね」

澪「ちょ、ちょっと怖いですね……」

ふーん、要するに、毎年どこかのクラスが「結婚式」を開催してるってことか。伝説を意識せずに

怖くないわ、とさわちゃんは言う

さわ子「むしろ、伝説があるのよ。『桜高祭の結婚式で愛を誓い合った二人は永遠に結ばれる』ってね」

律「へー……」

澪「な、なんだかロマンチックですね。えへへ……」

澪が私の裾をぎゅっと掴んだ。可愛いなおい

さわ子「まあ、良いことばかりでも無いんだけどね」

律「え?」

さわ子「だからね。マジなのよ、その伝説。本当に結ばれちゃうの」

だったらいいじゃん

……って、ああ。そういうことか

律「もしかして、友達同士で冗談で結婚式に参加しても結ばれちゃう?」

188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:42:42.47 ID:1FD7vy2wo
さわ子「そうそう。第一この伝説、女の子が好きって女の子にしか興味の無い情報だしね。あまり知られてないのよ、一般の間だと」

さわ子「知らずに参加して、女の子に目覚めてしまった同級生が何人も居るわ」

なんていうか、そうとう強力な効果みたいだな

呪いと言い換えてもいいんじゃないか?澪が怖がるから言わないけど

さわ子「まあ、あなたたちなら問題ないでしょ。参加してみれば?思い出になるわよ」

律「……どうする?」

澪「私は……やりたいけど……」

何故か俯き加減で言う澪

律「んじゃやるか、結婚式。さわちゃん、どのクラスがやるの?」

さわ子「今年は……あれ?そういえば、何か一つ条件があったような……」

澪「って、ちょっと待て律!」

腕を引っ張られる

何故か澪が真剣な顔をしていた

律「え、どうしたの澪しゃん」

189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:50:23.72 ID:1FD7vy2wo
澪「真剣に考えろよ。結婚式挙げたら、ずっと一緒なんだぞ?もしこの先、律に好きな人とか出来たら……」

自分で言っておいて涙目になる澪

ったく……

律「馬鹿。お前を一生離すつもりはないよ」

澪「え……」

律「十年片思いしてきたんだぞ。今更お前以外の人間なんて見れるかよ」

澪「あ、あう……」

律「それともいいの?私が他のとこ行って。澪も行っちゃうの?」

澪「い、いや、それは無い!わ、私も律と……!」

律「じゃあ決まりだな。参加で」

澪「り、律……!」

少しは信用しろよな、もう

遊びで付き合ってるわけじゃねーんだからさ、私は

見ると、むぎとさわちゃんがニヤニヤしてる

ちっ、無意識に惚気てしまったようだ

だって澪があんなこと言うんだもん……

律「あー、その。お見苦しいものをお見せしてすみませんね」

191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:51:03.93 ID:1FD7vy2wo
さわ子「いえいえ」

紬「でもまさか、ここでプロポーズしちゃうなんて予想もしてなかったわー」

律「プロ……え?」

さわ子「プロポーズー」

えっと、ああ

そういうことか、って

律「うわああああああああああああああああ!?」

そういうことになるのか!?なるよな!

さわ子「完全に無意識だったみたいね」

紬「はい」

律「こ、こんな部室で……お茶のついでみたいな感じでプロポーズしちまった……」

さわ子「何よ。なにか不満でもあるの?」

律「だって理想のプロポーズのシチュってあるじゃん……。観覧車で夜景をバックに、一番上になった瞬間に言うとかさ……」

そういう計画を立ててたのに……

紬「りっちゃんって紳士ね……」

さわ子「むしろ乙女じゃない?りっちゃんの理想のプロポーズでしょ、それ」

澪「……律」

193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [>>190 大丈夫です。ごめんなさい]:2012/02/27(月) 03:51:47.77 ID:1FD7vy2wo
うなだれる私の肩を、澪が抱く

澪「今度は私が言うよ。そのシチュエーションで。恥ずかしいけど……勇気、出すから」

澪の顔を見る

照れくさそうだけど、それでも瞳は真剣そのものだった

律「み、澪……私の王子様……!」

さわ子「軽音部全員参加出来るといいわねー」

紬「そうですね……って、さわ子先生、まさか」

さわ子「え?もちろんそのつもりだけど……嫌?」

紬「い、嫌じゃないけどダメです!バレちゃうじゃないですかそんな目立つことしたら!」

さわ子「大丈夫よ。遊びみたいな雰囲気出しとけば真剣だなんて誰も思わないだろうし」

紬「で、でも。もし万が一バレたら、先生の立場だって」

さわ子「そこが問題なのよねー。でも、やっぱむぎちゃんは真剣に愛してるし?」

紬「そ、それは私だってそうですけど……」

さわ子「まあ、考えておいてくれない?」

紬「考えるまでもなく結婚式挙げたいわよさわちゃん……」

ガチャ

唯「ただいまー。……なにこの雰囲気。……あずにゃん居ないし」

194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [>>192 黙々と張ってるのは寂しい……]:2012/02/27(月) 03:53:22.67 ID:1FD7vy2wo
帰り道

すっかり陽が落ちるのも早くなって、私達は四人、ぶらぶらと歩いています

あれから少し練習して、あずにゃんが帰っちゃいました

何でも憂とお買い物に行くのだとか

私も何だか変な調子で、「付いていく」と言えるわけもなく見送っちゃいました

唯「ねーねー、むぎちゃん」

紬「んー?どうしたの、唯ちゃん」

唯「あの二人、今日はなんだかずっといちゃいちゃしてるね」

前方を歩く二人の背中を見ながら、言ってみます

唯「私がおトイレ行く前は普通だったと思うんだけど」

紬「あー。……色々あるんじゃない?二人とも、仲良いもの」

そう言って笑うむぎちゃん

なんだか上手くはぐらかされた気もするのですが

でも、二人とも付き合ってるからだよね

私がそれを知っちゃったから、普段よりもいちゃいちゃしてるように見えるのかも知れない

……羨ましいな。私も、あずにゃんとあんな風に歩きたいな

195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:53:51.80 ID:1FD7vy2wo
唯「……あ」

そんな風に考えたところで、思いつきました

あずにゃんが一昨日、一緒に寝た時に言っていた台詞

あずにゃんの好きな人って、三人とも知ってる人なんだよね

……聞いてみようかな

あずにゃんだって、聞くのは反則だなんて言ってないし

今ちょうどあずにゃん居ないし

誰かがわかれば

私もその人の真似をすれば振り向いてもらえるかも

唯「あの……みんな、ちょっといいかな」

律「んー?」

前方を歩いていたりっちゃんと澪ちゃんが、揃って振り返ります

澪「どうしたんだ?」

唯「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど」

首を傾げて、むぎちゃんが言います

紬「何?聞きたいことって」

唯「あのね」

196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:54:21.87 ID:1FD7vy2wo
えっと、どう言えばいいのかな

って、考えるまでもないか

唯「その……あずにゃんの好きな人って誰かわかる?」

私がそう言った瞬間、三人は顔を見合わせました

澪「梓の好きな人って……」

紬「そりゃまあ、ねぇ」

律「まあな」

唯「し、知ってるの?」

律「まあ落ち着けって」

りっちゃんが私の肩をぽんっと叩きます

律「いきなりどうしたんだ?そんなこと聞くなんて」

唯「えっと。……一昨日のお泊まりの時に、あずにゃんに好きな人が居るって教えてもらって。それで、ちょっと気になっちゃって」

律「ふーん」

……なんでニヤニヤしてるんだろ、りっちゃん達

律「それでー、唯ちゃんはー、なんであずにゃんの好きな人が気になるのー?」

唯「そ、それは!」

197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:54:49.29 ID:1FD7vy2wo
い、言っちゃおうか、あずにゃんが好きだからって

そしたら、これからも相談出来たりするかも……

いやでも、そうしたらあずにゃんに迷惑なんじゃないかな

なんかこう、部内で私があからさまに猛プッシュされたりしたら

あずにゃんには好きな人が居るんだから、それは迷惑になるかも……

唯「……あずにゃんからその人の印象を教えてもらったんだ。それで、その人がすごく完璧超人だったからさ」

どんな人かなーって、思っちゃって

律「ほほう」

澪「なあ、唯。梓は何て言ってたんだ?梓の好きな人をさ」

唯「え?んーとね」

心の中で繰り返して、言葉にします

唯「『かっこよくて。真剣な時は真剣で、やる時はやる人で。温かくて、優しくて。目が離せない人』だって」

私がそう言った瞬間、三人は笑い出しました

律「ま、マジかよ梓の奴……あはは!」

紬「本当に大好きなのねー、梓ちゃん」

澪「お、お前ら笑っちゃ失礼だろ!……あはは」

唯「えー?私なんか可笑しいこと言った-?」

198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:55:15.77 ID:1FD7vy2wo
可笑しくはねーけど、とりっちゃんが笑いすぎて涙を拭いながら言いました

律「ご、ごめんな……梓、その人のことどれくらい好きだって?」

唯「ずっと一緒に居たいくらい大好きだって言ってたよ」

律「お前に?」

唯「え?うん。そりゃ、私とお話してた時だから」

律「梓も大胆だな、おい!」

澪「けっこう勇気あるんだな」

紬「いいわ……いいわよ……」

何だか三人の反応を見る限り、みんな誰だかはわかっているようです

でも、なんで笑うんだろう?

唯「その人知ってるの?みんな」

律「ああ、私達全員知ってるよ」

唯「じゃ、じゃあ」

澪「いや、教えることは出来ないな」

唯「えー!?」

な、なんでそんなイジワルするの?

200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:55:46.20 ID:1FD7vy2wo
唯「む、むぎちゃんは……」

紬「ごめんなさいね、私もちょっと教えられないかなー」

そ、そんな……

澪「……そんな顔するなよ。まあ聞けって」

唯「うぅ……」

コホン、と澪ちゃんが咳払いして、

澪「確認だけど、梓はその事を他の人に聞いてもいいって言ってた?」

唯「……ううん。でも、ダメとも言われなかったよ。『他の皆さんに聞いても、きっとわかるはずです』って言ってたし」

澪「……信用されてるんだな、私達」

紬「唯ちゃんが私達に聞いてくるのも予想済みでしょうね、きっと」

澪「なあ、唯」

唯「ん?」

澪「やっぱり、梓の好きな人は自分で考えなきゃダメだよ。きっと梓もそれを期待してる」

唯「……うん」

澪「梓の言う通りだよ。その人の特徴を聞いただけで、私達は誰だかわかった。梓は良く見てると思うよ」

唯「本当にそんな人居るの?」

澪「ああ。私も時々、かっこいいなって思う瞬間があるし」

201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [>>199 ありがとうございます]:2012/02/27(月) 03:56:55.70 ID:1FD7vy2wo
律「確かにな。いつもはぼーっとしてるくせに、決める時はビシッと決めるし」

澪「あ、律もかっこいいよ?」

律「ばっ……い、今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ、まったく……」

真顔で言うな、とりっちゃんが小さく呟いてます

紬「優しいし、安心出来るし。梓ちゃんもきっと、そういうところが好きなのよね」

むぎちゃんも笑顔でそう言いました

澪「だから、まあ。頑張れ。焦らずゆっくりとでいいから。私達も応援してる」

律「出来れば文化祭までに気づいてくれたら嬉しいなー」

唯「文化祭?なんで?」

紬「気にしなくていいわよ、唯ちゃん。自分のペースで」

唯「うん……わかった」

澪ちゃんが頭を撫でてくれます

その時にあずにゃんの膝枕を思い出しちゃって、今日抱きついておけば良かったなって、ちょっと後悔したり

澪「好きなんだろ、梓のこと」

唯「うん、大好き。……って、え!?」

ちょ、気づかれた!?

202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:57:34.91 ID:1FD7vy2wo
律「私達が気づいてないとでも思ってたのかよ」

りっちゃんがため息をつきます

紬「応援してるって言ったでしょ」

そう言って、りっちゃんとむぎちゃんも頭をなでなでしてくれます

三人同時に頭を撫でられて、ちょっと恥ずかしい

でも、確かに暖かい気持ちになって、勇気が出てきたような気がします

唯「うん。頑張るよ……あずにゃんに振り向いてもらえるように!」

律「おう。今の数百倍頑張れこの鈍感」

203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:58:21.99 ID:1FD7vy2wo
唯「ただいまー」

玄関を開けて、靴を脱いでいると

梓「あ、唯先輩。お帰りなさい」

唯「え……?」

私服にエプロン姿のあずにゃんが出迎えてくれました

唯「ど、どうして」

梓「憂にクッキー作りを習ってたんです。今ちょうど出来上がったんで、良かったら味見してもらえますか?」

そう言って、微笑むあずにゃん

その笑顔で、なんだか心の真ん中ら辺が、泣くのをこらえるみたいに痛くなって

梓「……どうしたんですか唯先輩。休肝日だって意味わからないこと言ってたじゃないですか」

唯「んー。もういいや。帰る時もずっと、抱きしめておけば良かったなって後悔してたし」

梓「何ですかそれ」

笑われてもいいもん

それでも、今度は後悔しないように

ぎゅっとあずにゃんを抱きしめました

205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 03:59:07.56 ID:1FD7vy2wo
みんなに私の気持ちがバレちゃっても、みんなは普段通りに接してくれました

殊更あずにゃんとくっつける場面を増やすわけでもなく、ごく自然に、いつも通りに

それがとても嬉しかったです

あずにゃんも迷惑することもなく、私だって気を使うこともなく

そのおかげかも知れませんが、バレちゃった月曜日からこっち、あずにゃんとの関係も変わってきて

気のせいかも知れませんが、なんだか前よりも仲良くなれた気がします

心の距離が近くなったというか、そんな居心地の良さをあずにゃんのそばで感じます

桜高祭も間近で、人生初ライブだと言ってたあずにゃんも張り切っています

そんなあずにゃんはとても可愛くて、そんな彼女の隣でギターを弾けるのはとても嬉しくて

だからつい、今の状況で満足してしまう自分も居ました

これだけ仲良くなれればいいんじゃないか、とか

これ以上を求めるのは、とても欲張りなことじゃないかとか

そんな事を考えてしまうわけですけど、同じくらい、それじゃいけないってこともわかってます

あずにゃんには好きな人が居て、その人とは相思相愛で

あとはその人があずにゃんの気持ちに気づけば、それで私は終わりです

その人が幸運にも気づかなかったところで、私が卒業してしまえばそれで終わり

あずにゃんは私ではなく、その好きな人を追いかけるでしょう

207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [>>204 頑張ります]:2012/02/27(月) 03:59:48.58 ID:1FD7vy2wo
……追いかけるって、あずにゃんお風呂で言ってたし

だからって私が告白するかというと、それもなんだか早い気がして

だったらいつ告白するのかってことも、全然考えられなくて

このまま、ぬるま湯のような居心地のいい状況に甘えてるわけにもいかないってこと、わかってるし

あずにゃんとの雰囲気が良くなればなるほど、それを壊すのが怖くなってるのも正直ありました

本当、面倒くさい人間です

あれが満たされればこれが欲しくなって

それを手に入れたら、今度はそれを失うのが怖くて

それで結局、一番大事なものは最後まで手が届かないのかも知れません

その時、私にはどうすればいいかわかりませんでした

だから、この出来事は

そういう意味では、私の足を無理矢理動かすスイッチにはなったんだと思います

208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:00:45.83 ID:1FD7vy2wo
和「ちょっと失礼するわよ」

ガチャっと部室の扉が開いて、和ちゃんが顔を出しました

澪ちゃんが手を上げて、その合図で私達は演奏を止めます

和「あ、練習中だったんだ。ごめんね、止めちゃって」

澪「いいよ。これが終わったら休憩しようとしてたんだ。どうしたんだ?」

和「ちょっと律に用事があってね」

そう言って、和ちゃんはドラムセットの後ろのりっちゃんに目を向けます

律「私?どうしたの?」

和「あなた、講堂の使用届また出してないでしょう」

律「……あ」

全員がりっちゃんを見ます

一瞬の沈黙の後、

律「……えへ」

澪「またかお前は!」

可愛くウインクしたりっちゃんの頭を、澪ちゃんは拳骨しました

律「澪しゃんごめんなさいー!」

澪「まったくお前は!去年もそうだったし、新歓の時だってそうだったろ!」

律「おっしゃる通りです!」

209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:01:25.33 ID:1FD7vy2wo
平謝りのりっちゃん

私を励ましてくれたあの帰り道のイケメンりっちゃんだとはとても思えません

やっぱり澪ちゃんには頭が上がらないんだなぁ

澪「い、今からでも間に合う?和」

和「大丈夫よ。ギリギリだけどね。用紙が生徒会室にあるから、律を連れてっていいかしら?」

澪「もちろんだ。……律」

律「はい!行ってきます!」

キビキビした動作でりっちゃんが部室から出て行きました

唯「りっちゃん、澪ちゃんしか見てなかったよね。和ちゃんに言われてから」

梓「怒られるってわかってたんでしょうね」

紬「そういう関係も素敵ね!」

りっちゃんに続いて部室を出て行く和ちゃんが、私を振り返りました

和「練習頑張ってるみたいね、唯」

唯「えへへ、あずにゃんの初めてのライブだからね!」

梓「わ、私に関係なく、いつも真面目にやってくださいよ……」

和ちゃんが微笑みます

和「まあ、お互い頑張りましょうね。文化祭も、他のことも」

210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:01:53.22 ID:1FD7vy2wo
唯「うん!和ちゃんも頑張ってね」

それじゃあね、と言って和ちゃんは行ってしまいました

憂から聞いた話だと、ここ最近和ちゃんは忙しいみたいです

忙しくてあまり構ってもらえないと、憂が残念そうにぼやいていました

まあ、桜高祭まであと一週間なのです

生徒会も、今が一番忙しい追い込み時でしょう

澪「まったく律のやつは……危うくステージに立てないところだったじゃないか……」

紬「まあまあ澪ちゃん。和ちゃんも助けてくれたことだし」

ぶつぶつ言ってる澪ちゃんを、むぎちゃんがなだめます

こんなこと言っても、澪ちゃんも本気で怒ってるわけじゃないって知ってます

なんだかんだでりっちゃんのこと大好きだもんね、澪ちゃん

梓「さて、ドラムの律先輩が抜けちゃいましたけど」

紬「先に休憩しちゃましょうか」

澪「そうだな。唯も頑張ってたし」

唯「えへへ、もっと褒めて!」

休憩することになりました

ギターを軽くクロスで拭いて、壁に立てかけておきます

211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:02:29.26 ID:1FD7vy2wo
澪「ちょっとトイレ行ってくるよ。先にお茶してて」

澪ちゃんが小走りで部室を出て行きます

唯「じゃあ、私達三人だけでお茶の準備を」

紬「ご、ごめんさい、私も行ってくるね。すぐに戻るから」

続いてむぎちゃんも行っちゃいました

図らずもあずにゃんと二人きりです

梓「……なんか最近多いですね。私達が残されるの」

唯「え、そう!?」

そうなの!?

普段通りだと思ってたんだけど

唯「ま、まあ気のせいじゃないかな?えへへ」

しまった、何気にりっちゃん達は気を使ってくれてたのか

全然気づかなかったよ

あずにゃん迷惑じゃないかな?

梓「……ま、いいですけど」

唯「え、いいの?」

梓「悪いことじゃないんじゃないですか?」

213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:02:57.76 ID:1FD7vy2wo
唯「――そ、そうだよね!あっずにゃーん!」

思わず抱きしめちゃいます

悪いことじゃないんだって!

迷惑じゃ無いって!

梓「ちょ!――もう、唯先輩は」

唯「いいじゃん。誰も居ないんだからさー」

梓「そうですけど、それがむしろ問題というか……まあ、わかりませんよね」

ため息をつくあずにゃん

唯「悩み事?」

梓「そうですねー。悩みですねー」

唯「私で良ければ相談してよ!これでも先輩なんだから!」

梓「唯先輩が原因なんですけどねー」

唯「わ、私!?なんかしたっけ?」

梓「何もしないことが原因じゃないですかねー」

唯「わけがわからないよ!」

梓「別にいいんですけどねー」

214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:04:19.28 ID:1FD7vy2wo
お茶の準備をしておきましょうか、と言われて、私はあずにゃんを解放しました

梓「流石に紅茶は入れられないので、カップとお菓子だけでも」

唯「だねー。むぎちゃんのいれる紅茶ってやっぱ格別っていうか」

梓「……憂に習おうかな、紅茶の入れ方」

唯「ん?何か言った?」

梓「べ、別に何も!」

小走りで食器棚に向かうあずにゃん

その揺れるツインテールが可愛いな、と思っていた

その時です

梓「きゃ!」

唯「あ!」

あずにゃんが転びました

咄嗟に身体が動きましたが、漫画のように間に合うわけもなく、あずにゃんは床に倒れます

梓「痛い……」

唯「あ、あずにゃん!大丈……夫……」

梓「は、はい。大丈夫で……」

私の視線の先をあずにゃんが辿ります

215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:05:03.75 ID:1FD7vy2wo
起き上がりかかって、四つん這いの状態になってるあずにゃん

私の位置だと、あずにゃんの白いショーツが丸見えでした

あずにゃんを助け起こすのも忘れて、凝視しちゃっていたようで

梓「……っ!」

バッとスカートを手で押さえて、私を向いて床にへたり込むあずにゃん

唯「あ!いや、その……」

梓「……」

普通の女の子同士なら、こんなことは笑って流して、冗談の一つでも言って終わりでしょう

長く時間を一緒に過ごしていれば、こんなことだってありますから

でも、私達は違います

私達は女の子で、それぞれ女の子を恋愛対象としてみていて

その……そういう目でも、見ているわけで

だから

梓「み……見ました……?」

あずにゃんは顔を真っ赤にして、消え入りそうな声でそう言います

216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:05:31.48 ID:1FD7vy2wo
見ましたも何も、凝視してる私に気づいて隠したんじゃん

見てないよと嘘をついても、この後の時間が気まずくなりそうで

唯「う、うん……」

頷いてしまいます

梓「……っ!」

顔を伏せちゃうあずにゃん

ど、どうしよう

怒られたりしたら、私も笑って謝ってそれで終わりなんですが、こういう反応をされると

っていうか、これってあずにゃんに気があるのバレバレじゃん、私!

唯「あ、あずにゃんごめんね!私女の子が好きだから、その、こういう時は目が反応しちゃってさ!」

笑って言ってみます

何としてでも隠し通さなければ

バレたら、本当気まずいってレベルの話じゃありません

最悪、放課後ティータイムとしての活動自体にも影響が出るかも

梓「い、いや、その」

唯「事故だよね!私、その、誰にでもそうだから!」

梓「……え?」

217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:06:10.48 ID:1FD7vy2wo
唯「あずにゃんだけじゃなくてさ。ほら、一年の時の文化祭でも澪ちゃんのパンツとか凝視しちゃったり……」

だからそんな気は全くないよと、言おうとしたところで

あずにゃんの様子に気づきます

梓「……なんですかそれ」

顔を伏せたままなので表情はわかりませんが、肩が震えています

両手も、スカートの上できつく握りしめていて

梓「誰でもいいんですか」

唯「あ、あずにゃん、ちょっと」

梓「私じゃない人にもああいうことするんですね」

唯「あ、ああいうことって?」

キッとあずにゃんが顔を上げます

私をまっすぐに睨んで、唇を噛みしめて

梓「あの夜私にしたことも、私だからってわけじゃ……!」

唯「あ、あずにゃん!」

あずにゃんが走って部室を出ようとします

咄嗟に腕を掴んで引き留めますが

梓「……っ!離してくださいっ!」

乱暴に振りほどかれて

部室を出て行くあずにゃんの背中を、ただ呆然と見送るしか出来ませんでした

218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:06:42.73 ID:1FD7vy2wo
紬『え、ちょ……』

澪『あ、梓!?どこ行くんだよ!』

そんな声が、階段の方から聞こえてきて

紬「ゆ、唯ちゃん……」

澪「唯……?」

むぎちゃんと澪ちゃんが戻ってきました

困惑の表情を浮かべて、部室の外を見ます

澪「さっき、泣きながら梓が走っていったんだけど……」

紬「……何かあったの?」

唯「何かっていうか……その……」

あずにゃん、泣いてたんだ

唯「よく……わから……ない……だけどっ」

私、あずにゃん泣かせちゃったんだ

澪「ゆ、唯!」

澪ちゃんが駆け寄って、私を抱きしめて頭を撫でてくれて

なんでこういうことしてくれるんだろう、と思ったら声が出なくて

唯「ひっ……ひうぅっ……」

ああ、私が泣いてるからなんだと思いました

219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:07:17.00 ID:1FD7vy2wo
紬「唯ちゃん、大丈夫?」

むぎちゃんも頭を撫でてくれます

澪「……むぎ、紅茶入れてくれないか?まずは落ち着かせよう。でなきゃ話が出来ない」

紬「ええ」

むぎちゃんの手が離れていって、しばらくして紅茶のカップを出す音がします

その間、澪ちゃんが頭を撫でてくれました

澪「ゆっくりでいいから、な?」

澪ちゃんがそう言ってくれますが

自分でも、どうして私が泣いているのかわかりませんでした

わからないけれど、何か

あずにゃんを泣かせてしまったことと、何かを決定的に間違えてしまったこと

それだけが、形の無い霧のように私の中を漂っていました

律「たっだいまー……って、あ!」

扉が開く音がして、りっちゃんの声が聞こえました

急いで生徒会室から帰ってきたのでしょう、少し息が荒い気がします

220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:07:45.67 ID:1FD7vy2wo
律「なーにー澪ちゃーん。浮気ー?唯を抱きしめちゃ……」

私のそばに寄るりっちゃんの気配を感じました

律「……唯?大丈夫か?」

澪「その……私にもよくわからなくて」

梓か、とりっちゃんが呟きます

紬「紅茶入ったわ。とりあえず、唯ちゃんを席に……」

澪「ああ、わかった」

律「唯?とりあえず、席についてお茶飲もう。な?」

その声に、澪ちゃんの胸から顔を上げます

唯「そ、そのっ前に……あずにゃん探しに行かないと」

律「唯」

コツン、とりっちゃんがおでこを私のおでこにくっつけました

律「私が探しにいくから、お前はここで待ってろ。そんな顔で好きな人の前に出る気かよ」

唯「で、でも私のせいでっ!」

律「いいから。私に任せとけ。しっかり梓の話も聞いてくるし。たまには部長を頼りにしろ」

じゃあな、と言ってりっちゃんは再び部室を後にしました

221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:08:26.67 ID:1FD7vy2wo
本当に申し訳なくて、私のせいで

澪「梓のことは律に任せて。まずはほら、落ち着こう?」

澪ちゃんに言われて、席につきます

紬「熱いから気をつけてね」

紅茶を飲んで、そして

私は少しづつ、二人に話し始めました

222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:09:12.03 ID:1FD7vy2wo
紬「そう……」

澪「それは……唯が悪いな」

大体の事情を話し終えた時、涙は止まっていました

むぎちゃんと澪ちゃんのおかげです

唯「うん……」

紬「でも、どこが悪かったのか、わからないんでしょ?」

唯「……うん」

責めてるわけじゃないの、とむぎちゃんが優しく背中をさすってくれます

澪「唯が悪いけど……それでも、仕方ないって点もあるよ」

澪ちゃんがため息をついて言いました

澪「好きな人に気持ちを知られるのって怖いよな。その人に好きな人が居たんなら、尚更」

紬「タイミングというか、ね。それを逃すと全部がダメになっちゃう気がして」

唯「うん……」

でも

でも私は、自分を守るためにあずにゃんを泣かせてしまったわけで

223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:09:50.90 ID:1FD7vy2wo
澪「……なんで梓が泣いてたか、わからないんだろ」

黙って頷きます

紬「その理由、私達にはわかるけど。でも言えないの。今までの梓ちゃんの頑張りが無駄になっちゃうから」

澪「ごめんな、唯。お前の気持ちもわかるけど、梓の気持ちも痛いほどわかるんだ」

唯「ううん」

首を振って、澪ちゃんに言います

唯「わかってるよ。私も大事にしてくれてるけど、あずにゃんだって大事だもん」

ありがとね、と言うと、澪ちゃんが微笑みました

ただ、その笑みはちょっと困った風というか

何かを飲み込んだような微笑み方でした

紬「唯ちゃん、これからどうする?たぶんりっちゃんが梓ちゃんを連れて帰ると思うんだけど」

唯「……謝ろうと思う。泣かせちゃった理由がわからないままだから、そんなこと聞いてくれないかもしれないけど」

紬「……うん」

むぎちゃんが微笑んで、私も釣られて微笑んじゃいます

こんな柔らかく包んでくれるから、むぎちゃんは好きです

紬「頑張ってね。応援してるから」

澪「……まあ、あれだよな」

224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:10:25.79 ID:1FD7vy2wo
両手を組んでぐーっと天井に伸ばしてから、澪ちゃんは言いました

澪「わかるよ唯、その気持ち。怖いもん、やっぱり。今までの関係が全部壊れちゃうじゃないかとかさ」

唯「うん。私が臆病なだけかもしれないけど」

澪「私だって怖かったよ。本当に。あの時律が言ってくれなかったら今でも」

紬「み、澪ちゃん!ちょっとそれは」

唯「あ、私知ってるから大丈夫だよ。澪ちゃんとりっちゃんが付き合ってるの」

澪「え!?」

紬「嘘!?」

え、なんだろう、その反応

唯「こ、こないだのお泊まりの時にあずにゃんから教えてもらって……その、聞いちゃダメだった?」

澪「梓も知ってるのか……」

うなだれる澪ちゃん

紬「ま、まあここまで来たら仕方ないわよ澪ちゃん」

うう、と澪ちゃんが呻きます

澪「律が悪いんだ……所構わず触ってくるから……」

唯「で、でもね、澪ちゃん」

澪「ん?」

225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:11:00.28 ID:1FD7vy2wo
唯「私、その話聞いて勇気貰ったよ。女の子同士でも、恋が成就するんだって」

紬「唯ちゃん……」

唯「それまで、私あずにゃんへの気持ちは隠し通すつもりだったんだけど。でも、あずにゃんも女の子が好きで、澪ちゃんもりっちゃんと付き合ってて」

唯「だから、気持ちを伝えたいなって思えるようになったんだよ。……伝えるタイミングが来るかどうかもわからないんだけどね」

澪「唯……。うん、そうだな。じゃあ、私も唯を元気づけられてるみたいだからさ」

一個だけアドバイス、と澪ちゃんが指を立てました

唯「え、なに?」

澪「自分に自信を持て」

自分に自信、って

唯「そ、そんなの持てるわけないじゃ」

澪「それもわかってる」

澪ちゃんが言います

澪「わかるよ唯の気持ちは。だけどな、根拠が無くても信じろ」

澪「唯の思ってる自分と、私達の知ってる唯は違うと思うよ。それは梓だってそうだ」

唯「で、でも……」

紬「大丈夫だから。今は信じられなくてもいい。けど、いつかこの言葉が背中を押す時が来るから」

だから、信じてろ、と澪ちゃんとむぎちゃんが微笑みます

唯「うん……わかった」

226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:11:51.15 ID:1FD7vy2wo
わかってないけど

あずにゃんを泣かせて、しかもその理由までわからない自分に自信なんて持てないけれど

でも、この二人がそう言ってるから

きっと間違いでは無いんでしょう

律「たっだいまー」

バタン、と景気のいい音を立てて、りっちゃんが入ってきました

澪「り、律。……梓は」

少し遅れて、あずにゃんが部室に入ってきました

俯き加減ですが、少しだけ目が腫れぼったいのがわかりました

唯「あ、あずにゃん!」

駆け寄って、あずにゃんの顔をのぞき込みます

唯「ご、ごめんねあずにゃん。私、あずにゃんを泣かせるつもりは本当に無くて、それで」

肩に手を置こうとしたら、あずにゃんにふいっと避けられました

梓「唯先輩、何で私が泣いちゃったのかわからないんですよね?」

唯「……うん」

梓「……わかってましたけど」

ため息をつくあずにゃん

227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:12:29.54 ID:1FD7vy2wo
唯「で、でも本当に、泣かせるつもりじゃ!」

梓「それもわかってます」

あずにゃんは言います

梓「……私も少し感情的になって、酷いこと言っちゃいました。ごめんなさい」

唯「そ、そんなこと……」

そんなこと無いのに

あずにゃんは何も悪いことしてないのに

唯「な、仲直り……してくれる?」

梓「……いいですよ」

唯「あずにゃん!」

身体が勝手に動いて、あずにゃんを抱きしめようとします

梓「ただし」

あずにゃんが、抱きしめようとする私の両肩を手で止めました

唯「え?……あ、ご、ごめんね。調子が良すぎたね……」

梓「そうじゃありません」

唯「じゃ、じゃあなんで……」

息を吸って、あずにゃんは私をしっかりと見上げて

梓「私が泣いた理由がわかるまで、スキンシップ禁止です」

228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/02/27(月) 04:13:01.07 ID:cls21YI5o
鈍感にも程があるでぇ・・・

229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:13:02.77 ID:1FD7vy2wo
唯「え……」

そのまま、私を避けてテーブルに向かうあずにゃん

梓「先輩方もすみませんでした。私が取り乱したせいでこんな大事に……」

澪「い、いや……別に」

紬「気にしないで?梓ちゃん」

律「……梓、お前本当にいいのか?」

いいんです、という声が後ろで聞こえてきました

動けない私に聞かせるような、そんな声で

梓「限界なんです。もうこれ以上は」

230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:13:38.57 ID:1FD7vy2wo
翌日の放課後

澪「よし、今の演奏は良かったぞ。この感触を忘れないようにしような」

紬「う、うん」

律「い、今のは結構良かったよな。……特に唯とか頑張ってたかな-?」

唯「へへ……」

律「……」

梓「確かにさっきの唯先輩のギター良かったですよ」

唯「あ、ありがとね。あずにゃん……」

梓「でも唯先輩、Bメロのこの部分、ちょっと走り気味ですよね。ここはこうやって」

唯「うん……あ、ごめん。ちょっと指先当たっちゃったね……」

紬「……」

澪「もうダメ見てられないキツイ」

昨日のあずにゃんのスキンシップ禁止令を、私は守っていました

それと同時に、その辛さも身を持って知りました

あずにゃんに触れないのが

好きな人に触れないのがこんなに辛いことだったなんて思ってもみませんでした

231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/02/27(月) 04:13:57.43 ID:IAPE6psb0
ニヤニヤしちゃう俺キモすぎるんだけどどうすればいいの

234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/02/27(月) 04:15:11.68 ID:cls21YI5o
>>231
これでニヤニヤしない奴の方が異常だ

232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:14:05.66 ID:1FD7vy2wo
何だかあずにゃんが遠くに行ってしまったようで

あずにゃんとの指先の距離が近ければ近いほど、触れられない見えない壁も同時に感じて

律「休憩しよう!休憩!みんな頑張ったからな!」

澪「そ、そうだな!おい、唯と梓も早く来いよー」

紬「私、お茶入れるわね!」

みんなにも気を使わせちゃってて

梓「早く行きましょう、唯先輩」

唯「う、うん」

先に行ってしまうあずにゃんの背中

その揺れるツインテールの片方に、つい手を伸ばしてしまって

唯「……」

慌てて、引っ込めて

律「私ももうキツイ」

紬「耐えなくちゃダメだってわかってるんだけど……」

今までどんなに甘えてきたかわかりました

あずにゃんは優しいから、今までスキンシップと称した私のアプローチも受け入れてくれた

私は、本来好き同士の関係でしか得られない温かさや感触を、あずにゃんの優しさで特別に貰っていたのです

233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:14:42.69 ID:1FD7vy2wo
それが、その特別が無くなっただけで

これが、正しい私とあずにゃんの関係で

こんな一方的に私が好きな状況で、好き同士なんてあり得るわけもありません

あずにゃんは「泣いた理由がわかるまでスキンシップは禁止」と言いました

あずにゃんに触りたくて、抱きつきたくて

その一心で一晩中考えました

馬鹿な私でも、一つだけ思いついた『理由』

私が言った台詞に、最後らへんが聞き取れなかったけれどあずにゃんの台詞

恥知らずな仮定とご都合主義の妄想を重ね合わせて導かれたのは、『あずにゃんは私のことが好き』ってこと

私が誰のパンツでも見ちゃうからって言ったから、あずにゃんが悲しくなっちゃったとか

……こんな状況で、まだ自分中心の考え方をしている自分が本当に情けなくなります

私はあずにゃんの好きな人の特徴を聞かされていて

それは私じゃないと理解していて

あずにゃんは『その人』と、もう相思相愛で

そこから導き出される結論なんて、決まってるじゃないですか

あずにゃんは、私のスキンシップが嫌なんです

その『あずにゃんの好きな人』に誤解されるのが嫌なのか、単純に私が鬱陶しいのか

それはわかりませんけど、それでも

235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:15:12.62 ID:1FD7vy2wo
泣いた理由も、単純に私があずにゃんのパンツを凝視していたからでしょう

私だって、あずにゃん以外の人に見られるのは嫌なんですから、あずにゃんだって好きな人以外には見られたくないはずです

……泣いた理由を答えたら、あずにゃんは今まで通り抱きしめさせてくれるでしょうか?

にっこり笑って「正解です」と言って

それで、終わりだと思います

私だって、そこまで気が回らないわけじゃない

遠慮してくださいと遠回しに言われているのくらい、気づくもん

律「……唯、席変わるか」

唯「え?」

律「いいから。ほら」

席を変わってくれるりっちゃん。隣にはあずにゃんが座っています

唯「……ありがとね、りっちゃん」

律「よせやい」

以前なら、あずにゃんとの距離が近くなって嬉しかったんですけれど

……私と席が近くなって迷惑じゃないかな、あずにゃん

とりあえず、テーブルの下で足が触れないように、そっと椅子の下に足を引いておきます

236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:15:53.13 ID:1FD7vy2wo
澪「来週はもう桜高祭だな。ライブもあるし」

梓「はい!ライブ楽しみなんですよ、私」

律「そういや梓は初めてだな」

紬「去年のライブも最高だったわよね」

律「澪がやらかしちゃったけどなー」

澪「そのことは言わないでくれ……」

梓「でも、本当に去年の演奏は最高でした!みなさんとても息が合ってたし」

律「まあな!」

りっちゃんが得意げに胸を張ります

梓「唯先輩のギターも、すごく格好良かったですよ。新歓ライブの時もですけど」

唯「え?あ、うん。頑張るね、えへへ……」

いきなり話題を振られて、少し戸惑っちゃいました

とにかく、普段通りに振る舞わないといけません

もうすぐライブで、メンバーの雰囲気を微妙なものにするわけにはいきませんから

澪「胃が痛い……」

律「そ、そうだ!」

突然、りっちゃんが声を上げました

237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:16:55.60 ID:1FD7vy2wo
紬「どうしたの?りっちゃん」

律「いやさー。これからライブに向けて、結構練習して行かなきゃならないじゃん?それで、みんなのクラスの出し物とかどうなったのかなって」

ああ、と思いました

そう言えば、クラスの出し物があるんだっけ

私達のクラスは、ほとんど手がかからない展示物ですが

律「前にも言った通り、私達のクラスは大丈夫だ。澪と梓は?」

澪「私のクラスは喫茶店やるみたいだけど。でも、ライブの事情もわかってくれたから、楽な係にしてくれたよ」

だから練習は問題ない、と澪ちゃんが言います

梓「あ、あの……」

そこで、あずにゃんがおずおずと手を上げました

梓「私は、ちょっと忙しくなるかなって。ごめんなさい……」

律「あ、そうなの?」

紬「まあ仕方ないわよ。クラスの出し物も大事だしね」

梓「いや、もちろんライブの方も頑張りますよ。ただ、もしかすると少し練習に遅刻しちゃうかもって」

澪「大丈夫だよ。気にしないで。梓なら、前日に何回か合わせただけで何とかなるだろ。だからあまり無理するなよ?」

238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:17:29.95 ID:1FD7vy2wo
梓「はい。ありがとうございます」

そこでチラっとあずにゃんが私を見ました

慌てて、目線をそらします

無意識にずっと見ちゃってたみたい、私

律「ところでさ、梓のクラスは何やるの?」

梓「あ、はい。結婚式をやります」

律「……は?」

気のせいでしょうか、『結婚式』という単語を聞いた瞬間、りっちゃん達三人の肩がビクッと震えました

澪「結婚式、って……」

梓「えっとですね。やっぱり女の子って結婚とかに興味あるじゃないですか。だから、色々なことを調べて、展示してって形に決まりました」

紬「な、なんだ。展示物なのね?研究発表みたいな」

梓「それもやるんですけど。でも目玉として、結婚式のデモンストレーションみたいなのもやるんですよ」

律「……それって、もしかして他の生徒同士でも参加していいってタイプ?」

梓「はい。うちのクラスからも何組かデモカップルを出しますし、他の生徒同士でも全然大丈夫です」

この学校は結構女の子カップル多いらしくて、とあずにゃんが照れながら言いました

240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:18:05.02 ID:1FD7vy2wo
紬「そのデモカップルって、まさか梓ちゃん……」

むぎちゃんの言葉に、あずにゃんは嬉しそうに「はい」と言いました

梓「何て言うか、主役みたいな扱いでして」

唯「あずにゃん可愛いからね」

私の呟きに、何故かあずにゃんは顔を赤くします

あ、そうだ、とあずにゃんが言いました

私の方を向いて、姿勢を正します

唯「どうしたの、あずにゃん」

梓「あのですね」

コホン、と咳払いをしてあずにゃんは

梓「私、憂と結婚しますね」

241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:18:47.78 ID:1FD7vy2wo
唯「え?」

その台詞を理解するのに、何秒かを必要としました

律「ちょ!」

澪「……」

紬「う、憂ちゃん?」

憂と結婚式……

そっか……

唯「……うん。頑張ってねあずにゃん。相手は憂なんだ」

頑張って笑います

上手く笑えているか、自信はないですけれど

梓「はい。頑張ります。唯先輩も見に来てくださいね」

唯「うん。絶対に行くよ」

律「ちょ、ちょっと待て梓」

りっちゃんが勢い込んで席を立ちました

律「お前、その……知ってるの?この学校の結婚式の噂っつーか……」

梓「知ってますよ。ロマンティックですよね。えへへ」

澪「そ、そうか」

242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:19:14.23 ID:1FD7vy2wo
紬「どうすれば……」

律「……唯」

胃がキリキリと痛み始めました

243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/02/27(月) 04:19:24.02 ID:cls21YI5o
ああああああああああああああああこれは辛い

244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:19:47.36 ID:1FD7vy2wo
帰り道

いつもの所であずにゃんと別れて、私は一人歩いていました

今日はあずにゃんと大して話せていなかったな、とか考えつつ

本当はもっと考えるべきこともあるのですが、それを考えても仕方ないとわかってて

だから、まあ

出来るだけ自分に優しくしてます

それも、お風呂にでも入っちゃえば絶対に考えちゃうことなんですけどね

そんなことをつらつらと考えながら歩いていると

唯「え」

前方、私の家のすぐ近くの電信柱の前にりっちゃんと澪ちゃんとむぎちゃんが居ました

先ほど、いつも通りに別れたはずなのですが

律「あ、唯」

唯「みんな、どうしたの?」

小走りで駆け寄ると、三人が気づいて、私に向き直りました

澪「いや、あの、さっきの件について話しておきたいなって思ってさ」

紬「その……梓ちゃんのクラスの結婚式についてなんだけど」

心配そうに言ってくれる澪ちゃんとむぎちゃん

246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:20:29.09 ID:1FD7vy2wo
唯「あ、あずにゃんと憂の結婚式の話かな?」

律「……うん。そのこと」

私は大丈夫だよ、と笑ってみせます

唯「確かに、その……色々キツイけど、デモカップルって話だし。これは我慢しなきゃいけないのはわかってるから」

一応先輩だしねと言うと、りっちゃんが首を振りました

律「そういう問題じゃないんだ。その……落ち着いて聞いてくれ」

唯「う、うん……」

嫌な予感がしました

根拠も何もないけれど、何となく

そしてこういう予感は、大抵当たるのです

まるで未来があらかじめわかっていたかのように

澪「簡単に言うと、うちの学校の結婚式さ。その……本当に結ばれちゃうらしいんだ」

澪ちゃんが何を言ってるのか、始めは理解出来ませんでした

247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:21:01.17 ID:1FD7vy2wo
唯「……まさか」

紬「本当なのよ。桜高祭の結婚式の伝説は有名なの。毎年、絶対にどこかのクラスが無意識に結婚式を開催して」

律「そこで式を挙げたら、本当に結ばれる。恋人同士であろうと、その……友人同士であろうと」

唯「……なにそれ。からかってるの?」

言ってみたけれど、そんなわけ無いっていうのもわかっていました

どんな場面でも、まず自分を守ろうとする自分が本当に情けなくて

澪「本当なんだよ……唯……」

知ってるよ

そんな顔してまで、うちの近くで待っててくれたんじゃん、三人とも

嘘とか冗談じゃないってわかってるよ

249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:21:27.58 ID:1FD7vy2wo
唯「……終わり際にりっちゃんが言ってた『結婚式の噂』ってこのことだったんだ」

律「ああ。もし知らなかったら……止めるように勧めようと思ったんだけど」

唯「知ってたみたいだね、あずにゃん。えへへ」

そっか

そういうことだったんだ

澪「唯、その……」

唯「ううん。もういいよ。わかった」

身体の力が抜けていくのがわかりました

『かっこよくて。真剣な時は真剣で、やる時はやる人で。温かくて、優しくて。目が離せない人です』

そっか

唯「そっか。あずにゃん、憂のことが好きだったんだ」

250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:22:00.34 ID:1FD7vy2wo
憂「お帰り、お姉ちゃん」

唯「ただいま、憂」

憂「……お姉ちゃん?何かあったの?」

唯「え?何もないよー」

憂「……梓ちゃんにスキンシップ禁止令出されちゃったから?」

唯「知ってたんだー。えへへ。ちょっとキツイかもね」

憂「お姉ちゃんなら大丈夫だよ。きっと」

唯「ありがとね。――ちょっと眠いから、もう今日は部屋行くね」

憂「え?」

唯「昨日夜更かししちゃってて。ちゃんと夜中にご飯食べるしお風呂も入るからさ」

憂「う、うん……本当に大丈夫?どこか身体の具合でも悪いの?」

唯「大丈夫だよ。……優しいね、憂は」

憂「……お姉ちゃん?」

唯「じゃあね、憂。おやすみなさい」

251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:22:45.43 ID:1FD7vy2wo
あずにゃんは憂が好き

これだけ単純なことに何故今まで気づけなかったのか

気づこうとしなかっただけなのか

本当はわかっていたのではないか

自分の気持ちを掲げて誤魔化して、自分に都合のいい思い込みをしていなかったか

ただお腹が痛い

ズキズキする

唯「……ひっく……ひっ……」

真っ暗な部屋の中で、毛布にくるまっている

何かから身を守るように

けれど、内側から現実が鋭利な棘で突き刺してくる

ついこの間、このベッドであずにゃんが抱きついてきて

この毛布にあずにゃんがくるまっていて

でももう、あずにゃんの香りはしませんでした

私の涙だけが染み込んでいきます

あずにゃんの髪の匂いも、パジャマの裾から香る石鹸の香りも覚えているのに

覚えているのは私だけのようでした

252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:23:20.62 ID:1FD7vy2wo
あの夜のことが夢だったかのように

私の記憶以外の全ての痕跡は消えていました

夏の名残のように

蝉も、いつの間にか鳴くのをやめていて

もうどこにも、あの夏の香りは残ってないのです

……私に抱きついて、髪を撫でて

胸元に顔を埋めてくれたあずにゃんは夢だったのでしょうか

今となっては、どちらでも変わりないと思います

きっとあの夜も、私じゃ無くて憂と一緒に眠りたかったんじゃないかな

それを知らずに無理矢理頼み込んで、あずにゃんの気も知らずに喜んで

しかもそれを二日も続けて

もう少し私が賢かったら、空気を読めていたなら

そう、きっと憂が私の立場ならそんなことしないでしょう

253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:23:46.63 ID:1FD7vy2wo
静かに身を引いて、あずにゃんの幸せを祈れるはずです

そういう女の子です。私の妹は

そんな憂だからこそ、あずにゃんも惹かれたんだと思います

唯「憂になんか……敵わないよ……」

『かっこよくて。真剣な時は真剣で、やる時はやる人で。温かくて、優しくて。目が離せない人です』

どう転んだって、無理ですよ

254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:24:29.13 ID:1FD7vy2wo
澪「……うん。こんなもんか」

放課後のライブに向けての練習

ここ数日は、こんな風に真面目に練習する時間が多くなっていました

お茶の時間もあるけれど、それは本当に練習の合間にという感じで

そんなライブ前のある種の緊張感というのは、ある意味私にとっては助かっています

みんなそれぞれ、演奏だけに集中すればいいですから

律「そういや、梓が入る前は四人でふわふわをやってたんだよな」

紬「そうね。これがオリジナルって言っちゃえば、そうなんだろうけど」

澪「まあ、何か物足りないな」

あずにゃんはまだ来ていませんでした

クラスの結婚式の準備で忙しいのでしょう

今頃は憂と楽しく準備してるのかな、あずにゃん

唯「自分のパートで合わせられるだけでいいよ。あずにゃんも忙しいだろうし」

確かに四人のふわふわ時間は、今では物足りなくなっていますが

仕方の無いことは、どうにもならないのです

澪「……唯。大丈夫か?」

それが体調を心配しているわけでは無い台詞だとは、声音でわかりました

255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:25:06.78 ID:1FD7vy2wo
唯「うん。平気だよ。どうしようもないしね」

律「……今、梓が居ないから言えるんだけど」

スティックを指で弄びながら、りっちゃんが言いました

律「正直、私はさ。梓は唯のことが好きなんだとばかり思ってたよ」

唯「そんなわけないじゃん」

思わず笑ってしまいます

唯「私の方が引っ付きっぱなしだったからね。そう見えちゃっても仕方ないけど」

紬「私も、りっちゃんと同じこと考えてたわ。あとは告白するだけだって思ってたんだけど……」

唯「もー。今更無茶なこと言わないでよー」

そんなわけないけれど

でも、仲良さそうに見えたのなら嬉しいな

澪「唯、ちゃんとご飯食べてるのか?なんかこないだから顔色も悪いような……」

唯「食べてるよー。大丈夫だよ。ライブもしっかり頑張るからさ」

澪「いや、ライブとか関係なくだな」

その時です

梓「すみません、遅れました!」

慌ただしくドアを開けて、あずにゃんが入ってきました

256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:25:46.75 ID:1FD7vy2wo
律「お、おお、梓。お疲れ」

紬「走ってきたの?そんな急がなくてもいいのに」

梓「い、いえ」

息も切れ切れに、あずにゃんは言います

梓「クラスの展示もライブも、頑張るって決めたんで」

澪「そうか。――なら、少し休憩するか」

梓「え?私は今からでも練習できますよ」

澪「そんな息切らして休まないわけにもいかないだろ。私達もちょうど二曲合わせたところだからさ」

無理するなって言ったろ、と澪ちゃんがあずにゃんの頭を撫でます

かっこいいなー、澪ちゃん

あずにゃんも満更じゃなさそうな顔しちゃって

ほら、りっちゃんもあんなうっとりした瞳で澪ちゃんを見てる

私にもあれくらいのことが自然に出来ていたらなぁ

紬「じゃあ、お茶にしましょうか」

むぎちゃんがそう言って、澪ちゃんとりっちゃんがテーブルに移動します

私も行こうと、肩のギターストラップに手をかけた時

梓「あ、唯先輩。遅れてすみませんでした」

257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:26:15.11 ID:1FD7vy2wo
素敵な笑顔で、あずにゃんが声をかけてくれました

唯「ううん。気にしないで。お疲れ様ー」

私も笑いかけてみます

すると、何故かあずにゃんは私の顔をじっと見つめました

唯「……ど、どうしたの?」

あずにゃんはベンチに鞄とギターケースを置くと、私に近づいてきました

梓「唯先輩。少しベンチに座ってくれます?」

唯「へ?」

いいですから、と半ば無理矢理ベンチに座らされます

唯「えっと……?」

梓「大きい声出さないでくださいね」

私の背後、テーブルで談笑してる三人の様子を窺うと、あずにゃんは私の膝の上にまたがって

唯「!?」

私の前髪を手でかき上げると、おでことおでこをくっつけてきました

258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:26:56.98 ID:1FD7vy2wo
唯「あ、あず」

梓「動かないでください」

そのまましばらく、おでこをくっつけているあずにゃん

あずにゃんとの顔が近くて、吐息も感じられて

梓「……熱は無いみたいですね」

私の顔が徐々に熱くなっていった時、あずにゃんはおでこを離しました

あずにゃんは私の膝上にまたがったまま、涼しげな顔です

唯「ど、どうしたの、いきなり」

情けないくらいに心臓がドキドキしてて、頭の中が混乱してて

梓「憂から聞いたんです。こないだから少し唯先輩がおかしいって」

……普通にしてたつもりなのにな

やっぱ憂にはどこか変だってわかっちゃうんだ

梓「風邪でも引いてたら大変だって思ったんで。まあ、熱は無いみたいですけど」

唯「……大丈夫だよ。ライブはちゃんと」

梓「ライブの心配じゃないです。唯先輩の身体の心配です」

あずにゃんが少し強い口調でそう言いました

梓「私も最近様子が変だなとは思ってたんですけどね」

259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:27:28.26 ID:1FD7vy2wo
……それは、あずにゃんは憂が好きってわかったからじゃん

スキンシップだって禁止されて

って、そう言えば

唯「スキンシップ禁止なんじゃなかったの?こんなことしてくれてるけど」

梓「別に私は禁止されてないですもん。唯先輩から」

しれっと、あずにゃんはそう言いました

梓「第一、これはスキンシップじゃないです。健康調査です」

唯「……だよねー」

ところで、とあずにゃんはずいっと顔を寄せてきました

再びあずにゃんと顔の距離が近くなって、また心臓が跳ねる音がします

梓「スキンシップの話題を振ってくれたんで聞けますけど、わかりました?私が泣いた理由」

心臓の跳ねる音が、ズキズキした痛みに変わりました

あずにゃんの目は真剣で、私は目をそらすしかなくて

唯「……ま、まだ。もうちょっと、待って」

私は結論を先延ばしにします

本当はわかったんだけど

その理由を言ってしまうと、本当にあずにゃんと終わってしまう

260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:28:02.79 ID:1FD7vy2wo
梓「そうですか」

ため息をついて、あずにゃんは私の膝上から退きました

唯「……ごめんね、わがままで」

梓「え?わがまま?」

意味がわかりませんが、と言ってあずにゃんはコホンと咳払いします

梓「まあとにかく。わからない以上はスキンシップ禁止は継続ですね」

唯「はい……」

梓「……私もずっと待ってますから」

お茶入ったみたいですよ、と言ってあずにゃんはテーブルの方へ行きました

緩慢な動作で、私も腰を上げます

久しぶりにあずにゃんとくっつけて嬉しいのと、終わりを迫られている悲しさと

それが一緒くたになって心の中で渦巻いてて、もう何が何だかわかりませんでした

ただ、とても贅沢で卑怯な情けないことを思ってしまいます

本当に格好悪くて、泣きそうになります

「好きじゃないなら、優しくしないでよ」

261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:28:38.07 ID:1FD7vy2wo
唯「はぁ……」

すっかり陽が落ちるのも早くなった帰り道を、私は一人で歩いています

練習の後、あずにゃんは結婚式の準備があるからと一人で先に行っちゃいました

りっちゃんや澪ちゃん、むぎちゃんもそれぞれ用事があるらしくて、別の方向に行っちゃって

だから、今日は久しぶりに一人での帰宅です

唯「言わなきゃならないのかな、やっぱり」

言って欲しそうだったな、あずにゃん

やっぱりそういうことは、はっきりさせたいタイプなのかな

唯「『私のこと好きじゃないんでしょ』って、言わなきゃいけないのかなぁ」

……いけないんだろうなぁ

あずにゃんと憂の仲を邪魔しないからって言えば、言うの許してくれるかな

言葉にするのは、本当に辛いよ

そんなことを考えていると

唯「……和ちゃん?」

少し前の方を歩く和ちゃんを見つけました

なんだか背中が丸まっているような……

唯「和ちゃん」

262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:29:20.07 ID:1FD7vy2wo
少し走って、和ちゃんの肩を叩きます

和「……あ、唯」

今帰りなの、と聞く和ちゃんの表情は、なんだかとても疲れていました

唯「……どうしたの。なんだか疲れてるみたいだけど」

和「色々あるのよ。……って、唯も人のこと言えないじゃない」

酷い顔よ、と笑う和ちゃん

その微笑みにも、いつもの精悍さは無くて

唯「……私も、色々あるから」

だから、それだけ答えて

和ちゃんの隣に並びました

和ちゃんは何も言わず、歩き続けます

ただ、そのゆっくりとした歩の進め方から、和ちゃんが何かを言いたいんだろうなというのはわかりました

和「……何かあったの?」

唯「和ちゃんこそ」

和「私が聞いてるの」

唯「人に聞いちゃいけない種類の悩みってあるよね。私にも、和ちゃんにも」

263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:29:59.19 ID:1FD7vy2wo
和ちゃんはしばらく黙り込んで

和「そうかもね」

と呟きました

その時、私は和ちゃんが私と同じ種類のあれこれに悩んでる気がしました

確証は無いけれど、そうだとしたらきっと、私も和ちゃんみたいな顔をしているんだろうなと思いました

憂やあずにゃんが心配するわけです

和「でも」

小さく言って、和ちゃんが私を見ます

和「本音がわからないくらいにオブラートに包んで言ってみたら。もしかすると、方向性くらいはわかるかもしれないわ」

方向性、か

少なくとも、今の状況で私のやるべきこととやりたいこと、言ってしまえばワガママなのですが、それがごっちゃになってて

それを少しでもまとめられるのならば

唯「……うん」

少し、考えて

唯「好きな人に好きな人が居て、その人達が両思いで。もちろん私は好きな人にとって邪魔者で」

唯「そういう時、私はどうすればいいんだろう?」

264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:31:05.18 ID:1FD7vy2wo
和「一つ目。応援する」

唯「……」

ズキっと胸に痛みが走ります

和「邪魔をせず、笑顔で誤魔化して、口だけの応援をする。傷ついてる自分を吐き気と一緒に我慢して、現実を見る。幸せを祈る」

唯「……そんなこと出来るのかな」

やってやれないことはないわよ、と和ちゃんが言います

和「ただ、その後。誰も助けてはくれないけどね。一番支えになって欲しい人は、他の誰かの支えになってることを喜んでるし」

和「ぼろぼろになっちゃうわね。耐えられないくらいに」

唯「うん」

簡単に予想がつく

吐き気がする

265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/02/27(月) 04:31:06.52 ID:CZ8Ioglho
感情移入しすぎて胃が痛い

266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:31:49.98 ID:1FD7vy2wo
和「二つ目。それでも頑張ってみる。ロックンロールする」

唯「……はは」

和「嫌なものを見るような目を好きな人に向けられても、それでも頑張ってみる。アピールしてみる。空っぽのままで」

唯「かっこわるいね」

和「少しでも目を向けてもらえるように頑張る。面白いことをしてみる。気を引いてみる」

唯「それは、私にも出来そうだけどね」

和「だけど、これも誰も助けてはくれないわ。もしかしたら、好きな人の好きな人にも笑われるかもしれない。必死だねって」

唯「……そうだよねー」

和「漫画や小説なら、きっとその努力は実ってハッピーエンドなんでしょうけど。でも、現実はね」

上手く行く方向に、上手く行っちゃうのよ

まるで自分に言い聞かせているみたいに、和ちゃんは言いました

和「本当は私に出来ることは何もなくて。でも、悩んでる風を装って、それを認めたくないだけかもしれないわね」

267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:32:27.55 ID:1FD7vy2wo
唯「わかってるんだけどね。本当は」

和「そうね。本当にわかってるんだけどね」

唯「ねえ、和ちゃん。一つ条件を足してもいい?」

和「なに?」

えっとね

唯「……私の好きな人の好きな人ね。私にとっても大切な人なんだ。……ねえ、どうしたらいいかな」

和「漫画や小説なら、いけ好かない悪者なのにね」

私にもわからないわよ、と

和ちゃんが呟きました

268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:32:58.58 ID:1FD7vy2wo
唯「んー、と」

ヘアピンを外して、両サイドの髪を後ろでまとめて

耳を出して、前髪を調整して

唯「どうかな……」

恐る恐る覗いた鏡の中には、髪型を変えた私しか居なくて

唯「……もうちょっと、しっかりした雰囲気だよね」

前髪の位置をちょっといじってみるけれど

唯「んー。目元?口元?」

どこかが合わなくて

色々と試してみましたが、結局私は憂にはなれませんでした

269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:33:28.45 ID:1FD7vy2wo
唯「似てるって、よく言われるんだけどなぁ」

鏡の中には相変わらず、憂の真似をした別の人が居て

唯「憂は私に似てるけど、私は憂には似てないや」

姿格好だけでも憂と同じにすれば、もしかしたらあずにゃんも少しは見てくれると思ったのですが

唯「やっぱり、ダメかぁ」

もうダメかな、これ

色々女々しくあがいてみてるけれど

唯「……引き金を引こうにも、武器も持ってないじゃん、私」

270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:34:03.18 ID:1FD7vy2wo
放課後

桜高祭まであと三日

ライブまであと四日で、あずにゃんの結婚式まであと三日です

下駄箱を抜けて外に出ると、辺りはもう陽が暮れかかっていました

律「へえ、結構準備進んできたな」

校庭には、出店の準備なのでしょう、お店の枠組みとか機材とかダンボールとか、そういうあれこれがそこら中に並んでいました

澪「もうすぐだしな。明日からは授業も午前中だけだし」

紬「お祭りの前、って感じね」

嬉しそうにむぎちゃんが言いました

そう言えばむぎちゃん、焼きそば食べたいって言ってたっけ

時間があれば、買ってきてあげようかな

律「授業が午前中だけってのが嬉しいよな」

あずにゃんはいつも通り、練習が終わったあとはクラスの準備に戻っていきました

最近はずっとそんな感じで、みんなと帰ることも少なくなって

少し寂しいかな

触れない分、少しは見ていたいんだけど

271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:34:38.99 ID:1FD7vy2wo
桜高祭が終わったら、あずにゃんは私と一緒に帰ってくれないかもしれません

憂と結婚しちゃうんだし

結ばれちゃうんだよね、本当に

そんなことを考えていると

唯「あ。あずにゃん……」

少し離れたところでダンボールを抱えたあずにゃんが歩いていました

一人じゃない。隣に居るのは憂です

憂もまた、ダンボールを抱えてあずにゃんの隣を歩いていました

二人は体育館から校舎に向って歩いています

きっと何かを取ってきた帰りなんでしょう

二人とも、凄く楽しそうで

あずにゃんなんか、小さな体に似合わないくらい大きなダンボールを抱えているのに

それでも

唯「……幸せそうだね」

272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:35:08.07 ID:1FD7vy2wo
あんなに笑っちゃって

すごく楽しそうで、肩をくっつけて歩いてて

私にあんな風にしてくれたことあったけ

……いっつも私からだったしなぁ

律「ゆーいっ!」

突然、後ろから肩を組まれました

律「……んな顔してんなって」

唯「……うん」

澪「……梓か」

澪ちゃんも、憂と仲良く歩くあずにゃんを見ていました

紬「頑張ってるわね、梓ちゃんも憂ちゃんも」

そのまま、私達はあずにゃんと憂が校舎に消えていくまで眺めていました

最近は下校時刻も特別に少しだけ遅い時間に設定されていて、憂が帰ってくる時間も少し遅くなりました

唯「あのね、みんな」

273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:35:34.23 ID:1FD7vy2wo
律「ん?」

紬「どうしたの?」

みんなはあずにゃんと憂が仲良く歩く光景を見ても、何も言いませんでした

それはきっと、私に気遣っていてくれるからで

その気持ちが私にはとても嬉しかった

だから、みんなに

私は言わなきゃいけない

唯「私ね。――諦めるよ、あずにゃんのこと」

274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:36:29.48 ID:1FD7vy2wo
澪「……え!?」

紬「え?」

律「な……」

みんなが驚いた表情で私を見ます

そりゃ、そうだよね

あれだけあずにゃんあずにゃん言ってたんだし

唯「……あれからずっと考えたんだけどさ。無理だよ。憂に勝つなんて」

律「唯……」

澪「で、でもまだわからないだろ!?」

唯「わかるよ」

思わず笑ってしまいます

唯「あずにゃんは憂のことが好きで、憂はどうだかわからないけど、あずにゃんの話を聞いた限りでは憂もあずにゃんが好きだよ」

唯「両想いなんだから、最初から私の入る隙間なんて無かったんだよ。それに」

一番大事なこと

あずにゃんも好きだけど、それでも

唯「それに、私は憂のことも大切なんだよ。姉として、憂の幸せを邪魔するなんて出来ないよ」

275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:37:00.84 ID:1FD7vy2wo
私が我慢すれば、あずにゃんも憂も幸せになれる

憂はお姉ちゃんっ子だから、私が祝福しないと喜ばないでしょう

優しい子なんです、憂は

あずにゃんも良くわかってくれていると思います。憂のこと

紬「それは、そうだけど……」

律「そういう問題じゃないだろ。……お前は、どうなるんだよ」

唯「私は大丈夫だよ。我慢する。我慢出来る」

邪魔をせず、笑顔で誤魔化して、口先だけの応援をする

傷ついてる心を吐き気と一緒に飲み込んで、現実を見る

幸せを祈る

276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:37:34.68 ID:1FD7vy2wo
唯「元々、あずにゃんへの気持ちは隠し通すつもりだったんだ。最近は色々ラッキーなことが続いてて、欲張っちゃったけど」

唯「でもまあ、こんなもんだよ。大丈夫。今まで通りだから」

だからみんな、今まで応援してくれてありがとう

ごめんね

律「……そうか」

紬「納得いかない……」

澪「……」

唯「帰ろっか、みんな」

私は先に歩き出します

あずにゃんは好きな人とずっと幸せになる

それは正しいことではないでしょうか

少なくとも私は、それが正しいことだと思うのです

278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:38:14.80 ID:1FD7vy2wo
唯「おかえりー」

憂「あ、お姉ちゃん。ただいま。遅くなってごめんね。すぐにご飯を……」

唯「ゆっくりでいいよー。疲れてるんだし。あ、お風呂掃除しといたから」

憂「え!?ありがとうおねえちゃん!」

唯「ううん。私の方がいつも遅いから、たまに早く帰ってきた時にはやらないとね」

憂「ありがとうね。よし、私もすぐにご飯作るね!」

唯「ゆっくりでいいってばー。……憂」

憂「ん?どうしたの?」

唯「あずにゃんのこと、よろしくね」

憂「あ、結婚式のこと?えへへ、梓ちゃんから聞いたんだ」

唯「うん。あずにゃんも嬉しそうだったよ」

279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:38:40.79 ID:1FD7vy2wo
憂「うん。頑張るよ、お姉ちゃん。お姉ちゃんも絶対見に来てね!」

唯「うん。見に行くね」

憂「えへへ。梓ちゃんも楽しみにしてたよ。お姉ちゃんが見に来るからって張り切ってたし」

唯「そっか。……楽しみだね」

憂「楽しみにしててね!」

唯「じゃあ私、部屋行ってるから」

憂「うん。ご飯出来たら呼びに行くね」

280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:39:13.75 ID:1FD7vy2wo
とりあえず、私の行動に間違いは無いと思います

心も頭もぐちゃぐちゃで、何が正しいのかわかりませんでした

だから、少なくとも

客観的に見て、多くの人が幸せになるような行動を取りました

意識的に、自分の思ってることをスルーして

機械のように判断して、みんなの前で宣言しました

宣言しちゃえば、後は引っ込みもつかなくなると思いましたし

だからこれは、無理矢理自分を奮い立たせるための強引な方法です

現実を見ようとせず、ただ自己保身に走る私への対策でした

あずにゃんは憂が好きで、憂もあずにゃんが好き

二人は相思相愛で、桜高祭の結婚式で永遠の愛を誓う

二人は伝説の名において祝福され、約束される

私の入る隙間は無い

邪魔をしてはいけない。祝福すべき。幸せを祈るのが私の役目

落ち込んでいる暇はありません

妹の、そして愛する後輩の幸せのために、私にもやるべきことがあるのですから

281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/02/27(月) 04:39:41.53 ID:cls21YI5o
泣けてきた

282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [すみません五分ほど止まります]:2012/02/27(月) 04:40:18.44 ID:1FD7vy2wo
その方向だけに自分の目を向けさせるのに

叶わない幻想なんて、視界に無い方がいい

少なくとも私はその時、それが正しいと感じましたし、それだけを頑張ると決めていました

みんなに「諦める」と宣言した次の日も、桜高祭前日も

相変わらず忙しい中、わざわざ練習に顔を出すあずにゃんへの対応は普通だったと思います

もちろん触ってないし、スキンシップもしませんし、出来る限りじっと見ないようにもしました

ちょっとだけきつかったけれど、ちゃんと出来て

だから、あとはこのまま

ゆっくりとあずにゃんへの想いを忘れていけばいいと

忘れることは出来なくても、例えば友情とかなんとか、そういう気持ちとすり替えて自分を納得させればいいと

そう思っていました

283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:47:25.08 ID:1FD7vy2wo
件名 Re
今日の唯先輩の演奏、良かったですよ。どこが不満なんですか

件名 Re:Re
音楽ですか?んー、基本洋楽とか、ですかね。そう言えば、澪先輩も律先輩も洋楽好きなんですよね。唯先輩は?

284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:47:56.18 ID:1FD7vy2wo
件名 Re
褒めたって何も出ませんよ。誰にでもそういうこと言ってるんでしょ!

件名 Re:Re:Re
んー、欲しい服はあるんですけどね。……一緒に行きませんか?

285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:48:32.74 ID:1FD7vy2wo
件名 試験勉強
ちゃんとしてます?赤点とか取ったらダメですからね!

件名 Re
唯先輩は猫と犬、どっちが好きですか?

件名 お弁当
忘れたでしょ。憂が言ってましたよ。今から届けに行きますから教室に居てくださいね

件名 Re:Re
また平気な顔でそういうことを……。どうせ本気じゃないんでしょ!

件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re
そうですね。もう遅いですし。じゃあ、また明日。おやすみなさい

件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re
そうだ!忘れ物しないように、ちゃんと準備してから寝てくださいね!

286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:49:06.87 ID:1FD7vy2wo
部室のドアが開いて、りっちゃんが顔を出しました

律「あ、やっぱりこんなことに居たか」

唯「どうしたの?」

律「いや……つーか、何してんだ?」

唯「へ?」

ギターはケースから出していましたが、私はベンチに寝そべったままで

唯「……えへへ。練習の合間の休憩?」

そっと後ろ手で手に持ったものを隠します

律「ったく、お前は」

笑いながら、りっちゃんは部室に入ってきます

律「いや、お前の姿が朝から無かったからさ。こうして探してたわけ」

唯「そうなんだ。何か用事?」

律「何もないけどさ」

唯「そっか」

私は身を起こして、ベンチに座り直します

287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:49:33.04 ID:1FD7vy2wo
唯「……今日、結婚式するんでしょ?りっちゃん」

律「え?」

なんでそんな驚いた表情するの

律「えっと、私言ったっけ?結婚式するって」

唯「いや、カマかけただけ」

律「お前なぁ……」

ため息をついてうなだれるりっちゃん

律「いや……今年はしないよ。澪と決めた」

唯「……私のせい?」

律「そういうわけでも……あるかもな」

澪がさ、とりっちゃんは言いました

律「お前らのこと、納得いかないって。あいつは、軽音部みんなで結婚式したかったらしくて」

唯「そっか。……なんか悪いことしちゃったね」

律「……私もむぎも、同じ考えでさ。でも、お前と梓のことだから。お前が決めて、私達は口出し出来ないもん」

唯「感謝してるよ。本当に。こんな結果だけどさ」

288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:50:04.10 ID:1FD7vy2wo
律「……もう一回、考え直さないか?だってこのままじゃ、お前の気持ち……」

だから、なんでりっちゃんがそんな顔するのさ

りっちゃんは澪ちゃんと幸せになるんだから

だから、そんな顔することないじゃん

唯「私の気持ちは、別に無駄になるわけじゃないよ。あずにゃんと憂に幸せになって欲しいって思ってるのは本当だもん」

律「だから、お前の気持ちはどうなるんだよ!お前は誰と幸せになりたいんだ!」

唯「……もう間に合わないよ。結婚式の伝説は本当だし、二人はそれを知ってて式を挙げるんだもん」

律「で、でも!――なにか他に、方法が……」

唯「りっちゃん」

私はりっちゃんを抱きしめました

唯「ありがとね。こんなに心配してくれて」

律「心配じゃ……なくて……」

唯「知ってる。私のことも考えてくれてるし、あずにゃんのことだって同じくらい考えてるんでしょ」

289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:50:39.47 ID:1FD7vy2wo
あずにゃんに幸せになって欲しいと願うのは、私だけじゃないのです

りっちゃんも澪ちゃんもむぎちゃんも

みんな、あずにゃんの幸せを祈ってるのです

ただ、あずにゃんの幸せが私の失恋であって

だから、こんな風に困らせてしまうのです

律「澪にも聞かれたけど……私もどうすりゃいいかわからないんだよ……どうしたら、みんな……」

唯「りっちゃん。澪ちゃんと結婚式してきなよ」

律「え?」

唯「私だって、りっちゃんと澪ちゃんの幸せを祈ってるもん。二人が同時に幸せになれるんなら嬉しいよ」

りっちゃんが私とあずにゃんの幸せを祈ってるのと同じくらいに

私だって、りっちゃんと澪ちゃんの幸せを祈ってる

これは嘘じゃない

唯「……私がそう言ってたって澪ちゃんに伝えて。だから」

律「……っ」

唯「泣き止んでよ」

290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:51:13.46 ID:1FD7vy2wo
自分のために泣いてくれる友達を持って、私は幸せ者だと思いました

りっちゃんも澪ちゃんもむぎちゃんも

私を応援してくれてて

だから、これからも

あずにゃんと憂が結ばれてしまっても

きっと私は何とか頑張れると

そう、思います

唯「澪ちゃん置いてきちゃったんでしょ。……もう行かないと」

抱きしめる腕をほどいて、私は言います

唯「私はもう大丈夫だから。気にしないで」

律「……うん。ありがとな」

グシグシと制服の袖で乱暴に目をこすって、りっちゃんは顔を上げました

律「じゃあ、行ってくるよ。澪んとこ」

唯「うん。頑張ってね!」

291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:51:46.52 ID:1FD7vy2wo
部室の扉に手をかけて、そして思い出したように振り返ります

律「そういえば、梓の結婚式には……」

唯「ここから直接行くよ。何時くらいかな」

律「十一時四十五分からだって。……その、唯」

唯「大丈夫だって。本当に」

笑って答えると、りっちゃんも少しだけ微笑みました

律「じゃあ、私達も梓のクラスに行ってるからさ。後でな」

唯「うん」

部室の扉が閉まりました

少し耳をすましてみると、階段を下りていく小さな足音が聞こえます

どうやら行ったようです

私は隠していた携帯をポケットから出しました

時刻表示を見ると、十一時三十分を少し過ぎたところ

あずにゃんの結婚式のために、もうすぐ出なきゃいけない時間なのですが

唯「ふぅ」

再び、私はベンチに座ります

292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:52:14.25 ID:1FD7vy2wo
別にあずにゃんの結婚式に行かないわけではありません

本当は行きたくないけれど、行かないわけにもいきませんから

憂に約束しちゃたし、あずにゃんにだって

だから、二人の結婚式に行く前に

私にはやらなきゃいけないことがあるのです

293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:52:41.29 ID:1FD7vy2wo

件名 Re
私は大丈夫です!唯先輩とは違って、日頃から勉強してますから
これに懲りたら、少しは日頃から頑張ってくださいね。たまになら、勉強付き合いますから

件名 パン!
ゴールデンチョコパン買えましたよ!唯先輩、食べてみたいって言ってましたよね。今から一緒にお昼どうですか?

件名 Re:Re:Re
だから、人前で抱きつかれるのとか恥ずかしいって話をしてるんです!

294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:53:08.86 ID:1FD7vy2wo
唯「……こんなにメールしてたんだ。私とあずにゃん」

あずにゃんと出会って……半年くらいかな?

それで、あずにゃん専用のメールフォルダがほとんどいっぱいになっていました

改めて読み返すと、本当に楽しい思い出が溢れてきて

唯「気持ち悪いなぁ、私。あずにゃんからのメール、全部保護とかね」

フォルダにかかっていた保護を外します

唯「このメールしてた頃は、なんだか楽しかったな」

まだ全然あずにゃんに告白しようなんて考えてなくて、あずにゃんからメールが来るだけで嬉しくて

本当、最近はラッキーなことが続いてて、少し調子に乗っちゃったよ

告白しようなんて考えなかったら、こんなことにはならなかったのかな

今でも、あずにゃんに抱きついたり自然にお話したり笑い合ったり

今日だって、一緒に露天とか回ったり出来たのかな

唯「……ふっ……うぅ……っ」

本当、私はどれだけ泣いてるんでしょう

いくら泣いても涙は止まらなくて

これから、どれだけ泣けばいいのかもわかりません

295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:53:47.92 ID:1FD7vy2wo
唯「……よし」

袖で涙を拭いて

携帯の画面を見ます

唯「みんなにいっぱい迷惑かけちゃったし。私も前に進まないと」

慣れない操作をなんとかこなして、「はい」と「いいえ」の二つの選択肢が表示されて

唯「ありがとね。私は確かに幸せだった」

親指を、決定キーに乗せて

唯「ばいばい、あずにゃん」

フォルダの消去をしようと、親指に力を込めた

その時

唯「わっ!」

突然、携帯が鳴り始めました

296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:54:43.46 ID:1FD7vy2wo
びっくりして、思わず携帯を落としそうになって

唯「っと」

すんでのところでキャッチします

唯「メール……?」

今の着信音はメールでした

何だろう、りっちゃんか誰かから?

あずにゃんの結婚式にはまだ時間があるから、催促とかじゃないと思うけど……

画面を見て、そこに表示されていたのはあずにゃんの名前でした

心臓がドクンっと高鳴ります

唯「……」

フォルダの消去はひとまず後で

あずにゃんからのメールを開きます

慣れた手つきで、何百回も繰り返した指の動きで

フォルダから、あずにゃんの新しいメールをクリックします

件名 唯先輩にだけ特別に
お先に見せちゃいますね。どうですか?みんなで作ったんですよ!

297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:55:13.62 ID:1FD7vy2wo
唯「……添付ファイルがある」

添付ファイルを受信して、表示して

その瞬間、私の中が真っ白になりました

画像は、あずにゃんのウェディングドレス姿の写真でした

自分で撮ったものではありません

ある程度全体が入るように撮っているから、きっと誰かに撮ってもらったのでしょう

お化粧もしてないのにあずにゃんの肌は白くて、目が大きくて

いつものツインテールはほどいて、クセ一つない綺麗な黒髪が白いウェディングドレスに流れていて

本当に、綺麗で

唯「……無理だ」

298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:56:01.12 ID:1FD7vy2wo
無理

絶対無理

嫌だ絶対嫌だ

無理耐えられない

誤魔化すなんて出来ない嘘もつけない絶対に嫌だ

もうダメだ

唯「絶対に無理」

携帯をベンチに放り出して、駆け出します

部室の扉を抜けて階段を駆け下りて

廊下には多くの生徒がひしめいていました

クラスの呼び込みやお客さんですごい活気で

そんな中を私は走ります

肩がぶつかって、足もぶつかって

謝罪の言葉もそこそこに、私は走ります

唯「無理……絶対無理……」

頭の中は真っ白で

その空白の中で想うのは、さきほどの画像のあずにゃんの笑顔だけで

唯「うわっ!」

何かに足を取られて、転びました

299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:56:36.42 ID:1FD7vy2wo
あごと手のひらに鈍い痛みが走って、一瞬意識が遠くなります

涙が少しだけ出てきて、視界が滲んで

「あの、大丈夫ですか?」

周りの人達が、何事かと集まってきます

唯「だ、大丈夫です!」

立ち上がって、再び走りました

「ねえ、今の人って」

「軽音部のボーカル……?」

袖で涙を拭います

動かすたびに、足のあちこちが痛みます

派手にこけたから、きっと他のところも怪我をしてるんでしょう

でも、走れる

この足は動く

なら何も問題はない

階段を駆け下りて、角を曲がって

ふと、頭の片隅に疑問が生まれました

300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:57:11.12 ID:1FD7vy2wo
私は今から、何をしようとしているんだろう?

あずにゃんのクラスへ行って、そこで一体なにを?

明日のライブはどうするの?

これからの軽音部の活動をどうするの?

これからのあずにゃんとの関係が、どうなってもいいの?

唯「無理なんだよ、もう」

もう何も知らない

考えたって傷つくだけなら、何も考えない

当たって砕ける

武器を持ってないなら、噛みついてでも

ヒビは無理でも、せめて傷くらいは刻んでやる

都合の悪い現実に反抗してやる

この真っ白な衝動に吹かれてどこまでも行こう

301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:57:46.03 ID:1FD7vy2wo
ああ、格好悪いなぁ、私

あずにゃんの好きな人になんて結局届かなかった

最初からわかってたことなんだ

家事も出来ないし気の利いた言葉一つ言えない

好きな人の幸せを祈るくらいの優しさも持ち合わせちゃいない

ごめんねあずにゃん

これで最後だからね

あと一回だけ、私のわがままに付き合ってね

あずにゃんのクラスにたどり着きます

目の前の扉を開けば、全てが変わってしまう

今までのあずにゃんとの関係も、憂との関係も

そういうあれこれも、真っ白な風景の向こうに消えていって

私は、思いっきり引き戸を開けました

302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:58:33.87 ID:1FD7vy2wo
唯「はあっ……はあっ……」

教室の中は、教会のように飾り付けられていました

机を出して、椅子だけを両端に並べて客席のようにしています

入り口から中央、そして教壇の前まで赤いバージンロードが引かれて

教壇の上には、ぶかぶかで手が袖に隠れている牧師服の純ちゃん

そしてその前に、ウェディングドレス姿のあずにゃんと憂が立っていました

三人とも、飛び込んできた私を驚きの表情で見ています

可愛いな、二人とも。あのウェディングドレス、本物なのかな。すごく綺麗

唯「はあ……はあ……」

客席にも、満員とまでは言わないけれど多くの生徒が座っていました

りっちゃん達の姿はありません

きっとまだ来ていないのでしょう

何事かと私を窺う客席の視線を、しかし私は無視してまっすぐとバージンロードを歩きます

足の痛みも心臓の動悸も気にせず、あずにゃんの元へ向います

梓「ゆ、唯先輩?どうしたんですか、そんな」

慌てた様子で駆け寄ってくるあずにゃんを、私は

梓「え」

抱きしめました

303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 04:59:28.42 ID:1FD7vy2wo
強く、自分の体にあずにゃんの細い体を抱き寄せます

首元に顔を埋めて、腰に手を回して

絶対に離したくない

梓「ゆ、唯先輩……?」

いつもと様子が違うと思ったのでしょう

あずにゃんもいつものように抵抗せず、私のされるがままになっています

ただ、あずにゃんの心臓の鼓動も私と同じくらいに高鳴っていて

何故だかそれを、強く意識しました

唯「ごめんね、あずにゃん」

梓「ごめんって……まあ、いきなり教室に入ってきたのはびっくりしましたけど」

唯「違うよ。今からすることに対しての謝罪」

梓「え?」

唯「最後のわかままだよ。別にきいてくれなくてもいいからね」

あずにゃんの耳元で囁いて、そして

唯「憂」

教壇の前の、ウェディングドレス姿の憂に呼びかけます

304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:00:04.76 ID:1FD7vy2wo
憂「どうしたの?お姉ちゃん」

困惑の表情の憂

無理もありません

いきなり、私が教室に飛び込んであずにゃんを抱きしめているのですから

唯「ごめんね憂。私、あずにゃんを渡したくない」

梓「え」

憂「……?」

腕の中のあずにゃんがピクっと震えたのがわかりました

少しだけ強く抱きしめ直してから、私は憂に言います

どうしても、声は震えてしまうけれど

唯「この前は、あずにゃんをよろしくなんて言ったけど。あれ、取り消す」

憂「……」

305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:00:48.66 ID:1FD7vy2wo
唯「絶対に渡したくない。大切な妹と後輩だからって、応援しようと思ったけど。でもダメだった」

唯「あずにゃんが他の誰かと幸せになるなんて嫌だ。他の誰かの隣で幸せそうに笑ってる未来なんて欲しくない。耐えられない」

唯「絶対に嫌だ。……わがままなのはわかってる。邪魔をしてるのもわかってる。でも」

唯「無理なのもわかってるよ。でもだからって、簡単に諦めるなんて出来ない」

唯「せめて、刃向かわせてもらうよ。憂にも……あずにゃんにも……!」

あずにゃんを抱きしめながら、一息にそう言いました

これからどうしようだなんて考えてはいません

そもそも、こんな啖呵を憂に切るつもりもありませんでした

ただ、憂は本当に綺麗で

だから、もう何かを考える余裕もなくて

憂「んーと、良く意味がわからないんだけど……」

そう言って何かを考え込む憂

憂「……って、ああ。そういうことか」

呟くと、何故か微笑みながら「ごめんね、お姉ちゃん」と言いました

憂「そっか。気づかなかったよお姉ちゃん」

唯「……ごめんね。なかなか言い出せなくて」

306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:01:16.85 ID:1FD7vy2wo
憂「ううん、気にしてないよ。……それにしても、困っちゃうな。今、私と梓ちゃんの結婚式の最中だよ?」

微笑みながら、憂は言いました

余裕の表れでしょうか

確かに、私がやっていることは誰にとっても迷惑でしょうけれど

唯「知ってるよ。……だから、邪魔をしにきたの」

憂「お姉ちゃん。――私と梓ちゃんは愛し合ってるんだよ?」

梓「ちょ、憂!?」

憂「梓ちゃんは黙ってて」

ピシャリと憂が言います

憂「それなのに、お姉ちゃんは何の権限があってそんな私達を邪魔するの?」

権限なんて無いよ

邪魔をする理由なんて一つでしょ

憂「お姉ちゃんと梓ちゃんって、ただの先輩後輩じゃないの?」

憂がため息をつきます

憂「そんな関係で私達の仲を邪魔されても困るかなー」

首を傾げて、困った風に微笑みながらそう言って

その時、頭が真っ白になりました

307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:01:51.33 ID:1FD7vy2wo
唯「ち、違う!!」

思わず、叫びます

そうだけど

周りから見れば、そうだろうけど、でも!

唯「あずにゃんにしてみれば私はただの先輩だけど、私は違うの!」

唯「私はあずにゃんのこと、ただの後輩だなんて思ってないの!」

唯「私は、あずにゃんが好きなの!世界で一番、私があずにゃんを好きなの!」

大声で叫んでしまいました

当のあずにゃんを抱きしめながら

もう引っ込みはつかない

わがままは通した

これからどうする?

あずにゃんを他の人になんて渡したくない

いっそこのまま、あずにゃんを連れて……!

憂「へー。……だってよ?梓ちゃん」

微笑みを絶やすこと無く、憂はそう言いました

私ではなく、あずにゃんに向けて

308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:02:40.95 ID:1FD7vy2wo
梓「……」

憂「何か言ってあげなよ。お姉ちゃんに」

離してくれますか、とあずにゃんは小さい声で言いました

一瞬ためらいましたが、大人しく解放することにします

あずにゃんは私が解放したあとも、私のそばを動きませんでした

ただ、俯いているから表情がわからなくて

唯「あの……あずにゃん……」

梓「待ってください。色々言いたいことはあるんですが、まずは」

顔を上げて、私を見上げます

あずにゃんの表情は、やっぱり少し怒ってるようで

梓「こんな人前で恥ずかしいこと大声で言わないでください」

唯「で、でも、あずにゃんが憂と結婚しちゃうなんてそんなの……

梓「だから言ったじゃないですか。デモカップルだって」

確かに部室であずにゃんはそう言ってました

でも

唯「でも、あずにゃん桜高祭の伝説知ってるって言ってたじゃん!だから、デモカップルでも関係ないって思って」

梓「え、唯先輩、伝説のこと知ってるんですか!?」

309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:03:22.91 ID:1FD7vy2wo
驚きの表情で聞かれた後、あずにゃんは憂を振り返りました

憂「え、いや私は言ってないよ?梓ちゃんの計画が台無しになっちゃうし」

計画って……?

唯「いや、伝説のことはりっちゃん達から聞いたの」

梓「そうですか。……まあ律先輩達なら、知っててもおかしくないですし」

そうボソボソと言うと、あずにゃんは言いました

梓「……伝説を知ってるなら、大丈夫だってわかるはずじゃないですか。私と憂が結ばれるわけないって」

唯「ぎゃ、逆だよ!あずにゃんが伝説を知ってるから、憂と結ばれたいのかなって!」

梓「何か話が噛み合わないんですが。……演技だったとしても、私と憂が結婚の真似事をするのが嫌だったとか?」

唯「それも嫌だけど、私がここに来たのはあずにゃんを他の人に渡さないためで!」

梓「……えっと、よく意味がわからないんですが」

どういうこと?

この様子だと、あずにゃんは憂とは、本当にデモカップルのつもりだったの?

だってそれじゃ、話の辻褄が合わない

と、私が混乱してきた時

律「ちょっと結婚待った!梓!」

310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:04:04.43 ID:1FD7vy2wo
ガタン、と派手な音を立てて教室の扉が開いて

澪「梓!」

紬「梓ちゃん!」

りっちゃんと澪ちゃんとむぎちゃんが飛び込んできました

梓「え」

澪「梓!その、結婚の前に唯の話を聞いてやってくれ!」

律「そうだ!た、頼むから!」

紬「お願い梓ちゃん!憂ちゃんとの関係、応援したいけど……でも唯ちゃんのことも!」

荒く息をつきながら、口々に言う三人

ふと、りっちゃんが憂を見つけて

律「……だめだ唯。憂ちゃん綺麗すぎる」

唯「し、知ってるもん!」

思わずそう言ってしまいます

すると

梓「って、律先輩と澪先輩がどうしてこんなところ居るんですか!?」

何故か慌てた様子であずにゃんが言いました

311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:04:47.09 ID:1FD7vy2wo
律「え?なんでって、唯の話を聞いてもらおうって思って……」

梓「結婚式するんじゃないんですか!?」

澪「え?」

と、その時

正午のチャイムが鳴りました

312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:05:13.45 ID:1FD7vy2wo
文化祭期間中は、いつもよりも十五分早くお昼休みになります

梓「ああ……」

憂「な、鳴っちゃったね……」

呆然と教室の時計を見るあずにゃんと憂

唯「ど、どうしたの……?」

梓「どうしたのって、正午のチャイム鳴っちゃいましたよ。……その、もしかして私と唯先輩のせいでお二人は」

申し訳なさそうにりっちゃんと澪ちゃんを見るあずにゃん

澪「結婚式って……ま、まあな」

律「しようと思ってたけど。何?チャイムがどうかしたの?」

梓「え?」

ここでまた、あずにゃんは憂と顔を見合わせます

憂もわけがわからないと言った表情であずにゃんを見返していて

313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:05:43.72 ID:1FD7vy2wo
梓「えっと。整理させてもらっていいですか」

律「お、おう」

梓「お二人は結婚式したいと思ってたんですよね」

律「うん」

梓「でも正午のチャイム鳴っちゃいましたよね」

律「うん」

梓「もう伝説の効果は無くなりましたよね」

律「うん。……え?」

澪「え?」

紬「え?」

314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:06:39.79 ID:1FD7vy2wo
伝説の効果が無くなったって……?

梓「……伝説の内容、言ってもらっていいですか?」

律「桜高祭で毎年、どこかのクラスで開かれる結婚式で愛を誓えば永遠に結ばれる……だよな?」

梓「『どこかの』クラス、ですか……」

ああ、とあずにゃんが呟きます

憂もそれを聞いて、納得したようです

澪「え?律の言った通りじゃないのか?」

憂「いえ、大まかに言えばその通りなんですけど」

憂が困った風に微笑みながら、言いました

憂「『どこかの』クラスじゃないです。『三年生のどこかの』クラスです」

紬「え」

梓「それに加えて、『午前中に愛を誓えば』って制約も付いてます」

ため息をついて、あずにゃんは言いました

梓「正しくは、『桜高祭で毎年三年のクラスが開く結婚式で、午前中に愛を誓えば永遠に結ばれる』です」

律「そ……」

澪「そうなのか……」

呆然と、りっちゃんと澪ちゃんが呟きます

315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:07:09.12 ID:1FD7vy2wo
紬「間違えてたのね……さわちゃん……」

え、それじゃ……

唯「じゃあ、あずにゃん最初から……」

梓「だから言ったじゃないですか。これはデモですからって」

呆れたようにあずにゃんは言いました

唯「で、でも!憂はあずにゃんと愛し合ってるとか言ってたよ!?」

憂「あ、ごめんねお姉ちゃん。それ嘘だよ」

しれっと、笑顔で憂が言いました

唯「う、嘘……?」

憂「うん!」

……憂が私に、嘘?

それはそれで、ショックなんだけど……

唯「な、なんでそんな嘘を……」

憂「だってお姉ちゃん。こうでもしないと自分の気持ち、伝えないでしょ」

少し怒ったように、憂は言います

憂「お姉ちゃんにはお姉ちゃんなりの悩みがあったんだろうけど、それでも伝えなきゃならないことは伝えないと」

憂「梓ちゃん可愛いんだから。簡単に他の人に取られちゃうよ。本当に私が好きだったらどうしてたの?」

316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:07:39.38 ID:1FD7vy2wo
唯「それは……嫌だけど……」

憂「お姉ちゃんが何か勘違いしてるみたいだったから、そこに乗っかったの。まさか伝説を間違って知ってたのは驚いたけどね」

とにかく、憂はあずにゃんのことはそういう目で見てないってことだよね

……背中、押してくれたみたいだし

唯「……ありがとね、憂」

憂「ううん。お姉ちゃんのためなら何だってするよ」

にっこりと微笑む憂

憂「まあ……この後は、お姉ちゃんと梓ちゃんの問題だけど」

そう言って、憂はあずにゃんを見ました

相変わらず、あずにゃんはどこか不満げに私を見ています

……そりゃ、勘違いでこんな恥ずかしい告白をしてしまったわけですから

唯「ご、ごめんねあずにゃん。でも、その、さっき言ったことは全部本当だから」

梓「……知ってます」

小さくそう言うと、あずにゃんは俯きました

梓「でも、まだ全然わかってないです。唯先輩は」

唯「えっと……」

スキンシップ禁止令の発端

あずにゃんが泣いた理由

それは確かに、まだわからないけど……

317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:08:23.18 ID:1FD7vy2wo
梓「……後にしましょう。今はまだ、忙しいですから」

そう言って、あずにゃんは呆然としているりっちゃんと澪ちゃんを見ました

そ、そうだった

唯「ご、ごめんねみんな。私の勘違いのせいで……」

二人は私のせいで、今年の結婚式は出来なくなったのです

二人とも、すごく楽しみにしてたはずで

りっちゃんなんて、泣いちゃうほど私と結婚式の両方で悩んでたのに

でも

澪「……まあ、いいよ」

唯「え?」

律「うん。間違った伝説を教えたの私達だしさ。それに、やっぱり澪は納得してなかったみたいだったし」

笑いながら、りっちゃんは言いました

律「さっきも『せめて唯のこと見届けてから結婚式する』って、話し合ってたところだ」

唯「そ、そうなんだ。ごめんね、澪ちゃん……」

澪「ああ、いいよ。それに、唯のこともあったけどさ」

他にもやらなくちゃいけないことがあったんだ、と

微笑みながら、澪ちゃんは私の頭を撫でました

318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:08:53.21 ID:1FD7vy2wo
唯「……他にも?」

律「え、なんだよそれ」

澪「私からプロポーズしてないだろ、お前に」

え、とりっちゃんが澪ちゃんを見上げました

澪「プロポーズしてもらったからさ。私もやらなきゃって。……観覧車の一番上で」

律「み、澪……お前マジで……」

澪「今年はダメだったけどさ。来年は、な。それまでには、プ、プロポーズ頑張るから」

律「澪!私の王子様!」

二人にも何か色々あるようなので、私はむぎちゃんの方へ向き直ります

唯「むぎちゃんもごめんね……心配かけちゃって」

紬「ううん。いいのよ。私も今年は結婚式挙げないって説得したし」

唯「え、むぎちゃんも誰かと付き合ってるの!?」

紬「え!?いや、その……それはまた、今度ね!唯ちゃんと梓ちゃんのあれこれが終わってから!」

そう言うと、そそくさとりっちゃんと澪ちゃんの影に隠れてしまいました

私とあずにゃんのあれこれ、って……

ちらっとあずにゃんを窺います

相変わらず、どこか不機嫌そうに俯いているあずにゃん

319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:09:21.24 ID:1FD7vy2wo
律「……なあおい、唯。なんで梓のやつ不機嫌なんだ?」

りっちゃんがやってきて、小声で聞いてきます

唯「えっと、その……私が告白しちゃったから、かな。あはは……」

憂と結婚しないと聞いて安心していましたが、そうじゃないんです

あずにゃんには他に好きな人が居るということ

「かっこよくて。真剣な時は真剣で、やる時はやる人で。温かくて、優しくて。目が離せない人」

状況は、変わっていないのです

それどころか、私が告白しちゃって

あずにゃんの都合も考えずに暴走しちゃって

きっとあずにゃんは迷惑だったと思います

っていうか、こんな公開告白、あずにゃんの好きな人に聞かれたらと思うと

きっとあずにゃんは今にも走り出して、その人に伝えたいんじゃないでしょうか

あの人に興味は無いと

ただの部活の先輩で、私はそういう気持ちはなくて

私が好きなのは、あなただと

けれど、相変わらずあずにゃんは頬を少し膨らませながら俯いて、その場に立っています

320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:09:50.78 ID:1FD7vy2wo
それは、あずにゃんが立てた一つのルールのため

大好きな人を追いかける

その先どんな結末が待っていようと構わず走って行くための一つの制限

あずにゃんからは告白出来ない

それが、彼女がその場に立ち尽くしているたった一つの理由だと思います

律「……そうか?」

しかし少し眉を寄せて、りっちゃんは言いました

律「少なくとも私の知ってる梓は、気持ちを伝えられて嫌な顔をするような人間だとは思わないけど」

ぼやくように呟いた、その時です

三度、教室のドアが乱暴に開かれました

321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:10:33.68 ID:1FD7vy2wo
三度目の侵入者も、これまた息を荒げながら教室に入ってきます

和「憂……!やっぱり……無理……!」

それは和ちゃんでした

制服の袖に「実行委員」と書かれた黄色い腕章を付けています

この様子だと、お仕事の最中にここまで走ってきたようです

憂「あ、和さん。ちょうど良かったね、今から誓いの言葉だよ」

にっこりと、息を荒げる和ちゃんに微笑む憂

って

唯「ひっ……!」

澪「どうした、唯」

唯「う、憂が……なんか怒ってる……」

律「え、なんで?」

唯「わからないけど……」

それでも確かに、憂は怒っているようでした

姉である私もそう何度も見たことがない憂の怒る場面

憂は優しくて心も広くて大抵のことは優しく包み込んでくれる妹ですが

それでも、怒る時は怒るのです

322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:11:19.15 ID:1FD7vy2wo
和「……憂。あなたに言わなくちゃいけないことがあるの」

憂「んー?なにかな、和さん」

和ちゃんが少し言い淀みます

しかし、キッと憂を正面から見つめると

和「梓ちゃんと結婚して欲しくないの。考え直して」

そう言いました

って、あれ

和ちゃん、もしかして憂のこと……?

紬「……和憂?和憂ね!?」

むぎちゃんがはしゃいでいますが

憂は相変わらず、怖い憂のままのような……

憂「え?どうして?」

首を傾げて、憂は和ちゃんに言いました

憂「私が誰と結婚式しようが、和さんには関係ないでしょ?」

和「憂……」

いきなりの出来事によくわかりませんが、もしかすると和ちゃんは私と同じことを?

323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:11:51.57 ID:1FD7vy2wo
澪「え……え?そういうことなの?」

律「馬鹿。黙ってみてろ……」

ぐっと、和ちゃんが拳を握りました

そして

和「あなたの事が好きなのよ、憂。愛してる。誰にも渡したくない」

まっすぐに真正面から、和ちゃんが言いました

はっきりと、声が震えることもなく

ストレートにぶつけました

憂「……」

そんな和ちゃんの直球な告白に、憂は少し目を見張ったあと

憂「うん。知ってるよ。それで?」

困った風に、微笑みました

324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:12:28.10 ID:1FD7vy2wo
唯「え……?」

梓「は?」

和「し、知ってるって……」

呆然と和ちゃんが呻きます

さすがに言葉も続かないでしょう

勇気を振り絞った告白を、まさかこんな反応で返されるなんて

憂「和さんとは今まで通りだから安心してよ。私は梓ちゃんと幸せになるから」

梓「って、ちょっと憂!?」

憂「梓ちゃん」

黙ってて、と言われてあずにゃんがビクッとしました

どうやらあずにゃんも、憂が怒ってるのが理解出来たようです

な、なんで憂はこんなに怒ってるんだろう……

325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:13:06.81 ID:1FD7vy2wo
和「私はあなたが他の人と愛し合うなんて嫌なのよ!だから」

憂「……和ちゃんが好きなのは私の身体でしょ?」

冷たい声で憂が言うと、和ちゃんの肩がビクッと震えました

和「え……?なんで……」

憂「お泊まりの夜に私にしたこと、忘れたの?」

お泊まりの夜って

あずにゃんと和ちゃんがうちに泊まりにきた、あの夜だよね

何かあったのかな

和「お、起きてたの……?」

憂「起きてたよ。ちょっと期待してたもん」

笑いながら憂は言います

でもその目は、ちっとも笑ってなくて

憂「まさかあんなことして終わりだなんて思ってなかったけどね」

326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:13:49.41 ID:1FD7vy2wo
和「ち、違うのよ。それは」

憂「別にいいよ?これからも撮らせてあげる。でもね、私も幸せになりたいの。だから」

憂「だから、梓ちゃんと結婚式しちゃおうかなって。それでいいよね?和ちゃん。これまで通りだもんね?」

和「待って!その、それは違うの!あなただから、その、誘惑に勝てなかったっていうか!」

憂「信じられると思ってるの?」

和「その……」

憂「だったら和ちゃんの携帯、見せてもらえる?」

和「あ、それは……」

憂「私のこと本気で愛してるなら、その中身消してくれる?」

和「……」

壮絶な修羅場でした

私達も含め、客席の生徒も微動だにしません

っていうか憂の断片的な情報から推測してみると

……和ちゃん、私ですらそれは踏みとどまったよ?

憂「和ちゃん」

和「……」

教室内に冷たい空気が流れる中

純「は、はいはい!そこまでー!」

327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:14:36.65 ID:1FD7vy2wo
パンっと手を打ったのは、教壇に立っている純ちゃんでした

純「憂も梓も落ち着いて!今クラスの出し物の最中なんだからさ」

梓「純……」

憂「ごめんね。ちょっと取り乱しちゃったね」

純「先輩方も、ね?進行の妨げになっちゃいますし」

唯「あ」

紬「ご、ごめんなさいね」

いそいそと、私達は客席に座ります

そういえばそうだった

これ、クラスの出し物だったんだよ

純「まあ、進行と言ってもね……」

純ちゃんが教室を見渡します

どう考えても、もう普通の進行が出来る雰囲気ではなくて

純「皆さん、申し訳ありませんが予定していたデモカップルの式は諸事情で中止となりまして……」

憂「和ちゃんがダメって言うからね」

和「……」

梓「ふーんだ」

唯「……」

328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:15:22.75 ID:1FD7vy2wo
純「ですからその代わりに、本物のカップルの式を執り行いたいと思います!」

純ちゃんの言葉に、客席が盛り上がりました

一瞬で、冷たい空気がお祭りの雰囲気になっていきます

純「というわけで、梓。唯先輩とお願いね」

梓「え!?私達、別にまだそういうのじゃ」

純「そういうのいいから。誰のせいだと思ってんの?ちょっとは協力しなさい」

梓「……っ!でも」

唯「あ、あずにゃん……」

梓「そんな目で見ないでください!」

憂「行ってきなよ梓ちゃん。お姉ちゃんは、私が着てるドレスを着てね」

唯「え、いいの?」

憂「うん。和ちゃんのせいで、私は今回着れなくなっちゃったから」

和「……」

純「律先輩と澪先輩もどうですか?」

澪「あー、私達はまだ」

律「お願いするわ」

澪「って律!?」

329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:16:03.49 ID:1FD7vy2wo
律「いいじゃん別に。効力無いって言うし」

澪「で、でも私はまだ律にプロポーズして……」

律「練習だから大丈夫だって。ほら、ドレスに着替えに行くぞ」

澪「ちょ、ちょっと待ってよ!」

なんだかわかりませんが、あずにゃんと結婚式が出来るみたいです

確かに嬉しいんだけど、色々複雑というか

私の告白なんて宙に浮いたままだし、あずにゃんは相変わらず不機嫌みたいだし

紬「写真!写真撮らないと……」

さわ子「じゃあ他の人に頼みなさいね」

紬「って、先生!?いつの間に……」

さわ子「さっき来たのよ。言い訳を思いついたからね」

紬「言い訳って、何のことですか?」

さわ子「『あら、琴吹さん余っちゃったみたいね。先生と組もうか』」

紬「……さわちゃんちょっと待って」

さわ子「すみませーん!一組追加してくださーい!」

紬「ば、ばれたら大変なんだから」

さわ子「あ、これは練習だからね。何度言われようと、来年は本番するから」

紬「もう……えへへ」

330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:16:31.82 ID:1FD7vy2wo
あれ、さわちゃんが来てる

いつの間に来たんだろう

梓「唯先輩」

唯「は、はい?」

梓「お話は、明日のライブが終わったあとでします」

唯「……うん」

梓「だから、まあ」

ため息をついて、あずにゃんが言いました

梓「着替えてきてください。そこのカーテンで仕切ってるところが、更衣室になってますから」

331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:17:04.35 ID:1FD7vy2wo
唯「こんなもんかな」

リビングの掃除機がけを終えて、私は額の汗を拭いました

昼食の食器も片付けたし、お風呂掃除もしたし、リビングも綺麗にしました

唯「……そろそろかな」

時計を見て、呟きます

土曜日の午後四時

夕ご飯の準備はしなくてもいいと言われました

食材も、行きがけに買ってくると

唯「……部屋の片付けもやっておこうかな」

階段を上がります

……ちょっと汗臭いかな

ついでに着替えもしておこうか

今日はあずにゃんが家に来ます

一昨日の約束通り、「話」をするためにお泊まりにきます

332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:17:38.64 ID:1FD7vy2wo
あずにゃんからの電話が来たのは金曜日の夕方でした

あずにゃんの初ライブが終わり、全てを出し切った私は、リビングのソファーでぼうっとしていました

最高のライブになったと思う

盛り上がったし、みんなも演奏していて楽しそうだったし

私も満足する演奏が出来ていたと思う

あずにゃんも、気持ちよさそうにギターを弾いていましたから

だから、放課後ティータイムのギタリストとして

また、あずにゃんの先輩として、きちんと役割を果たせたと思います

ライブ前日は私が暴走しちゃって、きっとあずにゃんも精神的に混乱していたと思いますから

だから、最高の結果を出すことが出来て安心しました

残された問題は、私のことだけ

唯「……辞めたくないなぁ、軽音部」

大切な場所ですから、あの場所は

お茶を飲んだりお話したり、みんなで練習したり

居心地が良くて、離れたくなくて

出来ることなら、ずっと居たい場所ですが

唯「あずにゃんの反応次第かなぁ」

333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:18:26.81 ID:1FD7vy2wo
やっぱり気まずいよね、あずにゃんは

あずにゃんには好きな人が居るっていうのに、自分勝手に告白しちゃって

雰囲気を悪くするようなものなのに

あずにゃんは優しいから、きっと辞めないでって言ってくれると思います

けれど、それでもやっぱり、あずにゃんも気にしちゃうと思います

あずにゃんにしてみれば、居心地が悪いでしょう

それは当たり前のことで、あずにゃんはちっとも悪くなくて

悪いのは、私です

唯「あー……」

ばふっとソファーに寝転びます

学校から帰ってからそのままなので、制服のまま寝転んだらしわになると思いますけれど

でも、着替えるのも億劫です

寝転んだ姿勢で視界に入るのは、ソファーに立てかけたギターケース

唯「……大丈夫だよ、ギー太。軽音部辞めても、ちゃんと弾き続けるからねー」

手を伸ばしてケースに触れようとした、その時

唯「電話……?」

着信音が鞄の中から鳴りました

334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:18:54.38 ID:1FD7vy2wo
ケースに伸ばした手を鞄の方に向けて、手探りで中の携帯を探します

唯「……あずにゃんからだ」

背面ディスプレイに表示された『あずにゃん』の文字に、思わずビクッとなってしまいます

何だか急に怖くなります

何を言われるのか、どういう態度を取られるのか

結末を先送りしたい気持ちは正直ありましたが、それでも、着信を無視することは出来なくて

唯「は、はい」

梓『あ、もしもし。いきなりすみません。今、いいですか?』

唯「え?あ、うん。大丈夫だよー」

聞こえてきたのは普段のあずにゃんの声でした

不機嫌でも無く、緊張するでも無く

普通のあずにゃんの声でした

梓『今日のライブ、楽しかったですね』

唯「そ、そうだね。盛り上がったし」

梓『次は新歓ライブですかね。まだ時間はあるけど、今から楽しみです』

唯「も、もー。さすがに気が早いよー」

な、なんだろうこれ

あれかな、私が辞めるって言い出さないように釘を打ってるのかな

335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:19:45.91 ID:1FD7vy2wo
梓『ところで、今日はちょっとお願いがあって電話したんですけど』

唯「……な、なにかな?」

梓『お願いというか、決定事項の伝達ですね』

唯「……もう決まってるってこと?」

梓『はい。――明日、唯先輩の家に泊まりに行きますから』

唯「……え?」

梓『唯先輩、週末と月曜日の文化祭休みは一人でしょ?』

唯「そ、そうだけど……言ったっけ?私」

梓『町内会の旅行でお互いの両親は不在でしょう……』

唯「あ、そっか」

梓『憂も和先輩の家に泊まりに行くって言ってましたから』

唯「聞いてたんだね。うん、一人だよ」

梓『唯先輩一人じゃ心配なので私も泊まりに行きます。いいですか?』

唯「えっと……そりゃ、私は嬉しいけど」

梓『本当ですか?なら、お邪魔させてもらいますね』

336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:20:09.72 ID:1FD7vy2wo
梓『えっと、とりあえず明日の夕方頃に行きますから。夕飯の材料は行きがけに買って行きます』

唯「う、うん」

梓『夕飯も私が作りますんで、心配しないでくださいね』

唯「で、でもねあずにゃん、お泊まりに来るって、その」

梓『大丈夫です。忘れてません』

唯「え?」

梓『お話も、きちんとさせて貰いますから』

それじゃあ失礼します、と言って電話は切れました

無機質な切断音の後に耳に残るのは、あずにゃんの最後の言葉

唯「……決まっちゃうんだ。明日」

私の気持ちの終着点

私とあずにゃんの線引きの明確化

後悔はしていません

もし時間が巻き戻っても、私は再びあずにゃんの結婚式に乗り込むでしょう

でも

それでも

唯「怖いなぁ……」

あずにゃんと顔を合わせるのが怖いという気持ちも、確かにありました

337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:20:38.53 ID:1FD7vy2wo
午後五時を少し過ぎた頃に、玄関のベルが鳴りました

走って行って玄関を開けると、買い物袋とドラムバッグを両手に持ったあずにゃん

唯「い、いらっしゃい、あずにゃん!」

梓「こんにちわ……今日も早いですね、出るの」

そう言ったあとで、あずにゃんは私の手に握られている雑巾に気づいたようです

唯「え、えっとね。廊下の拭き掃除、してたから」

そうですか、と微笑んで

あずにゃんは一歩、私に近づきました

唯「持つよ、それ」

あずにゃんが持つ買い物袋とドラムバッグを受け取ります

二人分の、今日の夕飯と明日の昼食までの食材

そしてお泊まり道具が入っているであろう白いバッグ

買い物袋はずっしりと重くて、あずにゃん大変じゃなかったかなと思ったり

明日の夕方の食材は、一緒に買いに行けるのでしょうか

唯「さ、入って。一応掃除はしたんだけど……」

梓「はい、お邪魔しますね」

338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:21:15.02 ID:1FD7vy2wo
ドラムバッグを私の部屋に置いた後で、あずにゃんは台所に立ちました

梓「来るのが遅くなってすみません。すぐに夕飯の支度しますね」

唯「いや、こちらこそ。わざわざ来てもらっちゃってごめんね」

いいですよ、と笑いながらあずにゃんは冷蔵庫を開けます

梓「唯先輩が一人だとか心配ですしね」

唯「も、もっとしっかりしなきゃだよね」

梓「んー、そのままでもいいんじゃないですかね」

食材を手際良く取り出しながら、あずにゃんは言いました

梓「私も一人は少し寂しいので。ちょうどいいですから」

唯「……私も、何か手伝おうか?」

梓「大丈夫です。唯先輩はテレビでも見ていてください」

そう言われても、何だか手持ちぶさたです

とりあえず、ソファーに座ってテレビを眺めてみますが

唯「……まあ、こんな時間だしね」

面白い番組なんてやっているわけがなくて

キッチンに目を向ければ、エプロン姿のあずにゃんが立っています

ツインテールを揺らしながら、人参を切っています

それは私が欲しかった光景でした

ぼうっと眺めていると、何故だかその光景に安心してしまって

それで、思い出します

339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:22:01.63 ID:1FD7vy2wo
あずにゃんがここに来た理由

それは私と話をするためだと言うことに

梓「唯先輩、お風呂沸いてますか?」

キッチンから顔を覗かせて、あずにゃんが聞いてきました

唯「う、うん。もう入れるようにしてあるよ」

梓「お風呂とご飯、先にどっちがいいですか?」

唯「あず……えっと、ご飯で。お風呂は後でいいよ」

梓「わかりました。じゃあ、急いで作りますね」

そんな夫婦みたいな会話をしていますが

もちろん私達は夫婦じゃなくて、恋人同士でもなくて

……あずにゃん、どうしてお泊まりになんて来たんだろう?

いえ、もちろん嫌というわけではありません

むしろ嬉しいのは当たり前ですし、今日は前回と違って二人きり

以前の私なら、本当にドキドキするシチュエーションだったでしょう

しかし、今は状況が違います

あずにゃんには好きな人が居て、私はそんなあずにゃんに告白してしまった

それもあずにゃんの教室で、大勢の前で

それについての話をするために、あずにゃんは今日ここに来たのです

340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:22:27.56 ID:1FD7vy2wo
……でも、なんでお泊まり?

話をするだけなら

ごめんなさいと言うだけなら、お泊まりなんてせずにどこか外で待ち合わせでもすればいい

でもあずにゃんはそれをせず、わざわざ私のご飯まで作って、お泊まりまでしてくれて

もしかして、と思いました

心臓が高鳴り、身体中が熱くなるのがわかります

ただその仮定も、あり得ないことだとはわかっていました

何百回と繰り返したこの気持ちの動き方に、少しも慣れませんけれど

なんでだろう

なんで、あずにゃんはここまでしてくれるんだろう

唯「……わかんないよ」

あずにゃんに聞こえないようにそっと呟きました

341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:23:00.55 ID:1FD7vy2wo
リビングへ行くと、パジャマ姿のあずにゃんがテレビを見ていました

梓「あ、唯先輩。ずいぶん長風呂でしたね」

唯「う、うん。ちょっとぼーっとしてて」

笑って誤魔化します

本当はあずにゃんがお泊まりに来た理由について悩んでたんだけど

……本当に、一人なのが寂しかったのかな

それか、本当に私を心配してくれてたのか

どちらも、現実味はありませんでした

あずにゃんは一人でお留守番くらい慣れっこでしょうし

私を心配して、なんて、あずにゃんは私のことが好きって前提が無いと成立しないじゃないですか

ただでさえ、お互いに微妙な立場なんですから

あずにゃんがソファーから立ち上がり、冷蔵庫の方へ歩いていきます

なんだろうと思っていると、帰ってきたその両手には

梓「はい、どうぞ」

アイスでした

それも、こないだのお泊まりの時に私があずにゃんにお勧めしたアイスです

唯「え、アイスなんてあったっけ?」

梓「いえ、夕飯の買い物に行った時に一緒に買っておいたんです。食べたいだろうなって」

342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:23:28.51 ID:1FD7vy2wo
だから、はいと

あずにゃんが手渡してくれました

唯「あ、ありがとう……」

梓「……って、唯先輩」

唯「へ?」

梓「また髪がちゃんと拭けてないですよ」

髪に手を当ててみると、確かに濡れていました

確かに、考え事に夢中で拭くのもおざなりだったような気がします

梓「もう……はい、アイスはおあずけです」

唯「あ」

ひょいっとあずにゃんが私のアイスを取り上げました

唯「アイス……」

梓「髪を乾かしてからですよ。ほら、ソファーに座ってください」

私をソファーに座らせると、あずにゃんはタオルを持ってきました

そして

唯「ふぁ……」

当たり前のように、私の髪を拭いてくれました

343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:24:04.98 ID:1FD7vy2wo
梓「まったく……子供じゃないんですから、ちゃんと拭いてくださいよ」

唯「う、うん。ちょっとぼーっとし過ぎてたからかな」

梓「ライブが終わって気が抜けちゃうのもわかりますけどね」

唯「えへへ……」

梓「……綺麗な髪なんですから、ちょっとは気を使いましょうよ」

その言葉通り、あずにゃんは優しく私の髪を拭いてくれます

この前のお泊まりの時にも、あずにゃんはこうして優しく髪を拭いてくれました

これで二回目なんだけれど、相変わらず気持ち良くて

しかも今回は二人きりで、私達以外に人は居なくて

……変な気分になっちゃいます

なっちゃいけないんだけど

誤解しちゃいけないんだけど

あずにゃんの手つきは本当に優しくて、勘違いしちゃいそうで

泣きたくなります

梓「はい。あとはドライヤーで乾かしてくださいね」

手を止めて、あずにゃんは言いました

手際よくタオルをまとめながら、あずにゃんは立ち上がります

きっと洗濯機にタオルを入れに行くのでしょう

唯「あずにゃん」

344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:24:46.05 ID:1FD7vy2wo
そんなあずにゃんに、私はお願いしてみます

梓「はい?」

唯「ドライヤーもやって」

梓「へ?」

唯「ダメ?」

梓「……もう、仕方ないですね」

お姉さんみたいにあずにゃんは微笑んで

じゃあドライヤー持ってきますから、とタオルを持ってリビングを出て行きました

唯「……」

本当にしてくれるなんて思っていませんでした

いつものあずにゃんなら、『それくらい一人でやってくださいよ』とか言ってる場面なのに

優しすぎる気がします

ご飯の時も、私の大好物ばかりでしたし

そりゃお風呂は流石に一緒には入ってくれなくて、じゃあということであずにゃんに一番風呂を譲れたわけですけど

なんでだろうと思って

そしてその時、一つの仮定に思い至ります

345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:25:13.13 ID:1FD7vy2wo
ここまであずにゃんが優しい理由

……これが正しければ、きっとあずにゃんはある程度の私のワガママは聞いてくれることになる

ズキッと胸が軋みました

終わりに向かっていること

あずにゃんは私と笑顔での結末を望んでいること

もしこの仮定の通りだとしたら

唯「……」

もう、どうしようもないですよね

346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:25:40.25 ID:1FD7vy2wo
二人で何を話すでもなくテレビを眺めていると、

梓「ふわぁー……」

あずにゃんが欠伸をしました

時計を見ると、午後十時

週末の就寝時間には、少し早いですが

唯「寝よっか、あずにゃん」

ソファーから立ち上がります

唯「眠そうだしね」

梓「そうですね。少し早いですけど」

背伸びをするあずにゃんは、まるで猫のようでした

唯「あずにゃん」

梓「はい?」

唯「一緒に寝てくれる?」

梓「いいですよ。そのつもりでしたし」

やっぱり

梓「じゃあ、歯磨きしちゃいましょうか」

歯磨きセットを片手に、あずにゃんが微笑みます

どこか機嫌が良さそうに、軽い足取りで洗面所に向かうあずにゃん

そんな背中を眺めながら

私は心を決めました

347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:26:18.60 ID:1FD7vy2wo
梓「そう言えば、今日は片付いてますよね」

私の部屋に入った時、ふとあずにゃんが言いました

唯「え?」

梓「この前は結構散らかってましたけど」

唯「あ、うん。……掃除、したんだよ。あずにゃんがお泊まりに来るから」

梓「じゃあ、一緒に寝る気だったんですね。最初から」

無邪気にそう言うあずにゃんに、知らず歯噛みします

そういうことを言うと

無防備に、笑顔でそう言っちゃうとか

梓「この部屋って、鍵とか付いてるんですか?」

唯「うん。あんまりかけたことないけど」

そう言えば、部屋の鍵ってかけたこと無いな

梓「そうですか」

扉の前で、物珍しげに鍵を開けたり閉めたりするあずにゃん

梓「私の部屋って鍵が付いてないんですよね」

唯「まあ、使わないよね」

348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:26:52.96 ID:1FD7vy2wo
梓「そうですね。だから、なんか新鮮です」

言いながら、カチャカチャと回して

それで気が済んだのか、あずにゃんは振り向きました

梓「じゃあ、寝ましょうか」

唯「うん……」

あずにゃんはベッドに腰掛けると、枕や布団の位置を弄り始めました

小さくて華奢な背中を私に向けて

あずにゃんのことが好きな、私に向けて

本当に無防備だから

だから、あずにゃんが悪いんです

あずにゃんだって、私の気持ち知ってるんでしょ?

唯「あずにゃん」

梓「はい?」

振り向いた瞬間に押し倒しました

349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:27:30.56 ID:1FD7vy2wo
ベッドのスプリングが軋んで、お互いの身体が少し揺れます

私が立てる両腕の下で、あずにゃんが目を丸くしていました

真っ白なシーツにあずにゃんの綺麗な黒髪が広がっています

唯「ねえ、あずにゃん」

呟きながら、私はあずにゃんにまたがりました

力も体重も、私の方がある

これであずにゃんは逃げられません

何が起こっているのか、あずにゃんはわからない様子です

それはそうでしょう

私に、『唯先輩』に

こんなことされるなんて思ってなかったから、こうやって一緒に寝ようとしてくれたわけです

でもね、あずにゃん

それは間違ってるよ

唯「抵抗しても無駄だからね」

耳元で囁いて、首筋に唇を寄せます

唇が肌に触れた瞬間、あずにゃんの口から吐息が漏れました

構わず、唇でなぞって行きます

350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:27:59.10 ID:1FD7vy2wo
あずにゃんのパジャマのボタンを二番目まで乱暴に外すと、白い鎖骨が露わになりました

そこに唇をよせて

梓「っ……!」

吸い付きました

あずにゃんが息を呑んだのがわかります

痛いくらいに吸い付いて離すと、真っ白な肌の中でそこだけ赤く染まりました

唯「私相手なら、こういうことされないとでも思ってた?」

吸い付いた痕に舌を這わせます

唯「私なら信頼出来るとか、勘違いしちゃってた?」

パジャマの上から、胸を乱暴に揉みます

唯「ねえ、あずにゃん」

パジャマの下から、手を入れます

やっぱりあずにゃん、ブラなんてしてない

唯「一日私に優しくすれば、それで私が諦めるとでも思ったの?」

その瞬間、ピクっとあずにゃんが震えました

351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:28:37.88 ID:1FD7vy2wo
胸を揉んでから、今度はお尻

パジャマ越しに、なで回して

唯「ダメだよあずにゃん。好きな人居るのに、私のとこに泊まりにきちゃあ」

こういうことされるから、と

再び首筋に吸い付きます

あずにゃんの背中が弓のようにしなって、それでも吸い付くのは止めません

唯「キスの痕なんか見られたら、あずにゃんの好きな人に勘違いされちゃうよ?」

あずにゃんの息が荒くなっていました

身体も、ほんのり熱くなっているようで

それが、とても扇情的で

でも、だから

我慢しないと

梓「……いいですよ」

唯「え?」

うわごとのようなその台詞の意味が、一瞬わかりませんでした

352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:29:14.28 ID:1FD7vy2wo
梓「いいですよ。好きにして」

あずにゃんの手が、パジャマのボタンに伸びました

三つ目、四つ目

全てのボタンを外して、前をはだけて

白い素肌も胸も、全てが私の前に晒されて

唯「ふざけないでよっ!」

パジャマの前を、急いで綴じ合わせました

唯「なんなのさあずにゃん……そんなことして、どうしようっていうの!?」

梓「唯先輩が始めたことじゃないですか。だから、付き合ってあげようかなって」

唯「付き合って……」

付き合って、あげようって

梓「したいんでしょ?私とそういうこと」

唯「したいよ……?」

梓「なら、すればいいじゃないですか。私の同意もあるんだし」

したいけど

したいんだけど……!

唯「そうじゃなくてっ!!」

あずにゃんの頭を挟んで、両腕を立てます

シーツを握る手に力が入る

悔しくて、何もかも上手くいかなくて

353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:29:37.38 ID:1FD7vy2wo
唯「私は、あずにゃんの気持ちが欲しいの!全部独り占めにしたいの!」

身体だけじゃダメなんです

気持ちが

あずにゃんの気持ちが、一番欲しかったんです

唯「エッチしたいだけじゃないの!あずにゃんに、あずにゃんに……」

真下のあずにゃんの顔に、水滴が落ちました

それが私の涙だと気づいた時、鼻の奥とこめかみが深く鋭く痛みました

パラパラと雨粒のようにあずにゃんの肌に落ちる涙

それでも、あずにゃんはまばたきもせずに私を見上げていました

唯「優しく、しないでよ……」

梓「……」

唯「こんなことしてくれなくても、諦めるから」

唯「断ってくれれば私、それで納得するから」

梓「……」

だから

だからさあ、あずにゃん

唯「だから、優しくするのやめてよ。惨めなんだよ……」

354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:30:07.28 ID:1FD7vy2wo
いくら優しくされたって

私はそれで良しとは出来ません

笑顔でお別れなんて

今まで通りの日常なんて

もう送れないことに気づいてました

唯「……私、リビングで寝るから」

真下のあずにゃんの顔は私の涙で濡れていました

それを拭おうともせずに私を見続けるあずにゃんに、私は最後の台詞を言います

唯「朝、起きたら帰ってね。私に声かけなくてもいいから」

これでお別れ

あずにゃんと交わす最後の言葉

こんな結末、望んでいたわけじゃなかった

こんな結末のために今まで頑張ったわけじゃなかった

仕方ない

仕方ないんだ

間近で見るあずにゃんは本当に綺麗でした

これで見納めかと思うと、もう笑えるほど胸が痛くて

目をそらしたくなくて、でもそらさなきゃいけなくて

唯「……じゃあ」

歯を食いしばって、あずにゃんの上から

梓「逃がしませんよ?」

356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:30:45.67 ID:1FD7vy2wo
瞬間、あずにゃんの胸が目の前に迫ってきました

いや、頭を抱かれてる

そのまま、あずにゃんは私を抱きしめたまま身を捻って

上下反転

あずにゃんが私をベッドに押し倒す格好になっていました

唯「え……?」

先ほどと同じような格好

私の頭の両側にあずにゃんの両手が立てられていて

あずにゃんが私の身体に馬乗りになっていました

梓「……予定とはだいぶ違うんですけど」

ペロリと

赤い舌で、唇の端についた私の涙を舐めてから

あずにゃんは言いました

梓「まず、今日はどんな愉快な勘違いをしたのか教えてくれません?」

357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:31:31.43 ID:1FD7vy2wo
勘違いって……

唯「別に、私そんな」

梓「大体予想は付きますけどね」

私に最後まで言わせず、あずにゃんは顔を寄せます

梓「私が唯先輩の告白を断るつもりでここに来たと思ってるんでしょう」

唯「……」

梓「唯先輩と関係を悪くしないために、私が優しくしてなあなあで済ませようとしてると思ってるんでしょう」

唯「……」

梓「一回抱かれてあげれば気が済むだろうって私が思ってると」

そういうつもりだろうと、考えているんでしょう?

あずにゃんは怒っていました

口調も静かで、丁寧でしたが

目が

私を見るその目が、静かな怒りを伝えていました

唯「……そうなんでしょ」

これ以上目を合わせられなくて、横を向きます

唯「別に、いいよ。あずにゃんには好きな人が」

梓「唯先輩」

358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:32:19.82 ID:1FD7vy2wo
ぐいっと

片手であごを掴まれて、無理矢理顔を正面に戻されました

梓「私、そんな女の子に見えますか」

唯「それは」

梓「唯先輩は、そういう女の子だと思ってるんですか」

唯「思ってないけど、でも」

梓「そういう私を、唯先輩は好きだって言ってくれたんですか」

違うけど

そんな女の子だなんてちっとも思ってないけど

でも

唯「わかんないもん……」

梓「……」

唯「恋愛なんてしたことなかったから、わからないもん……」

唯「好きな人へのアプローチの仕方も、嫌いって伝えるアプローチのされ方も」

唯「あずにゃんの好きな人も、あずにゃんが何を考えてるかも、わからないんだよ……」

こんなに人を好きになったことなんて無かったもん

何を、どうすればいいかなんてわからないよ

ただでさえ何の取り柄もなくて、頭も悪いもん

359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:32:48.98 ID:1FD7vy2wo
梓「……」

そっと、あずにゃんは私のあごを掴んでいた手を離しました

大きく息をついて、

梓「……結婚式の時」

唯「え?」

梓「唯先輩、クラスに飛び込んできて、告白してくれましたよね」

唯「……うん」

梓「あれ、私本当に嬉しかったんですよ」

唯「……」

梓「本当に嬉しくて、泣いちゃいそうだったんですけど」

それでも引っかかったことがあるんですよ

そう、呟きました

唯「何が?」

『あずにゃんにしてみれば私はただの先輩だけど』

静かに、あずにゃんが言いました

唯「それが……?」

360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:33:22.97 ID:1FD7vy2wo
梓「もう一つ。スキンシップ禁止令の理由」

唯「……」

梓「……わからないんですよね?」

唯「……うん」

ごめん、と言おうとした時、唇を奪われました

361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:33:59.55 ID:1FD7vy2wo
何が起きたのかわかりませんでした

いや、キスをされているというのはわかったのですが、その理由が

キスをされている理由が、わかりませんでした

ただただ混乱して

謝罪の言葉を出そうとした唇の隙間から、柔らかくて温かい舌が私の舌を絡め取っていて

ようやく唇が離れた時、あずにゃんと私の間には銀色の糸が引かれました

梓「唯先輩」

息も荒くなって、ろくにあずにゃんに返事も出来ません

ただ、あずにゃんを見つめます

梓「なんでそんなに自分に自信が無いんですか?」

唯「……」

梓「結婚式の時も、私に『付き合って』って言いませんでしたし」

梓「断られるつもりで告白しましたよね。ただの先輩だなんて、自分を卑下してまで」

梓「スキンシップ禁止令の理由だって、本当は見当は付いてるんじゃないですか?」

唯「それは」

梓「私の好きな人、唯先輩です」

瞬間、心臓がドクンと大きな音を立てました

363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:34:43.01 ID:1FD7vy2wo
梓「大好きです。本当です。嘘じゃないです」

あずにゃんが言葉を続けます

嬉しいはずなのに

どこかで間違いを犯している気がする

あずにゃんにこんなことをさせてはいけなかった気がする

これまで色々あって

私は、何かを見落としてるような

梓「唯先輩、私」

唯「だめっ!」

その台詞の最初の音が出る前に、あずにゃんの口を塞ぎました

びっくりしたようなあずにゃんの瞳が、やがて悲しげなそれに変わっていって

唯「ち、違う!そうじゃなくて!」

私は身を起こしました

365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:35:20.16 ID:1FD7vy2wo
あずにゃんも大人しく太股の方に身体をずらして

私が抱っこして、お互いに向かい合う姿勢になります

唯「今気づいたんだ」

梓「……何をですか」

唯「私はあずにゃんを、置いて行っちゃうんだね」

梓「……」

唯「ごめん、自分のことだけしか考えてなかった」

あずにゃんに好きだと言われた時

全てが繋がった感じがしました

今までのあずにゃんの言動

彼女の望みも、悩みも全部、形付いてきました

今まで私は本当に自分のことだけしか考えてなかった

そうです

この日々の先にあるのは「卒業」

私からしてみれば、あずにゃんと離れてしまうわけですが

あずにゃんからしてみれば、それは私があずにゃんを置いて行っちゃうことでもあるのです

366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:36:07.88 ID:1FD7vy2wo
唯「あずにゃん」

梓「はい」

唯「好き。私と付き合って欲しい」

梓「……」

唯「高校を卒業しても一緒に居たい。大学に行っても、社会に出ても、お婆さんになっても」

唯「一生離れたくない」

梓「……」

唯「愛してる」

言えました

あずにゃんは私から気持ちを伝えて欲しかった

でも、その結婚式での告白には納得出来ていなくて

だから、怒っていたんだとわかりました

唯「……ま、間に合ったかな」

梓「……ギリギリですけど」

ポフッっとあずにゃんが私の胸に顔を埋めました

両腕はしっかりと私の背中に回して

痛いくらいに、身体を押しつけていました

梓「……唯先輩は私と付き合いたくないのかと思っていました」

367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:36:48.60 ID:1FD7vy2wo
唯「な、なんで!?」

驚いて、聞き返します

私はいつだって、あずにゃんと付き合いたいなって思っていたのに

梓「私が精一杯アプローチしても、全然乗ってくれないし」

唯「アプローチって……」

梓「一緒に寝たり、手料理頑張ってみたり、一緒にお風呂入ったりって、私にとってのアプローチだったんですけど」

唯「……私、神様がご褒美くれてたのだとばかり思ってたよ」

だってあずにゃん、好きな人が居るって言ってたし

それにあずにゃんの好きな人の特徴って、私と全然……

梓「あの特徴って、まんま唯先輩じゃないですか」

胸から顔を起こし、少しだけ頬を膨らませて、あずにゃんは私を睨みました

梓「他の先輩方にも聞いたんでしょ?」

唯「な、なんでわかるの!?」

梓「それくらい予想は付きますよ。それで……ちゃんと先輩方にも、通じたでしょ?」

唯「誰かはわかってたみたいだけど……」

梓「私も含めてみんな、唯先輩のことをそういう感じで見てるんですよ」

『かっこよくて。真剣な時は真剣で、やる時はやる人で。温かくて、優しくて。目が離せない人で』

それは、でも私は……

唯「私、そんなに立派な人なんかじゃないよ……」

368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:37:16.98 ID:1FD7vy2wo
梓「私の目を疑うんですか?」

じっと、私を見上げるあずにゃん

梓「唯先輩はそういう人です。唯先輩は知らないでしょうけれど、私は知っています」

他の先輩方もですけどね、と呟くあずにゃん

梓「まあ、頼りなくてなまけ者で、自信も無くて一人で何でも決めつけて泣いちゃう唯先輩も知ってますけどね」

唯「ご、ごめんね……」

梓「やっと告白してくれたかと思えば、憂との関係を疑ってる始末だし……」

唯「伝説を勘違いしてて、その……」

まあでも、とあずにゃんは私の胸に顔を埋め直します

梓「確かに、私も愛情表現が足りなかったのかもしれません。好きな人を、不安にさせてたわけですから」

唯「スキンシップが禁止された時は、嫌われたのかと思った」

梓「逆ですよ。……本当に、誰のパンツでも見ちゃうとか」

ギューと、背中に回す腕に力を込めるあずにゃん

前と同じ、痛い抱きつきなのですが

今はその痛さが心地良い

梓「……一応聞いておきますけど。嘘ですよね?」

唯「嘘だよ!その……あずにゃんが好きってバレたら嫌われると思って」

嫌いませんよ、とあずにゃんはため息をつきました

369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:37:47.70 ID:1FD7vy2wo
梓「……私だって辛かったんですから。スキンシップされないの」

唯「私も本当に辛かったよ。私、あずにゃん無しじゃダメだって気づいた」

その空白の時間を埋めるように

しばらく、私とあずにゃんは抱き合います

匂いも温かさも息づかいも全部、一つ残さず感じたくて

久しぶりの感触でした

結婚式の時にも抱き合いましたが

それは、私が突然抱きしめたからで

それも、最後だと思ったのと、自分の内面をさらけ出す怖さからって理由で

だから、純粋にあずにゃんと抱き合うのは久しぶりでした

ああ

なんて気持ちが良いんだろう

全てが報われた気がする

私の想いは伝わって、救われた

きっと私はこの女の子のために生まれてきたんだと

そう思いました

370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:38:33.04 ID:1FD7vy2wo
梓「……言わなきゃ良かったと思いました。スキンシップ禁止なんか」

ぽつりと、あずにゃんが言います

それはいつものあずにゃんの台詞とは違って弱気で

だから、私はぎゅっと抱きしめて言いました

唯「……禁止されたから、この抱きつくって行為の大切さにも気づけたよ。とても貴重なんだって」

答える代わりに、あずにゃんも少し強く抱きついてきます

それはきっと、あずにゃんも同じことを思っていて

だから、これは通じ合っているのだと思います

ああ、言葉だけじゃないんだ

こういう想いの伝え方もあるんだ

梓「……唯先輩が早く理由を言ってくれれば、私だって抱きつけたんですよ」

唯「あずにゃんが私を好きだなんて……少し、そうかなって思ったことはあるんだけど」

唯「でもそれはないって、打ち消しちゃった。あずにゃんには好きな人が居るから、私に抱きつかれたら迷惑かなって」

梓「……好きでも無い人と一緒に寝たり、お風呂入ったりするわけないじゃないですか」

こうやって抱きついたり、と

あずにゃんは頬をふくらませます

371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:39:07.57 ID:1FD7vy2wo
唯「ごめんね。自信、無くて」

梓「私も……正直自信は無かったんですけど」

唯「うん」

梓「でもほら、一緒に寝た時に私の身体触ってくれたじゃないですか。それで、ちょっと自信は持てたというか」

唯「……気づいてたの!?」

梓「え?はい。言いましたよね私」

唯「いつ!?」

梓「だから、一緒にお風呂に入った時ですよ」

……ああ、あれか

あずにゃんが言ってた人って私のことだったんだ

そう言われてみれば

確かにあの時あずにゃんが言ってたのは、私があずにゃんとした事だけだったな

唯「ご、ごめんね。ちょっとその、自分を抑えきれなかったと言うか……」

梓「だから、嬉しかったって言ったじゃないですか。気にしないでくださいよ」

唯「それに……さっきも、ごめんね。強引に押し倒して触っちゃったりして。怖かったでしょ?」

梓「……無理矢理するような人だとは思ってませんでしたから。信頼ってわけでは無いですけど」

唯「そうなの?」

梓「はい。なんというか……そういう度胸は無いだろうなって」

言ってくれるじゃん

……まあ、その通りだけど

372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:39:49.99 ID:1FD7vy2wo
梓「いいよって言っても、結局手を出しませんでしたしねー」

唯「だって、そういうことをする時はちゃんとあずにゃんと同意したいというか……」

さっきは、あずにゃんがお情けで抱かれてくれるのかと思っちゃったもん

そういうことをする子じゃないってのも、わかっていたけどさ

梓「お情けで身体を許すわけないじゃないですか。私、唯先輩以外に抱かれるつもりはないですよ」

その言葉に、顔が赤くなるのが自分でもわかりました

これは、その

直接好きって言われるよりも、ドキっとします

梓「唯先輩」

あずにゃんが私の首に両腕を回してきました

ぐいっと、顔を近づけられます

梓「私、今日は決着を付けにきたんですよ」

373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:40:29.09 ID:1FD7vy2wo
唯「うん」

梓「きちんとお話して唯先輩の気持ち、確かめたくて」

梓「付き合うまでは考えられないって言われたら、待つつもりでした」

唯「付き合いたいよ。あずにゃんと」

梓「私もです。――だから」

そこで、黙って

小さく息を吸って、私をまっすぐに見据えて

梓「私とエッチしてください」

唯「……はい!?」

突然言われて、少なからずびっくりしました

いや、もの凄く嬉しいんですけど

でも

梓「始めからそのつもりだったんです。唯先輩も私と同じ気持ちだったら、抱いて貰おうって」

そこで、あずにゃんは俯きます

374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:41:04.92 ID:1FD7vy2wo
梓「結婚式の時に告白してもらって、それからずっと考えて」

梓「なんで唯先輩は自信が無いんだろうって。どうすれば自信を持ってくれるんだろうって、思ってて」

梓「だから、私はこういうことしか出来ないですけど。他に自信が無いことって、私にはどうしようも無いですけど」

梓「でも、私が唯先輩のことが好きってことだけは、自信を持って欲しいんです」

それはきっとあずにゃんの本音で、真剣に私のことを考えてくれた結果で

少し急ぎすぎかとも思ったのですが

唯「ありがとね、あずにゃん」

あずにゃんの首すじに、顔を寄せます

唯「……本当にいいの?遠慮しないよ?」

梓「大丈夫です。もう決めてますから」

唯「わかった。好きにしちゃうからね」

梓「ちなみに、今日優しくしてたのは警戒されないためです」

唯「ああ、やっぱり裏があったんだね……」

どうりで優しすぎると思った

ドライヤーまでかけてくれたりしたもの

梓「そしてこの部屋、鍵かかってますから」

唯「……いつのまに」

梓「この部屋に入って、鍵いじってた時です」

言ったじゃないですか、と

私の耳元に唇を寄せて、あずにゃんは囁きました

梓「逃がしませんよって」

375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:41:52.71 ID:1FD7vy2wo
その台詞に、もうたまらなくなって

梓「きゃ!?」

思わず、押し倒してしまいます

唯「逃げる気は無いよ、あずにゃん」

覆い被さりながら、私は言いました

逃げる気はもちろん無いし

そして私も、逃がす気は無いよ

梓「……唯先輩。ここが最後のチャンスですよ」

少し震える指先で、慣れない手つきで

私にパジャマを脱がされながら、あずにゃんは言いました

梓「私、自分で言うのもなんですけど。……すごく、重いですよ。独占欲だって強いし、ずっと一緒に居たいって思ってるし」

唯「……あずにゃんも自分に自信が無いよね」

梓「それは、まあ……」

むう

……確かに、好きな子にそういうことを言われるのはちょっとショックかな

それって、私の気持ちをちゃんと信じてくれてないってことだから

……私もあずにゃんに、そういう思いをさせていたのかもしれないですけど

376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:42:34.70 ID:1FD7vy2wo
唯「あずにゃん」

梓「はい?」

パジャマを脱がす手を止めて、あずにゃんを正面から見つめました

唯「来年、私と結婚式してよ」

梓「え……?」

私はどうしても、あずにゃんよりも先に卒業しちゃう

それはもう決定事項で、回避のしようもない事実です

私はあずにゃんを置いて行っちゃう

置いて行かれる側にとって、それはとても不安なことだと思います

私がどんなに愛してると言っても

その不安は、簡単には取り除けないでしょう

あずにゃんが私を好きでいてくれればいてくれるほど

その不安も比例して、増していくのです

だったらどうするか

少なくとも、私の決意を、私の気持ちを

本当の意味で実感させるにはどうすればいいでしょうか

身体を合わせる

平たく言えば、エッチする

それでもいいんだけど、それだけじゃダメで

377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:43:06.45 ID:1FD7vy2wo
唯「私は桜高祭の伝説を知ってるよ」

梓「……でも」

唯「勘違いしないでね、あずにゃん」

少し格好悪いことを言っちゃうけど

これも私の、偽りの無い本音だから

唯「……私だって、少し不安なんだよ」

梓「え?」

唯「……私達が卒業して、あずにゃんが部長になって、新入生が入ってさ」

唯「それは私の知らない生活で、私の知らない人間関係で」

唯「もしあずにゃんとその新入生の女の子がそういう関係になっちゃうかもって思うと」

梓「そ、それはあり得ません!私は唯先輩だけですよ!」

血相を変えてそう言うあずにゃん

唯「うん。それもわかるよ。信じてるし」

でも

唯「でもやっぱり、不安も消えてなくなるわけじゃないよね。信じてるとか、そういうの抜きで」

離れてしまうと、不安はどうしても付いてくる

あずにゃんは追いかけてきてくれるって言ってたけれど

それでも、一年

一年は、とても長いんです

唯「この気持ちは、たぶんあずにゃんと同じだよ」

378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:43:52.93 ID:1FD7vy2wo
梓「……はい」

唯「だから、未来を約束しちゃおうって思ってる」

梓「約束、ですか」

唯「結構強力な伝説なんだってね。友達同士でもくっつけちゃうらしいし」

だったら

それはむしろ、私にとって好都合で

唯「私の決意だと思ってくれていいよ。あずにゃんを一生離すつもりはない」

あずにゃん以外の人に恋することは無いし

あずにゃんにも、私以外に恋なんてして欲しくない

唯「結婚しようよあずにゃん。大事にする。これから色々なことを二人でしよう」

唯「ずっと、隣に居てよ」

梓「……はい。ずっと、一緒に」

唯「……泣かないでよあずにゃん」

梓「だって!」

ポロポロと溢れる涙を、手の甲で拭きながら

あずにゃんは嗚咽混じりに言います

梓「そん、なに想って貰えてる、なんてっ、思っ、てもみなかったんでっ」

379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:44:20.90 ID:1FD7vy2wo
唯「ごめんね。私が今までしっかりしてなかったもんね」

梓「そ、そんなことっ」

唯「これからは、もっとしっかりするように頑張るね。少なくとも、あずにゃんを不安になんてさせないように」

目的が具体的になって

私は、何でも出来るような気がしてきました

隣にあずにゃんが居てくれるなら

きっとなんだって、出来ると思う

梓「別に、しっかりしなくても」

唯「ん?」

梓「しっかりしてない唯先輩も、大好きですよ」

顔を真っ赤にしながら

でもまっすぐに、あずにゃんはそう言ってくれて

そしてその時、私の全部が受け入れられた気がしました

心の中にゆっくりと温かい何かで満たされていって

それが身体全体に滲んでいくような

今まで知らなかった感情でした

380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:44:48.90 ID:1FD7vy2wo
唯「あずにゃん」

あずにゃんを抱きしめます

この気持ちを共有して欲しい

この気持ちを、あずにゃんにも知って欲しい

触れてる肌と肌から、あずにゃんに伝わればいい

伝え方もわからないから、ぎゅっと、隙間も無いくらいに強く抱きしめます

梓「唯先輩」

背中に回されるあずにゃんの両腕

梓「本当に、大好きです」

唯「私も。……大好きだよ」

少しでも伝わるように。伝えられるように

あずにゃんとキスしながら

私はそんなことを考えていました

381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:45:26.05 ID:1FD7vy2wo
梓「寝ちゃった……」

終わったら、色々とお話しようと思ったのに

唯先輩は実に幸せそうな顔で、私の横で寝息を立てていました

梓「よっと……」

布団を引っ張ってきちんと直します

唯先輩は生まれたままの姿で

いや、それは私も同じなんですが、パジャマも下着も脱ぎ捨てていて

風邪でも引かれたら大変です

初めてのエッチで風邪を引いたなんて、格好悪いじゃないですか

唯先輩の方に布団がちゃんとかかっているか確認して

改めて、私も布団に潜り込みます

もちろん、出来るだけ唯先輩にくっつけるような近さで

唯先輩の寝顔を眺めます

382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:46:13.16 ID:1FD7vy2wo
梓「……」

肌は白くて、まつげも長くて

薄い唇に、頬にかかる少し明るい髪

今は閉じられている瞳も、大きくて

綺麗でした

見とれるくらいに、何もかもが美しいです

美人のくせに、温かくて優しくて、少し臆病なところもあって

梓「信じられないなぁ……」

唯先輩と、付き合うことになるなんて

唯先輩の頬に手を伸ばします

起こさないように、指先で撫でてみます

唯「んふぅ……」

むにゃむにゃ言って、そのまま安らかに寝息を立てる唯先輩

どんな夢を見ているのでしょう

こんな表情してるんだから、きっと良い夢には違いないけれど

梓「……」

……夢じゃないよね、これ

急に不安になって、自分のほっぺたをつねってみて

……まあ、「さっきの」も確かに痛かったし

だから、夢では無いのでしょう

383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:46:44.67 ID:1FD7vy2wo
梓「……」

正直、後悔はしていました

私が焦らなかったら

もっとちゃんと、唯先輩を不安にさせることなくお付き合い出来たのでは無いかと

そうです。私は焦っていました

唯先輩にお泊まりに誘われてから

何故だか、自分の中で決断を急ぐ私が居ました

それは、夏が終わって秋を意識したからなのか

いずれ来る唯先輩との別れの日を色濃く意識してしまったのか

それは、自分でもわかりませんでした

私は、ずっと待つつもりだったのに

もし唯先輩がこのまま卒業しちゃっても、追いかけるつもりだったのに

結局私は、スキンシップ禁止令なんかで唯先輩を焚きつけてしまったみたいで

それが意識的なのか無意識なのかはわかりませんでした

……あの時はまあ、私も怒ってて

冷静では無かったのかもしれませんけれど

梓「はぁ……」

起こさないように、そっと包み込むように

布団の中で、唯先輩の手を握ります

384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:47:28.32 ID:1FD7vy2wo
「告白されたい」ってわがままを言って

そしていざ告白されれば、その仕方が気に入らないと不機嫌になって

それで、今度は家に押しかけて決着を迫る

私はそんな女の子でした

第一、唯先輩に自信を持って貰う手段がエッチってどうなんでしょう

他にも方法が無かったのか

本当は、私が抱きたいだけではなかったのか

本当は、私が抱いて貰いたいだけではなかったのか

梓「本当に」

本当に、めんどくさい人間だなぁ、私

素直じゃないし、意地っ張りだし

この人は本当に、私のどこを好きになってくれたんだろう?

梓「……ダメだ」

唯先輩が好きだと言ってくれたんだから

だから、自信を持たないと

唯先輩の気持ちを疑うことになってしまう

私だって、唯先輩に身体で教えてもらったんだ

385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:47:54.20 ID:1FD7vy2wo
梓「……」

だったら、どうするか

わがままを聞いてくれて、こんな私を愛してると言ってくれた大好きな人に

私は何をしてあげるべきだろう

スキンシップは当然として

他に、何が出来るだろう

出来ることなら何でもやるし

出来ないことでも、練習して出来るようになる

梓「……わからないけど」

それでも、それをこれから見つけようと思う

唯先輩の隣で

唯先輩を幸せにするために

梓「……っと、そう言えば」

枕元に置いておいた携帯の電源を入れる

愛し合ってる最中に着信が来るのも嫌なので、あらかじめ電源を切っておいてました

こんな時間だし、メールも来てないだろうなと思ったのですが

センターに問い合わせてみると、メールが一件ありました

時間は今から二時間ほど前

憂からでした

387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:48:20.09 ID:1FD7vy2wo

件名 えへへ
月曜日のお昼まで和ちゃんの家にお泊まりすることになりました
それまでお姉ちゃんのこと、任せてもいいかな?

388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:48:50.16 ID:1FD7vy2wo
梓「憂も……」

自然と微笑んでしまいました

憂の嬉しそうな顔が目に浮かびます

ずっと大好きだったもんね、和先輩のこと

もう寝ているでしょうけれど

とりあえず簡単に、私と唯先輩のことと、月曜日までお泊まりさせてもらうことをメールしました

アラームをセットして、携帯を枕元に置いて

部屋の電気を消して、唯先輩の布団にあらためて潜り込みます

身を寄せると、唯先輩が優しく抱きしめてくれて

梓「……起きてるんですか?」

囁いてみても、安らかな寝息が聞こえるだけで

少し考えて、私も起こさない程度に唯先輩を抱きしめます

寝てるんだもん

少し大胆なことしてもいいよね

唯先輩の温かさを感じながら

梓「幸せにしますからね、唯先輩」

そう囁いて、私は唯先輩の胸に顔を埋めて目を閉じました

389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:49:36.47 ID:1FD7vy2wo
「ありがとうございましたー」

そんな声を背に、私達は店を出ました

五月の日曜日、午前十時

駅前は多くの人で賑わっていて、気持ち明るめの服装が目に付きました

唯「はぐれちゃうから、手を繋ごうか」

梓「はい」

あずにゃんの小さい手を握ると、あずにゃんが少し微笑んで

私も微笑んで、二人で歩き出します

空を見上げると真っ青で、太陽の光も暖かくて

そんなゆったりとした日曜日でした

唯「ついに買っちゃったねー」

繋いでない方の手に下げている紙袋に目をやります

梓「やっぱり、少し緊張しましたけどね……」

同じ柄の紙袋を持つあずにゃんも、それを前に掲げながら言いました

梓「でも、無事に買えてよかったです」

390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:50:03.51 ID:1FD7vy2wo
唯「通話専用の携帯電話!カップル専用だから、通話も定額だもんね」

梓「唯先輩が料金気にせず長電話するから……」

ため息をつくあずにゃん

まあ、確かにちょっと長電話し過ぎたかもね

憂にも怒られちゃったし

唯「仕方ないじゃんー。やっぱりあずにゃんとお話したいわけだしー」

梓「それは私だってそうですけど。でも基本メールとか、そういうのでも」

唯「だめー!あずにゃんの声が聞きたいのー!」

梓「……まあ、私も通話料凄いことになりましたから人のこと言えないんですけどね」

こうやって、休日にしか会えないんだから

だからせめて、声だけでも聞きたいんです

梓「それで。――どうですか、大学生活の方は」

唯「うん。やっと落ち着いたよ。まあ、基本的に高校の時と変わらないかなぁ」

授業に出て、終わったらみんなと部室に行ってお喋りして

学校の拘束時間が短くなった分、前よりものんびりはしてるかな?

唯「新しい場所でも、ちゃんとみんな練習してるよ。お茶もお喋りも今まで通りだけどね」

梓「みなさんらしいですね」

困った風に微笑むあずにゃん

そして、少し申し訳なさそうに

梓「あの……本当にすみません」

391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:50:33.69 ID:1FD7vy2wo
唯「ん?何が?」

梓「放課後ティータイムのことです」

放課後ティータイム?

……ああ

唯「気にしないでよ。みんなで決めたんだから」

梓「でも……」

私達が進学するのと同時に、放課後ティータイムは一年間の活動停止になっています

誰が言い出したのかは覚えていません

だけど、たぶん

みんなが各々、思っていたことだと思っています

唯「やっぱりあずにゃんが居ないと、放課後ティータイムじゃないからね」

実際、四人で放課後ティータイムの曲を演奏しても違和感というか

どうしても足りない音が気になってしまっていました

だったら、いっそ一年間はあずにゃんを待とうと

そういう話し合いを、四人でしました

唯「澪ちゃんもむぎちゃんも、作詞作曲を作り貯めるって張り切ってたし」

唯「私やりっちゃんだって、これを機にスキルアップを図るつもりなんだよ!」

梓「でも、学祭でライブとか出来ないんですよ?」

唯「あずにゃんが居なきゃ、ライブなんてしないよ」

392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:51:04.61 ID:1FD7vy2wo
本当、あずにゃんが入るまでは四人で演奏してたのが信じられないくらいです

あの時も、とても楽しかったのは覚えているのですが

それでも、やっぱり今ではみんな――

唯「だから、気にしないでよ。ちゃんと練習は続けるからさ」

ね?と言うと、しばらく逡巡した後で、あずにゃんは頷きました

梓「ありがとうございます……私、絶対に来年は皆さんと同じ大学に行きますから」

唯「うん。待ってる」

個人的には、あまり無理をして欲しくは無いんだけどね

受験勉強の他にも、軽音部のことも全部やってるんだし

梓「他の皆さんも元気そうですね」

唯「うん。相変わらず、りっちゃんは澪ちゃんとイチャイチャしてるよ」

私達四人は寮に入ったのですが、澪ちゃんとりっちゃんが同室で

ちょっとした同棲状態になっています

まあ、あの二人を見てるとやっぱり、あずにゃんが恋しくなっちゃうこともありますけどね

唯「むぎちゃんも、さわちゃんと順調みたいだしね」

梓「そうなんですか。そう言えば最近、さわ子先生の肌がツヤツヤしてますね」

唯「毎週末はさわちゃんのアパートに通い妻だよー。お料理作ったり、家事したりしてるんだってさ」

393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:51:34.55 ID:1FD7vy2wo
梓「なんだかむぎ先輩らしいですね」

あずにゃんはそうやって笑うけど

……むぎちゃんって結構お嬢様なんだよね

通い妻なんてさせてることバレたら、さわちゃんどうするんだろう

唯「あ、そういえば。軽音部の方はどう?」

新入生も入ってきたんだっけ

確かあずにゃんがやってるバンド名が……わかばガールズ?

梓「あ、はい。力及ばずながらも頑張ってますよ!」

いい笑顔でそういうあずにゃん

うわー、眩しいなぁ

本気で可愛いや

梓「新入部員も入ってきて、廃部も回避しましたし」

唯「頑張ったねー、あずにゃん部長」

梓「あとは初ライブに向けて、練習あるのみですから!」

唯「みんなで見に行くからね。文化祭」

梓「はい。……今度は、唯先輩がライブしてる私に惚れる番ですからね」

唯「もう惚れてるよー」

そういえば、あずにゃんが私を好きになったのって新歓ライブの時だって言ってたっけ

えへへ、私が惚れる番、だって

そこでふと、心配になってきました

394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:52:07.46 ID:1FD7vy2wo
唯「あ、あの……あずにゃん?」

梓「はい?」

唯「わ、わかばガールズの方が楽しくなっちゃったりしたら……もしかしてHTTは」

梓「そ、それはないですよ!」

わたわたと、あずにゃんが首を振ります

梓「確かに楽しいですけど、私はあくまで放課後ティータイム所属でして!」

梓「みんなにもちゃんと、放課後ティータイムに戻るってことは最初から伝えてますから!」

唯「そっか。……えへへ、ちょっと不安になっちゃって」

梓「それに……」

唯「ん?」

あずにゃんが上目遣いで私を見て

梓「唯先輩の隣で、ギター弾きたいんで」

顔を真っ赤にしながらもそう言ってくれて、私まで顔が熱くなっちゃって

唯「あずにゃーん……」

梓「ちょ、唯先輩、こんな公共の場で!」

思わず抱きしめちゃいます

時折あずにゃんが見せるこのカウンターパンチに、私は今でも慣れることが出来ません

あーもう、大好きだよあずにゃん

395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:52:29.78 ID:1FD7vy2wo
梓「と、とにかく!」

私を押しのけて、あずにゃんは言いました

梓「そういうことですので、心配しないでください」

唯「うん。わかった」

自然に手を繋ぎ直して、歩き出します

その手の暖かさを感じながら

少し、勇気を出さないといけません

深呼吸して、冷静になって

唯「あずにゃん」

梓「なんですか?」

唯「あのね。放課後ティータイム、活動休止してるじゃん」

梓「はい」

唯「だからね。その空いた時間を使って、バイトしようかなって思ってるんだ」

梓「バ、バイトですか!?」

バッと私を見るあずにゃん

梓「バイト……悪質なクレーマー、唯先輩に言い寄る男女……ストーカー!?」

唯「あずにゃん落ち着いて」

飛躍し過ぎだよ

396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:52:55.40 ID:1FD7vy2wo
唯「その……三年の時に、むぎちゃんのお父さんの会社がやってる喫茶店で少し働かせてもらったじゃない?」

唯「そこで四人でバイトしようってことになって。勿論、一年間だけだけどさ」

梓「ああ、あの高級喫茶店ですか。……それなら安心ですね。澪先輩達も居ますし」

梓「でも、どうしていきなり?買いたいものでも?」

唯「ううん。買いたいものも……あるけど。それはね」

言うんだ

言うんだ私

勇気を出して

あの時の勇気を思い出せ

一緒に居たければ、前に進まないと

それだけの努力をしないと

唯「あ、あずにゃん。あのね!」

梓「ど、どうしたんですか。そんな改まって」

唯「あずにゃんが大学に受かったらね。その」

梓「はい……」

唯「わ、私と一緒に暮らさない?」

梓「……え?」

397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:53:22.07 ID:1FD7vy2wo
唯「私、寮出るから!一年間バイトして貯金して、お金貯めるから!」

唯「家具代とか部屋の敷金礼金くらいは貯金で何とかなると思う。生活費も、仕送り頼むし」

唯「だから、その……」

梓「ちょ、ちょっと待ってください」

立ち止まって、あずにゃんと向き合います

梓「その……それってつまり……同棲しようってことですか?」

唯「う、うん」

だ、だめかな

早すぎた?

いやでも、もう付き合って二年目になるんだし

あれ、二年じゃ早すぎるのかな?

ど、どうなんだろう

唯「……同棲したいなって思うんだけど」

梓「は、はい。も、もちろんです」

唯「本当に!?」

梓「だ、だめなわけないじゃないですか」

唯「やったー!」

あずにゃんに抱きつきます

良かった!

同棲してくれるって!

398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:53:53.31 ID:1FD7vy2wo
唯「私、頑張るからねあずにゃん!」

梓「む、無理しないでくださいよ?同棲する以上、私も協力させてもらいますので」

唯「うん!心配かけないようにする!」

梓「……とりあえず、澪先輩に気をつけて見て貰えるように電話しときますか」

唯「大丈夫だよー?」

梓「なんか心配なんで」

唯「ぶー」

梓「……そうなると」

ふと、紙袋を見ながらあずにゃんが言いました

梓「この携帯、一年しか使わないんですね」

唯「……そうなるね」

二人して、えへへと笑い合います

唯「もったいないから、いっぱいお話しようね」

梓「私受験生なんで。影響が出ない程度にお願いしますね」

唯「いけずー。……でもまあ、そうだよね」

梓「一日一時間ですね」

唯「え、そんなにお話してくれるの?」

梓「……私だって寂しいんですからね。夜くらい構ってください」

拗ねたように言うあずにゃん

399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:54:19.77 ID:1FD7vy2wo
唯「んふふ。構いまくるよー?」

梓「まあ、一日頑張ったご褒美ってことでお願いします」

唯「うん!」

梓「じゃあ、帰りましょうか」

って、え?

唯「もう帰るの!?」

梓「だってもう用事ないでしょ?」

そんな……

せっかくのデートなのに!

しかもこんなお天気の良い日に……

唯「なんか食べに行ったりさぁ……」

梓「私の家で作ってあげます」

唯「え、本当に?」

っていうか、とあずにゃんが腕を組んできました

梓「ひ、久しぶりに一緒に居るわけですし。その……あずにゃん分補給してあげます」

唯「……えへへ。唯先輩分もいっぱい補給してあげるね」

400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:54:46.14 ID:1FD7vy2wo
梓「お、お願いします」

唯「じゃあ急いで帰ろうか。どうする?私の家?」

梓「憂と和先輩が居るんじゃないですか?今日は」

唯「あ、そっか。来るって言ってたっけ」

今頃は二人とも、家でいちゃいちゃしてるのかな

それじゃあ、邪魔するわけにはいかないね

憂と和ちゃんも、久しぶりに二人の時間なんだもん

梓「今日は私の家で。誰も居ないので」

唯「ゆっくり、いちゃいちゃ出来るねぇ」

じゃあ行こう、とあずにゃんの手をとって走り出します

梓「ちょ、ちょっと唯先輩!別に走らなくても!」

唯「時間が勿体ないよ。早く帰れば長くいちゃいちゃ出来るよ。あ、ほら!ちょうどバスが来てる」

バス停に向かって走ります

それでも、あずにゃんが転ばないようにちゃんと気をつけて

梓「もう……唯先輩ったら」

微笑むあずにゃん

その笑顔が大好きで

これからもずっと隣で見ていたくて

唯「大好きだよ、あずにゃん」

バスに乗り込む前に、あずにゃんの耳元で囁きました

終わり

402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 05:57:15.92 ID:1FD7vy2wo
本編終わりです
支援本当にありがとうございました
唯視点の他に、梓視点と和視点と律視点でそれぞれ計画してたのですが、長すぎたので一つにまとめました
そのため、あちこちで意味わからないところがあると思いますので、疑問点があれば答えます

403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2012/02/27(月) 05:57:48.33 ID:tQT0bhTDo
お疲れ様

憂和の補完みたいなのってないのかな?
このままだと和がただのムッツリスケベになってなんか…

405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:04:48.03 ID:1FD7vy2wo
>>403
補完は考えてないです。ごめんなさい
和は「自分の思い通りに行動した場合の唯」って対比対象で書いてたので
ただムッツリだけじゃなくて、本気で憂のことは愛してます

416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2012/02/27(月) 06:11:17.14 ID:tQT0bhTDo
>>405
そっか
いや、愛してるのは分かるけど最後の出番が憂に詰め寄られるところだったからそう見えちゃったんだよね
せめてかっこいいところを見せてほしかったなって思ったんだ

418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:12:20.26 ID:1FD7vy2wo
>>416
ですよね。少し軽率でした
唯と梓の描写で精一杯で……

413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/02/27(月) 06:08:55.66 ID:cls21YI5o
2日連続で乙!
素晴らしかった
疑問と言うか、本物のカップルの結婚式と3年になってからの結婚式はどうなったの?そこは別視点だったからカット?

415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:11:02.81 ID:1FD7vy2wo
>>413
両方とも四組全員でちゃんと挙げました
二年連続なんで、学校で噂は立ってしまったようですが暖かく見守れました

427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/02/27(月) 06:16:37.95 ID:cls21YI5o
>>415
それはよかった
ただ唯が告白した時はあずにゃん不機嫌で、唯自身も両思いだと知らないのに
本物のカップルとして結婚式を挙げるってのは唯はどう捉えていたのかな

429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:19:36.09 ID:1FD7vy2wo
>>427
その時は、唯は結婚式を台無しにしちゃったせいだと思ってました
罰的な式というか
梓の方は、始めからこれに近いことは考えていたのですが、不本意な告白の後なので嬉しかったり微妙だったりでした

439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/02/27(月) 06:25:50.76 ID:cls21YI5o
>>429
なるほど、捕捉サンクス
2年の時の方はあくまで形式的で微妙な空気の中でって感じだったのね

406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:05:58.23 ID:1FD7vy2wo
じゃあ、後日談行きます
蛇足ですが

407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:06:24.29 ID:1FD7vy2wo
後日談

三月

土曜日の午前十時

商店街のアーケード内を、私とあずにゃんは歩いていました

唯「土手の桜並木、綺麗だったねー」

梓「毎年本当に綺麗ですよね。何気に楽しみです」

ポケットに手を入れて

唯「えへへ。これをあげよう」

梓「これって……もう」

微笑んで、あずにゃんは桜の花を受け取ってくれました

唯「落ちてたの、拾ってきちゃった」

梓「二本目ですね、唯先輩から桜の花を貰うの」

唯「あずにゃんの合格祝いだよ。本当に頑張ったね、あずにゃん」

梓「えへへ」

くすぐったそうに微笑むあずにゃんの頭を撫でます

そうです。あずにゃんは私と同じ大学に合格しました

部活もライブも受験勉強も、そして私とのお付き合いも

全てに手を抜くことなく、あずにゃんは一年間やり通しました

それは凄いことだと私は思います

まあ、あずにゃんは『当然のことです』と不敵に微笑みますけど

それでも約束通り、あずにゃんは私を追いかけて来てくれました

408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:06:57.17 ID:1FD7vy2wo
梓「唯先輩も、色々とありがとうございました。後半からは、会う時間が少なくなっちゃったのに」

唯「あずにゃんの応援をするのは当然だよ。私、あずにゃんの彼女だよ?」

梓「そうですね。えへへ」

確かに、あずにゃんに会えない日々は少し辛かったのですが

それはあずにゃんも同じく思っていてくれて、だったら私も我慢しなきゃって

だから、当たり前のことです

唯「新しい生活が始まるね。四月から」

梓「そうですね。学校も、バンドも――同棲まで、始まりますから」

唯「……顔がニヤけてきちゃう」

梓「私だって我慢してるんだから唯先輩も我慢してください」

そう言って、あずにゃんはトートバッグから手帳を取り出しました

梓「とりあえず、部屋を決めないといけませんからね」

唯「そうだねー。……お義父さんとお義母さんは何か言ってた?」

梓「出来れば実家に近いと安心かなって言ってましたけど……」

唯「どうしたの、あずにゃん?」

梓「いや……お義父さんとお義母さんって」

唯「……ちょ、ちょっとあずにゃん」

梓「だ、だめだ顔がニヤけてきます!」

両手でほっぺたを覆って笑うあずにゃんに、私も顔が熱くなるのがわかります

409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:07:25.46 ID:1FD7vy2wo
唯「だ、だってそう呼んでって言われたんだから!」

梓「そうなんですけど、でも……ダメだ顔が赤くなってる」

わ、私だって自然な流れで呼んだのに!

恥ずかしいんだからね私だって!

梓「……取り乱してすみませんでした」

唯「……あずにゃんだってうちの親に同じ事言われたんだからね。絶対に通る道だからねこれ」

梓「わ、わかってますよ。でも絶対に私が言ったら唯先輩もニヤけると思いますよ」

唯「私はちゃんと我慢するもんー」

梓「出来るもんならしてみてくださいよ」

一週間前にあずにゃんの合格発表があって

合格を確認したその翌日に、お互いの両親に挨拶に行きました

付き合っていること

遊びでは無くて、一生を共にする覚悟でいること

同棲したいと考えていること

ざっとこういう事を伝えるためでした

唯「まあ本当に、理解のある両親で良かったね、お互い」

梓「そうですね。そこだけは本当に助かりました」

正直、私達は反対される覚悟で行ったのですが

拍子抜けするくらいに理解してくれて

唯「……でもまさか、挨拶の席でギターを弾かされるとは思ってもみなかったよ」

梓「私が高校入ってずっと話してましたからね、唯先輩のこと。すごく興味を持ってたみたいで」

プロ二人を前に演奏なんて、もの凄く緊張したっけ

410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:07:51.18 ID:1FD7vy2wo
唯「私、ちゃんと弾けてた?」

梓「はい、最高でしたよ。うちの両親も感心してました」

それは良かったです

安心しました

梓「憂も和先輩と一緒に挨拶に行ったみたいですね」

唯「うん。憂も和ちゃんも、付き合ってるってのはあらかじめ自分の両親に言ってたみたいだから」

だから、それはスムーズに進んだみたいです

まあ、うちの両親は小さい頃からわかってたみたいですけどね

梓「憂の嬉しそうな顔が目に浮かびます」

唯「和ちゃんなんてはしゃいでたからね」

たぶん和ちゃんの両親も、昔からわかってたんじゃないかな

唯「だからあとは、私達の部屋を決めるだけだね」

梓「はい。一応不動産屋さんはいくつか回ってみましょうか」

唯「今日で良い部屋が見つかるといいね」

梓「そうですね。とりあえず、希望の条件をいくつか簡単にまとめておきましょうか」

唯「うん。あ、あそこにベンチがあるから、あそこで話そうか」

411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:08:18.52 ID:1FD7vy2wo
梓「で、希望の条件ですけど」

ベンチに座ると、あずにゃんは手帳を開いてペンを取りました

唯「んー。部屋の数はどうする?」

梓「1DKくらいでいいんじゃないですか?」

唯「あずにゃん、自分のお部屋とか欲しい?」

梓「いえ、せっかく同棲するんですから一緒に居ましょうよ」

唯「そ、そうだね」

相変わらず、あずにゃんのカウンターパンチの切れ味は凄まじいです

唯「じゃあ1DKで」

梓「はい。トイレとお風呂が別なのは必須ですよね」

唯「あ、お風呂は二人で入れるサイズで!」

梓「それ恥ずかしいから不動産屋さんで言わないでくださいよ?……まあ、それも必須で」

大きめのバスタブ、と手帳に箇条書きするあずにゃん

梓「あ、あと防音も欲しいですね」

唯「あずにゃん、けっこう大きい声出すからね」

梓「ち、違います!ギターの練習するでしょ!」

あ、そっか

梓「……第一、唯先輩だって結構大きいですよ」

唯「え、そうなの?」

梓「だから両親が居る時はできなかったんですよ」

……何回かやったような気がするけど

もしかしてその時から、お互いの両親にはバレてたのかな

唯「ま、まあそうだね。防音も欲しいね」

412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:08:47.09 ID:1FD7vy2wo
梓「あとは……治安ですかね」

唯「お隣さんが怖くないとか、周りの道が夜でも明るいとか」

梓「交番が近いとか、パトロールの巡回があるとかですね」

治安、とあずにゃんが手帳に付け加えます

唯「あと幽霊とか出ないとこ」

梓「まあ、異常に安いとこを避ければ大丈夫ですよね」

唯「こんなとこかな」

梓「ですね。あとは、気づいたら付け加えていけばいいし」

唯「いくらくらいなんだろうね」

梓「ちょっと相場がわかりませんよね。まあ、お互いの両親から仕送り来ますから、そこそこのとこには」

首を傾げて考え込むあずにゃん

あ、そうだ

唯「ねえ、あずにゃん」

梓「はい?」

唯「どっちの籍に入るか、考えてくれた?」

梓「はい!?」

顔を真っ赤にして私を見るあずにゃん

梓「い、いきなり何を!?」

唯「え、だってほら、どっちの家にも『大学卒業したら籍入れていいよ』って言われてるじゃん」

だから、もう決めたかなって

梓「ま、まだ四年も先の話ですよ!?」

唯「でもほら、同棲するんなら表札作らないと」

梓「今は名字を揃える必要ありません!」

まったく……とあずにゃんがため息をつきます

414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:09:13.24 ID:1FD7vy2wo
梓「……中野唯も平沢梓も魅力的なんで、四年間じっくり考えさせてください」

唯「ちぇー、表札見てニヤニヤしたかったのにー」

まあ、待ってと言われてるんだから待ちますけど

どっちだろうなー

四年後にはわかるのかー

梓「……ゆ、唯先輩はどっちがいいですか?」

上目遣いでこちらをみるあずにゃん

唯「んー?そうだなぁ」

中野唯も捨てがたいけど……

唯「やっぱり平沢梓かなぁ。なんか、あずにゃんが私の物になった!って気がするよ」

梓「そ、そうですか。……やっぱり鉄板は平沢梓かな」

唯「ん?なんか言った?」

梓「い、いえ!別になにも」

まあ、とりあえずは同棲のことだよね

唯「そろそろ行こうか、あずにゃん」

梓「そうですね」

あずにゃんが手帳を閉じて、立ち上がります

唯「ある程度は条件が絞り込めたから、きっと見つかるよ」

梓「だといいですけどね。まあこういうのはじっくりと考えないといけませんけど」

そんな話をしながら、私達は歩き出します

とりあえずは、不動産屋さんで見てみないことには話になりませんから

417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:11:32.50 ID:1FD7vy2wo
お昼です

日当たりの良い屋外カフェテラスのテーブル

オレンジジュースを飲んでから、あずにゃんはため息をつきました

梓「なかなか見つかりませんね」

唯「だね……」

テーブルに突っ伏しながら、私も呻きます

あれから三件の不動産屋さんを回ってみました

こちらの条件も話して、色々と紹介されたのですが

梓「値段だったり広さだったり防音だったり、ちょうどいいのはありませんでしたね」

唯「やっぱりちょっと甘かったかなぁ」

同棲ということで、少し浮かれていたのかもしれません

考えてみれば良い部屋なんてそれなりの値段になるのは当たり前ですし

財布と相談した結果なら、必然と広さや環境も限られてしまう

防音だなんて、昨今の住宅事情では難しいのかもしれませんし

ため息をつくと、頭にふわっとした感触

梓「そう簡単には決まりませんよ」

唯「あずにゃん……」

梓「お昼食べたら、また頑張りましょうよ。きっといい部屋見つかりますから」

梓「こういうのも、恋人の共同作業の一つですから。だからそんな顔しないでください」

唯「うん……ごめんね」

頭をなでなでされながら、私は謝ります

そうだ

ここで私がしっかりしないと

これくらいで諦めちゃダメだ

419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:13:12.57 ID:1FD7vy2wo
唯「同棲したいもんね。ここで頑張らないと」

梓「はい。頑張りましょうね」

えへへ、と笑い合います

梓「まあ、デートだと思えば楽しいですよ」

唯「そうだね。あまり気負わない方がいいかも」

さすがはあずにゃんです

ここぞと言う時に私をフォローしてくれるし

私も同じように、あずにゃんを支えられるようになりたいです

唯「っと、そうだ」

梓「どうしたんですか?」

自分のトートバッグの中を探って、お目当ての物を見つけます

唯「これ」

私がテーブルの上に置いたのは

梓「手紙?」

唯「うん。すっかり忘れてたよ。これ、むぎちゃんから貰ったの」

梓「むぎ先輩からですか」

オレンジジュースを飲みながら、テーブルの上の手紙を見るあずにゃん

唯「こないだね、寮の部屋でゴロゴロしてたらねー」

420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:13:38.59 ID:1FD7vy2wo
回想始め

唯「早くあずにゃんに会いたいなー」

紬「唯ちゃん。ちょっといい?」

唯「あ、むぎちゃん。いいよー。どうしたの?」

紬「明日、実家に帰るんでしょう?」

唯「うん。四月から住む部屋を、あずにゃんと探しに行こうと思ってね」

紬「そう。お部屋、何か目星は付いてるの?」

唯「ううん。全然。あずにゃんともまだ相談してないしね」

紬「へぇ。……あのね、もし、良いお部屋が見つからなくて困っちゃったら」

唯「あ、何これ。手紙?」

紬「うん。この手紙を読んでね」

唯「今見ちゃだめなの?」

紬「出来れば、二人でお部屋を探した上で、改めて二人で読んで欲しいの」

唯「うん、わかった。困ったら、あずにゃんと二人で読むね」

回想終わり

421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/27(月) 06:14:04.09 ID:0YpVVeEj0
お疲れ様でした!
VIPから拝見しておりましたですよ!

大きく破綻しちゃうような疑問も無くて、まったり百合SSとして楽しませて頂きました。

ご自身で補完されたいところは、律×澪なり憂×和の短編で如何でしょう?

っていうか是非その流れで読んでみたいですね。

良話本当にありがとうございました!!!

423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:14:53.07 ID:1FD7vy2wo
>>421
律澪のカップルは過去に色々あった設定作ってたんで、書きます

422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:14:04.69 ID:1FD7vy2wo
唯「ってことがあってね」

梓「私と二人で、ですか」

ふーむ、とあずにゃんが手紙を手に取ります

梓「そう言えば。手紙、憂も貰ったって言ってましたよ」

唯「え、憂も?」

梓「ええ。紬先輩からって言ってました」

私達だけじゃなかったんだ

となるとこの手紙、一体何が書いてるんだろう

唯「読んでみようか」

梓「はい」

テーブルの上で手紙を広げます

あずにゃんも身を乗り出して手紙を覗き込んで

唯「……住所?」

そこに書かれていたのは、二行ほどの住所でした

梓「これ、駅前周辺の住所ですね」

唯「駅の方なの?」

梓「はい。ここからだと、バス使わないとですけど」

どうします、とあずにゃんが目で窺います

唯「行ってみようか。気分転換にもなるよ」

梓「そうですね。じゃ、行ってみましょうか」

そこに何があるんだろう

住所だけが書かれた手紙には、他に何も書いてありませんでした

梓「まあ、二人で読んでと言われた手紙ですからね。私達に関係のある場所じゃないですか」

もしくは、関係があると思われる場所か

唯「とりあえず、行こうか。足は大丈夫?」

梓「はい。元々受験勉強で運動不足でしたから、ちょうどいいですよ」

424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:15:37.26 ID:1FD7vy2wo
バスに乗って駅前まで

そこから徒歩で手紙の住所に向かいます

あずにゃんと二人、手をつないで歩いた先は

唯「……ここ?」

あずにゃんが手紙を読んで、そして頷きます

梓「ここですね。間違いないです」

唯「そっか」

二人で、そのビルを見上げます

唯「不動産屋さんだね」

梓「そうですね」

なんだってむぎちゃんは、私達を不動産屋さんなんかに……

唯「私、もっとラブラブ出来る場所かと思ってたよ……」

梓「真っ昼間からそんなところ行くわけないでしょ!?」

唯「え?喫茶店とか、さっき行ったじゃない」

梓「あ、喫茶店とかですか……」

唯「え、あずにゃんはどこに行くと思ってたの?」

梓「……お泊まりするところ」

唯「……えろにゃん」

梓「べ、べつにそんなんじゃありません!」

顔を真っ赤にしてそういうあずにゃんですけど

まあ、気持ちはわかります

受験終わったあとって、今まで我慢してきた分そういう気分になっちゃうよね

一年前は私もあずにゃんにお世話になったっけ

唯「今夜はいっぱい可愛がってあげるからねー。夜まで待ってね」

梓「からかわないでください!」

425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:16:04.15 ID:1FD7vy2wo
行きますよ、とビルに向かうあずにゃん

言葉ではそう言っていますが

握る手の力が少し強くなったことには気づいてます

あずにゃんって結構むっつりだもんね

私以上かも

唯「ここで良い部屋が見つかるといいね」

梓「むぎ先輩の紹介ですから。ちょっと期待しちゃいますね」

426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:16:30.52 ID:1FD7vy2wo
自動ドアを抜けると、普通の不動産屋さんでした

入ってきた私達を見て、カウンターの女性が笑いかけます

店員「いらっしゃいませ」

唯「あ、すみません。えっと、お部屋を探してるんですけど」

店員「はい。ではこちらにおかけください」

カウンター前の椅子に、二人並んで腰掛けます

店員「一人暮らしのお部屋をお探しですか?」

梓「いえ、二人です」

店員「あ、それは失礼いたしました」

ちらっと私達を窺う店員の女性

……まあ、無理もないよね

こんな未成年の女の子二人が一緒に暮らすなんてさ

そもそも、女の子二人が一緒に借りられる部屋すら少ないのに

店員「では同棲ですね」

唯「はい」

……ん?

同棲って

……まあ、一緒に暮らすことを同棲って言うんだよね

言葉の使い方としては間違ってないよね

428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:17:05.53 ID:1FD7vy2wo
店員「お二人とも、学生さんですか?」

唯「あ、はい。だから、大学に近いお部屋でいい条件なのが無いかなって」

店員「学校はどちらに?」

梓「○○女子大学です」

店員「ああ、それじゃあここからも近いですね」

そう言うと、何やら分厚いファイルを取って開く店員さん

店員「御希望の条件はありますか?」

唯「えっと」

先ほど、あずにゃんと話し合った条件を伝えます

店員「1DKだと少し狭いと思いますけど……」

唯「あ、そうですかね」

梓「でもあまりお金もかけられないんですよ。だから、それくらいがちょうどいいかなって」

店員「ああ、それだったら」

ファイルのページを繰る店員さん

その指先は、何か最初から決めていたみたいに正確な動きでした

店員「2LDKでこういう物件があるんですよ」

ページを開いたまま、ファイルを私達に差し出します

430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:20:02.75 ID:1FD7vy2wo
唯「うわ、すごく綺麗……」

梓「本当ですね……」

モデルルームの写真だから、既に品の良い家具も設置されていますが

綺麗だし広いし、日当たりも良くて部屋全体が明るい

四階くらいの部屋かな?ベランダからの眺めも最高で

まるでドラマに出てくるお部屋みたい

唯「って、私達にはちょっと高級過ぎますよー」

そりゃ、いつかはあずにゃんとこういうお部屋に住みたいなとは思いますけど

でも、今はまだ学生です

こんなお部屋の家賃なんか、とても払えません

予算よりも一桁多いんじゃないでしょうか

店員「家賃が一ヶ月二万円ですね」

唯「は!?」

梓「二万円!?」

この部屋が!?

唯「ちょ、ちょっとあずにゃん……」

梓「はい……話がうますぎますね……」

コソコソとプチ会議です

唯「なんか絶対に裏があるよね」

梓「ええ。たぶん幽霊とか……」

二人そろって、店員さんを窺います

すると、彼女は笑顔で

店員「いえ。新築ですから幽霊は出ませんよ」

431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:20:42.67 ID:1FD7vy2wo
新築なら、尚更高いはずじゃん……

梓「あの……さすがに少し、条件が良すぎて怖いんですけど……」

おそるおそるあずにゃんが言います

そりゃそうです。私も怖いです

店員「ああ。ここは女子専用マンションなんですよ。カップル限定で」

唯「へー」

店員「そういった条件なので、ご案内出来る方々も限られておりまして」

今、カップルって言ったよね

私達、付き合ってるとか一言も言ってないよね

店員「そういった限られた物件ですから、お家賃もこれくらいで用意させて頂いてます」

梓「そういうことですか」

頷いてるけどあずにゃん

この店員さん、何かおかしいよ?

何でバレてるの?

店員「ほら、バスタブも二人で入れる大きさですし」

店員「日当たりも良好で、小さいながらもベランダも付いてます。眺めも最高です」

店員「もちろん防音も完備です。アンプ繋いでギターを弾いても音は漏れませんよ」

梓「それはいいですね。ほほう……」

だから何で私達がギター弾くの知ってるの?

防音って条件だけだよね、伝えたの?

432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:21:06.21 ID:1FD7vy2wo
店員「安全も万全です。一階ロビーには女性警備員が常駐していますし、近くにはスーパーもあるから買い出しも楽ですよ」

梓「交通手段とかはどうですかね」

店員「三分ほど歩くとバス停があります。そこから学校まで直通のバスも出てますよ。夜でも明るいので、安全です」

梓「これは完璧ですね」

店員「部屋の家具などは付きませんが、この物件は自信を持ってお勧めしますよ」

だから都合が良すぎるんだって……

何その私達のためだけのお部屋……

唯「あの……どこかでお会いしました?」

それとなく聞いてみます

すると店員さんは

店員「お目にかかったことは無いと思いますよ。平沢様みたいな可愛い人なら忘れるわけはありませんから」

唯「そうですか。すみません、変なこと聞いて。えへへ」

名前までバレてるとか

ここに入ってから名字なんて言ってないよ

梓「良かったですねー、唯先輩。可愛いって。綺麗な人に言われちゃいましたねー」

あずにゃんはあずにゃんで何か拗ねてるし

違うよ勘違いしないでよ

私が好きなのはあずにゃんだけだから、妬かないでよ

っていうか少し冷静になってよ

433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:21:33.48 ID:1FD7vy2wo
店員「それに、マンションの二階は談話室もありまして。住人同士の憩いの場としても利用出来ますよ」

何だか店員さんが猛プッシュしてくるこのお部屋

……なんだろう、何故そんなに必死なんだろう

……むぎちゃんの紹介、か

となると、私達だけじゃなくて――

唯「ちなみにこのマンション、何組募集してるんですか?」

店員「四組ですね。五階立ての五部屋で、一部屋は談話室になっております」

唯「あ、そうですか」

あー、わかった

そういうことか

梓「そういえば、ご近所付き合いもこなさないといけないんですよね」

ふむ、と考え込むあずにゃん

店員「大丈夫ですよ。皆さんいい人ですから」

唯「っていうか友達だからね。ご近所さん」

私が呟いた瞬間、店員さんの肩がびくっと震えました

梓「え?」

私を見るあずにゃん

店員「……バレてます?」

唯「そうですね」

瞬間、店員さんが破顔しました

店員「すみません。お嬢様が是非と」

唯「やっぱり……」

434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:22:01.53 ID:1FD7vy2wo
通りで話がうますぎると思いました

梓「お嬢様……?」

失礼しますね、と言って店員さんは側の電話に向かい、何かを話していました

しばらくして、受話器を片手に

店員「お嬢様からです」

受話器を受け取って

紬『あ、唯ちゃん?』

唯「むぎちゃん。こんにちわー」

あずにゃんに口元だけで「むぎちゃんから」と伝えます

紬『ごめんなさいね。驚いた?』

唯「驚いたよー。これ、むぎちゃんが?」

紬『うん。唯ちゃん達がお部屋探ししてたから、私もちょっと色々動いてみたの』

唯「それは助かるけど。でもいいの?二万円とか……」

紬『ああ、それはいいわよ。管理人は私だもの』

唯「へ?」

紬『父に相談したの。友達が部屋を探してるから、何か安いとこないかって』

唯「うん」

紬『そうしたら、女性向けのマンション始めるから、そこを管理してみなさいって言われて』

唯「スケール大きいね……」

紬『勉強になるからってね。家賃とかも父の了解済みだから心配しないで』

唯「そっか。ありがとうね」

紬『ううん。――それに、父もありがとうと言ってたわ』

435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:22:43.46 ID:1FD7vy2wo
唯「へ?何かしたっけ」

紬『軽音部に誘ってくれて。それで、大学まで同じにしてくれて。友達になってくれてありがとうって』

唯「な、なんか照れるね!改まって言われると」

紬『本当に嬉しかったのよ。同じ大学に行こうってみんなが言ってくれて。だから、これは恩返しかな』

唯「恩返しなんて、そんな。私達は、みんな一緒に居たいもん」

紬『気に入ってくれた?お部屋』

唯「うん。最高だったよ」

紬『そ、それじゃ……!』

唯「うん。ここに決める。あずにゃんも」

ちらっとあずにゃんに目を向けます

あずにゃんは口元だけで「おっけーです」と言っていました

唯「あずにゃんも、ここがいいって」

紬『良かった。恋人同士のお部屋探しだから、少し遠慮してたの。自分達で色々決めたいだろうし……』

唯「二人で色々探し回ったんだけど、なかなか見つからなくて。だから、助かったよ」

紬『本当に良かった……』

唯「憂と和ちゃんもここにするんでしょ?」

紬『うん。二人はもう昨日、ここに決めたって』

唯「むぎちゃんも一緒だよね?」

紬『うん。その……同棲するって言うために、今さわちゃんと私の実家に居るの』

唯「え!?あ、ごめん、邪魔しちゃった!?」

紬『ううん。大丈夫よ。今はもう私もさわちゃんも私の部屋に上がっちゃったし』

唯「ど、どうだった?オッケーしてくれた……?」

436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:23:07.08 ID:1FD7vy2wo
紬『元々知ってたらしいの。だから、順調だったわ。……さわちゃんは、なんか緊張し過ぎたらしくて』

唯「……」

紬『私のベッドで寝てる』

ほっとしました

どうやら、むぎちゃんも両親の了解が取れたようです

唯「良かったね。おめでとう、むぎちゃん!」

紬『ありがとう、唯ちゃん。――で、お部屋はどうする?明日にでも入れるけど』

唯「んー。家具も選ばなきゃいけないし、三日後くらいじゃないかな」

紬『わかったわ。じゃあ一応、お部屋だけは見ておいてね。頼んでおくから』

唯「うん。わかった」

紬『澪ちゃん達も今そっちに向かってるみたいだから』

唯「あ、そうなの?」

やっぱり澪ちゃん達も良い部屋見つからなかったんだ

唯「じゃあ、澪ちゃん達もここに決めると思うから。だから、四人でお部屋見に行くよ」

紬『……いいなぁ。私も行きたい』

唯「待ってようか?」

紬『……さわちゃんが寝てるから、やっぱり遠慮するわ』

柔らかく微笑むむぎちゃんの顔が目に浮かびました

紬『じゃあ、細かいことは店員さんに聞いてね。――あ、それとね』

唯「ん?」

紬『唯ちゃん達を対応したそのお姉さん。桜高のOGよ。――そこで結婚式も挙げてる』

唯「え、それじゃ」

紬『あれからずっと幸せだって。本当みたいね、伝説』

唯「えへへ」

じゃあまたね、と言って電話は切れました

437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:23:41.82 ID:1FD7vy2wo
受話器を店員さんに返して、あずにゃんの隣に戻ります

梓「むぎ先輩のおかげですか?」

唯「うん。手配してくれたみたい」

梓「ありがたいですね」

唯「むぎちゃんも、ありがとうって言ってたよ」

梓「え?」

あずにゃんも同じ大学ってこと、むぎちゃんも嬉しいんだよ

店員「で、どうされますか?」

笑顔で聞いてくる先輩

あずにゃんを見て、あずにゃんが頷いて

唯「はい。ここにします!」

438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:24:08.05 ID:1FD7vy2wo
書類を受け取って席を立つと同時に、自動ドアが開きました

澪「あれ?」

律「唯と梓じゃん」

入ってきたのは澪ちゃんとりっちゃん

澪ちゃんの手には、私達がもらったのと同じ柄の手紙

梓「こんにちわ」

唯「ラブラブだねー、二人とも」

ぱっと、繋いでいた手を離す二人

もう、遠慮しなくていいのに

澪「それよりも、どうしてここに?」

唯「ここでお部屋決めたんだよ」

梓「はい。良いお部屋が見つかりまして」

律「え、もしかして私達、間に合わなかった?」

残念そうに言うりっちゃん

大丈夫だよ。もう二人は予約済みだし

唯「店員さん。私達、二人と一緒にお部屋を見に行きますから待っててもいいですか?」

店員「はい。ではそこのテーブル席でお待ちください。今お茶を煎れますね」

澪「え?どういうこと?」

律「え?」

唯「たぶんここで決まるよ。待ってるからね」

梓「最高のお部屋ですよ」

私達と入れ替わりにカウンター席に座る二人

テーブル席に腰掛けた私達は、そんな二人の背中を眺めながらお茶を飲みます

唯「ねえ、あずにゃん」

441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:27:43.86 ID:1FD7vy2wo
梓「はい?」

唯「お部屋の下見終わったらさ。そのまま家具を買いに行かない?」

梓「いいですけど……でも唯先輩疲れてるんじゃないですか?」

歩き回ってたし、と私の顔を覗き込むあずにゃん

唯「大丈夫だよ。お部屋は明日にでも入れるっていうから。早くあずにゃんと暮らしたい」

梓「そ、そういうことなら。そうですね。家具、買いに行きましょうか」

唯「えへへ。お金、一年バイトして結構貯まったんだよ?」

梓「あ、そのことなんですけど。私の親もお金出すって言ってますし、私も今までのお年玉貯金がありますから」

唯「いいよいいよ。この日のために頑張って貯めたんだからさ」

でも、と不満気なあずにゃん

勿体ないよ。あずにゃんのお年玉貯金なんて

家具代まで、お義父さんにまで頼るわけにもいかないし

唯「あずにゃんは、お部屋に合いそうな家具を選んでよ。私、そういうセンス無いしさ」

梓「……まあ、そこら辺はお店に行ってから考えましょうか」

微笑むあずにゃんに、どこかくすぐったくなります

お部屋も決まって、家具を買いに行って

新しい生活がどんどん形になっていきます

目の前で、柔らかく微笑む女の子と

大好きな女の子と共に歩く、最初の一歩

唯「幸せにするからね、あずにゃん」

梓「私だって、唯先輩を幸せにしてみせます」

えへへ、と二人で笑います

あ、そうだ、と

あずにゃんが呟いて、私にこっそり耳打ちしました

唯「どうしたの?」

梓「家具買いに行ったら、写真立て買いましょうよ」

少しだけ考えて、その意味もわかって

唯「そうだね。えへへ」

梓「はい」

唯「どっちも大事な思い出だから」

だから、写真立てを二つ、あずにゃんと選ぼう

終わり

442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/02/27(月) 06:29:06.38 ID:1FD7vy2wo
全部終わりました
二日も付き合わせてごめんなさい
本当に支援助かりました
ありがとうございました

けいおん!! あずにゃん グッズセット GEE!限定

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